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『月世界へ行く』 ジュール・ヴェルヌ(創元SF文庫)


書名:月世界へ行く
著者:ジュール・ヴェルヌ
訳者:江口 清
出版社:東京創元社
ページ数:317

おすすめ度:★★★★




ヴェルヌの代表作の一つに数えられるのが本書『月世界へ行く』である。
代表作と呼ばれる作品が多いために、これから読み始めようと考えている読者にとって、ヴェルヌは的を絞りにくい作家ではあるが、それぞれが読者を後悔させないだけの興味深い作品に仕上がっていているからにはそれもやむをえないことで、本書もその一例と言えるだろう。

『月世界へ行く』では、巨大な砲弾を月に向けて打ち上げ、その中に三人の人間が乗り込むという、かなり無謀な計画の顛末が語られている。
科学談義が少なからず書かれていて、物語自体のテンポの良さを損なっているのは事実なので、退屈に感じられる読者もいるかもしれないが、全体として見れば読んで損はない本と言えると思う。
それほど専門知識のない読者でも、ヴェルヌの描く宇宙空間や月面の様子が今日の常識と大きく異なっていることに気付くだろうが、いかにヴェルヌの描写に誤りが多かったとしても、150年前に想定されていた宇宙像は読んでいて面白く感じられるのだから不思議なものだ。

本書『月世界へ行く』は、実は『地球から月へ』の続編なのであって、順当に行けば『地球から月へ』を読んでから手にすべき作品ということになるのだが、『地球から月へ』は手軽に入手できる翻訳がないようだし、本書と比べると退屈と評されることが多いらしい。
そこで『月世界へ行く』から読むことに決めたのだが、『地球から月へ』のあらすじは序章で語られるし、やや唐突に月へ向かう一行が旅立つことにはなるものの、『月世界へ行く』から読み始めても特に支障はないと言えそうだ。

現実問題として考えれば、拙い設備で月へと旅に出るという大胆極まりない冒険は、全編を通じて登場人物が死の恐怖におののいていてもおかしくない事態だろう。
しかし、本書の旅行者たちは深刻さを地球に置き忘れでもしたのか、砲弾内には終始お気楽ムードが漂っていて非常に読みやすいので、読者の側もぜひお気楽に読み始めていただければと思う。
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『四角い卵』 サキ(白水Uブックス)


書名:四角い卵
著者:サキ
訳者:和爾 桃子
出版社:白水社
ページ数:315

おすすめ度:★★★★




白水Uブックスの新訳サキシリーズの最終巻となるのが本書『四角い卵』である。
短編集『ロシアのレジナルド』と『四角い卵』からの作品がほとんどであるが、そこにいくつか作品が追加されてもいる。
風濤社から出されている『四角い卵』とは収録作品がかなり異なるので、風濤社版を読まれた方にも本書はお勧めできる。

『ロシアのレジナルド』から採られた作品は、ありがたいことに風濤社版の『レジナルド』に収められているレジナルドものとほぼ重複がない。
『レディ・アンの沈黙』や『ゲイブリエル・アーネスト』のように傑作集でよく見かける作品もあるものの、あまり知られていない作品が多いので、何冊かサキの短編集を読んでこられた読者も満足できることだろう。

短編集『四角い卵』の収録作品は、機知と皮肉に富んだ代表的なサキ作品とはいくらか趣を異にするものが多いため、好き嫌いが分かれるかもしれない。
時代背景を知ればその作風に誰しも納得できるはずだが、サキの作品に対して深読みすること自体、ひょっとすると野暮なことなのだろうか。

現状、サキの作品を一つでも多く読みたいという方は、『クローヴィス物語』と『けだものと超けだもの』、『平和の玩具』と本書の、白水Uブックスの全4冊を読むのが最適である気がする。
特に本書『四角い卵』は他の本にあまり収められていない作品が多いので、目新しいサキの作品を求める読者を楽しませることのできる一冊となっている。
その一方で、解説代わりとでも言うべきなのか、サキの選集に付された70ページにも及ぶ序文も訳出されていて、残念なことに本編の割合が減ってしまっている。
この序文がすべての読者に歓迎されるとは考えにくいが、うまくまとまっているのは事実なので、サキのファンであれば読んで損することはないと思う。

『平和の玩具』 サキ(白水Uブックス)


書名:平和の玩具
著者:サキ
訳者:和爾 桃子
出版社:白水社
ページ数:321

おすすめ度:★★★★




没後の出版であるとはいえ、サキの短編作品33編を収めている短編集が本書『平和の玩具』である。
岩波文庫『サキ傑作集』やちくま文庫『ベスト・オブ・サキ』に優れた作品を提供していた『平和の玩具』ではあるが、白水Uブックスから本邦初の完訳として出版されたのであって、サキのファンにとってはたまらない一冊となっている。

本書には『平和の玩具』、『クリスピーナ・アムバーリーの失踪』、『セルノグラツの狼』、『奇襲戦術』、『七つのクリーマー』といった有名どころも入ってはいるが、サキの作品をけっこう読んできた読者でもいくつか新しい作品に出会うことができるはずだ。
ベスト・オブ・サキ』第二巻との重複が多いとはいえ、『謝罪詣で』や『腑抜け』といった10編以上の新しい作品に触れられるのはうれしい限りである。
そうはいっても、他の選集と重複している作品のほうが、バルカン戦争時に書かれたやや毛色の異なる作品は別としても、質的に上であるのは間違いないように思われるのではあるが。

本書には挿絵も入ってはいるが、それほど数は多くないのであまり期待しないほうがいいかもしれない。
また、本書には付録として、「親族たちが述べたサキ」と題して、親族が書いた手紙がいくつか訳出されている。
サキの人となりを知る上では格好の素材と言えるが、当然ながらサキの読者がサキの作品に期待するような機知やブラックユーモアは欠けていて、本編が愉快であるだけに、本編の直後に読むと退屈さが倍加されてしまうような気がする。

サキの短編作品はタイトルに当てる訳語のバリエーションが比較的豊富であり、他の本で既に読んだ作品とそうでない作品がしばしば判別しにくいことがある。
しかし、一編一編は短いものであるし、再読しても楽しめるのがサキなので、本書『平和の玩具』も通読されることをお勧めしたいと思う。

『吸血女の恋』 テオフィル・ゴーティエ(現代教養文庫)


書名:吸血女の恋
著者:テオフィル・ゴーティエ
訳者:小柳 保義
出版社:社会思想社
ページ数:231

おすすめ度:★★★★




ゴーティエの短編作品四編を収録したのが本書『吸血女の恋』である。
本書には『吸血女の恋』の他に『カンダウレス王』、『千二夜物語』、『双つ星の騎士』が収録されている。
「フランス幻想小説」という副題が付されてはいるものの、必ずしもすべての収録作品が同程度に幻想的であるわけでもないので、幻想小説ばかりに期待しないほうがいいかもしれない。

若い聖職者が怪しい美女に恋するという『吸血女の恋』は、ゴーティエの作品の中でも特に有名なものの一つで、怪奇趣味と芸術至上主義が見事に融合し、ゴーティエらしい独特の世界観を創り上げていると言える。
この作品は、タイトルが『死霊の恋』とか、発表後の改題もあって『クラリモンド』と訳されることもあるようだが、個人的には『吸血女の恋』という本書が採用したタイトルが一番面白みのないものであるような気がするがいかがだろうか。

絶世の美女が登場する『カンダウレス王』も、執拗かつ巧みに美女を創作し続けたゴーティエらしい作品と言えるだろう。
史実に基づいているだけあって幻想性は弱いし、物語がそれほど起伏に富んでいるわけでもないのだが、本書にしっくり収まるだけの存在感を放っている。
一目で恋に落ちてしまうような美女が登場するのは『千二夜物語』も同様で、イスラム世界を舞台としている点は、当時のフランスの流行に沿ったものとみなしてよいのかもしれない。

ゴーティエの作品は日本であまり人気がないからなのか、再版がされているとはいえ、本書『吸血女の恋』の出版状況は非常に乏しいと言える。
ゴーティエの作品を読みたいという方が失望するとは考えにくい一冊なので、興味のある方は躊躇せずに入手されることをお勧めしたい。

『「リュジェリーの秘密」と他の作品集』 バルザック(春風社)


書名:バルザック王国の裏庭から 「リュジェリーの秘密」と他の作品集
著者:オノレ・ド・バルザック
訳者:宇多直久
出版社:春風社
ページ数:292

おすすめ度:★★☆☆☆




人間喜劇の『カトリーヌ・ド・メディシスについて』の中の一編を訳出したのが本書『バルザック王国の裏庭から 「リュジェリーの秘密」と他の作品集』である。
『リュジェリーの秘密』が哲学研究に分類されるという位置付けや、歴史と神秘を交えているという本書の性格から判断するに、これまでにバルザックをけっこう読んできている読者向けの本と言えそうだ。

シャルル九世とその母であり権謀術策に富んだカトリーヌ・ド・メディシスの周りでは、政治上の駆け引きが延々と続いている。
カトリーヌ・ド・メディシスには、重用している占星術師がおり・・・。
『リュジェリーの秘密』は、人間喜劇には珍しい歴史小説であるが、占星術や錬金術をテーマとしているあたりにバルザックらしさが垣間見られる。
デュマの『王妃マルゴ』と時代が重なるので、そちらを事前に読んでおくと政治的な背景が理解しやすくなると思われる。

タイトルにもあるように、本書には『リュジェリーの秘密』以外にも作品集と呼ばれるものが訳出されているが、正直言ってこれらにはまるで面白みがない。
『リュジェリーの秘密』との関連性も弱いし、作品集自体の内容に一貫性もないときている上に、省略の多い書簡や小品の数々に加え、ましてや一部欠損しているような草稿を並べられても、バルザックの研究者ならばともかく、一般的な読者が興味を持って読むことができるようには思えないのだがいかがだろうか。

バルザックの著作の中で、あまり注目されることのない『カトリーヌ・ド・メディシスについて』から『リュジェリーの秘密』を選んで訳出してくれたことはありがたいことである。
しかし、翻訳の意図もターゲットとする読者層もわからない100ページにも及ぶ作品集の付属は、不可解以外の何物でもない。
統一感が著しく欠け、割高感が拭えないうえに、訳文もあまりうまくないとあっては、一冊の本としてさほどお勧めできないのもやむをえない気がする。

『シャーロック・ホームズの事件簿』 コナン・ドイル(創元推理文庫)


書名:シャーロック・ホームズの事件簿
著者:アーサー・コナン・ドイル
訳者:深町 眞理子
出版社:東京創元社
ページ数:477

おすすめ度:★★★★




シャーロック・ホームズシリーズの最後の作品となった短編集が、本書『シャーロック・ホームズの事件簿』である。
あまり代表的な作品とされるものは収められていないし、事実、巧みな構成と発展を持つ作品に出会うことは期待できないが、それでも異常な事件の数々とホームズの事件解決までの道のりは、これまで通り読者を楽しませるに違いない。

本書には、『高名の依頼人』、『白面の兵士』、『マザリンの宝石』、『三破風館』、『サセックスの吸血鬼』、『ガリデブが三人』、『ソア橋の怪事件』、『這う男』、『ライオンのたてがみ』、『覆面の下宿人』、『ショスコム・オールド・プレース』、『隠退した絵の具屋』の十二編が収録されている。
ワトスンではなく、ホームズ自身を語り手とする『白面の兵士』は、台詞部分が多いのでホームズの語りがそれほど多くないとはいえ、ホームズの語りに彼ならではの皮肉な性格がよく表れていて、やはり他の作品と比べると真新しさが感じられる。
ワトスンが登場するにもかかわらず三人称で語られる『マザリンの宝石』にも、同様の新鮮さがあるといえる。

我が子の首筋から生血をすする母親という、ヴァンパイア伝説を現実化したような奇怪な事件を扱った『サセックスの吸血鬼』は、当然ながら事件そのものに強いインパクトがある。
『ライオンのたてがみ』もまたホームズを語り手とする作品であるが、これはホームズがロンドンからサセックスの田舎へと引退した後の事件だからであって、珍しくワトスンが登場しないものとなっている。

数多く存在するホームズの映像化作品のうち、右に挙げた映画『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』は、ホームズが引退した後の余生を過ごした田舎をイメージする助けになるように思う。
映画自体のストーリーは、ドイルが描いた事件の数々と直接の関係はないのだが、ホームズシリーズを読み続けてきた読者にとっては、独特の感慨深さを与えてくれる映画なので、ホームズとの長い付き合いの締めくくりには、この映画をお勧めしておきたい。

『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』 コナン・ドイル(創元推理文庫)


書名:シャーロック・ホームズ最後の挨拶
著者:アーサー・コナン・ドイル
訳者:深町 眞理子
出版社:東京創元社
ページ数:390

おすすめ度:★★★★




シャーロック・ホームズシリーズ第四の短編集が本書『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』である。
シャーロック・ホームズには何度か「最後」が訪れるが、これもその一つであり、タイトルからすると紛らわしくて仕方ないものの、実際には後年になって最後の短編集である『シャーロック・ホームズの事件簿』が出版されることになる。

本書には、『ウィステリア荘』、『ボール箱』、『赤い輪』、『ブルース=パーティントン設計書』、『瀕死の探偵』、『レイディー・フランシス・カーファクスの失踪』、『悪魔の足』、『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』の八作品が収録されている。
ホームズが病の床に就いているところからストーリーが始まる『瀕死の探偵』は、シリーズ中でも一風変わった作品として、読者の記憶に残ることだろう。
また、恐怖から一族の人々が死亡もしくは発狂してしまうという奇怪な謎を解く『悪魔の足』も、その状況の異常さはシリーズ屈指ではないかと思われる。

作品の発表当時、短編集に収録するまでにちょっとした紆余曲折のあった『ボール箱』は、版によっては『回想のシャーロック・ホームズ』に収められていることもあるらしい。
そしてこの『ボール箱』、その紆余曲折のおかげで、事件が始まるまでの書き出しの部分が妙に有名になってしまうという変わり種でもある。

ドイツ人スパイをテーマとした作品で、本書の表題作ともなっている『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』は、事件そのものの扱い方も、読者が「最後の挨拶」を期待するホームズの言動も、個人的にはちょっと物足りない感じがした。
そうはいっても、一冊の短編集として評価した場合、『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』が優れたものであることは疑いえないように思う。

『恐怖の谷』 コナン・ドイル(創元推理文庫)


書名:恐怖の谷
著者:アーサー・コナン・ドイル
訳者:深町 眞理子
出版社:東京創元社
ページ数:342

おすすめ度:★★★★




ホームズシリーズ四作目となる長編小説が本書『恐怖の谷』である。
緋色の研究』と同様に二部構成が採用されていて、残念ながらホームズが解き明かす事件自体の描写はそれだけ少なくなってしまっている。

サセックスの歴史ある屋敷で、その家の主人が殺害された。
被害者はアメリカでの生活が長かったこと、凶器のショットガンがアメリカ製のものであることなどから、事件はアメリカとつながりがありそうに見えるが・・・。
本書の場合、事件捜査の過程でなされるホームズのほのめかしから、読者は事件の解明前にある程度事件の真相に近づくことができるかもしれない。

『恐怖の谷』には、ドイルの演出とでも呼ぶべきか、モリアーティ教授に関する言及があり、それが読者の興味を引くのではなかろうか。
細かいことを言えば、ホームズがモリアーティ教授と直接対決することになる『最後の事件』の記述との整合性が取り切れていない気がするし、モリアーティ教授への言及自体、やや取ってつけたような感じがするのも否めない。
モリアーティ教授の登場というドイルの演出が成功しているかどうかは、各々の読者が判断していただければと思う。

『恐怖の谷』におけるホームズの活躍は十分に面白いものなのだが、既述のように本書ではホームズやワトスンの登場する割合がそれほど高くない。
それに加えて、ストーリーがさほど後味のいい終わり方をするわけでもない。
そういう意味では、あまり一般的に人気の出る作品であるようには思えないので、ホームズシリーズの中ではいくらか優先順位を落としてお勧めすることにしたい。

『バスカヴィル家の犬』 コナン・ドイル(創元推理文庫)


書名:バスカヴィル家の犬
著者:アーサー・コナン・ドイル
訳者:深町 眞理子
出版社:東京創元社
ページ数:348

おすすめ度:★★★★★




ホームズシリーズで三作目となる長編小説が本書『バスカヴィル家の犬』である。
シリーズを代表する作品の一つであり、最高傑作と称されることも多いので、ホームズシリーズに関心のある方であれば必ずや読んでおくべき作品であるといえる。

家もまばらな荒野の中に位置する名家、バスカヴィル家の当主が不審な死を遂げた。
バスカヴィル家には代々伝わる奇怪な伝説があり、不審死の状況はその伝説に沿ったもの、つまり当主は巨大で狂暴な犬に追われ、その恐怖の挙句、心臓発作で亡くなったように見受けられるのだった・・・。
『バスカヴィル家の犬』には、断固たる科学的思考の持ち主であるホームズが、魔犬にまつわる超自然的な迷信に対するという面白さがある。
あれもこれも疑わしく感じられるという、謎の数々は本書でも巧みにちりばめられているので、推理小説の古典としての地位は今後も揺るがないことだろう。

『バスカヴィル家の犬』の特徴として、普段は観察者の役どころに留まっているワトスンが、表立って活躍するという点が挙げられるだろう。
これにはホームズの登場シーンが減るという副作用があるので、ひょっとするとワトスンの活躍を歓迎する声と失望する声とが共存するのかもしれない。
そうはいっても、『バスカヴィル家の犬』には事件の背景となる過去の出来事を語る場面が少ないという点に関しては、たいていの読者が喜ぶのではなかろうか。

荒涼とした土地を背景に事件が進む『バスカヴィル家の犬』は、どこか不気味で落ち着かないという独自の雰囲気も持っている。
むしろそれが原因で読者の好き嫌いが分かれることも考えられるが、作品の質については太鼓判を押せるので、ホームズシリーズを読んだことのない方にもお勧めできる一冊だ。

『シャーロック・ホームズの復活』 コナン・ドイル(創元推理文庫)


書名:シャーロック・ホームズの復活
著者:アーサー・コナン・ドイル
訳者:深町 眞理子
出版社:東京創元社
ページ数:590

おすすめ度:★★★★★




ホームズシリーズの短編集第三作目が本書『シャーロック・ホームズの復活』である。
その名の通り、『最後の事件』で死んだと思われていたホームズが「復活」するところから話は始まるのだが、もちろん「復活」と直接的に関係があるのはその一点だけであって、要は普通の短編集として読むことができる。

本書には、『空家の冒険』、『ノーウッドの建築業者』、『踊る人形』、『ひとりきりの自転車乗り』、『プライアリー・スクール』、『ブラック・ピーター』、『恐喝王ミルヴァートン』、『六つのナポレオン像』、『三人の学生』、『金縁の鼻眼鏡』、『スリークォーターの失踪』、『アビー荘園』、『第二の血痕』の十三編が収録されている。
ホームズが「復活」する『空家の冒険』は、作品に描かれる事件そのものを度外視しても、シリーズ中のマイルストーンとしてはやはり注目に値する作品であろう。

ホームズシリーズの代表的な作品の一つに数えられる『踊る人形』は、ポーの『黄金虫』を想起せずにはいられない作品ではあるが、その類似にもかかわらず、独自の面白さを備えていることは間違いない。
『恐喝王ミルヴァートン』は、事件の謎解きを伴わないという異色の作品であるが、その不足を補って余りあるスリリングさが特徴になっている。
また、現在の事件の手掛かりと過去の事実との巧みな結びつけがなされる『六つのナポレオン像』も、本書に限らず、ホームズシリーズにおける傑作の一つと言えるだろう。

前作の短編集『回想のシャーロック・ホームズ』から本書の発表までに長い時間が経過したからなのか、収録されている個々の作品の質は、『回想のシャーロック・ホームズ』より本書『シャーロック・ホームズの復活』の方が上ではないかと思われる。
ホームズシリーズの読破を予定していない読者も、本書は外すべきではないと思う。
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