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『カストロの尼』 スタンダール(岩波文庫)


書名:カストロの尼
著者:スタンダール
訳者:桑原 武夫
出版社:岩波書店
ページ数:216

おすすめ度:★★★★




スタンダールの中短篇小説を三篇収録しているのが本書『カストロの尼 他二篇』である。
本書には『カストロの尼』の他、『箱と亡霊』、『ほれぐすり』が訳出されているが、『カストロの尼』は特にスタンダールの代表的な中短篇小説と目されているようなので、スタンダールに関心を持っている人であれば読んでおくべき作品の一つであると言えるだろう。

『カストロの尼』は、山賊が横行していた時代である16世紀のイタリアの古記録をベースにしており、「訳者」と称するスタンダールがしばしば顔を出すという構成で書かれている。
恋と因縁、名家と僧院、血で血を洗う戦いの場面と、つい『パルムの僧院』を想起させるような作品であるが、『パルムの僧院』との関連を抜きにして読んでも、十分面白い作品となっている。
貴族の娘と山賊の青年という本来ならば相容れない二人の運命がどうなるのか、読者はつい引き込まれてしまうことだろう。

19世紀のスペインを舞台とする『箱と亡霊』は、ボッカッチョ風とでも呼べそうな、やや古めかしいスタイルのあらすじである。
ストーリー展開の緩急にはだいぶむらがあり、終盤の駆け足はかなりのものなので、幕切れは少々あっけないように感じられるのではなかろうか。

『ほれぐすり』も終盤になって物語に一気に片が付く作品である。
謎に満ちた女が登場するというミステリアスなスタートではあるが、それほど長い作品でもないので、読者の記憶には残りにくい小品であるように思われる。

本書の収録作品は、いずれも恋に生きる男女がテーマとなっていて、一冊の本としての統一感があるというだけでなく、小説家としてのスタンダールの特徴をよく表しているとも言える。
赤と黒』と『パルムの僧院』を読んだら、次は本書を手にしてみてはいかがだろうか。
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『アンリ・ブリュラールの生涯』 スタンダール(岩波文庫)


書名:アンリ・ブリュラールの生涯
著者:スタンダール
訳者: 桑原 武夫、生島 遼一
出版社:岩波書店
ページ数:311(上)、297(下)

おすすめ度:★★★★




スタンダールの自伝がこの『アンリ・ブリュラールの生涯』である。
五十歳を過ぎて書かれたものであるが、それまでの生涯がすべて網羅されているわけではなく、残念なことに執筆は中断されてしまっている。
それにもかかわらず、スタンダールに関心のある方にはたいへん興味深い作品であると言える。

グルノーブルに生まれたアンリ・ベール。
貴族趣味の強いブルジョア一家に生まれた彼は、物質的には恵まれた家庭に暮らしたものの、母と祖父を除いては愛情を抱くことができないというある種の不遇な少年時代を過ごす。
その後、士官としてナポレオン軍に従軍することになりイタリアへ・・・。
スタンダールの伸び伸びとした筆致は、読者を楽しませることだろう。

『アンリ・ブリュラールの生涯』は、必ずしもすべての出来事が時系列に沿って並べられているわけではなく、話が前後していたり重複していたり、さらには前後の流れとあまり関係のない一節が見受けられたりと、一般的な伝記と比べると、さほどまとまっていない作品という印象を受ける。
しかし、スタンダール自身も述べているように、そこにスピード感が見出されるのもまた事実であり、読者の側で一度そのスピードに乗ってしまえば、ストーリー展開の多少の蛇行もあまり気にならなくなるのではなかろうか。
そういう意味では、『アンリ・ブリュラールの生涯』は短期間で読み切ってしまうべき本と言えるかもしれない。

面白い作品であるにもかかわらず、『アンリ・ブリュラールの生涯』の出版状況はあまり芳しくない。
岩波文庫かスタンダール全集で読むのが普通であろうが、スタンダールの有名作品である割りに、いずれも新品では入手困難である。
スタンダールに興味のある方には、手に入るうちに入手されることをお勧めしたい。

『モーパン嬢』 テオフィル・ゴーティエ(岩波文庫)


書名:モーパン嬢
著者:テオフィル・ゴーティエ
訳者:井村 実名子
出版社:岩波書店
ページ数:342(上)、343(下)

おすすめ度:★★★★★




テオフィル・ゴーティエの初期作品にして彼の代表作であり、初めての長編小説ともなる作品がこの『モーパン嬢』である。
ゴーティエの耽美的な性格が顕著に表れていて、全体に優雅で美しい小説となっている。
訳文も読みやすいので、ゴーティエに興味がある方は『モーパン嬢』から始めてみるのがいいと思う。

美を愛する芸術家の青年ダルベールが、若く美しい騎士テオドールに恋をした。
ダルベールには恋人の女性がいるにもかかわらず、女性的な美しさを持つ騎士に日に日に強く惹かれていくものだから・・・。
『モーパン嬢』をジェンダー論的な観点から読んでみることも可能であるし、事実そういった切り口の研究は珍しくないのだろうが、本書はその類の理屈を抜きにしても十分楽しめるものとなっているように思う。

『モーパン嬢』には登場人物たちがシェイクスピアの戯曲『お気に召すまま』を演じるというエピソードがあり、『お気に召すまま』の内容が『モーパン嬢』のストーリー展開に対して非常に示唆的なものとなっているので、『お気に召すまま』を事前に読んで内容を把握しておいたほうがいっそう『モーパン嬢』が面白くなることだろう。
今日と扱い方は異なるにせよ、両性具有というテーマが、実はそれほど珍しいものではなかったということなのかもしれない。

『モーパン嬢』は、芸術至上主義を高らかに表明したその序文もたいへん有名なものとなっている。
そしてゴーティエは本編でそれを見事に実践しているのであり、私個人としては、何よりもまず本書に描かれている美的描写を堪能することをお勧めしたい。
ゴーティエの作風にある種の偏りがあるのは事実なので、万人に向いている作品とは言えないかもしれないが、芸術至上主義の頂点を飾る作品の一つとして、一読の価値ある作品であることは間違いないと思う。

『バール 夜打つ太鼓 都会のジャングル』 ブレヒト(晶文社)


書名:バール 夜打つ太鼓 都会のジャングル
著者:ベルトルト・ブレヒト
訳者:石黒英男
出版社:晶文社
ページ数:277

おすすめ度:★★★☆☆




ブレヒトの初期の戯曲作品三編を収めたのが本書『バール 夜打つ太鼓 都会のジャングル』である。
ブレヒトの出世作である『夜打つ太鼓』をはじめ、彼が本格的に演劇活動を始めた初期作品三編が揃っているとあり、ブレヒトに興味のある方には格好の一冊となっている。

『バール』は、豊かな詩作の才能に恵まれてはいるが、酒と女に現を抜かして日々を送っているバールという、特異な存在を描いている。
『夜打つ太鼓』は、死んだと思っていた恋人が戦地から帰って来るという、一見すると文学作品にありがちなテーマではあるが、それを第一次大戦末期のドイツという舞台に持ち込むことで、他の類似の作品から差別化されているように思われる。
当時のドイツの政治状況を知らないとわかりにくい作品ではあるものの、個人的には本書の中で一番気に入った作品である。
他方、『都会のジャングル』はというと、登場人物の対立の理由がそれほど鮮明でなく、とらえどころがない作品と言っても過言でないような気がする。
『バール』と同様、現実味が薄い作品なので、読者の共感は得難いのではなかろうか。

本書冒頭には、ブレヒト自身による「初期作品を読みなおして」という序文が付されている。
過去の作品に対するブレヒト自身のコメントは、多少言い訳めいた感じがなくもないけれども、作者が後に書いた序文はやはり興味深いものである。
しかし、収録作品のあらすじに関する言及も含まれているので、ネタばれを避けたい読者は序文を読むのは後回しにしたほうがいいかもしれない。

初期作品の例に漏れず、本書の収録作品にもブレヒト文学のエッセンスが存分に盛り込まれている。
あくまでブレヒトに関心のある方向けであり、万人向けの本ではないのだが、それだけブレヒトファンなら本書を楽しめることだろう。

『スカラ座にて』 スタンダール(音楽之友社)


書名:スカラ座にて
著者:スタンダール
訳者: 西川 長夫
出版社:音楽之友社
ページ数:178

おすすめ度:★★☆☆☆




音楽に造詣の深いスタンダールの著作の中から、オペラにまつわる記述、特にミラノのスカラ座に関する記述を中心に抜粋して編まれたのが本書『スカラ座にて』である。
スタンダール自身は音楽の専門家ではないにも関わらず、音楽に対して人並外れた知識や情熱を持っていて、本書を通じて読者はそれを読み取ることができるだろう。

『スカラ座にて』が抜粋を行ったスタンダールの原書は、処女作である『ハイドン、モーツァルト、メタスタージオの生涯』、『ロッシーニの生涯』といった伝記作品や、『エゴチスムの回想』や『アンリ・ブリュラールの生涯』といった自伝的な作品、さらには日記や書簡など、幅広い分野に及んでいる。
抜粋元として、有名な作品では『恋愛論』と『パルムの僧院』もあるにはあるが、そこからの抜粋はそれほど重要な記述ではないように見受けられる。

『スカラ座にて』の難点は、当時の個人名が頻出していることだろうか。
後世に名を残す有名な音楽家、たとえばモーツァルトやロッシーニあたりであれば、18、19世紀の音楽や彼らの作品に関する知識が乏しくても何となくイメージくらいはできるのだが、当時の他の作曲家やオペラ歌手の名前を出されても、一般的な日本の読者からすればまるで知らない人物ばかりなので、つい読み流さずにはいられないというのが実情だ。
そしてその読み流す部分が決して少なくなかったので、いささか退屈な本という印象を受けてしまった。

本書『スカラ座にて』は、スタンダールの自伝的要素に関心のある方には向いていると思うが、それ以外の読者があまり楽しめるようには思えない。
しかも、スタンダールの自伝が読みたければ『エゴチスムの回想』や『アンリ・ブリュラールの生涯』を読めばよいのであって、わざわざ本書を紐解く必要もないと言えそうだ。
個人的には、あまり評価できない内容の一冊となっている。

『恋愛論』 スタンダール(新潮文庫)

恋愛論 (新潮文庫)恋愛論 (新潮文庫)

書名:恋愛論
著者:スタンダール
訳者:大岡 昇平
出版社:新潮社
ページ数:618

おすすめ度:★★★★




恋愛論(上) (岩波文庫)恋愛論(上) (岩波文庫)恋愛論(下) (岩波文庫)恋愛論(下) (岩波文庫)

赤と黒』などの代表作で小説家として知られるスタンダールであるが、そんな彼の小説以外の著作における代表作といえば、数種類の文庫本が出回っていることからもわかるように、この『恋愛論』であろう。
恋愛を描いた著作であれば世の中に無数に存在するが、いざその恋愛を研究対象として論じた著作となると、意外と少ないのではなかろうか。
そして本書こそが、世界で最も有名な恋愛を論じた著作なのではないかと思う。

『恋愛論』は、その表題の通り、恋愛について分析した論文となっているのだが、そこにスタンダールの自伝的要素、つまり彼自身の恋愛事情が色濃く表れている点が一般的な論文とは大きく異なっている。
自己主張の強いスタンダールならではのことと言ってしまえばそれまでかもしれないが、彼の恋愛事情に明るくない我々は豊富な訳注でその事実を知らされるわけで、それを少し煩わしいと感じる読者がいても当然だろう。

また、二つの章から成る本論に加えて、数多くの断章や補遺などが付属しているというのも、本書に特徴的な構成と言える。
最初から最後まで恋愛を論じ続けているわけではないというこの構成の特異さのおかげなのか、『恋愛論』と銘打ってある割には読みやすい作品になっているが、その反面、一冊の論文としては読者がいささか支離滅裂な印象を受けるのも否定できないような気がする。

『恋愛論』は、あくまでも当時のヨーロッパ社会を基盤として書かれているため、今日的な観点で見ればけっこう古臭いと言える部分も少なくない。
スタンダールらしい鋭い分析もなくもないが、スタンダール個人の私的なエピソードを数多く交えることで、恋愛を論じた書物としての普遍性を損ねているのも事実だろう。
そういう意味では、恋愛にまつわる論考に興味のある方というよりは、スタンダールに興味のある方にお勧めすべき本なのかもしれない。

『ブレヒト詩集』 ブレヒト(みすず書房)

ブレヒト詩集 (1978年)ブレヒト詩集 (1978年)

書名:ブレヒト詩集
著者:ベルトルト・ブレヒト
訳者:長谷川 四郎
出版社:みすず書房
ページ数:144

おすすめ度:★★★★




『三文オペラ』などの戯曲で知られるブレヒトの詩作品を集めたのが本書『ブレヒト詩集』である。
一般に、ブレヒトは詩人としてはあまり知られていないし、注目度も低いかもしれないが、実は生涯にわたって数多くの詩を残してきている。
言葉の意味が直接的で回りくどさが少なく、物語性のある詩作品も多く収録されているので、とっつきやすい、読みやすい詩が多いのではないかと思う。

『ブレヒト詩集』には、一ページで終わる短いものから二十ページに及ぶ長めの詩まで、計十九編の詩作品が収録されている。
政治的なニュアンスの感じられるもの、社会に対する皮肉を含んだもの、執筆時期を想起させる時事的なものなどが収められていて、非常にブレヒトらしさを感じさせる作風となっている。
ブレヒトの書いたドイツ語を確認したわけではないけれども、他の詩人の作品と比べると、言葉の数はやや少なめかもしれない。
それでも読者の心や精神に訴えかけてくるものがあるというのだから、それだけ一語一語が厳選されているということなのだろう。

本書において、中心的な位置付けになろうかという詩作品のいくつかは、『暦物語』にも収録されていたものである。
具体的には、『子供の十字軍』、『仏陀火宅説話』、『老子亡命途上道徳経成立譚』がそれに該当するわけだが、その表題を見るだけで、この訳書が1978年初版であるという事実が実感できるのではなかろうか。
ただ、訳文自体はそこまで古めかしくないので安心していただければと思う。

巻末にブレヒトの写真が数点掲載されているのも、ブレヒトのファンにはうれしいポイントだ。
残念ながらこの本自体があまり出回っていないというのが実際のところではあるが、ブレヒトの詩の世界への足掛かりには最適の一冊と言えるだろう。

『ガリレオの生涯』 ブレヒト(光文社古典新訳文庫)

ガリレオの生涯 (光文社古典新訳文庫)ガリレオの生涯 (光文社古典新訳文庫)

書名:ガリレオの生涯
著者:ベルトルト・ブレヒト
訳者:谷川 道子
出版社:光文社
ページ数:346

おすすめ度:★★★★




ブレヒトの代表的な戯曲作品の一つとされるのが本書『ガリレオの生涯』である。
ナチスの支配から逃れていったブレヒト自身を、カトリック教会の言論弾圧から逃れたガリレオに重ねて書かれた作品とされていて、ブレヒトの自伝的な作品として読むことができるのが特徴だ。

望遠鏡を用いて天体観測に精を出すガリレオ・ガリレイ。
彼はコペルニクスが唱えた地動説を裏付ける証拠を次々と見つけていくが、それはローマ教会が認める公的見解とは相容れないものだったから・・・。
物語の大枠は、有名なガリレオ・ガリレイの生涯であり、全体のあらすじに奇抜さは感じられないものの、ブレヒトがこの戯曲を組み立てる上でどのような場景を積み重ねていくのかという点は、最後の場面まで読者の興味が尽きないのではないかと思われる。
ガリレイの生涯 (岩波文庫)ガリレイの生涯 (岩波文庫)

光文社古典新訳文庫には過剰気味の解説が付されることが多いが、今回もその例に漏れず、本書の解説もやはり100ページ近くあり、蛇足というか飛躍というか、『ガリレオの生涯』との直接的な関係性が疑わしくなるような訳者の持論も豊富に書かれている。
ブレヒトの作品を読みたい読者が、必ずしも訳者解説における持論の展開を期待しているわけではない、そう考えるのは私だけだろうか。
そういう意味では、出版年こそやや古いが、岩波文庫版の『ガリレイの生涯』の方が一般的な読者向けと言えるかもしれない。

『ガリレオの生涯』は、ストーリー展開の幅がさほど広くないし、スピード感もあまり感じられない。
それにもかかわらず、読後に思い返してみれば重要な意味を成していた場面がいくつもあり、総体的に見ればよくできた戯曲であると評価するのが妥当であるように思えてしまう。
ブレヒトのレパートリーの中でも一定の人気を保っているというのも頷ける、そんな作品だ。

『モーツァルト』 スタンダール(ミュージック・ライブラリー)

モーツァルト (ミュージック・ライブラリー)モーツァルト (ミュージック・ライブラリー)

書名:モーツァルト
著者:スタンダール
訳者: 高橋 英郎、冨永 明夫
出版社:東京創元社
ページ数:264

おすすめ度:★★★★




スタンダールが愛してやまなかった音楽家であるモーツァルトの伝記が本書である。
本書『モーツァルト』は、スタンダールが一冊の著作として書いた作品をそのまま翻訳したわけではなく、『ハイドン、モーツァルト、メタスタージオ伝』と『ロッシーニ伝』からモーツァルトに関する部分をそれぞれ抜粋したものとなっているが、テーマの一貫性が明確であるため、それほど継ぎはぎという印象を受けることはないと思う。

『モーツァルト』は、作者による手紙という、いわゆる書簡体のスタイルを取っているが、どのようなスタイルを取るにせよ、あまり内容に影響はしていないように見受けられる。
驕ることなく親切を尽くすというモーツァルトの人柄のよさはやはり読んでいて心地よいし、彼の神童ぶりを示すエピソードの数々はおそらく何度読んでも面白いものだろう。
モーツァルトの楽曲に関して多少立ち入った話もあるので、『魔笛』、『フィガロの結婚』や『ドン・ジョバンニ』のといった代表的なオペラ作品だけでも知っていれば、本書をいっそう楽しめるはずだ。
また、五線譜もしばしば掲載されているので、楽譜が読めればなおよいのかもしれない。

本書の冒頭には、芸術家の伝記を書かせれば右に出るもののない、ロマン・ロランによる序文も訳出されている。
これも『ハイドン、モーツァルト、メタスタージオ伝』に向けて書かれたものなので、本書ではこの序文も抄訳となっているが、さすがはロマン・ロランだけあって豊富な原典引用によってスタンダールの性格を非常に的確に描き出しており、大変興味深いものとなっている。

誰もが知るモーツァルトの伝記を、かの有名なスタンダールが書いていたとあっては、本書を楽しめる読者層はかなり広いのではなかろうか。
年譜があまりに細かすぎる点や、スタンダールの剽窃が問題になったなどの欠点はあるとはいえ、モーツァルトのファンにもスタンダールのファンにもお勧めできる一冊となっている。

『老嬢』 バルザック(水声社)

老嬢 (バルザック愛の葛藤・夢魔小説選集)老嬢 (バルザック愛の葛藤・夢魔小説選集)

書名:老嬢 (バルザック愛の葛藤・夢魔小説選集)
著者:オノレ・ド・バルザック
訳者: 私市 保彦、片桐 祐
出版社:水声社
ページ数:380

おすすめ度:★★★★




水声社の「バルザック愛の葛藤・夢魔小説選集」の第四巻目がこの『老嬢』である。
すべての収録作品が本邦初訳というわけではないにせよ、人間喜劇の中であまり脚光を浴びることのない作品が収録されており、バルザックのファンならば必読の一冊と言えると思う。

本書は『老嬢』の他に、『ボエームの王』、『コルネリュス卿』、『二つの夢』の三編を収録している。
資産家のオールドミスを巡る結婚話である『老嬢』は、まさに「愛の葛藤」というシリーズ名にふさわしい内容の作品となっている。
200ページもある作品の割りに、ドラマ自体の展開は乏しいように感じられるが、それだけ各々の登場人物の描写は徹底しており、非常に彫りの深い人物像が出来上がっていて、いかにもバルザックらしい中編作品であると言える。

『ボエームの王』は岩波文庫の『サラジーヌ』にも収録されている作品で、ボヘミアンたちの「王」に恋した人妻の一途な愛が描かれていて、良きにつけ悪しきにつけ、読者の心に何らかの印象を残さずにはいないはずだ。
『コルネリュス卿』は、15世紀のトゥールを舞台にしていて、物語はゴシック小説風の緊張感の中で進んでいく。
虐げられている若妻と相思相愛の青年、醜く年老いたその夫、そして不吉な噂の付きまとうコルネリュス卿とルイ十一世と、役者は揃っているので、全体の構成は緩いものの、ストーリーを追っていくだけで十分楽しめる作品となっている。
秀逸な作品である『二つの夢』は、解説によるとこれは『カトリーヌ・ド・メディシス』という大作のごく一部に過ぎないらしいが、ロベスピエールやマラーといったインパクトの強い登場人物のおかげで、読者が物足りなさを感じることはないだろうと思う。

バルザック愛の葛藤・夢魔小説選集は、「人間喜劇」を一つでも多く読みたいという読者には大変喜ばしいシリーズだった。
水声社には、今後もぜひ同様な選集を発刊してもらいたいものだ。
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