『ブレヒト詩集』 ブレヒト(みすず書房)

ブレヒト詩集 (1978年)ブレヒト詩集 (1978年)

書名:ブレヒト詩集
著者:ベルトルト・ブレヒト
訳者:長谷川 四郎
出版社:みすず書房
ページ数:144

おすすめ度:★★★★




『三文オペラ』などの戯曲で知られるブレヒトの詩作品を集めたのが本書『ブレヒト詩集』である。
一般に、ブレヒトは詩人としてはあまり知られていないし、注目度も低いかもしれないが、実は生涯にわたって数多くの詩を残してきている。
言葉の意味が直接的で回りくどさが少なく、物語性のある詩作品も多く収録されているので、とっつきやすい、読みやすい詩が多いのではないかと思う。

『ブレヒト詩集』には、一ページで終わる短いものから二十ページに及ぶ長めの詩まで、計十九編の詩作品が収録されている。
政治的なニュアンスの感じられるもの、社会に対する皮肉を含んだもの、執筆時期を想起させる時事的なものなどが収められていて、非常にブレヒトらしさを感じさせる作風となっている。
ブレヒトの書いたドイツ語を確認したわけではないけれども、他の詩人の作品と比べると、言葉の数はやや少なめかもしれない。
それでも読者の心や精神に訴えかけてくるものがあるというのだから、それだけ一語一語が厳選されているということなのだろう。

本書において、中心的な位置付けになろうかという詩作品のいくつかは、『暦物語』にも収録されていたものである。
具体的には、『子供の十字軍』、『仏陀火宅説話』、『老子亡命途上道徳経成立譚』がそれに該当するわけだが、その表題を見るだけで、1978年初版という事実が実感できるのではなかろうか。
ただ、訳文自体はそこまで古めかしくないので安心していただければと思う。

巻末にブレヒトの写真が数点掲載されているのも、ブレヒトのファンにはうれしいポイントだ。
残念ながらこの本自体があまり出回っていないというのが実際のところではあるが、ブレヒトの詩の世界への足掛かりには最適の一冊と言えるだろう。
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『ガリレオの生涯』 ブレヒト(光文社古典新訳文庫)

ガリレオの生涯 (光文社古典新訳文庫)ガリレオの生涯 (光文社古典新訳文庫)

書名:ガリレオの生涯
著者:ベルトルト・ブレヒト
訳者:谷川 道子
出版社:光文社
ページ数:346

おすすめ度:★★★★




ブレヒトの代表的な戯曲作品の一つとされるのが本書『ガリレオの生涯』である。
ナチスの支配から逃れていったブレヒト自身を、カトリック教会の言論弾圧から逃れたガリレオに重ねて書かれた作品とされていて、ブレヒトの自伝的な作品として読むことができるのが特徴だ。

望遠鏡を用いて天体観測に精を出すガリレオ・ガリレイ。
彼はコペルニクスが唱えた地動説を裏付ける証拠を次々と見つけていくが、それはローマ教会が認める公的見解とは相容れないものだったから・・・。
物語の大枠は、有名なガリレオ・ガリレイの生涯であり、全体のあらすじに奇抜さは感じられないものの、ブレヒトがこの戯曲を組み立てる上でどのような場景を積み重ねていくのかという点は、最後の場面まで読者の興味が尽きないのではないかと思われる。
ガリレイの生涯 (岩波文庫)ガリレイの生涯 (岩波文庫)

光文社古典新訳文庫には過剰気味の解説が付されることが多いが、今回もその例に漏れず、本書の解説もやはり100ページ近くあり、蛇足というか飛躍というか、『ガリレオの生涯』との直接的な関係性が疑わしくなるような訳者の持論も豊富に書かれている。
ブレヒトの作品を読みたい読者が、必ずしも訳者解説における持論の展開を期待しているわけではない、そう考えるのは私だけだろうか。
そういう意味では、出版年こそやや古いが、岩波文庫版の『ガリレイの生涯』の方が一般的な読者向けと言えるかもしれない。

『ガリレオの生涯』は、ストーリー展開の幅がさほど広くないし、スピード感もあまり感じられない。
それにもかかわらず、読後に思い返してみれば重要な意味を成していた場面がいくつもあり、総体的に見ればよくできた戯曲であると評価するのが妥当であるように思えてしまう。
ブレヒトのレパートリーの中でも一定の人気を保っているというのも頷ける、そんな作品だ。

『モーツァルト』 スタンダール(ミュージック・ライブラリー)

モーツァルト (ミュージック・ライブラリー)モーツァルト (ミュージック・ライブラリー)

書名:モーツァルト
著者:スタンダール
訳者: 高橋 英郎、冨永 明夫
出版社:東京創元社
ページ数:264

おすすめ度:★★★★




スタンダールが愛してやまなかった音楽家であるモーツァルトの伝記が本書である。
本書『モーツァルト』は、スタンダールが一冊の著作として書いた作品をそのまま翻訳したわけではなく、『ハイドン、モーツァルト、メタスタージオ伝』と『ロッシーニ伝』からモーツァルトに関する部分をそれぞれ抜粋したものとなっているが、テーマの一貫性が明確であるため、それほど継ぎはぎという印象を受けることはないと思う。

『モーツァルト』は、作者による手紙という、いわゆる書簡体のスタイルを取っているが、どのようなスタイルを取るにせよ、あまり内容に影響はしていないように見受けられる。
驕ることなく親切を尽くすというモーツァルトの人柄のよさはやはり読んでいて心地よいし、彼の神童ぶりを示すエピソードの数々はおそらく何度読んでも面白いものだろう。
モーツァルトの楽曲に関して多少立ち入った話もあるので、『魔笛』、『フィガロの結婚』や『ドン・ジョバンニ』のといった代表的なオペラ作品だけでも知っていれば、本書をいっそう楽しめるはずだ。
また、五線譜もしばしば掲載されているので、楽譜が読めればなおよいのかもしれない。

本書の冒頭には、芸術家の伝記を書かせれば右に出るもののない、ロマン・ロランによる序文も訳出されている。
これも『ハイドン、モーツァルト、メタスタージオ伝』に向けて書かれたものなので、本書ではこの序文も抄訳となっているが、さすがはロマン・ロランだけあって豊富な原典引用によってスタンダールの性格を非常に的確に描き出しており、大変興味深いものとなっている。

誰もが知るモーツァルトの伝記を、かの有名なスタンダールが書いていたとあっては、本書を楽しめる読者層はかなり広いのではなかろうか。
年譜があまりに細かすぎる点や、スタンダールの剽窃が問題になったなどの欠点はあるとはいえ、モーツァルトのファンにもスタンダールのファンにもお勧めできる一冊となっている。

『老嬢』 バルザック(水声社)

老嬢 (バルザック愛の葛藤・夢魔小説選集)老嬢 (バルザック愛の葛藤・夢魔小説選集)

書名:老嬢 (バルザック愛の葛藤・夢魔小説選集)
著者:オノレ・ド・バルザック
訳者: 私市 保彦、片桐 祐
出版社:水声社
ページ数:380

おすすめ度:★★★★




水声社の「バルザック愛の葛藤・夢魔小説選集」の第四巻目がこの『老嬢』である。
すべての収録作品が本邦初訳というわけではないにせよ、人間喜劇の中であまり脚光を浴びることのない作品が収録されており、バルザックのファンならば必読の一冊と言えると思う。

本書は『老嬢』の他に、『ボエームの王』、『コルネリュス卿』、『二つの夢』の三編を収録している。
資産家のオールドミスを巡る結婚話である『老嬢』は、まさに「愛の葛藤」というシリーズ名にふさわしい内容の作品となっている。
200ページもある作品の割りに、ドラマ自体の展開は乏しいように感じられるが、それだけ各々の登場人物の描写は徹底しており、非常に彫りの深い人物像が出来上がっていて、いかにもバルザックらしい中編作品であると言える。

『ボエームの王』は岩波文庫の『サラジーヌ』にも収録されている作品で、ボヘミアンたちの「王」に恋した人妻の一途な愛が描かれていて、良きにつけ悪しきにつけ、読者の心に何らかの印象を残さずにはいないはずだ。
『コルネリュス卿』は、15世紀のトゥールを舞台にしていて、物語はゴシック小説風の緊張感の中で進んでいく。
虐げられている若妻と相思相愛の青年、醜く年老いたその夫、そして不吉な噂の付きまとうコルネリュス卿とルイ十一世と、役者は揃っているので、全体の構成は緩いものの、ストーリーを追っていくだけで十分楽しめる作品となっている。
秀逸な作品である『二つの夢』は、解説によるとこれは『カトリーヌ・ド・メディシス』という大作のごく一部に過ぎないらしいが、ロベスピエールやマラーといったインパクトの強い登場人物のおかげで、読者が物足りなさを感じることはないだろうと思う。

バルザック愛の葛藤・夢魔小説選集は、「人間喜劇」を一つでも多く読みたいという読者には大変喜ばしいシリーズだった。
水声社には、今後もぜひ同様な選集を発刊してもらいたいものだ。

『パルムの僧院』 スタンダール(岩波文庫)

パルムの僧院〈上〉 (岩波文庫)パルムの僧院〈上〉 (岩波文庫)パルムの僧院 下 改訂 (岩波文庫 赤 526-6)パルムの僧院 下 改訂 (岩波文庫 赤 526-6)

書名:パルムの僧院
著者:スタンダール
訳者:生島 遼一
出版社:岩波書店
ページ数:371(上)、401(下)

おすすめ度:★★★★★




赤と黒』と並び、スタンダールの代表作とされるのがこの『パルムの僧院』である。
『パルムの僧院』というタイトルではあるものの、不思議と当の僧院はほとんど登場しておらず、宗教臭さの感じられない非常に世俗的な小説となっている。
スタンダールの緻密な心理描写や状況描写は終始冴え渡っているので、本書が再読に値する傑作であると高く評価されるのも納得がいくというものだ。

『パルムの僧院』は、ナポレオンを崇拝する青年ファブリスが主人公であり、作中における彼の運命の行く末も気になるところではあるが、「魔性の女」とでも呼ぶべき典型的なファム・ファタルであるその叔母の暗躍も見逃せない。
殺人事件が起こり、命懸けの恋愛もあり、策略と陰謀の渦巻く宮廷も舞台となり・・・。
一般的に言って、スタンダールの描写の進め方はそれほど速い部類には入らないと思うが、次から次へと何かが起き続けるスリリングな展開は、最後まで読者の心を放さないのではなかろうか。
パルムの僧院 (上) (新潮文庫)パルムの僧院 (上) (新潮文庫)パルムの僧院〈下〉 (新潮文庫)パルムの僧院〈下〉 (新潮文庫)

知名度では『赤と黒』にやや劣る感があるものの、『パルムの僧院』も文学全集では常連となっている古典中の古典だ。
私自身、読み比べてみたことがないので優劣はつけられないが、右に挙げた新潮文庫の大岡昇平訳も昔からある定番となっている。
むしろ、『パルムの僧院』ほどの傑作なのに、新訳が存在しないことが意外であると言うべきかもしれない。

スタンダールの言によると、彼は『パルムの僧院』をわずか2か月足らずで書き上げたらしい。
この発言自体を額面通りに受け取る必要はないだろうが、実際にスタンダールが短期間で仕上げたのは事実のようであるし、『パルムの僧院』のクオリティを考え合わせると、彼の手腕にはやはり驚かされるものがある。
執筆時のスピード感を損なわないためにも、読者の方でも一気呵成に読み切ってみるべき作品なのかもしれない。

『暦物語』 ブレヒト(光文社古典新訳文庫)

暦物語 (古典新訳文庫)暦物語 (古典新訳文庫)

書名:暦物語
著者:ベルトルト・ブレヒト
訳者: 丘沢 静也
出版社:光文社
ページ数:312

おすすめ度:★★★★




劇作家として知られるブレヒトの、短編小説と詩作品の計17編を収録しているのがこの『暦物語』である。
短編小説と詩が交互に収録されていて、簡潔で読みやすい文章を書く散文家として、また美しい詩を書く詩人としてのブレヒトを垣間見ることができる一冊だ。
子供の十字軍子供の十字軍

『暦物語』の中でよく知られている作品といえば、『アウクスブルクの白墨の輪』であろう。
この作品にストーリーの斬新さを期待することはできないかもしれないが、結構の整ったよくできた一編であるということは賛同いただけるものと思う。
詩作品の中で言えば、『子どもの十字軍 1939年』が最も有名なのではなかろうか。
右に挙げるように、かつて銅版画の挿絵入りの単行本にもなっているほどで、切なく感動的なストーリーに、誰もが胸を打たれるに違いない。

『暦物語』の収録作品の中では、個人的には『カエサルとカエサルの軍団兵』と『怪我をしたソクラテス』をお勧めしたい。
前者は、暗殺を目前に控えたカエサルをテーマとする歴史小説風の小品で、結末は誰の目にも明らかなのに、それでも面白く読めてしまうのだから不思議なものだ。
後者も歴史ものといえば歴史ものかもしれないが、話のスケールなどの面で少し毛色が異なっている。
ソクラテスが戦争で武勲を立てたと称賛される一方で、戦場での事実を知るのは本人ばかりというややコミカルなタッチの作品となっており、こちらもやはり面白い。

ブレヒトは、日本で十分に紹介されてきたとは言い難い作家の一人であるように思う。
そんな中で、『暦物語』のようなブレヒトの劇作品以外が文庫化されるというのは、うれしいサプライズであった。
本書を読めば、意外と多角的であるブレヒトを、誰もがもっと知りたいと思うのではなかろうか。

『アンティゴネ』 ブレヒト(光文社古典新訳文庫)

アンティゴネ (光文社古典新訳文庫)アンティゴネ (光文社古典新訳文庫)

書名:アンティゴネ
著者:ベルトルト・ブレヒト
訳者:谷川 道子
出版社:光文社
ページ数:186

おすすめ度:★★★★




ブレヒトの『アンティゴネ』は、ソポクレスによるギリシア悲劇の改作という、ブレヒトとしては異色の作品となっている。
ブレヒトが亡命中であった第二次世界大戦後に書かれた作品で、『アンティゴネ』もまた、戦時下における市民のあり方を問うている作品として読むことも可能だろう。

テーバイの国王であり、叔父でもあるクレオンによって、血を分けた兄弟の埋葬を禁じられたアンティゴネ。
肉親の遺骸が動物に食い荒らされていくことに耐え切れず、法に背いて埋葬することを決心をするのだが・・・。
人としての倫理と国の法律との不一致という葛藤に接したアンティゴネが人道を選ぶことは、特に本書のように法が恣意的なものである場合においては、大半の読者の賛同を得られることであろう。

光文社の古典新訳文庫ではけっこうありがちなことではあるが、本書『アンティゴネ』においても、全ページにおける本文の比率が低い。
裏を返せば、訳者による解説やあとがきが非常に充実しているということではあるのだが、約200ページのうち三分の一以上が解説、年譜、あとがきで占められるというのでは、本文の少なさに少しがっかりしてしまう読者がいても仕方ないのではなかろうか。
解説なしでも自立して十分面白い作品なのだから、もっと薄く、そして安くしてくれたほうがお手頃でありがたいと考えるのは私だけだろうか。

社会派作家のブレヒトのことだから、『アンティゴネ』に込められた思想的主張はなんだろうかと、読者はつい勘ぐってしまうかもしれない。
オリジナルであるソポクレスの『アンティゴネ』との相違点も気になるところではある。
しかし、個人的には、『アンティゴネ』はあまり深いことを考えずに純粋にストーリー展開を楽しめる戯曲になっているので、研究者目線でなく、鑑賞者目線で接してみてもよいのではないかと思う。

『肝っ玉おっ母とその子どもたち』 ブレヒト(岩波文庫)

肝っ玉おっ母とその子どもたち (岩波文庫)肝っ玉おっ母とその子どもたち (岩波文庫)

書名:肝っ玉おっ母とその子どもたち
著者:ベルトルト・ブレヒト
訳者:岩淵 達治
出版社:岩波書店
ページ数:253

おすすめ度:★★★★★




『肝っ玉おっ母とその子どもたち』は、『三文オペラ』と同様にブレヒトの代表的な戯曲の一つに数えられている。
タイトルからも察せられるように、従軍商人として戦地を渡り歩くアンナ一家のたくましい姿が描かれている。
第二次世界大戦やナチズムとも無関係ではないものの、作品自体に重苦しさはないので、気軽に手にしていただければと思う。

『肝っ玉おっ母とその子どもたち』の舞台は、三十年戦争の最中のスウェーデンやドイツ、ポーランドなどだ。
新教陣営から旧教陣営まで、アンナ一家は図々しいとも言えるほどの商人根性で切り抜けていこうとするが、やはり戦争中とあって様々な不幸が襲い掛かるのだけは避けられず・・・。
戯曲の全編を通じて、アンナの占めるウェイトの大きさはかなりのもので、他の人物が添え物に感じられてしまうほどである。
読者は自ずと波乱万丈な人生を送るアンナの言動に注視させられることだろう。
母アンナの子連れ従軍記 (光文社古典新訳文庫)母アンナの子連れ従軍記 (光文社古典新訳文庫)

この作品は、光文社古典新訳文庫では『母アンナの子連れ従軍記』というタイトルで出版されている。
原題は"Mutter Courage und ihre Kinder"であり、アンナの名も出ていなければ従軍記であることも示されていないため、岩波文庫のほうがより正確な訳語であるはずで、『母アンナの子連れ従軍記』はタイトルとしては完全な意訳ということになる。
しかしながら、劇中でアンナたちが商品を載せた幌車を引っ張り続けるように、アンナというたくましい登場人物の魅力だけで引っ張っていく作品であるのは事実であろうから、この意訳にもある程度は頷けるというものだ。

『肝っ玉おっ母とその子どもたち』は、軽快な言葉の掛け合いの中で、命の重みや家族の愛情、そして何より、苦境の中で生きていくということを考えさせられる、そんな作品だ。
現実的、あまりに現実的なアンナの生き方に触れてみることは、現実問題として、興味深い体験になるのではなかろうか。

『三文オペラ』 ブレヒト(岩波文庫)

三文オペラ (岩波文庫)三文オペラ (岩波文庫)

書名:三文オペラ
著者:ベルトルト・ブレヒト
訳者:岩淵 達治
出版社:岩波書店
ページ数:285

おすすめ度:★★★★★




ブレヒトの代表作として知られているのがこの『三文オペラ』である。
200年前の戯曲を翻案したものではあるが、ブレヒトらしさが存分に発揮された秀逸な作品であると言えるだろう。
作品全体を通して下品な言い回しも多いが、それだけ強く下層民の活気に満ちた息遣いが感じられるのも『三文オペラ』の特長だと思う。

乞食を演じる人々に衣装一式を貸し出し、乞食によって儲かった分の上前をはねるという何とも不名誉な商売を営むピーチャム。
手広くやっていた商売はうまくいっていたが、彼の娘がロンドンの街で知らぬ者のない犯罪者マクヒスと勝手に結婚してしまったものだから・・・。
『三文オペラ』には、裕福な者に利するように世の中ができていて、貧富の差が倫理観の堕落を生むといった、社会主義的な思想がけっこう露骨に前面に押し出されているので、ひょっとするとそれを少々煙たく感じる読者もいるかもしれない。

『三文オペラ』は、戯曲と音楽との融合をテーマにした、ミュージカル風の作品に仕上がっている。
もちろん、過去にも音楽を用いた戯曲は数えきれないほどあるが、戯曲と音楽との融合を追求したブレヒトの変わっている点は、芝居と歌とは明確に区別されるべきであり、芝居の流れから自然と歌に入ってはいけないと考えているところだろう。
つい先ほどまで普通に台詞を述べていた役者が心情の高揚に伴って唐突に歌い出すことの多い今日のミュージカル作品と、異化作用を提唱するブレヒトの作品とでは、やはりその趣向が大きく違うようだ。

岩波文庫の『三文オペラ』の表紙には、結末部分を含むネタばれが書かれていて、あらすじを楽しみたい方はがっかりすることになるかもしれない。
そうはいっても、結末が明かされていたとしても戯曲の面白さはさほど損なわれていないので、少しでも興味を感じた方はぜひ手に取ってみていただければと思う。

『赤と黒』 スタンダール(岩波文庫)

赤と黒〈上〉 (岩波文庫)赤と黒〈上〉 (岩波文庫)赤と黒〈下〉 (岩波文庫 赤 526-4 9赤と黒〈下〉 (岩波文庫 赤 526-4 9

書名:赤と黒
著者:スタンダール
訳者: 桑原 武夫、生島 遼一
出版社:岩波書店
ページ数:382(上)、468(下)

おすすめ度:★★★★★




言わずと知れたスタンダールの代表作といえば、この『赤と黒』である。
主人公の心の動きを克明に描いた心理小説として高く評価され続けている、フランス文学の古典中の古典でもある。
フランス文学のみならず、欧米文学に興味のある方には必読の一冊と言えるだろう。

頭脳明晰で容姿端麗でもあるジュリアン・ソレルは、生まれが田舎町の庶民ではあるものの、何とか出世したいとの強い野心を抱いていた。
そんな彼が、町長の家で家庭教師をすることになり、次第にその家の夫人と親密になっていくのだが・・・。
大事件が連続するというわけではないものの、『赤と黒』の筋の起伏は読者を最後まで飽きさせることがないはずだ。
読後にタイトルの「赤」と「黒」がそれぞれ何を意味しているのかを考えてみるのも、面白いのではないかと思う。
赤と黒【字幕版】 [VHS]赤と黒【字幕版】 [VHS]

有名な作品だけあり、『赤と黒』は宝塚歌劇の題材となっていたり、映像化されたりしている。
映画化作品のお勧めはユアン・マクレガーが主演している右の『赤と黒』で、原作にはない演出も見られるには見られるものの、概ね原作に忠実な映像化作品となっているのではあるが、VHSしか出回っていないというのがデメリットとなっている。
『赤と黒』という邦題を冠して、現代風にアレンジを加えた韓国ドラマも作成されているようで、『赤と黒』がいまだにアクチュアルな古典作品であることを窺い知ることができる。

『赤と黒』と『パルムの僧院』の二作品が、スタンダールの作品の中で双璧を成しているが、どちらの作品がより優れているかとなると、これには諸説あるようで、要は意見の分かれるところである。
『赤と黒』を気に入った読者は、ぜひ『パルムの僧院』も読んでみていただければと思う。
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