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『黄金虫・アッシャー家の崩壊』 エドガー・アラン・ポー(岩波文庫)

黄金虫・アッシャー家の崩壊 他九篇 (岩波文庫)黄金虫・アッシャー家の崩壊 他九篇 (岩波文庫)
(2006/04/14)
ポオ

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書名:黄金虫・アッシャー家の崩壊 他九篇
著者:エドガー・アラン・ポー
訳者:八木 敏雄
出版社:岩波書店
ページ数:410

おすすめ度:★★★★★




短編の名手として知られるポーの作品のうち、代表作である『黄金虫』と『アッシャー家の崩壊』を収録したのがこの本だ。
読み応えのある短編を数多く残しているポーの場合、短編集にどれを収めることにするか決定するのは非常に困難な作業であろうが、この岩波文庫版は量と質の両面からいって、たいへん充実したセレクションとなっている。
ポーを初めて読む人にもお勧めできる優れた短編集だ。

『アッシャー家の崩壊』は、ポーの全作品の中で最も知られたものの一つである。
不気味な雰囲気の漂う館を舞台にした、語り手の体験する不思議な体験を綴った傑作中の傑作だ。
一般にゴシック小説というジャンルに分類されており、併録されている『リジーア』や『群集の人』、『赤死病の仮面』や『アモンティラードの酒樽』などと合わせて読めば、ポーの描く怪しげな世界の虜となる読者も出てくることだろう。

『アッシャー家の崩壊』とは異なり、推理小説風の傑作として知られるのが『黄金虫』だ。
今日的な観点からすると『モルグ街の殺人』などと比べて不完全な意味でのミステリーであるが、暗号文をきわめて論理的に謎解きしていく書きぶりは、頭脳派の作家であるポーらしさが全面に打ち出されている。
数あるポーの作品のなかでも、筋の面白さが抜群の作品なので、ポーの短編を読むなら『黄金虫』は絶対にはずせないと思う。

欧米のみならず、ポーに由来するペンネームを持つ江戸川乱歩を筆頭に、この日本においても、ポーが文学界に与えた影響は計り知れない。
ポーの緻密さ、凝縮された文体、芸術品としての完成度の高さ、新ジャンルの確立・・・ポーの残した功績と、いまだに高く評価され続ける所以、これをぜひ味わっていただきたいと思う。
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『黒猫/モルグ街の殺人』 エドガー・アラン・ポー(光文社古典新訳文庫)

黒猫/モルグ街の殺人 (光文社古典新訳文庫)黒猫/モルグ街の殺人 (光文社古典新訳文庫)
(2006/10/12)
ポー

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書名:黒猫/モルグ街の殺人
著者:エドガー・アラン・ポー
訳者:小川 高義
出版社:光文社
ページ数:219

おすすめ度:★★★★★




ポーの代表作として『黒猫』と『モルグ街の殺人』などを収録した光文社の古典新訳文庫。
『アモンティラードの酒樽』が重複するが、岩波文庫の『黄金虫・アッシャー家の崩壊』と合わせて読めば、ポーの小説の有名どころはだいたい押さえることができる。
活字が大きく読みやすいだけに、物足りなさを感じないわけではないが、『黒猫/モルグ街の殺人』がポーを楽しむ上で手頃な本であることは間違いない。

主人公の自意識の巧みな掘り下げが魅力である『黒猫』は、作品自体が短いということもあり、ポーの全作品の中でも特に緻密に仕上げられたものの一つで、結末まで一気に読み通すことができる。
合理的に展開される心理描写が読者を引き込んでいく力の強さは、さすがはポーであると言うしかない。
併録されている『告げ口心臓』も、同様のジャンルの作品として邦訳されることの多い傑作の一つだ。
また、『ウィリアム・ウィルソン』は、取り扱っているテーマがドストエフスキーの『二重人格』に似通っているので、比べて読んでみるのも面白いと思う。
『早すぎた埋葬』は、落ちの秀逸さで長く記憶に留まる作品だろう。
黒猫・モルグ街の殺人事件 他5編 (岩波文庫 赤 306-1)黒猫・モルグ街の殺人事件 他5編 (岩波文庫 赤 306-1)
(1978/12/18)
ポオ

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『黒猫』と『モルグ街の殺人』を表題に掲げた本は、右に示すように、少々版が古いが岩波文庫からも出されている。
こちらは『マリ・ロジェエの迷宮事件』と『盗まれた手紙』も収録されていて、いわゆる「デュパンもの」と呼ばれるミステリー草創期の三作品を網羅しているので、そちらの方面に興味のある人には非常にお勧めだ。
「デュパンもの」三編を読み通せば、『モルグ街の殺人』だけでは短編の一登場人物に過ぎないという印象を与えかねないデュパンが、ホームズをはじめとする数々の名探偵の原形であることをおわかりいただけるに違いない。

短編小説やミステリー小説を文学ジャンルとして確立したポーの影響は、後世の多くの作家に及んでいる。
ポーの作品を知っておけば、後の作家の作品中にポーの遺伝子を見出すという楽しみ方も可能となるだろう。
そういう意味では、『黒猫』や『モルグ街の殺人』は欧米文学の古典中の古典の一つと言ってもいいのかもしれない。

『ポオ評論集』 エドガー・アラン・ポー(岩波文庫)

ポオ評論集 (岩波文庫)ポオ評論集 (岩波文庫)
(2009/06/16)
八木 敏雄

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書名:ポオ評論集
著者:エドガー・アラン・ポー
訳者:八木 敏雄
出版社:岩波書店
ページ数:323

おすすめ度:★★★☆☆




短編小説家、詩人としてのみならず、評論家としても活動していたポーの評論を集めたのがこの『ポオ評論集』だ。
ポーの詩に対する考え方や、ディケンズやホーソーンなど、日本でもよく知られた同時代の作家の作品に関する評論を収めていて、そのすべての評論がとは言わないまでも、たいていは非常に興味深く読むことができる。
ポーに関心のある人や、ポーの活躍した時代のアメリカ文学に興味のある人にはお勧めの一冊だ。

収録されている評論の中で、最も読み応えのあるのは『詩作の哲学』だろう。
この中でポーは、詩人としてのポーの名を一躍有名にした彼の代表作である『大鴉』の成立過程について詳述している。
詩で扱うモチーフの選び方から、使用する単語の音としての効果や、そもそも適切な詩の長さとはどの程度なのかについてまで説明し、アメリカの詩で最も有名なものの一つである『大鴉』ができるまでの過程を非常に分析的かつ論理的に解説してくれるのだ。
すべての記述を鵜呑みにするのは安直に過ぎるかもしれないが、一つの詩論として読むとたいへん興味深い文章である。

また、ディケンズやクーパーの作品に対する批評も面白い。
必ずしも文学批評としての傑作ではないかもしれないが、他者の作品のどこを褒め、どこを難じるのかによって、ポー自身が短編小説を書く際のスタンスを察することができる。
読者に及ぼす心理的効果を重視して作品を仕上げていたポーらしい評言にも出会うことだろう。

本作は評論集ということもあり、あまり一般には受けないものと思われる。
実際、ポーを知っているからこそ楽しめる部分が大きいので、できればポーの短編小説をいくつかと、そして彼の詩の代表作である『大鴉』を読んだ上で手にしていただければと思う。

『ポー詩集―対訳』 エドガー・アラン・ポー(岩波文庫)

ポー詩集―対訳 (岩波文庫―アメリカ詩人選)ポー詩集―対訳 (岩波文庫―アメリカ詩人選)
(1997/01/17)
エドガー・アラン・ポー

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書名:ポー詩集―対訳
著者:エドガー・アラン・ポー
訳者:加島 祥造
出版社:岩波書店
ページ数:201

おすすめ度:★★★☆☆




日本では短編小説家としてよく知られるポーは、英米では詩人としても有名で、そんな彼の代表的な作品をほぼ網羅しているのがこの『ポー詩集―対訳』だ。
岩波文庫から出ている同じ対訳詩集でも、『対訳 バイロン詩集』などはオリジナルの詩が長大なために一部分の抜粋を連ねるという形になってしまうのだが、一篇の詩があまり長くないポーは、そのすべてを掲載することができる。
そういうわけで、ポーの詩はいくつかある有名作品を一冊にまとめることが可能であり、それらをまとめたものがこの『ポー詩集―対訳』である。

同じアメリカの詩人といっても、ポーの作風はホイットマンのそれと大いに異なり、どちらかといえば内向的で、あまり明るいテーマではない作品が多いように感じられる。
決して満ち足りた生涯を送ったわけではないポーの悲しみを歌ったものも多く、それらはきっと読者の琴線に触れるはずだ。

この詩集と合わせて読むのなら、『ポオ評論集』の中の『詩作の哲学』が最適だろう。
ポー自らが『大鴉』の成立過程を詳述していて、いわば作者自らが物した『大鴉』の解説である。
英米文学の教授をしていたボルヘスも、国書刊行会から出された『ボルヘスの北アメリカ文学講義』という本の中で、『大鴉』と『詩作の哲学』について言及している。
その言及の比重が、北米文学をざっと俯瞰するための本のわりに非常に大きく、ボルヘスのポーへの、またポーの詩への関心の高さを示していると言っていいだろう。
いずれにしても、『詩作の哲学』を読めば、ポーの詩から受ける印象は大きく変わってくるに違いない。

ポオ評論集』と同様、詩集ということで一般受けは望めないかもしれないが、詩作品としては非常に読みやすい部類に入ると思う。
難解な単語には脚注が付されてもいるので、ほぼ同時代のアメリカの詩人であるディキンソン同様、英詩の初心者が手にするにふさわしい一冊だろう。

『白鯨』 メルヴィル(岩波文庫)

白鯨 上 (岩波文庫)白鯨 上 (岩波文庫)
(2004/08/19)
ハーマン・メルヴィル

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白鯨 中 (岩波文庫)白鯨 中 (岩波文庫)
(2004/10/15)
ハーマン・メルヴィル

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白鯨 下 (岩波文庫 赤 308-3)白鯨 下 (岩波文庫 赤 308-3)
(2004/12/16)
ハーマン・メルヴィル

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書名:白鯨
著者:ハーマン・メルヴィル
訳者:八木 敏雄
出版社:岩波書店
ページ数:493(上)、495(中)、474(下)

おすすめ度:★★★★★




メルヴィルの代表作としてはもちろん、アメリカ文学の代表作としてもその名を轟かせる『白鯨』。
原題は『Moby Dick』で、巨大な白鯨に付けられたあだ名のモービー・ディックがそのままタイトルとなっている。
本作を一言で表すなら「壮大なドラマ」とでも言えばいいだろうか、独特の深い味わいを備えている、お勧めの傑作だ。

『白鯨』は、語り手が個性豊かな船員たちの乗り組んでいる捕鯨船に仲間入りをして、その体験を綴っていくというスタイルで書かれている。
そしてその捕鯨船の船長が、果てしなく広がる大洋の中、一匹の白鯨を執念深く追い求めているのだ・・・。
一般に非常に象徴性が高い作品であると言われていて、聖書との対比やモチーフの分析が数多くの研究者たちによって行われてきているらしいが、裏の意味を探らずとも、復讐に燃える船長とモービー・ディックの闘いはそれだけでも十分読み応えがあるはずだ。

モームが「世界の十大小説」の一つに選んだ『白鯨』は、話の展開と直接関係のない説明的な部分が多いことでも知られている。
ドン・キホーテ 前篇』や『ピクウィック・クラブ』のように挿話を入れるのではなく、鯨の説明や捕鯨船の解説などに当てられている章が複数あるのだ。
脱線を余計と感じる読者からすると退屈で仕方ないだろうが、そのような脱線も含めての『白鯨』であるから、各人がその全体を鑑賞し、作品の良し悪しを判断するのが一番だろう。
この章はまるごとカットできたのではないかと思える脱線が多いのは『レ・ミゼラブル』にも見られる特徴だが、どれだけ脱線しても名作として名高い作品が存在するのは事実のようだ。

日本でも古くから翻訳・紹介されてきている作品だけに、古い訳書の中には読みにくいものもあるに違いない。
そんな中、同時代のアメリカ文学を多数翻訳している八木氏による岩波文庫の新訳は、訳文の読みやすさはもちろん、挿絵の豊富さもうれしく、非常にお勧めだ。

『完訳 緋文字』 ホーソーン(岩波文庫)

完訳 緋文字 (岩波文庫)完訳 緋文字 (岩波文庫)
(1992/12/16)
N. ホーソーン

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書名:完訳 緋文字
著者:ナサニエル・ホーソーン
訳者:八木 敏雄
出版社:岩波書店
ページ数:472

おすすめ度:★★★★★




本書はホーソーンの代表作である『緋文字』の完訳版だ。
わざわざ「完訳」と表記されているのは、この『緋文字』は冒頭の「税関」の章にて以下に語られるストーリーの関係書類が見つかるという体裁で始まる小説なのだが、その「税関」の章が省略されて翻訳されないことがあるためだ。
その章がなくても本筋は確かに成立するが、なるべく作者が書いたとおりのものに触れたいという読者は、「完訳」と書かれているものを選んだほうが無難だろう。

『緋文字』は若いアメリカ社会を舞台にした作品だ。
宗教色の強いピューリタン社会で、姦通をした人間の胸に記される緋色の「A」。
その緋文字を胸に愛娘と暮らしている女、ピューリタンとして模範的な生活を送っている牧師、この二人を中心に話は進んでいく。
宗教的生活と人間的生活、戒律と愛、真実と虚偽・・・対立項の間で模索する人々の心情を巧みに描いており、アメリカ文学初期の傑作として、『白鯨』と並びお勧めの長編作品だ。
スカーレット・レター [DVD]スカーレット・レター [DVD]
(2003/07/24)
デミ・ムーア、ゲイリー・オールドマン 他

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私は見ていないのだが、『緋文字』はデミ・ムーア主演の『スカーレット・レター』という映画になっている。
タイトルこそ原題に忠実だが、映画自体はあまり原作に従っていないらしいので、原作を知っている人が見るとおそらく賛否両論だろう。

宗教界と人間界の相克を描いた小説は、往々にして退屈きわまりない作品に堕しやすいものだが、この『緋文字』はテーマこそ深遠なものの、ストーリー性が強いおかげでたいへん読みやすく、読み始めるにあたり身構える必要はない。
17世紀のアメリカ社会という、あまり文学で触れられることの多くない時代を反映した名作でもあるので、他の文学作品と比べて独特な宗教的雰囲気も、必ずや楽しめることと思う。

『ホーソーン短篇小説集』 ホーソーン(岩波文庫)

ホーソーン短篇小説集 (岩波文庫)ホーソーン短篇小説集 (岩波文庫)
(1993/07/16)
ホーソーン

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書名:ホーソーン短篇小説集
著者:ナサニエル・ホーソーン
訳者:坂下 昇
出版社:岩波書店
ページ数:363

おすすめ度:★★★★




『緋文字』の作者として有名なホーソーンだが、彼は同時に多くの優れた短編小説を残した作家でもあった。
そんな彼の、『緋文字』以前の短編作品12点を収めたのがこの『ホーソーン短篇小説集』である。
ゴシック風のものあり、メルヘン風のものありと、幅広い作風の作品が集められていると感じる一方で、ピューリタン、悪魔や魔女、罪などといった、非常にホーソーンらしいテーマが散見する短編集でもある。

育った環境も大きな要因の一つであろうが、ホーソーンの作品はその多くが宗教的なイメージに彩られている。
牧師や魔女、罪の意識といったテーマは定番中の定番であり、読者はこの『ホーソーン短篇小説集』においてもそれらに頻繁に出くわすことだろう。
後に『緋文字』を書いた作者の手になる短編だと思えば、いかにも納得の内容と感じられるに違いない。

最大のお勧めは、『ウェークフィールド』というボルヘスが激賞してやまなかった作品で、作風でいうとポーやカフカに近い。
他の収録作品と比べると、舞台がロンドンであるというだけですでにホーソーンの作品としてはやや異色の感があるのだが、事実、全体を通して他の作品との類似性がきわめて弱い。
18、19世紀のアメリカ社会を反映していない分、それだけより普遍的な人間心理に迫った名作と言えるであろうか。

表紙には、ホーソーンの短編小説のうち、「物語性に優れた12篇を厳選」したとある。
すべてがすべて傑作であるとは言いがたいものの、筋の巧みさの感じられる作品もあれば、建国間もない頃のアメリカの閉鎖的で不寛容な社会を反映しているものもあったりと、ホーソーンという作家とその時代を知る上では格好の短編集となっている。
手軽に読める文庫版でもあることだし、『緋文字』を読んだ方であれば、一度手にしてみても悪くない本だろうと思う。

『ビリー・バッド』 メルヴィル(圭書房)

ビリー・バッドビリー・バッド
(2009/08/07)
ハーマン・メルヴィル

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書名:ビリー・バッド
著者:ハーマン・メルヴィル
訳者:留守晴夫
出版社:圭書房
ページ数:216

おすすめ度:★★★★




白鯨』の作者として知られるハーマン・メルヴィルだが、彼の最後の作品がこの『ビリー・バッド』だ。
作品の舞台は軍艦の船上なので、海洋小説の一つとして読むことができる。
一般に高い評価を得ている作品でもあるし、船乗りを描いた作品でもあるので、『白鯨』の次に手に取るメルヴィルの作品としては最適だと思う。

主人公のビリー・バッドは、素直で陽気な船乗りである。
ひょんなことから軍艦上の人となったビリーだが、持ち前の純真無垢な性格から、一躍水兵たちの人気の的となる。
しかし、そんなビリーにも、敵意を感じる人間が現れて・・・。
ここも『白鯨』に似ているところだが、印象的な船長の言動は非常に読み応えがある。
ビリーと船長とのやり取りはこの物語の軸となる部分なので、ぜひ注意深く読み込んでいただきたいところだ。

白鯨』を読んだ読者ならばすでにご存知だろうが、メルヴィルの紆余曲折を経る書き方は、なかなか話を前に進めない。
『ビリー・バッド』も同様で、あらすじだけを追っていくのなら、同じ物語を短編小説にまとめることもできたことだろう。
しかし、メルヴィルは背景となる状況や人物像の描写にあらかじめ多くのページを割くので、後のストーリー展開が一段と深みを持つことになる。
蛇足を嫌う読者には不向きかもしれないが、私は個人的にメルヴィルの蛇行する作風を、作品に味わいを添えるものとして評価したい。
ビリー・バッド (岩波文庫 赤 308-4)ビリー・バッド (岩波文庫 赤 308-4)
(1976/01/16)
メルヴィル

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近年、圭書房をはじめとする複数の出版社からメルヴィルの作品の新訳がいくつか出されているので、それらを機にメルヴィルの名作がより多くの読者を獲得することを期待したい。
とはいえ、圭書房から出された留守晴夫氏によるこの新訳は、仮名遣いや漢字の古さゆえに少々読みにくいのも事実だ。
右に示すように『ビリー・バッド』は岩波文庫からも出されているので、そちらで読むのもいいかもしれない。

『七人の風来坊―ホーソーン短篇集』 ホーソーン(岩波文庫)

七人の風来坊―ホーソーン短篇集 (岩波文庫)七人の風来坊―ホーソーン短篇集 (岩波文庫)
(1952/10/15)
ホーソーン

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書名:七人の風来坊―ホーソーン短篇集
著者:ナサニエル・ホーソーン
訳者:福原 麟太郎
出版社:岩波書店
ページ数:114

おすすめ度:★★☆☆☆




岩波文庫から出版されたホーソーンの短編集である『七人の風来坊』。
タイトルに「風来坊」という語を選択することからもわかるように、そもそもの出版年が古く、その後改版も行われていないようなので、理解に苦しむというほどではないものの、訳文には旧漢字が多用されていて少々読みにくいのが難点だ。
収録内容に重複もあるので、ホーソーンの短編を読まれたい方には新しく出されたほうの『ホーソーン短篇小説集』をお勧めしたい。

『七人の風来坊―ホーソーン短篇集』は、表題作の『七人の風来坊』を含めた全五編からなる短編集で、ピューリタン色の薄い作品ばかりが訳出されていて、ある意味ではあまりホーソーンらしくないチョイスなのかもしれないが、ストーリー性は高いものが多い。
タイトルが少々異なっているが、収録作品のうち『人面の大岩』と『デイヴィッド・スウォン』の二つは、『ホーソーン短篇小説集』に収められているので、そちらのほうが読みやすくていいだろう。
パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉 [DVD]パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉 [DVD]
(2011/12/02)
ジョニー・デップ、ペネロペ・クルス 他

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最近の映画作品との関連で言えば、『ハイデガア博士の実験』が最も興味深い作品だろうか。
この短編は若返りの力を持つ「青春の泉」に関する物語なのだが、それは右の『パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉』で追い求められる「生命の泉」と同一のものである。
同じ冒険家への言及もなされているので、映画を知っている人ならば心地よい驚きを覚えることだろう。
『ハイデガア博士の実験』が映画の原作となったわけではないだろうが、同じ題材を扱った19世紀の作品としてたいへん面白く読むことができる作品だ。

先ほども述べたとおり、ホーソーンの短編を読むなら『ホーソーン短篇小説集』のほうが読みやすいし、入手もはるかに容易だろう。
訳文が古くてももっとホーソーンを読みたいという方は、この『七人の風来坊』を手にしていただきたい。

『バートルビー/ベニト・セレノ』 メルヴィル(圭書房)

バートルビー/ベニト・セレノバートルビー/ベニト・セレノ
(2011/01/10)
ハーマン・メルヴィル

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書名:バートルビー/ベニト・セレノ
著者:ハーマン・メルヴィル
訳者:留守晴夫
出版社:圭書房
ページ数:287

おすすめ度:★★★☆☆




本書は『白鯨』とほぼ同時期に発表された『バートルビー』と『ベニト・セレノ』という中編作品二編を収録している。
どちらもタイトルロールであるバートルビーとベニト・セレノという、言動の奇妙な男を軸にした謎めいた物語なので、読者を惹き付ける力はきわめて強いように思う。
特に『ベニト・セレノ』は、舞台が船上、主な登場人物が船長ということで、メルヴィルのファンであれば必ずや面白く読めることだろう。

バートルビーは、ウォール街の法律事務所に勤める、不気味な落ち着きをたたえた代書人である。
雇い主が、新しく雇ったバートルビーのことを無口ながらも勤勉な働き者かと思っていた矢先、ある仕事を頼まれたバートルビーは・・・。
ディケンズを思わせるようなユーモア交じりの文体、戯画化された登場人物で縁取られた作品世界は、生死を懸けた男たちを描く海洋小説とはまったく異なった趣きで、『白鯨』や『ビリー・バッド』に親しんだ読者には少々新鮮な印象を与えるかもしれない。
とはいえ、作品に窺える問題意識からひしひしと感じ取られるメルヴィルらしさが、『バートルビー』の魅力であることに変わりはないのだが。
幽霊船 他1篇 (岩波文庫 赤 308-5)幽霊船 他1篇 (岩波文庫 赤 308-5)
(1979/12/17)
ハーマン・メルヴィル

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『ベニト・セレノ』は、かつて岩波文庫から『幽霊船』というタイトルで、こちらも『バートルビー』を併録して出されていたものだ。
私見によると、そのようなタイトルの改変は不必要だったろう。
『幽霊船』というタイトルの本を手にした読者は、これから読む作品に対してメルヴィルが意図していなかった余計な先入観を植え付けられてしまうはずだ。
最近この手のタイトルの「意訳」が減りつつあるのはうれしい傾向であるように思う。

あまり脚光を浴びることのないメルヴィルの中編を非常に美しい形で出版してくれた圭書房には感謝するばかりだが、『ビリー・バッド』同様、本書『バートルビー/ベニト・セレノ』も旧い漢字や仮名遣いを用いている。
私自身はほとんど苦労することもなく読める訳文であったが、お世辞にも読みやすい文章とは言いがたく、一般的な表記の方がより多くの人が楽しめるのではなかろうかと思うと、少々残念な気もする。
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