『白鯨』 メルヴィル(岩波文庫)

白鯨 上 (岩波文庫)白鯨 上 (岩波文庫)
(2004/08/19)
ハーマン・メルヴィル

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白鯨 中 (岩波文庫)白鯨 中 (岩波文庫)
(2004/10/15)
ハーマン・メルヴィル

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白鯨 下 (岩波文庫 赤 308-3)白鯨 下 (岩波文庫 赤 308-3)
(2004/12/16)
ハーマン・メルヴィル

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書名:白鯨
著者:ハーマン・メルヴィル
訳者:八木 敏雄
出版社:岩波書店
ページ数:493(上)、495(中)、474(下)

おすすめ度:★★★★★




メルヴィルの代表作としてはもちろん、アメリカ文学の代表作としてもその名を轟かせる『白鯨』。
原題は『Moby Dick』で、巨大な白鯨に付けられたあだ名のモービー・ディックがそのままタイトルとなっている。
本作を一言で表すなら「壮大なドラマ」とでも言えばいいだろうか、独特の深い味わいを備えている、お勧めの傑作だ。

『白鯨』は、語り手が個性豊かな船員たちの乗り組んでいる捕鯨船に仲間入りをして、その体験を綴っていくというスタイルで書かれている。
そしてその捕鯨船の船長が、果てしなく広がる大洋の中、一匹の白鯨を執念深く追い求めているのだ・・・。
一般に非常に象徴性が高い作品であると言われていて、聖書との対比やモチーフの分析が数多くの研究者たちによって行われてきているらしいが、裏の意味を探らずとも、復讐に燃える船長とモービー・ディックの闘いはそれだけでも十分読み応えがあるはずだ。

モームが「世界の十大小説」の一つに選んだ『白鯨』は、話の展開と直接関係のない説明的な部分が多いことでも知られている。
ドン・キホーテ 前篇』や『ピクウィック・クラブ』のように挿話を入れるのではなく、鯨の説明や捕鯨船の解説などに当てられている章が複数あるのだ。
脱線を余計と感じる読者からすると退屈で仕方ないだろうが、そのような脱線も含めての『白鯨』であるから、各人がその全体を鑑賞し、作品の良し悪しを判断するのが一番だろう。
この章はまるごとカットできたのではないかと思える脱線が多いのは『レ・ミゼラブル』にも見られる特徴だが、どれだけ脱線しても名作として名高い作品が存在するのは事実のようだ。

日本でも古くから翻訳・紹介されてきている作品だけに、古い訳書の中には読みにくいものもあるに違いない。
そんな中、同時代のアメリカ文学を多数翻訳している八木氏による岩波文庫の新訳は、訳文の読みやすさはもちろん、挿絵の豊富さもうれしく、非常にお勧めだ。
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『ビリー・バッド』 メルヴィル(圭書房)

ビリー・バッドビリー・バッド
(2009/08/07)
ハーマン・メルヴィル

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書名:ビリー・バッド
著者:ハーマン・メルヴィル
訳者:留守晴夫
出版社:圭書房
ページ数:216

おすすめ度:★★★★




白鯨』の作者として知られるハーマン・メルヴィルだが、彼の最後の作品がこの『ビリー・バッド』だ。
作品の舞台は軍艦の船上なので、海洋小説の一つとして読むことができる。
一般に高い評価を得ている作品でもあるし、船乗りを描いた作品でもあるので、『白鯨』の次に手に取るメルヴィルの作品としては最適だと思う。

主人公のビリー・バッドは、素直で陽気な船乗りである。
ひょんなことから軍艦上の人となったビリーだが、持ち前の純真無垢な性格から、一躍水兵たちの人気の的となる。
しかし、そんなビリーにも、敵意を感じる人間が現れて・・・。
ここも『白鯨』に似ているところだが、印象的な船長の言動は非常に読み応えがある。
ビリーと船長とのやり取りはこの物語の軸となる部分なので、ぜひ注意深く読み込んでいただきたいところだ。

白鯨』を読んだ読者ならばすでにご存知だろうが、メルヴィルの紆余曲折を経る書き方は、なかなか話を前に進めない。
『ビリー・バッド』も同様で、あらすじだけを追っていくのなら、同じ物語を短編小説にまとめることもできたことだろう。
しかし、メルヴィルは背景となる状況や人物像の描写にあらかじめ多くのページを割くので、後のストーリー展開が一段と深みを持つことになる。
蛇足を嫌う読者には不向きかもしれないが、私は個人的にメルヴィルの蛇行する作風を、作品に味わいを添えるものとして評価したい。
ビリー・バッド (岩波文庫 赤 308-4)ビリー・バッド (岩波文庫 赤 308-4)
(1976/01/16)
メルヴィル

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近年、圭書房をはじめとする複数の出版社からメルヴィルの作品の新訳がいくつか出されているので、それらを機にメルヴィルの名作がより多くの読者を獲得することを期待したい。
とはいえ、圭書房から出された留守晴夫氏によるこの新訳は、仮名遣いや漢字の古さゆえに少々読みにくいのも事実だ。
右に示すように『ビリー・バッド』は岩波文庫からも出されているので、そちらで読むのもいいかもしれない。

『バートルビー/ベニト・セレノ』 メルヴィル(圭書房)

バートルビー/ベニト・セレノバートルビー/ベニト・セレノ
(2011/01/10)
ハーマン・メルヴィル

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書名:バートルビー/ベニト・セレノ
著者:ハーマン・メルヴィル
訳者:留守晴夫
出版社:圭書房
ページ数:287

おすすめ度:★★★☆☆




本書は『白鯨』とほぼ同時期に発表された『バートルビー』と『ベニト・セレノ』という中編作品二編を収録している。
どちらもタイトルロールであるバートルビーとベニト・セレノという、言動の奇妙な男を軸にした謎めいた物語なので、読者を惹き付ける力はきわめて強いように思う。
特に『ベニト・セレノ』は、舞台が船上、主な登場人物が船長ということで、メルヴィルのファンであれば必ずや面白く読めることだろう。

バートルビーは、ウォール街の法律事務所に勤める、不気味な落ち着きをたたえた代書人である。
雇い主が、新しく雇ったバートルビーのことを無口ながらも勤勉な働き者かと思っていた矢先、ある仕事を頼まれたバートルビーは・・・。
ディケンズを思わせるようなユーモア交じりの文体、戯画化された登場人物で縁取られた作品世界は、生死を懸けた男たちを描く海洋小説とはまったく異なった趣きで、『白鯨』や『ビリー・バッド』に親しんだ読者には少々新鮮な印象を与えるかもしれない。
とはいえ、作品に窺える問題意識からひしひしと感じ取られるメルヴィルらしさが、『バートルビー』の魅力であることに変わりはないのだが。
幽霊船 他1篇 (岩波文庫 赤 308-5)幽霊船 他1篇 (岩波文庫 赤 308-5)
(1979/12/17)
ハーマン・メルヴィル

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『ベニト・セレノ』は、かつて岩波文庫から『幽霊船』というタイトルで、こちらも『バートルビー』を併録して出されていたものだ。
私見によると、そのようなタイトルの改変は不必要だったろう。
『幽霊船』というタイトルの本を手にした読者は、これから読む作品に対してメルヴィルが意図していなかった余計な先入観を植え付けられてしまうはずだ。
最近この手のタイトルの「意訳」が減りつつあるのはうれしい傾向であるように思う。

あまり脚光を浴びることのないメルヴィルの中編を非常に美しい形で出版してくれた圭書房には感謝するばかりだが、『ビリー・バッド』同様、本書『バートルビー/ベニト・セレノ』も旧い漢字や仮名遣いを用いている。
私自身はほとんど苦労することもなく読める訳文であったが、お世辞にも読みやすい文章とは言いがたく、一般的な表記の方がより多くの人が楽しめるのではなかろうかと思うと、少々残念な気もする。

『詐欺師』 メルヴィル(八潮版・アメリカの文学)

詐欺師 (八潮版・アメリカの文学)詐欺師 (八潮版・アメリカの文学)
(1997/07)
ハーマン メルヴィル

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書名:詐欺師
著者:ハーマン・メルヴィル
訳者:原 光
出版社:八潮出版社
ページ数:366

おすすめ度:★★★☆☆




難解であると言われることの多いメルヴィルだが、この『詐欺師』の存在もその一因かもしれない。
長編作品にもかかわらず、『詐欺師』には明確なプロットが与えられているわけではなく、次から次へと詐欺を働く情景が数珠つなぎに描かれていて、それらがすべて「詐欺師」という紐でくくられているかのような、そんな印象を受ける作品だ。
詐欺を働き警察に追いかけられる、といったスリリングな展開を期待すれば裏切られることは確実であるが、メルヴィルの独創性は強く表れている作品であると言っていいだろう。

時はエイプリルフール、舞台はミシシッピを航行するの船の上である。
とはいっても、単に舞台が船の上というだけのことで、『白鯨』や『ビリー・バッド』とはまるで異なった雰囲気の中で話が、というより数々の詐欺が進められていく。
詐欺行為が失速し、様々な議論が中心となる後半部分はやや退屈な感を受けないでもないが、そのような議論こそ、メルヴィルが最も書きたかったことなのかもしれない。

『詐欺師』の原題は『The Confidence-Man』で、"confidence"といえば第一義的には「信頼・信用」を意味する語である。
それが"Confidence-Man"という熟語となると「詐欺師」を意味するというのだから、英語では詐欺に対して「信頼を悪用する行い」という意味合いが日本語よりもかなり強烈に打ち出されているようだ。
メルヴィル全集に収められている坂下氏の訳では、本書のタイトルは『信用詐欺師』となっていたように記憶しているが、これも本書をただの詐欺行為の集まりとしてではなく、人間間における「信頼・信用」そのもののあり方を意識した作品であると考えてのことと思われる。
事実、『詐欺師』の中で頻出する単語があるとすれば、それは皮肉にも「信頼」なのだ。

仮名遣い、ルビの振り方や語順などの面で、訳文が少々読みにくいかもしれない。
いくらか実験的な要素すら感じられる作品である『詐欺師』、一般受けは望むべくもないが、一風変わった作風に飢えている方なら必ずや満足いただけることと思う。
とはいえ、私がここで嘘を言っていないとすればの話であるが・・・。

『イスラエル・ポッター―流浪五十年』 メルヴィル(八潮版・アメリカの文学)

イスラエル・ポッター―流浪五十年 (八潮版・アメリカの文学)イスラエル・ポッター―流浪五十年 (八潮版・アメリカの文学)

書名:イスラエル・ポッター―流浪五十年
著者:ハーマン・メルヴィル
訳者:原 光
出版社:八潮出版社
ページ数:252

おすすめ度:★★★★




メルヴィル後期の長編作品の一つがこの『イスラエル・ポッター―流浪五十年』だ。
必ずしもメルヴィルが全精力を傾けて書いた作品というわけではないようだが、波乱に富んだ生涯を送ったイスラエル・ポッターの歩んだ道筋は、読めば読むほどに読者の関心を強めるに違いない。
歴史はおろか、同時代人にさえほとんど顧みられることのなかった一人の無名の男にスポットライトを当てるというメルヴィルの手法も、多くの読者の共感を呼ぶのではなかろうか。

アメリカの野育ちであるイスラエル・ポッターは、アメリカの独立戦争という時代の大波に飲み込まれてしまっていた。
武骨でこそあれ、勇気もあり正直者であるイスラエル・ポッターの紆余曲折に触れているうちに、読者は自ずと数奇な運命に翻弄され続けるイスラエル・ポッターの応援をしてしまうことだろう。
イスラエル以外にも、ベンジャミン・フランクリンやポール・ジョーンズといった存在感ある英雄的人物が登場し、しばしばイスラエルをしのぐ活躍を見せているので、メルヴィルの描く彼らも本書の読みどころの一つとなっている。

主人公イスラエル・ポッターが流浪している最中にも、船に乗っているシーンは数多く登場する。
というより、『イスラエル・ポッター』の最も緊迫感のあるシーンは船上、もしくは海上であるといってもいいかもしれない。
読者は『白鯨』や『ビリー・バッド』を思い出させるような、いかにもメルヴィルらしい記述をふんだんに見出すことができるだろう。

明確なモデルの存在する『イスラエル・ポッター』の場合、どこまでが事実でどこからが創作なのかは一読しただけでは判断が難しいが、少なくともメルヴィルによる独特の筆致は誰もが感じ取ることがえきるはずだ。
仮名遣いの古めかしさに抵抗のある読者もおられるかもしれないが、メルヴィルに関心のある方はぜひ手にしてみていただきたい。

『ピエール』 メルヴィル(国書刊行会)

ピエールピエール

書名:ピエール
著者:ハーマン・メルヴィル
訳者:坂下 昇
出版社:国書刊行会
ページ数:400

おすすめ度:★★★★




メルヴィルの代表作である『白鯨』と同時期に執筆・出版されたのが本書『ピエール』である。
メルヴィルらしい形而上的、神秘的な難解さが全面に打ち出されており、残念なことながら『ピエール』を楽しめる読者層は決して幅広いとは言えないが、それだけ読後のインパクトには強烈なものがある。
物語性の強い作品を求める方にはお勧めできないが、メルヴィルを語る上では欠かせない重要な作品であると言えるはずだ。

田舎の裕福な名家の跡継ぎとして生を享けたピエールは、姉弟のように仲睦まじい母と暮らしていて、天上的な美貌の婚約者にも恵まれるという、世にも羨まれるような境遇にあった。
しかし、ある日のこと、亡き父の遺した異母姉であることを自称する女からの手紙を受け取ったことで、彼の人生行路は大きく舵を切ることとなり・・・。
作中にはメルヴィルが得意とする暗示的・象徴的な技法が多用されているので、『ピエール』をより深く味わうためには、読者の側にもそれなりの集中力と洞察力が期待されるように思われる。
ポーラX [DVD]ポーラX [DVD]

『ピエール』は右の『ポーラX』の原作としても一時期注目を集めていた作品だ。
メルヴィルの代表的な作品の一つであるにもかかわらず、映像化しても結局失敗に終わるに違いないと大方で予想されていたのが『ピエール』だが、名監督を得た『ポーラX』は、独特の世界観による『ピエール』の映像化に見事に成功している。
『ピエール』の読者はぜひこちらもご覧いただければと思う。

400ページにすぎない『ピエール』だが、活字が上下二段で組まれているため決して文章量が少ないわけではないし、さらに質的な重厚さにおいてはメルヴィル屈指のものがある。
やや大仰な文章も散見するが、それらを無理なく包含できるスケールを備えているのが『ピエール』だ。
著者の精神と真摯に向き合える本をお探しの方は、『ピエール』と対峙してみてはいかがだろうか。

『タイピー』 メルヴィル(メルヴィル全集)

メルヴィル全集 第1巻 タイピーメルヴィル全集 第1巻 タイピー

書名:タイピー
著者:ハーマン・メルヴィル
訳者:坂下昇
出版社:国書刊行会
ページ数:279

おすすめ度:★★★★




白鯨』で知られるメルヴィルの処女作が本書『タイピー』である。
メルヴィル本人と思われる主人公が「蛮族」の支配する南海の孤島での体験を語ったというスタイルの作品で、「蛮族」の生活風習の描写に割かれる説明的部分もあるにはあるが、全般に物語性の豊かさが特徴となっている。
また、『白鯨』ほどの迫力や雄渾さには欠けるものの、物語としての読みやすさで言えば『タイピー』が一枚上手であるのではなかろうか。

捕鯨船に乗り込んだ主人公の青年だったが、劣悪な労働環境に耐え兼ねたため、マルケサス諸島の一島にて仲間のトビーを誘って船からの脱走を試みることにした。
空腹や疲労に打ち据えられつつも島の奥深く入っていく二人だったが、島の奥地には人肉さえ食するという獰猛な部族、タイピーが住んでいるのだった・・・。
西洋文明における常識人である主人公の視点は、いかにも当時のアメリカ人らしいものであり、そこには今日の日本人でも何の違和感もなく共感できる部分が多く、読者は『タイピー』にクラシカルな面と現代的な面とをそれぞれ感じることができるように思う。
タイピー 南海の愛すべき食人族たち (シリーズ世界の文豪)タイピー 南海の愛すべき食人族たち (シリーズ世界の文豪)

『タイピー』は、難解な作家と評されることの多いメルヴィルにしては非常に読みやすい作品なので、それだけ多くの読者を獲得できるように思われるにもかかわらず、その邦訳となるときわめて流通量が少ないのが現状である。
メルヴィル全集の『タイピー』はAmazonでも品切れとなっているが、右に挙げるように柏艪舎からも出されているので、私自身はそれを手にしたことはないのだが、そちらで読むというのが現在唯一の手段なのかもしれない。
いずれにしても、どこか『ロビンソン・クルーソー』のような雰囲気すら漂う『タイピー』は、メルヴィルに関心のある方に強くお勧めしたい一冊だ。

『メルヴィル中短篇集』 メルヴィル(八潮版・アメリカの文学)

メルヴィル中短篇集 (八潮版・アメリカの文学)メルヴィル中短篇集 (八潮版・アメリカの文学)

書名:メルヴィル中短篇集
著者:ハーマン・メルヴィル
訳者: 原 光
出版社:八潮出版社
ページ数:493

おすすめ度:★★★★




書記バートルビー/漂流船 (光文社古典新訳文庫)書記バートルビー/漂流船 (光文社古典新訳文庫)ビリー・バッド (光文社古典新訳文庫)ビリー・バッド (光文社古典新訳文庫)
メルヴィルの中篇・短篇小説合わせて16篇を集めたのが本書『メルヴィル中短篇集』である。
バートルビー』、『ベニト・セレノ』、『ビリー・バッド』のように文庫本にもなっている有名どころは当然ながら、メルヴィルの中短篇作品のほとんどを本書が網羅しているので、メルヴィルに興味のある方には必読の一冊と言えるのではなかろうか。
八潮出版社から出されている原氏の他の訳書と同様、この『メルヴィル中短篇集』もなぜか仮名遣いが少々古いものとなっているが、慣れればどうということはないし、若い方でも読んでいられないというほどではないと思う。

本書には、上記の作品の他に、ガラパゴス諸島を舞台としたエッセイ風の『魔法群島』、落ちぶれた資産家の末路を哀愁深く描いた『ジミー・ローズ』、塔や煙突などへの偏執といってもよいほどの執着心を取り扱う『鐘塔』や『わたしとわが煙突』などが収録されている。
個人的なお勧めは、屋根裏部屋で見つけたテーブルから夜な夜な奇怪な音が聞こえてくるという『林檎の木の卓』で、オカルト風のテーマに理性的に挑むという切り口が、どことなくポーを思い出させるような作品だ。

また、『二つの聖堂』、『貧者のプディングと富者の食べ残し』、『独身者の楽園と処女の地獄』の3篇は、イギリスとアメリカを舞台とする対照的な二部構成という、一種のシリーズものとでもいえようか。
いずれも一般的なメルヴィルのイメージを覆すかもしれない軽いタッチの作品で、センチメンタルな作風に仕上がっているのが妙に新鮮に感じられるのは私だけではないだろう。

メルヴィルの作品といえば、回りくどい描写によって物語が遅々として進まないところが短所であり、それが同時に独特の読み応えを生み出す長所でもあるのだが、短篇作品となるとさすがにそうもしていられないからか、物語の展開はそこそこ早いものがほとんどだ。
短篇小説が注目されることの少ないメルヴィルではあるが、メルヴィルの新たな一面の垣間見を楽しみたい方にはお勧めの一冊だと言える。
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