『完訳 緋文字』 ホーソーン(岩波文庫)

完訳 緋文字 (岩波文庫)完訳 緋文字 (岩波文庫)
(1992/12/16)
N. ホーソーン

商品詳細を見る

書名:完訳 緋文字
著者:ナサニエル・ホーソーン
訳者:八木 敏雄
出版社:岩波書店
ページ数:472

おすすめ度:★★★★★




本書はホーソーンの代表作である『緋文字』の完訳版だ。
わざわざ「完訳」と表記されているのは、この『緋文字』は冒頭の「税関」の章にて以下に語られるストーリーの関係書類が見つかるという体裁で始まる小説なのだが、その「税関」の章が省略されて翻訳されないことがあるためだ。
その章がなくても本筋は確かに成立するが、なるべく作者が書いたとおりのものに触れたいという読者は、「完訳」と書かれているものを選んだほうが無難だろう。

『緋文字』は若いアメリカ社会を舞台にした作品だ。
宗教色の強いピューリタン社会で、姦通をした人間の胸に記される緋色の「A」。
その緋文字を胸に愛娘と暮らしている女、ピューリタンとして模範的な生活を送っている牧師、この二人を中心に話は進んでいく。
宗教的生活と人間的生活、戒律と愛、真実と虚偽・・・対立項の間で模索する人々の心情を巧みに描いており、アメリカ文学初期の傑作として、『白鯨』と並びお勧めの長編作品だ。
スカーレット・レター [DVD]スカーレット・レター [DVD]
(2003/07/24)
デミ・ムーア、ゲイリー・オールドマン 他

商品詳細を見る

私は見ていないのだが、『緋文字』はデミ・ムーア主演の『スカーレット・レター』という映画になっている。
タイトルこそ原題に忠実だが、映画自体はあまり原作に従っていないらしいので、原作を知っている人が見るとおそらく賛否両論だろう。

宗教界と人間界の相克を描いた小説は、往々にして退屈きわまりない作品に堕しやすいものだが、この『緋文字』はテーマこそ深遠なものの、ストーリー性が強いおかげでたいへん読みやすく、読み始めるにあたり身構える必要はない。
17世紀のアメリカ社会という、あまり文学で触れられることの多くない時代を反映した名作でもあるので、他の文学作品と比べて独特な宗教的雰囲気も、必ずや楽しめることと思う。
スポンサーサイト

『ホーソーン短篇小説集』 ホーソーン(岩波文庫)

ホーソーン短篇小説集 (岩波文庫)ホーソーン短篇小説集 (岩波文庫)
(1993/07/16)
ホーソーン

商品詳細を見る

書名:ホーソーン短篇小説集
著者:ナサニエル・ホーソーン
訳者:坂下 昇
出版社:岩波書店
ページ数:363

おすすめ度:★★★★




『緋文字』の作者として有名なホーソーンだが、彼は同時に多くの優れた短編小説を残した作家でもあった。
そんな彼の、『緋文字』以前の短編作品12点を収めたのがこの『ホーソーン短篇小説集』である。
ゴシック風のものあり、メルヘン風のものありと、幅広い作風の作品が集められていると感じる一方で、ピューリタン、悪魔や魔女、罪などといった、非常にホーソーンらしいテーマが散見する短編集でもある。

育った環境も大きな要因の一つであろうが、ホーソーンの作品はその多くが宗教的なイメージに彩られている。
牧師や魔女、罪の意識といったテーマは定番中の定番であり、読者はこの『ホーソーン短篇小説集』においてもそれらに頻繁に出くわすことだろう。
後に『緋文字』を書いた作者の手になる短編だと思えば、いかにも納得の内容と感じられるに違いない。

最大のお勧めは、『ウェークフィールド』というボルヘスが激賞してやまなかった作品で、作風でいうとポーやカフカに近い。
他の収録作品と比べると、舞台がロンドンであるというだけですでにホーソーンの作品としてはやや異色の感があるのだが、事実、全体を通して他の作品との類似性がきわめて弱い。
18、19世紀のアメリカ社会を反映していない分、それだけより普遍的な人間心理に迫った名作と言えるであろうか。

表紙には、ホーソーンの短編小説のうち、「物語性に優れた12篇を厳選」したとある。
すべてがすべて傑作であるとは言いがたいものの、筋の巧みさの感じられる作品もあれば、建国間もない頃のアメリカの閉鎖的で不寛容な社会を反映しているものもあったりと、ホーソーンという作家とその時代を知る上では格好の短編集となっている。
手軽に読める文庫版でもあることだし、『緋文字』を読んだ方であれば、一度手にしてみても悪くない本だろうと思う。

『七人の風来坊―ホーソーン短篇集』 ホーソーン(岩波文庫)

七人の風来坊―ホーソーン短篇集 (岩波文庫)七人の風来坊―ホーソーン短篇集 (岩波文庫)
(1952/10/15)
ホーソーン

商品詳細を見る

書名:七人の風来坊―ホーソーン短篇集
著者:ナサニエル・ホーソーン
訳者:福原 麟太郎
出版社:岩波書店
ページ数:114

おすすめ度:★★☆☆☆




岩波文庫から出版されたホーソーンの短編集である『七人の風来坊』。
タイトルに「風来坊」という語を選択することからもわかるように、そもそもの出版年が古く、その後改版も行われていないようなので、理解に苦しむというほどではないものの、訳文には旧漢字が多用されていて少々読みにくいのが難点だ。
収録内容に重複もあるので、ホーソーンの短編を読まれたい方には新しく出されたほうの『ホーソーン短篇小説集』をお勧めしたい。

『七人の風来坊―ホーソーン短篇集』は、表題作の『七人の風来坊』を含めた全五編からなる短編集で、ピューリタン色の薄い作品ばかりが訳出されていて、ある意味ではあまりホーソーンらしくないチョイスなのかもしれないが、ストーリー性は高いものが多い。
タイトルが少々異なっているが、収録作品のうち『人面の大岩』と『デイヴィッド・スウォン』の二つは、『ホーソーン短篇小説集』に収められているので、そちらのほうが読みやすくていいだろう。
パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉 [DVD]パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉 [DVD]
(2011/12/02)
ジョニー・デップ、ペネロペ・クルス 他

商品詳細を見る

最近の映画作品との関連で言えば、『ハイデガア博士の実験』が最も興味深い作品だろうか。
この短編は若返りの力を持つ「青春の泉」に関する物語なのだが、それは右の『パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉』で追い求められる「生命の泉」と同一のものである。
同じ冒険家への言及もなされているので、映画を知っている人ならば心地よい驚きを覚えることだろう。
『ハイデガア博士の実験』が映画の原作となったわけではないだろうが、同じ題材を扱った19世紀の作品としてたいへん面白く読むことができる作品だ。

先ほども述べたとおり、ホーソーンの短編を読むなら『ホーソーン短篇小説集』のほうが読みやすいし、入手もはるかに容易だろう。
訳文が古くてももっとホーソーンを読みたいという方は、この『七人の風来坊』を手にしていただきたい。

『ラパチーニの娘』 ホーソーン(松柏社)

ラパチーニの娘―ナサニエル・ホーソーン短編集ラパチーニの娘―ナサニエル・ホーソーン短編集

書名:ラパチーニの娘
著者:ナサニエル・ホーソーン
訳者:阿野文朗
出版社:松柏社
ページ数:222

おすすめ度:★★★★




表題作を含むホーソーンの短編作品六編を収録しているのが本書『ラパチーニの娘―ナサニエル・ホーソーン短編集』である。
本書の帯の紹介文によるとホーソーンの「珠玉の短編」を訳出したとのことだが、収録作品の質を思えば、それもあながち誇張ではないように思われる。

本書は『ウェイクフィールド』、『痣』、『ブルフロッグ夫人』、『僕の親戚モリノー少佐』、『若いグッドマン・ブラウン』、『ラパチーニの娘』を収録している。
ボルヘスの称賛によって格段に知名度を上げた『ウェイクフィールド』は、いまやホーソーンの短編作品の中では押しも押されぬ代表作となっているので必読の作品であろう。
コミカルな小品『ブルフロッグ夫人』からはホーソーンの意外な一面が読み取れるし、『痣』と『ラパチーニの娘』からはホーソーンがストーリー性に富んだSF風の作品を書いていたことを知ることができる。
また、『ラパチーニの娘』の前枠とでも呼ぼうか、本編への導入部の面白さも注目に値するだろう。

世間の常識から逸脱してしまっている変人、いわば「はみ出し者」を扱わせた場合、ホーソーンの巧みさには舌を巻かざるを得ない。
そのような人物の描写はつい陰険な筆致になってしまってもおかしくないところなのだが、ホーソーンによる品のある文章は明朗な雰囲気を失わないため、読者の気持ちが離れていくことがないし、読後の印象もどこか心地よいものがある。
これは本書の収録作品においても発揮されている特徴だと思うので、存分に味わっていただければと思う。

ホーソーンの短編作品はこれまで岩波文庫の『ホーソーン短篇小説集』で読むのが一般的だったが、訳文の読みやすさでいえば新訳であるこの『ラパチーニの娘』の方が上であるように感じられる。
岩波文庫の『ホーソーン短篇小説集』と比べると収録作品数こそ多くはないが、ホーソーンの短編作品を読んでみたい方にはお勧めできる一冊だ。

『美の芸術家』 ホーソーン(開文社出版)

美の芸術家ホーソーン美の芸術家ホーソーン

書名:美の芸術家
著者:ナサニエル・ホーソーン
訳者:矢作三蔵
出版社:開文社出版
ページ数:112

おすすめ度:★★★★




本書は、数あるホーソーンの短編作品の中から『美の芸術家』だけに焦点を絞って単行本化したという、珍しいスタイルの本である。
『美の芸術家』自体はホーソーンの作品中で比較的有名な作品で、タイトルから想像されるように一般的なジャンルとしては芸術家小説に分類できるであろう。
筋書きは簡潔明瞭であり、たいへん秀逸な一文で終わる作品なので、ホーソーンに興味のある方以外にも一読をお勧めしたいと思う。

実用性に背を向け、非実用的な美ばかりを追い求めている時計屋、オーウェン・ウォーランド。
誰からも理解されないまま、美しい蝶を追いかけている彼は、納得のいく美を創造することができるのか・・・。
これは芸術家小説の常であるが、この『美の芸術家』も、いかなる芸術分野であれ、芸術的創造を志している読者の心に最も強く響くのではないかと思われる。

本書には、解説とは別に『作家とその妻――「一言も訊かないともう決めています」』という訳者による小論も併録されている。
『美の芸術家』の内容に直接的な関係はないにせよ、芸術家としてのホーソーンの姿に迫る論旨はやはり『美の芸術家』と無関係ではいられないので、『美の芸術家』の読後には非常に興味を持って読めることだろう。

ホーソーンの短編が一つしか訳出されていないし、ページ数もそれほど多くない本書が、割高な本であることは疑う余地がない。
しかし、ホーソーンの研究に力を入れている訳者だからこそ出せる特殊な構成の本であることもまた事実である。
小論と併せ読むことで読者のホーソーンに対する関心が高まることは確実であるし、一歩押し進めた読書をしたい方にはお勧めできる一冊だ。

『わが旧牧師館への小径』 ホーソーン(平凡社ライブラリー)

わが旧牧師館への小径 (平凡社ライブラリー)わが旧牧師館への小径 (平凡社ライブラリー)

書名:わが旧牧師館への小径
著者:ナサニエル・ホーソーン
訳者:齊藤 昇
出版社:平凡社
ページ数:144

おすすめ度:★★★☆☆




ホーソーンが3年の間暮らしていたコンコードの旧牧師館にまつわるエッセイが本書の『わが旧牧師館への小径』である。
ホーソーンが生前に出版した『旧牧師館の苔』という短編集の序文として書かれたものではあるが、短篇集への直接的な言及は少なく、どのような環境下で暮らしているときに短編集が執筆されたかを知ることができる作品となっている。

本邦初訳となる『わが旧牧師館への小径』はエッセイ自体として優れているというのが大方の見解のようで、私もそのことに異論がない。
静かな自然に囲まれて穏やかな日々を送りながら過去に思いを馳せる、そんなホーソーンに羨望を抱いてしまう読者も少なくないことだろう。
エマソンやソローといった同時代の文筆家たちとの回想が織り交ぜられているのも非常に興味深い。

本書の関連作品としてお勧めしたいのは、ホーソーンの短編作品である『美の芸術家』だ。
この本にはホーソーンの旧牧師館での日々を主に妻との関係性という視点から論じている訳者の小論があり、旧牧師館に関心を抱いている読者は大いに楽しむことができる内容になっている。
美の芸術家』は『旧牧師館の苔』に収められた短編作品の一つなので、旧牧師館での生活の結実として味わうこともできるように思う。

短編集の序文として書かれた『わが旧牧師館への小径』は、そう長い作品ではない。
本文自体は50ページそこそこであり、本書においては丁寧な訳注とこれもきわめて丁寧な訳者解説がそれに続くという構成になっている。
それでいてさほど読者に物足りなさを感じさせないのは、本書には旧牧師館とその周辺の写真が複数掲載されていて、文学的史跡となっている旧牧師館の確固たるイメージを提供してくれることによるのかもしれない。
コンコードを実際に訪れる機会のある方には強くお勧めしたい一冊だ。

『ナサニエル・ホーソーン珠玉短編集』 ホーソーン(東京図書出版)

生誕二百十周年・没後百五十周年記念 新訳ナサニエル・ホーソーン珠玉短編集生誕二百十周年・没後百五十周年記念 新訳ナサニエル・ホーソーン珠玉短編集

書名:ナサニエル・ホーソーン珠玉短編集
著者:ナサニエル・ホーソーン
訳者:清水 武雄
出版社:東京図書出版
ページ数:377

おすすめ度:★★★★




ホーソーンの短編十三編を収録しているのが本書『ナサニエル・ホーソーン珠玉短編集』である。
収録作品に他の短編集との重複が多いので、すでにホーソーンの短編集を何冊か読まれている方は本書を手にしていただかなくてもいいのかもしれないが、これからホーソーンの短編を読もうという方に短編集を一つだけ選ぶとしたら、主要な短編作品を網羅できる本書が最適なのではなかろうか。

本書には『ロジャー・マルヴィンの埋葬』、『ぼくの親類 モリヌー少佐』、『ウェイクフィールド』、『鉄心石腸の男――教訓譚』、『デイヴィッド・スワン――夢幻の物語』、『ファンシーさんの覗きカラクリ――寓話』、『ハイデガー博士の実験』、『雪舞い』、『≪往く年の姉≫と≪来る年の妹≫』、『母斑』、『美の芸術家』、『ラパチーニの娘――オベピーヌ氏の著作から』、『雪少女――あどけなき子どもの奇跡』が収録されている。
アメリカの歴史の一幕を描いた『ぼくの親類 モリヌー少佐』、独断的な狂信者を扱う『鉄心石腸の男』、メルヘンチックな『雪少女』などを通じて、ホーソーンの幅広い創作活動に触れることができるだろう。

正直に言えば、本書の収録作品の全部が全部「珠玉」であるとは言い難い部分もある。
『ファンシーさんの覗きカラクリ』や『≪往く年の姉≫と≪来る年の妹≫』のように、少々説教臭かったり、中世的な寓意像が登場するという旧弊なスタイルの作品も交じっているのだ。
しかし、このような作品を通じて多角的にホーソーンに迫ることができるので、読者が平板でないホーソーン像を作り上げるのは間違いないように思う。

『ナサニエル・ホーソーン珠玉短編集』は、原文に即した格調ある訳文を目指しているらしいので、新訳といえども必ずしも平易な訳文というわけではないが、難解というほどのものでもない。
ホーソーンの没後150周年はともかく、生誕210周年という中途半端な年をわざわざ記念する必要はいささかも感じないが、出版物としての本書には中途半端なところがまったくないように感じられる。
ホーソーンの短編を読みたい方にはお勧めの一冊だ。
カテゴリ
PR
最新記事
RSSリンク