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『ねじの回転  デイジー・ミラー』 ヘンリー・ジェイムズ(岩波文庫)

ねじの回転デイジー・ミラー (岩波文庫)ねじの回転デイジー・ミラー (岩波文庫)
(2003/06/14)
ヘンリー・ジェイムズ

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書名:ねじの回転 デイジー・ミラー
著者:ヘンリー・ジェイムズ
訳者:行方 昭夫
出版社:岩波書店
ページ数:366

おすすめ度:★★★★★




ヘンリー・ジェイムズの代表作でもある中編二編を収めたのが、本書『ねじの回転 デイジー・ミラー』である。
アメリカ人をヨーロッパ人との対比の中で描いた名作を数多く残しているジェイムズだが、『デイジー・ミラー』はそれらの中で最も優れたものの一つと言われている。
また、作風はまったく異なるが、多様な解釈の可能性を秘めた『ねじの回転』も傑作として名高く、一読の価値ある作品としてお勧めだ。

『デイジー・ミラー』の主人公であるデイジーは、少々お転婆気味の快活なアメリカ娘であるが、そんな彼女が家族と共にヨーロッパを訪れる。
デイジーのアメリカ気質を好ましく感じる男性との出会い、それは幸福の始まりだったはずなのだが・・・。
ヨーロッパを詳しく知るアメリカ人であるジェイムズ、彼ならではの二大陸間の相違に対する細やかな観察力には舌を巻いてしまう。
そして何より、ヘンリー・ジェイムズの最大の特長でもあるが、人物の心理描写が素晴らしい。
『デイジー・ミラー』を楽しまれた読者は、ぜひ長編作品である『ある婦人の肖像』へと読み進めていただきたい。

『ねじの回転』については多くを語るまい。
ポーを髣髴とさせるような不気味な雰囲気の作品であると述べるにとどめ、読者が感じられる不気味さを軽減しないように努めることが最善であろう。
ねじの回転 (新潮文庫)ねじの回転 (新潮文庫)
(1962/07)
ヘンリー・ジェイムズ

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デイジー・ミラー (新潮文庫)デイジー・ミラー (新潮文庫)
(1957/11)
ヘンリー・ジェイムズ

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『ねじの回転』と『デイジー・ミラー』は、新潮文庫からそれぞれ出版されているほど、いずれもヘンリー・ジェイムズの代表作としてよく知られた小説だ。
この二作品を一冊にまとめた岩波文庫は、まさにお買い得としか言いようがない。
後期の作品のような難解さはないので読者を選ばないだろうし、ヘンリー・ジェイムズを知る上での格好の一冊として、強くお勧めしたいと思う。
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『ワシントン・スクエア』 ヘンリー・ジェイムズ(岩波文庫)

ワシントン・スクエア (岩波文庫)ワシントン・スクエア (岩波文庫)
(2011/08/19)
ヘンリー・ジェイムズ

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書名:ワシントン・スクエア
著者:ヘンリー・ジェイムズ
訳者:河島 弘美
出版社:岩波書店
ページ数:368

おすすめ度:★★★★




ヘンリー・ジェイムズ初期の名作の一つである『ワシントン・スクエア』。
部屋、服装、風景など、物質的なものに関する描写は最低限で、もっぱら人物の言動や思考に焦点が当てられたその作風は、いかにも心理主義の先駆と呼ばれるジェイムズらしいと言わざるをえない。
後期の作品と比べるとやはりたいへん読みやすいので、『ねじの回転 デイジー・ミラー』と合わせて万人にお勧めできる一冊だ。

『ワシントン・スクエア』は、ニューヨークの一角にある、同名の広場に面して建てられた屋敷が主な舞台となる。
そこには裕福で知性的な医者と、派手なところのないいくらか平凡な娘であるキャサリン、医者の妹でありキャサリンの叔母に当たる少々滑稽な夫人が暮らしていたが、突如その娘に言い寄るハンサムな若者が現れる。
キャサリンが巨額の財産の相続人であることから、彼らの関係は徐々にもつれ始め・・・。

ほとんどニューヨークを出ることのないこの物語は、ヨーロッパ的な視点が重要な役割を担う『デイジー・ミラー』や『ある婦人の肖像』とは大いに異なり、限定的な価値観の中、限られた空間で限られた人物が感じ、考え、行動しているという印象を受ける。
それにもかかわらず、それぞれの登場人物の思考や心情を浮き彫りにするジェイムズの巧みさは、読む者を楽しませるに十分すぎることだろう。

この『ワシントン・スクエア』は、ストーリーそのものに創意工夫が見られるとは言いがたいものの、また、上流社会特有の落ち着きの中で話が進むために人々の動きにダイナミックさも見られないものの、各人の性格を如実に示す会話が登場人物たちを見事に脈打たせているのは疑いようがないように思う。
いくらか凡庸な人間ドラマなので本書の要約を知ってもあまり興味を引かれない作品かもしれないが、ジェイムズの手腕がそのドラマを著しく引き立てており、次の章を読みたくさせる力は抜群である。
2011年の岩波文庫の新刊の中で、最も読んでみていただきたい本の一つだ。

『ある婦人の肖像』 ヘンリー・ジェイムズ(岩波文庫)

ある婦人の肖像 (上) (岩波文庫)ある婦人の肖像 (上) (岩波文庫)
(1996/12/16)
ヘンリー・ジェイムズ

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ある婦人の肖像 (中) (岩波文庫)ある婦人の肖像 (中) (岩波文庫)
(1996/12/16)
ヘンリー・ジェイムズ

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ある婦人の肖像 (下) (岩波文庫)ある婦人の肖像 (下) (岩波文庫)
(1996/12/16)
ヘンリー・ジェイムズ

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書名:ある婦人の肖像
著者:ヘンリー・ジェイムズ
訳者:行方 昭夫
出版社:岩波書店
ページ数:387(上)、373(中)、387(下)

おすすめ度:★★★★★




ヘンリー・ジェイムズ初期の代表作として知られるのが本作『ある婦人の肖像』だ。
アメリカ的な価値観とヨーロッパ的な価値観が交錯しあう「国際状況もの」の一つであり、「ある婦人」が恋愛や結婚に思い悩む様を見事に描ききった傑作である。
ジェイムズならではの心理描写の卓抜さはもちろん健在で、感動的な結末も読者の心に忘れがたい印象を刻み込むことだろう。
全三冊ということで、気軽に読み始めにくい作品かもしれないが、文章量に匹敵するだけの読み応えはあるはずなので、ぜひ読んでみていただきたい。

『ある婦人の肖像』は、いわば聡明で美しいアメリカの娘イザベルの肖像を描いた長編作品である。
彼女がイギリスの親戚の屋敷を訪れるところから物語りは始まる。
若く、美しく、知的な魅力をも備えたイザベルは、そこで様々な出会いをすることになり・・・。
当時のヨーロッパ人からすれば、伝統的価値観に従わないイザベルの態度は承服しがたいように思われたのかもしれないが、今日の読者からすると彼女の結婚観や人生観に違和感を覚えることも少ない、もしくはまったくないのではなかろうか。
そういう意味では、『ある婦人の肖像』はより女性読者の共感を得やすい作品なのかもしれない。
ある貴婦人の肖像 [DVD]ある貴婦人の肖像 [DVD]
(2011/09/09)
ニコール・キッドマン、ジョン・マルコビッチ 他

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本書は『ある貴婦人の肖像』というタイトルで映画化もされている。
二コール・キッドマンとジョン・マルコヴィッチの共演というなかなかのキャスティングで、ジェイムズの創造した心理的奥行きの深い人物を彼らがどう演じるのかという一点に対する関心だけでも、この映画を楽しむには十分ではなかろうか。
全般に映像もたいへん綺麗なので、『ある婦人の肖像』の読者にはこちらもお勧めしたい。

結婚と、それに伴って財産とが問題になるという点においては、ストーリーが『ワシントン・スクエア』と似ていなくもないが、『ある婦人の肖像』はヨーロッパを舞台にしているし、ましてヒロインの性格が根本的に異なる。
自らの道を自らの手で切り開こうとする強気のイザベルには、能動性や行動力がある。
しかし、それゆえにこそ、常に開拓者としての気丈さを保ち続けなければならないという厳しさもある。
自立を志す彼女の行く末は、読者の注意を引き付けてやまないことだろう。

『アスパンの恋文』 ヘンリー・ジェイムズ(岩波文庫)

アスパンの恋文 (岩波文庫)アスパンの恋文 (岩波文庫)
(1998/05/18)
ヘンリー・ジェイムズ

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書名:アスパンの恋文
著者:ヘンリー・ジェイムズ
訳者:行方 昭夫
出版社:岩波書店
ページ数:214

おすすめ度:★★★★




ヘンリー・ジェイムズ中期の中編作品が本書『アスパンの恋文』である。
作家としてのジェイムズをとらえる際に、初期、中期、後期の三つに区分するのが一般的のようだが、中期の作品はあまり翻訳紹介されていないのが実情なので、そういう意味では珍しい部類の作品と言ってもいいだろう。
本書がジェイムズの代表作として数えられることはほぼないとはいえ、ジェイムズの特長のよく表されている、とても読みやすい作品なので、一般受けも十分望めるように思う。

『アスパンの恋文』の主人公は、アスパンというアメリカの詩人の研究家である「わたし」だ。
そんな「わたし」がアスパンが残した恋文を手に入れようとヴェニスを訪れ、その手紙の持ち主と思しきとある夫人と知り合いになり・・・。
アメリカ人がヨーロッパ色の非常に強い町の一つであるヴェニスを訪れるという設定自体が、いかにもジェイムズらしいもので、そんな作者の十八番にほくそ笑む読者もいるかもしれない。
また、登場人物の心理の流れが克明に描かれていることは、改めて言うまでもない本書の長所だ。

ジェイムズの作品というと「視点」に関して云々されることが多いが、一人称で書かれた作品はそう多くはないのではなかろうか。
当然ながら、「わたし」がアスパンを研究しているのと同程度に私がジェイムズの作品を熟知しているわけではないのだが、いくつかの短編を別とすれば、彼の長編・中編小説はたいていが三人称で書かれているという印象を持っている。
もしその印象が誤っていないとすれば、『アスパンの恋文』はジェイムズの「視点」について関心のある読者には一読の価値があるものと言えるだろう。

それほど有名な作品ではない『アスパンの恋文』だが、ヘンリー・ジェイムズの作風がお好きな方には期待通りの作品と言えるのではなかろうか。
近年、『大使たち』や『ワシントン・スクエア』などの新刊によって岩波文庫におけるジェイムズの作品が充実しつつあり、今後さらなる新訳の出版、または既訳の文庫化が待たれるところだ。

『大使たち』 ヘンリー・ジェイムズ(岩波文庫)

大使たち〈上〉 (岩波文庫)大使たち〈上〉 (岩波文庫)
(2007/10/16)
ヘンリー ジェイムズ

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大使たち (下) (岩波文庫 赤)大使たち (下) (岩波文庫 赤)
(2007/11/16)
ヘンリー ジェイムズ

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書名:大使たち
著者:ヘンリー・ジェイムズ
訳者:青木 次生
出版社:岩波書店
ページ数:458(上)、432(下)

おすすめ度:★★★★




鳩の翼』、『金色の盃』と並び、ヘンリー・ジェイムズ後期の代表的な長編作品が、この『大使たち』である。
主人公の心理とその「視点」から見たその他の登場人物の心理に対する徹底的な描写は、それまでの文学作品には例のない革新性があるだろう。
一般に難解であるという評価を受けている作品であるが、思想的に難解であるとか、豊富な予備知識を要するという意味ではないので、ぜひ挑戦してみていただきたいと思う。

『大使たち』の主人公ストレザーは、これまで充実した生涯を送っていたとは感じていない、初老のアメリカ紳士である。
そんな彼が知人の富豪の女性からある依頼を受けてパリに、すなわち「大使」として赴くわけである。
周囲の人間との触れ合いを通じてストレザーの心理がいかに変化するか、深層に至るまで描き出すジェイムズの筆致は素晴らしく、それだけを追って読み進めても十分楽しめるものと思う。

ジェイムズ後期の作品では、多くのページ数を割いて登場人物の心理について克明に記述しているようでいて、不明瞭のままに留め置かれている部分が多い。
その不分明さを読者が補わなければならない点が難解であると言われる所以かとも思われるが、それだけ読者の能動性を促す作品であるとも言えるだろう。
ストーリーの転変がぐいぐい読者を引っ張っていくタイプの小説ではないにもかかわらず、ジェイムズの作品を読者が面白いと思えるのは、推理小説かと思えるほどに謎めいた雰囲気が漂っていて、その謎を解くためのヒントが徐々に与えられていくからなのかもしれない。

評価が高いわりに読まれないというジェイムズの後期作品だが、三部作と言われる本書と『鳩の翼』、『金色の盃』とは、いずれも文庫化されている。
確かに向き不向きがあると思われる作風で、すべての読者が楽しめるとは限らないが、高い評価を受けるのもうなずけるたいへん完成度の高い傑作だと思うので、一度試してみることをお勧めしたい。

『鳩の翼』 ヘンリー・ジェイムズ(講談社文芸文庫)

鳩の翼(上) (講談社文芸文庫)鳩の翼(上) (講談社文芸文庫)
(1997/09/10)
ヘンリー・ジェイムズ

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鳩の翼(下) (講談社文芸文庫)鳩の翼(下) (講談社文芸文庫)
(1997/10/09)
ヘンリー・ジェイムズ

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書名:鳩の翼
著者:ヘンリー・ジェイムズ
訳者:青木 次生
出版社:講談社
ページ数:502(上)、442(下)

おすすめ度:★★★★




ヘンリー・ジェイムズ後期の傑作である『鳩の翼』。
ジェイムズの代名詞とも言うべき精緻な心理描写は本書においても遺憾なく発揮されており、また、読者の関心事をオブラートに包むかのような適度な曖昧さには、読者の関心を必然的に高める効果が感じられる。
ストーリーこそまったく違えど、発表年の近い『大使たち』と作風は似通っており、『大使たち』を気に入られた方が次に読むべきはこの『鳩の翼』であろう。

『鳩の翼』の序盤のあらすじを大雑把に述べると、いずれも金銭的にさほど恵まれていない恋し合う男女の間に、病弱で富裕な娘が現れ、その男に恋することで二人の間に波紋を広げる、といったものである。
『鳩の翼』は、しばしば指摘されるように幾分メロドラマ的な筋書きであり、私もそのことを否定しようとは思わないのだが、それでも読者は安っぽい本を読んだという感想を抱くことは絶対にできないように思われる。
書き方によっては文学史に名を残さない平凡な作品にもなっただろうが、ジェイムズの後期作品の最大の魅力とも言うべきうねるような独特の文体がそれを許さなかったのであろう。
また、物語は後半にはヴェニスへと舞台を移すが、『アスパンの恋文』同様、古色蒼然たる運河の町が作品に程よい哀愁を添えてくれるに違いない。

デイジー・ミラー』や『ある婦人の肖像』などの代表作で優れた女性像を描き上げたジェイムズだが、『鳩の翼』においてもヒロインの性格描写の素晴らしさは読者をうならせることだろう。
中にはろくな女性を一度も創造できなかった作家もいるが、ヘンリー・ジェイムズはフローベールなどと並び、心に奥行きのある女性像を数多く提供してくれる作家の一人だ。
ジェイムズの作品には、結婚するかしないかで揺れ動く女性の心理が頻繁に描かれてもいる。
生涯独身だったジェイムズだが、彼も自らの結婚についていろいろと思い悩むことがあったのかもしれない。

愛と嫉妬と、天上的な優しさと俗世的な金銭欲と・・・。
ありがちなテーマを扱うストーリーを味わい深く描かせたら、円熟期のジェイムズの右に出る作家はそう多くはないはずだ。
そのあまりの巧みさゆえに晦渋とも評されるのだろうが、精巧な作品を仕上げる巨匠の技は、やはり読者を感動させずにはいないことだろう。

『死者の祭壇』 ヘンリー・ジェイムズ(審美社)

死者の祭壇死者の祭壇
(1992/03)
ヘンリ・ジェイムズ、牛玖 健治 他

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書名:死者の祭壇
著者:ヘンリー・ジェイムズ
訳者:野中 恵子
出版社:審美社
ページ数:108

おすすめ度:★★☆☆☆




長編のみならず、優れた短編作品も数多く残しているヘンリー・ジェイムズだが、そんな彼の短編作品一つを取り上げ、挿絵入りで一冊の単行本として出版したものが本書『死者の祭壇』だ。
『死者の祭壇』自体は、『大使たち』や『鳩の翼』といった後期作品より少し前に発表された作品であり、心理描写の精密さやすべてを明かさない曖昧な筆致からは、それらの長編作品の縮図のような印象を受ける読者もいるかもしれない。

『死者の祭壇』は舞台をロンドンに置き、主人公は内向的で、少しばかり偏執的な傾向のある初老の紳士である。
その彼が「ストランサム」という名を名乗るとあっては、そこから『大使たち』を思い浮かべる読者がいても不思議ではない。
ストーリーはタイトルから想像できるとおりの暗めの雰囲気に支配されたものなので、読みどころはやはり登場人物の心理描写になってくるのではなかろうか。

本書には牛玖健治氏の絵が複数挿入されている。
それが理由で、本書は画用紙と言っても過言ではないほどに厚手の用紙を使ったのだろうか。
ここで絵画について詳細に論じるつもりはないが、ギュスターヴ・ドレの挿絵をこよなく愛する私からすると、牛玖氏の作風は必ずしもストーリー中の一場面を反映しているようには見えないため、あまり好きになれない絵であるように感じられた。

審美社から出されたこの『死者の祭壇』は、さほど有名ではない一つの短編に挿絵を入れて単行本化するというやや珍しい試みが実現した本であるが、その割高感はどうしても拭い去ることができない。
20年ほど前の本であるために新品での入手はほぼ不可能で、まして中古が新品の価格を上回って販売されているのでなおさらである。
小説としての『死者の祭壇』の出来は決して悪くないものの、よほどのジェイムズ愛好家でもない限りお勧めできない本だ。

『友だちの友だち』 ヘンリー・ジェイムズ(バベルの図書館)

友だちの友だち (バベルの図書館)友だちの友だち (バベルの図書館)
(1989/06)
ヘンリー・ジェイムズ

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書名:友だちの友だち
著者:ヘンリー・ジェイムズ
訳者:大津栄一郎、林節雄
出版社:国書刊行会
ページ数:280

おすすめ度:★★★☆☆



ホルヘ・ルイス・ボルヘスの編纂・序文による「バベルの図書館」の一冊である短編集、『友だちの友だち』。
Amazonには書籍であれば何でも売っているというイメージがあったが、かつては全く取り扱いがなく、現時点ではごくわずかに販売されているという状態になっている。
同じ「バベルの図書館」シリーズのうちの何冊かは在庫がわずかとはいえ新品で売られているようだが、この『友だちの友だち』は中古で売りに出している人さえあまりいないという非常にレアな本のようだ。

本書の収録作品は、『私的生活』、『オウエン・ウィングレイヴの悲劇』、『ノースモア卿夫妻の転落』に表題作の『友だちの友だち』を加えた四編である。
ボルヘスによると、これらの中で『ノースモア卿夫妻の転落』はジェイムズの短編の代表作と目される作品らしく、言われてみれば彼の著作のどこかでこの短編について言及されていたような気がしないでもない。
それとはやや毛色の異なる他の三編は、いずれも幻想的な作風の短編小説で、そこに選者であるボルヘスの怪奇趣味を垣間見ることができるというものだ。
ヘンリー・ジェイムズの短編で最も有名なものと思われる『ねじの回転』の読者であれば、『オウエン・ウィングレイヴの悲劇』や『友だちの友だち』に、いかにもジェイムズらしい不思議な、そしておぼろげな輪郭のストーリーを見出すことができよう。
私見によると、本書の収録作品は総じてジェイムズを好きな読者を裏切ることはないように思われる。
とはいえ、本書の冒頭を飾るボルヘスの序文はわずか数ページのたいへんあっさりとしたものなので、それを楽しみにしている読者がいくらかがっかりする可能性は否定できないのだが。

『友だちの友だち』は、ジェイムズのファンのみならず、ボルヘスに興味のある読者も読みたいと感じる「バベルの図書館」シリーズの一冊なのだが、入手が困難ということもあり、一般の読者にはこれ以外の短編集をお勧めせざるをえない。
本書に強い関心のある方は、Amazonで見当たらない場合、まれにヤフオクなどに出品されているので、そちらで探されるといいだろう。

『ヘンリー・ジェイムズ短編集-「ねじの回転」以前』ヘンリー・ジェイムズ(文芸社)

ヘンリー・ジェイムズ短編集―「ねじの回転」以前―ヘンリー・ジェイムズ短編集―「ねじの回転」以前―
(2010/05/01)
ヘンリー・ジェイムズ

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書名:ヘンリー・ジェイムズ短編集-「ねじの回転」以前
著者:ヘンリー・ジェイムズ
訳者:李 春喜
出版社:文芸社
ページ数:320

おすすめ度:★★★★




ジェイムズの短編集はいくつか出されているが、それらの中でおそらく最も新しいものがこの『ヘンリー・ジェイムズ短編集-「ねじの回転」以前』だ。
わざわざ副題で『ねじの回転』以前と断ってはいるものの、必ずしも内容の上で『ねじの回転』に直結する作品集というわけでもないため、単純にジェイムズ初期の短編集ととらえたほうがいいかもしれない。
収録作品六編はいずれも本邦初訳とのことなので、初期のジェイムズに興味のある方はぜひ手にしていただきたいと思う。

ジェイムズが二十代から三十代前半にかけて発表した作品を集めた本書には、心理主義的な作風の強いものや確固たる「視点」から描かれた作品も収められているため、読者が『ヘンリー・ジェイムズ短編集』という名の本に期待するところのものに仕上がっている。
そんな中、モーパッサンを思わせるようなストーリー重視の作品に出会うという、うれしい期待はずれもある。
とはいえ、舞台がヨーロッパだったりアメリカだったり、登場人物が大西洋を行き来したりすることから見ても、やはりジェイムズらしさが存分に発揮されている短編集であると言っていいのではなかろうか。

収録作品は、『過ちの悲劇』、『友人ビンアム』、『ある肖像画の物語』、『ある問題』、『ユースタス様』、『アディナ』の六編で、私のお勧めは『ある肖像画の物語』だ。
ジェイムズで「肖像画」といえば、『ある婦人の肖像』を思い起こしてしまいがちかもしれないが、こちらはまさしく「肖像画」とそれを取り巻く人々の物語で、多少強引な比較を許してもらえるならば、『ある婦人の肖像』よりはむしろワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』に近いように思う。

文芸社の出版物にこれまであまりなじみがなかった私だが、いざ読んでみると、誤字や脱字は少ないし、製本上の質の良さから考えれば、1600円+税という値段も相当に手頃であるという印象を受けた。
3000円以上の本を買ってそのつくりが粗雑だとあまりいい気がしないものだが、そういう面でこの本に失望することは絶対にないだろう。
収録作品はややマイナーな作品ばかりなので、ジェイムズを初めて読んでみようという方には不向きのような気もするが、ジェイムズ初期の作風を俯瞰する上で格好の一冊であることは確実だ。

『風景画家』 ヘンリー・ジェイムズ(文化書房博文社)

風景画家―ヘンリー・ジェイムズ名作短編集風景画家―ヘンリー・ジェイムズ名作短編集
(1998/12)
ヘンリー ジェイムズ

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書名:風景画家 - ヘンリー・ジェイムズ名作短編集
著者:ヘンリー・ジェイムズ
訳者:仁木 勝治
出版社:文化書房博文社
ページ数:253

おすすめ度:★★★★




多くの短編小説を残したヘンリー・ジェイムズだが、表題作を含む全五編を収めた短編集がこの『風景画家』である。
初期から後期まで、幅広くジェイムズの作品を集めている一冊なので、文庫化されている作品以外もいろいろ読んでみたいという方には格好の短編集といえるだろう。
難解な作家と評されることの多いジェイムズだが、本書の短編はどれも読みやすいものばかりであるから気軽に手にしていただければと思う。

本書は表題作である『風景画家』の他に、『異常な病人』、『古い衣装のロマンス』、『ほんもの』、『知恵の木』の四編を収録している。
ちなみに、私は『異常な病人』を読んで『ある婦人の肖像』を、『古い衣装のロマンス』を読んで『ねじの回転』を、それぞれ思い出した。
個人的に最もお勧めなのは、物語性が強く、読後の印象もよい『ほんもの』であるが、他の作品もみな独特の味わいがあって多くの方が楽しめるものだと思う。

芸術家小説から幽霊譚まで収録している本書は、ジェイムズが得意とする短編のジャンルは網羅しており、中・上流階級の人々を描いているというジェイムズらしさも健在だ。
仮にジェイムズの短編に対するイメージをこの一冊から作り上げても、邦訳の出ている限りを読み尽くした場合と比べて、それら二つのイメージにさほど大きな隔たりはないのではなかろうかと思えるほど、『風景画家』は「ジェイムズ名作短編集」との副題にふさわしい、適度なまとまりを見せている。

この『風景画家』にはジェイムズの代表的な作品は収録されていないが、それにもかかわらずジェイムズの作風がよく表れている短編集となっているように思う。
少々誤字・脱字の類が気になるものの、作品数の割りには単行本化されていないジェイムズの短編を読みたいと思われる方は、必ずや楽しめる本といえるだろう。
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