『ファウスト 第一部/第二部』 ゲーテ(集英社文庫ヘリテージシリーズ)

ファウスト 第一部 新訳決定版 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)ファウスト 第一部 新訳決定版 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)
(2004/05/20)
ゲーテ

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ファウスト 第二部 新訳決定版 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)ファウスト 第二部 新訳決定版 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)
(2004/05/20)
ゲーテ

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書名:ファウスト
著者:ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
訳者:池内 紀
出版社:集英社
ページ数:360(一),496(二)

おすすめ度:★★★★★




ドイツ文学における最大の巨人にして草分け的な存在でもあるゲーテだが、そんな彼がその生涯を懸けた大作がこの『ファウスト』だ。
これは高名な文学作品の常であるが、『ファウスト』も名前が知られている割には読破した人が少ないのではなかろうか。
池内先生の翻訳による本書は、おそらく今まで出版された邦訳の中で最も読みやすいと思うので、まだ読んだことのない方にも、途中で挫折した経験のある方にも非常にお勧めだ。

人間が知りうる知識の限界を悟り、さらなる可能性を求めて悪魔メフィストフェレスと契約を結んだファウスト。
神曲』でダンテがウェルギリウスに導かれたように、ファウストは悪魔の導きで長い長い旅に出る・・・。
ストーリーを追うだけでも楽しめるのが『ファウスト』だが、やはり醍醐味はその思想性だろう。
豊富な思考の余地を提供してくれる『ファウスト』に接する読者は、半ば必然的に様々なことを考えながら読み進めることになるはずだ。
マンフレッド (岩波文庫)マンフレッド (岩波文庫)
(1960/03/05)
バイロン

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ゲーテの『ファウスト』としばしば比較されるのがバイロンの『マンフレッド』である。
いずれも尋常ならざる知力の行く末を描いている詩劇であるという点が共通していて、発表された時期がほぼ同じということもあり、確かに絶好の比較の対象だ。
おそらくは『マンフレッド』を読むことで浮き彫りになる『ファウスト』の特徴もあることだろう。
右は、画像こそないが一応岩波文庫から出された『マンフレッド』なので、興味のある方はぜひ読んでみていただきたいと思う。
ちなみに、『マンフレッド』のほうが短い作品であるだけに構成の密度では勝っているが、作品から感じられる思想性の深さでは『ファウスト』がはるかに優れているというのが私の感想だ。

『ファウスト』、特にその第二部は、読み通したけれどもテーマが深遠すぎるからか結局よくわからなかったという類の感想がしばしば聞かれる。
しかし、これは文学作品一般に言えることだが、現在感じられる、また現在考えられる範囲で楽しむといった、それぞれの読者の身の丈に合わせた鑑賞でも十分であると思う。
偉大な文人であるゲーテが一生をかけて仕上げた作品をわずか数時間で鑑賞しきろうなどと不遜なことを考えず、読む側も人生の様々な地点において時折立ち返ってみればいい、そうすればその時々で違った味わいを与えてくれるのが『ファウスト』ではなかろうか、何しろ『ファウスト』は再読に値する傑作中の傑作なのだから・・・私はそんな風に考えている。
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『若きウェルテルの悩み』 ゲーテ(岩波文庫)

若きウェルテルの悩み (岩波文庫)若きウェルテルの悩み (岩波文庫)
(1978/12)
ゲーテ

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書名:若きウェルテルの悩み
著者:ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
訳者:竹山 道雄
出版社:岩波書店
ページ数:213

おすすめ度:★★★★★




ゲーテの代表作であるのみならず、書簡体小説というジャンルの代表作でもあるのがこの『若きウェルテルの悩み』だ。
まだ若かったゲーテの名をヨーロッパに知らしめた作品でもあり、絶大な反響を呼び起こすだけの内容の美しさや共感のしやすさをも備えてもいるので、名実共にゲーテの代表的な作品と呼ばれるに値するだろう。
人生において一度でも恋を体験したと言いうる人は数多いに違いないが、それらの方々すべてが本書から感動や哀愁の念を引き出すことができると思う。
手紙を連ねるという書簡体のスタイルも文章を読みやすくしているはずなので、あまり難しい文学作品が得意ではないという方もぜひ読んでみていただきたい。

若者といえばいろいろな悩みを抱えているものであるが、ウェルテルはそれらの中でも最たるもの、恋の病に取り付かれている。
そしてその相手が親友のいいなずけのロッテなのだ・・・。
今現在恋をしている人で『若きウェルテルの悩み』に感動できない人はいないのではなかろうか。
ウェルテルやロッテが恋に悩む人の助けになるとは思えないが、この本を最も味読できる人がいるとすれば、それは恋に落ちている人であると思う。
ワイマルのロッテ (上) (岩波文庫)ワイマルのロッテ (上) (岩波文庫)
(2002/07/09)
トーマス・マン

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ワイマルのロッテ 下 (岩波文庫 赤 434-3)ワイマルのロッテ 下 (岩波文庫 赤 434-3)
(2002/07/09)
トーマス・マン

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『若きウェルテルの悩み』の読者にお勧めしたい本といえば、やはりトーマス・マンの『ワイマルのロッテ』だろう。
この作品は、偉大な芸術家としてのゲーテに多大な関心を寄せていたマンが描いた、いわば『若きウェルテルの悩み』の後日譚である。
ウェルテルとの出会いから長い年月を経たロッテが、ドイツを代表する著名人となったゲーテと出会うのだ。
ただし『ワイマルのロッテ』はマン特有の硬さというか、独特の文体が用いられている作品なので、トーマス・マンが好きな人にとってはそれが大いに魅力であるとはいえ、一般受けはしにくい作品であるかもしれない。

ドイツ文学屈指の恋愛小説である『若きウェルテルの悩み』。
ゲーテの作品の中で最も読者の心の琴線に触れやすいものとして、強くお勧めしたい作品だ。

『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』 ゲーテ(岩波文庫)

ヴィルヘルム・マイスターの修業時代〈上〉 (岩波文庫)ヴィルヘルム・マイスターの修業時代〈上〉 (岩波文庫)
(2000/01/14)
J.W. ゲーテ

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ヴィルヘルム・マイスターの修業時代〈中〉 (岩波文庫)ヴィルヘルム・マイスターの修業時代〈中〉 (岩波文庫)
(2000/02/16)
J.W. ゲーテ

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ヴィルヘルム・マイスターの修業時代〈下〉 (岩波文庫)ヴィルヘルム・マイスターの修業時代〈下〉 (岩波文庫)
(2000/03/16)
ゲーテ

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書名:ヴィルヘルム・マイスターの修業時代
著者:ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
訳者:山崎 章甫
出版社:岩波書店
ページ数:327(上)、380(中)、338(下)

おすすめ度:★★★★★




ファウスト』、『若きウェルテルの悩み』と並び、ゲーテの代表作とされるのがこの『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』だ。
シェイクスピアと同様、多くの代表作を持つゲーテだが、後世に多大な影響を与えた詩や散文はおろか、優れた自伝まで残したとあっては、代表作を一つに絞りきることの方が無謀というものだろう。
ペーソスに満ちた作風こそ似通ってはいるが、『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』は前二者とはまた趣きの異なる作品である。
文豪ゲーテの長編小説ということで、難しそうというイメージを持たれるかもしれないが、実際には肩肘張って読まなければならないような難解な本ではないので、ぜひ気軽に手にとっていただければと思う。

『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』は、恋に破れて演劇界に身を投じた主人公ヴィルヘルムの経験する幾多の出会いと別れ、そしてそれらを通じて彼が成長していく様をたいへん美しく描いている。
漠然とはしているにせよ、ヴィルヘルムの目指すものの高尚さは、多くの読者の精神を虜とするに違いない。
ヴィルヘルムの誠実さや真摯さに対しても、読者は好感を持つことしかできないのではなかろうか。
また、ミニヨンという登場人物がいるが、ゲーテの詩作品にも興味がある方は、詩の題材ともなっている彼女にいかに注目してもしすぎたことにはならないだろう。
とはいえ、彼女は読者が自ずと注目せざるをえない主要人物でもあるのだが。

ドイツ文学といえば、青年期にある主人公の精神的成長を描いた、いわゆる教養小説が一つの伝統と化しているような印象すら受けるが、『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』はその初期の名作としても知られている。
ノヴァーリスやトーマス・マンとの関係性を考えた場合、ゲーテが伝統の一環を成しているというより、彼がその伝統を築き上げたと言っても決して言い過ぎではないだろう。
そういう意味では、ドイツ文学史においても本書は非常に重要な地位を占めているとみなすことができるはずだ。

『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』を気に入られた読者は、少々とっつきにくく感じられるかもしれないが、より思弁的な内容である続編の『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』へと読み進めていただきたいと思う。

『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』 ゲーテ(岩波文庫)

ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代〈上〉 (岩波文庫)ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代〈上〉 (岩波文庫)
(2002/02/15)
ゲーテ

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ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代〈中〉 (岩波書店)ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代〈中〉 (岩波書店)
(2002/03/15)
ゲーテ

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ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代〈下〉 (岩波文庫)ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代〈下〉 (岩波文庫)
(2002/04/16)
ゲーテ

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書名:ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代
著者:ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
訳者:山崎 章甫
出版社:岩波書店
ページ数:266(上)、300(中)、329(下)

おすすめ度:★★★☆☆




ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』の続編として刊行されたのが本書『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』である。
修業時代』と比べて、より深い思想性をはらんだ作品であるが、物語性には欠けているため、一般受けは望めない作品であるように思われる。
うろ覚えで恐縮だが、確かモームもどこかで似たような見解を述べていたように記憶している。
また、本書には晩年のゲーテがそれまでの波瀾に富んだ人生において培ってきた思想が作品中に盛り込まれてはいるのだが、それを表現するのに日本人にはあまりなじみのないアフォリズムという形式を採っていたりするので、そのスタイルに戸惑う読者がいても何ら不思議ではないだろう。
そういう意味では、少々玄人向けの作品と言えるかもしれない。

『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』は、その表題が示すとおり、ヴィルヘルムの遍歴の旅を描いた作品である。
子供を連れていることもあってか、彼の落ち着き払った態度や、理性によって和らげられた心情の吐露には、常人以上の大人っぽさが見られることだろう。
修行時代の後に遍歴時代を経て、ヴィルヘルムのたどり着いたところとは・・・。

『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』が発表されたのは『修業時代』の刊行に遅れることおよそ25年であるが、ストーリーや登場人物は密接につながっており、先に『修業時代』を読んでいないと理解しがたい部分もあるだろう。
それにもかかわらず、作品の帯びる雰囲気は大きく変化するので、『遍歴時代』はある意味で二作品を続けて読んだ読者の想像を裏切る続編に仕上がっている。
それをヴィルヘルムの熟成と見て本作を傑作とみなすのか、もしくは難解になりつまらなくなったとみなすのかは、当然ながらそれぞれの読者が判断すればよいことだが、現実問題として遍歴の旅に出ることの難しい世の中に暮らしている我々が、ヴィルヘルムの遍歴の跡を追うことは決して無駄なことではない、そう思うのは私だけだろうか。

『ヘルマンとドロテーア』 ゲーテ(岩波文庫)

ヘルマンとドロテーア (岩波文庫)ヘルマンとドロテーア (岩波文庫)
(1981/06/16)
ゲーテ

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書名:ヘルマンとドロテーア
著者:ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
訳者:佐藤 通次
出版社:岩波書店
ページ数:192

おすすめ度:★★★★




ゲーテの恋愛叙事詩として名高いのがこの『ヘルマンとドロテーア』である。
ゲーテといえば、『ファウスト』に代表される奥深い思想性をはらんだ作品を多数残しているドイツ文学随一の文豪であるが、そんな彼の作品の中では、物語の筋も登場人物の感情もストレートに取り扱われているこの『ヘルマンとドロテーア』は、非常に読みやすい部類に入るだろう。
ゲーテという作家を知る上で最適の作品とは言いがたいが、深奥な精神世界を覗き込んでいたというイメージの強いゲーテの、心地よくも意外な一面を垣間見ることのできる名作として、幅広い読者層にお勧めしたい本だ。

『ヘルマンとドロテーア』のストーリーはいたってシンプルなもので、清き心を持つ青年ヘルマンが、悲運に見舞われた美しきドロテーアに出会う、といったものだ。
若者たちの見せる恥じらいや繊細な感情には、読者も温かい微笑をもらすのではなかろうか。
人間味のある登場人物によって構成されている本書は、ゲーテの優しさや美しきものを愛する心が存分に発揮された作品と言っていように思う。

恋愛小説の傑作の一つである『若きウェルテルの悩み』を物しているゲーテだが、当然ながら人の生を根幹から揺るがすような激しい情念ばかりを描いていたわけではない。
接する者をどこか優しい気持ちにしてくれる『ヘルマンとドロテーア』も、その質は違えど、読者の心に何物かを訴えかけることだろう。
本作はゲーテ自身がこよなく愛したものとしても知られていることから、ゲーテに関心のある方は必読の作品である。

文章量も手頃で挿絵も入っているこの岩波文庫版『ヘルマンとドロテーア』、現在Amazonに新品は売られていないようだが、ゲーテの作品の中で最も気軽に手にとることのできる一冊であることは間違いない。
すでにゲーテの作品を読んだことがある方にも、初めてゲーテを読む方にも、いずれにもお勧めできる作品だ。

『親和力』 ゲーテ(講談社文芸文庫)

親和力 (講談社文芸文庫)親和力 (講談社文芸文庫)
(1997/11/10)
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ

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書名:親和力
著者:ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
訳者:柴田 翔
出版社:講談社
ページ数:474

おすすめ度:★★★★




ゲーテ晩年の長編小説である『親和力』。
ストーリー性が強く、テーマの扱い方も直接的であるため、『ファウスト』や『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』と比べると親しみやすい作品であるように思う。
恋多き人生を送ったゲーテならではの一風変わった恋愛小説の傑作としてお勧めしたい。

親和力とは、化学物質が結合する際の互いを引き合う力のことだが、人々の心が惹かれ合う関係性もそれに等しいのではないか、という仮説を立証、もしくは反証する小説が『親和力』だ。
道徳堅固なはずの夫婦それぞれが、友人や親戚に恋心を抱き始め、彼らの家庭に三角関係ならぬ四角関係が生じることとなる。
彼らは意志の力でその危機を乗り越えようとするが・・・。
好悪の感情の必然的な発生を感じながらも理性によるその陶冶を試みる人々、感情を押し殺し義務に従おうとする人々をどうとらえるかは時代によっても移り変わってきているだろうが、同様のテーマに悩む人は人類が存在する限りいなくなる事はないのではなかろうか。

ゲーテの作品には、彼の実体験を基にして構想されたものも多く、この『親和力』もそのうちの一つであると言われている。
還暦を迎えようという齢に達してなお若き乙女に恋心を抱くことができるという、美を愛でる詩人の感性をうらやんだらよいのかどうか、判断に迷うところではあるが、そのような感受性の産物として『親和力』のみならず数々の詩作品が生まれたことを思えば、少なくとも我々ゲーテの読者は年甲斐もないなどと非難することは許されないのかもしれない。

好感の持てる登場人物たちの織り成す物語である『親和力』。
ゲーテ円熟期の傑作として、これまでゲーテの作品を読んだことのない方にもお勧めしたいと思う。

『詩と真実』 ゲーテ(岩波文庫)

詩と真実 (第1部) (岩波文庫)詩と真実 (第1部) (岩波文庫)
(1997/05/16)
ゲーテ

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詩と真実 (第2部) (岩波文庫)詩と真実 (第2部) (岩波文庫)
(1997/06/16)
ゲーテ

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詩と真実 (第3部) (岩波文庫)詩と真実 (第3部) (岩波文庫)
(1997/07/16)
ゲーテ

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詩と真実 (第4部) (岩波文庫)詩と真実 (第4部) (岩波文庫)
(1997/08/19)
ゲーテ

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書名:詩と真実
著者:ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
訳者:山崎 章甫
出版社:岩波書店
ページ数:387(一)、401(二)、379(三)、234(四)

おすすめ度:★★★★★




晩年のゲーテが自らの青年時代を振り返って記した自伝がこの『詩と真実』である。
アウグスティヌス、ルソーの『告白』と並び、三大自伝の一つに数えられており、作品としての完成度には折り紙付きだ。
若きウェルテルの悩み』の素材となった恋の模様も語られる本書は、ゲーテの作品をより深く読み解くために必要なエッセンスが無数に詰まっているため、単に自伝として優れているのみならず、ゲーテ自らが綴った貴重な資料とみなすこともできるだろう。
ゲーテに関心のある方ならば必ずや興味深く読める作品なので、ゲーテの作品を複数読まれたことのある方に特にお勧めしたい。

『詩と真実』は、若きゲーテの心に刻み込まれた体験の宝庫である。
家族や友人との思い出、数々の恋心に接することはもちろん、彼の思想形成の道筋をたどることもできる。
老若男女を問わず楽しめる名作であることは疑いを差し挟む余地すらないが、いろいろな可能性を探りながら自らの進路を見極めていくゲーテ青年の姿は、若い読者により強い感銘を与えるかもしれない。
ローマのカンパーニャにおけるゲーテ
岩波文庫版の表紙を飾っているのはウィルヘルム・ティシュバインの『ローマのカンパーニャにおけるゲーテ』だ。
名声に恵まれたゲーテには数多くの肖像画があるが、胸像を描いたような少々退屈な構図のものが多く、この作品のように美しい背景の中にゲーテの全身像が描き込まれているものはまれである。
ウィルヘルム・ティシュバインはあまり有名な画家ではないかもしれないが、少なくともゲーテを描いた画家として歴史にその名を留めることだろう。

岩波文庫版の『詩と真実』は現在アマゾンで新品が出回っていないようだが、中古の在庫は比較的豊富なほうで、しかも半額以下と格安で売られている。
三大自伝の一つとされる『詩と真実』、ゲーテという偉大な作家とその作品に対する理解を深める上で必読の書である。

『ゲーテ詩集』 ゲーテ(新潮文庫)

ゲーテ詩集 (新潮文庫)ゲーテ詩集 (新潮文庫)
(1951/04)
ゲーテ

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書名:ゲーテ詩集
著者:ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
訳者:高橋 健二
出版社:新潮社
ページ数:243

おすすめ度:★★★★




ドイツを代表する詩人であるゲーテは、非常に多くの詩作品を残している。
そんな彼の代表的な詩を時代別に編纂したのが、この『ゲーテ詩集』である。
老年になっても恋心を忘れなかった詩人だけあり、本書も恋愛抒情詩が中心になっているようだが、それ以外もバランスよく収録されており、ゲーテの詩の世界を幅広く鑑賞することができる。
ゲーテの詩を初めて読むという方に特にお勧めの一冊である。

『ゲーテ詩集』は、「青年時代」、「ヴェルテル時代」、「ワイマルに入りて」、「イタリア旅行以後」、「西東詩篇からと、その後」の五つに区分して代表的な作品を集めている。
収録されている詩のうちいくつかはどの作品で発表されたものかも解説に記されているので、ゲーテの他の作品を探す上でもちょうどいい本となるはずだ。
また、『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』を本書より先に読んでおくと、ミニヨンに寄せた詩をより味わうことができるだろう。

ドイツ文学を翻訳紹介するにあたり、多大な功績があったと言われている高橋健二氏の訳は、いつもながらとても読みやすい。
ひょっとすると、翻訳された時代が少し前なので、そのいくらか古い感じが古典的な作品にマッチし、絶妙な味わいを添えているのかもしれない。

生前多くの詩集を刊行していたゲーテだが、日本で出版されているのはそこから有名な作品を抜粋したものが中心となっているようだ。
それらの中で、最も手頃で最も読みやすいのがこの新潮文庫版『ゲーテ詩集』であろう。
誰もがその名を知っている文豪ゲーテということもあってか再版も繰り返されていて、新品が安く入手可能なので、ゲーテに関心のある方はぜひ一度読んでみていただきたい。

『タッソオ』 ゲーテ(岩波文庫)

タッソオ (岩波文庫)タッソオ (岩波文庫)

書名:タッソオ
著者:ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
訳者:実吉 捷郎
出版社:岩波書店
ページ数:262

おすすめ度:★★★★




ゲーテの戯曲作品のうち、『ファウスト』に次ぐ重要な作品の一つとされるのがこの『タッソオ』である。
イタリアの後期ルネサンスが誇る大作、『エルサレム解放』の作者として知られるトルクァート・タッソを主人公にした作品で、ドイツの代表的な詩人ゲーテがイタリアの代表的な詩人であるタッソを描くという、文学ファンを大いに喜ばせる構成となっている。

フェラーラの公爵の庇護の下、『エルサレム解放』を間もなく完成させようかというタッソ。
公爵の妹との親密な間柄も彼の心を支え励ましていたが、大臣であるアントニオの帰国によって人物関係に変化が起こり・・・。
一般に、ゲーテがタッソに語らせている芸術家としての苦悩や逡巡の多くはゲーテ本人の感じていたところのものであると言われており、ゲーテに関心を持つ方であればタッソの言葉の深読みを楽しむことができるのではなかろうか。

『タッソオ』は登場人物が非常に限定的であり、主人公のタッソはもちろん、それぞれの登場人物が明確な個性を与えられて描き分けられているのが特徴となっている。
とはいえ、戯曲全体を通じて人々や舞台にはまるで動きがなく、あらすじに事件性も乏しいため、正直なところを告白すればすべての読者が本書を楽しめるかというと少々疑わしい気もする。

戯曲のジャンルとしては、『タッソオ』は繊細で敏感な芸術家気質を主軸とした性格悲劇に分類されるようだが、ゲーテの描くいささか被害妄想気味、ノイローゼ気味のタッソ像は、概ね伝記的事実に即したものになっているらしい。
タッソが後年精神に異常を来たし、幽閉されたことまであると知れば、そのような特殊な精神状態の詩人をゲーテが扱った戯曲『タッソオ』に対する読者の興味も強まるのではなかろうか。
ゲーテに興味のある方、タッソに興味のある方、いずれにもお勧めしたい一冊だ。

『大コフタ』 ゲーテ(鴎出版)

喜劇大コフタ喜劇大コフタ

書名:大コフタ
著者:ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
訳者:森 淑仁
出版社:鴎出版
ページ数:217

おすすめ度:★★★☆☆




ゲーテの翻訳作品の中では珍しい喜劇作品がこの『大コフタ』である。
フランス革命を誘発したと言われている「首飾り事件」を背景に、稀代のペテン師カリオストロ伯爵の生き写しである登場人物が暗躍するという、ゲーテが同時代のフランスに題材を求めた作品となっている。
あらすじに平易とは言い難い部分もあるにせよ、軽妙なテンポで進んでいく戯曲なので、気軽に手にしていただければと思う。

不可思議な知力と霊力で人々を魅了し続ける伯爵は、出会う人々の多くを弟子として従えていた。
そんな伯爵がエジプトから全知の存在である「大コフタ」の到来を告げたものだから、人々の期待は一気に高まってしまい・・・。
伯爵自身の思惑はもちろんのこと、伯爵に心酔する者、伯爵を心底では馬鹿にし利用することしか考えていない者などが入り混じり、『大コフタ』に描かれる人間模様はカラフルと言ってもいいぐらいだ。

喜劇に分類されている『大コフタ』だが、さらっと読み流してしまうとゲーテが仕込んだ滑稽味をあまり感じ取ることができないかもしれない。
一行一行を熟読とまでは言わないまでも、要所を押さえた味読をお勧めしたい。

解説にも触れられているとおり、『大コフタ』はゲーテの作品の中では失敗作であるという位置付けをされてきた作品である。
解説では『大コフタ』の意義をいろいろと述べてくれてはいるが、そのような理論的な意義付けがなくとも、ゲーテのような偉大な作家の場合、失敗作でも読む価値はあるだろうし、むしろ一般に失敗作と言われている作品だからこそ読みたくなるという読者もいるのではなかろうか。
ゲーテに興味のある方であれば、『大コフタ』が本当に失敗作なのかどうか、ご自身で判断いただけるのではないかと思う。

『ゲーテ格言集』 ゲーテ(新潮文庫)

ゲーテ格言集 (新潮文庫)ゲーテ格言集 (新潮文庫)

書名:ゲーテ格言集
著者:ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
訳者:高橋 健二
出版社:新潮社
ページ数:231

おすすめ度:★★★☆☆




ドイツが誇る世界の文豪、ゲーテが残した格言や名言の数々を集めたのが本書『ゲーテ格言集』である。
当然ながら、これは訳者がゲーテの膨大な著作群の中から言葉を取捨選択して編んだものであり、ゲーテ自身が編んだ選集にはなっていないが、ゲーテのネームバリューにふさわしく、驚くほど含蓄のある言葉にあふれている。
前世紀の半ばの初版以降、すでに百刷を超えて久しいという、格言集としては異例のロングセラーとなっているが、それも頷けるというものだ。

本書では、ゲーテの言葉は、愛と女性、人間と人間性、芸術と文学、幸福、個人と社会、人生などといった、幅広いジャンルに分けられている。
大半はゲーテが格言として残したものであるが、中には『親和力』、『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』や『ファウスト』など、ゲーテの小説や戯曲から採られた言葉もあり、ゲーテの文学におけるテーマの核心に迫るような鋭い言葉も散見する。
ゲーテの作品に直接触れたときのような感慨は受けないかもしれないが、この格言集に頻出する作品に対する読者の興味は強くかき立てられるに違いなく、本書はゲーテ文学の読書案内としての役割を担うこともできそうな気がする。
性質上、一気に読み通すよりは、落ち着いた時間のできたときに少しずつ読み進めると、より深く味わうことができるのではないかと思う。

ゲーテの言葉が体系的にまとめられているとはいえ、やはり全体として見れば断片的であるという印象は拭い難い。
ゲーテの作品の編訳書である本書は、人間観察の大家でもあるゲーテに一歩近付くための足掛かりとなるべき一冊であろう。
そういう意味では、ゲーテをよく知る方はもちろん本書を楽しめるだろうが、ゲーテの著作に触れたことのない方が本書から始めてみるのも悪くないかもしれない。
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