『ヴァレンシュタイン』 シラー(岩波文庫)

ヴァレンシュタイン (岩波文庫)ヴァレンシュタイン (岩波文庫)
(2003/05/16)
シラー

商品詳細を見る

書名:ヴァレンシュタイン
著者:フリードリヒ・フォン・シラー
訳者:濱川 祥枝
出版社:岩波書店
ページ数:533

おすすめ度:★★★★




シラーの最高傑作とも言われるヴァレンシュタイン三部作を、一冊の文庫本に収めたものが本書『ヴァレンシュタイン』である。
『三十年戦争史』をも残していることからもわかるように、歴史に対する豊富な知識を持っているシラーだが、この『ヴァレンシュタイン』は必ずしも歴史的事実に忠実な作品とは言えない。
しかし、故意になされた改変はいずれも『ヴァレンシュタイン』のドラマ性を高める効果を担っているため、文学作品としての質の向上に大いに役立っているように思われる。

ドイツ国内が極度の荒廃と混乱に陥った三十年戦争において、神聖ローマ帝国側について戦った、百戦錬磨の傭兵隊長ヴァレンシュタイン。
その華々しい戦歴は彼の野心と慢心を刺激せずにはいないが、それは同時に仲間内に嫉視と疑念をも生みがちなもの・・・。
三部作ということで読者が主人公に付き合う時間も長く、それだけ感情移入もしやすいので、話の展開は自ずと読者の関心の的となるに違いない。

『ヴァレンシュタイン』は史劇であるので、三十年戦争に関する知識の有無が作品の鑑賞に影響する部分も大きいように思う。
本作を読みながら歴史を学ぶことも不可能ではないが、寝返りや他国の介入などの多い三十年戦争の勢力図は少々複雑で、ある程度歴史を知らないとストーリー展開において肝心なところが把握できないことも考えられる。
また、これは歴史劇の常であるが、ヴァレンシュタインという歴史的人物を、せめてその名前と略歴だけでも事前に知っているかどうかで、本作の面白みは大きく左右されることだろう。

1900年代前半から半ばにかけて、いくつも邦訳の出されていたシラーだが、最近ではめっきり日の目を見ない作家となりつつある。
そんなシラーの作品の中では、仮名遣いや文字サイズなどの面から言っても、現在最も読みやすいかたちで出版されている戯曲が本書だろう。
群盗』のような勢いの感じられる若い頃の作品より、いくらか落ち着いた作風のように見受けられる『ヴァレンシュタイン』、シラーを読み始める方にまずお勧めしたい作品だ。
スポンサーサイト

『ヴィルヘルム・テル』 シラー(岩波文庫)

ヴィルヘルム・テル 改版 (岩波文庫 赤 410-3)ヴィルヘルム・テル 改版 (岩波文庫 赤 410-3)
(1957/09/05)
シラー

商品詳細を見る

書名:ヴィルヘルム・テル
著者:フリードリヒ・フォン・シラー
訳者:桜井 政隆、桜井 国隆
出版社:岩波書店
ページ数:218

おすすめ度:★★★★




スイス独立のきっかけとなったとして、いまだに高い人気を誇るスイスの偉人ヴィルヘルム・テルを描いた、シラー晩年の戯曲がこの『ヴィルヘルム・テル』である。
彼の名は日本でもよく知られており、英語表記による「ウィリアム・テル」の名で親しんでいる方もおられることだろう。
息子の頭に載せたりんごを弓矢で射抜く場面はあまりにも有名で、そのシーンのインパクトが強すぎるからか、それが結末ではないにもかかわらず、本書のクライマックスもその部分にあると感じてしまう読者がいても何ら不思議はないように思う。

他民族の支配に屈従しようとしないヴィルヘルム・テルの反抗的な態度は、時の支配者の不興を買ってしまう。
被支配民に求められている卑屈な態度を拒否する彼は、不敬な行為の責任を問われ、例のりんごの場面を強いられることになるのだ。
彼は息子の頭上のりんごを目がけて弓を構え・・・。
歴史的な実在性が疑われているヴィルヘルム・テルではあるが、つい彼が実在していたことを信じたくなるのは、スイス国民に限ったことではないのではなかろうか。

『ヴィルヘルム・テル』の発表年は1804年。
フランス革命の余波がヨーロッパ全土を揺るがしている最中、自由と独立を象徴する彼の物語をシラーが戯曲として発表したというのは、シラーの思想を推し量る上でも非常に興味深いことである。
自由が確立されたとされる今日の社会に暮らす我々が読んでも、ヴィルヘルム・テルの不屈で実直な精神には心底からの拍手を送りたくなることだろう。

テーマやストーリーは平板と思えるほどに明快で、エピソードはすこぶる有名、『ヴィルヘルム・テル』はそんな作品だ。
最近はほとんど新品が出回っていないようなので、再版や新訳に期待したいと思う。

『美と芸術の理論―カリアス書簡』 シラー(岩波文庫)

美と芸術の理論―カリアス書簡 (岩波文庫 赤 410-2)美と芸術の理論―カリアス書簡 (岩波文庫 赤 410-2)
(1974/06/17)
シラー

商品詳細を見る

書名:美と芸術の理論―カリアス書簡
著者:フリードリヒ・フォン・シラー
訳者:草薙 正夫
出版社:岩波書店
ページ数:96

おすすめ度:★★★★




おそらく日本ではシラーという作家は戯曲の作者として最も知られているだろうが、彼は詩人でもあり歴史家でもあり、そして美学に関する著作を発表する思想家としての一面もあるという、文芸に関して多方面で活躍した人物であった。
そんな彼の美学を最もわかりやすく述べたものがこの『美と芸術の理論―カリアス書簡』である。
『カリアス書簡』とあることからもわかるように、書簡という形でシラーの美に対する思想が平易に説明されており、まして100ページに満たないという手頃さもあるので、シラーの美学はもちろん、美学そのものに関心のある方が始めて手に取る本としても悪くないように思う。

シラーの美学におけるキーワードを一つ述べろと言われれば、私は「自律性」を選ぶだろう。
法則性の中における自律性が美しい、これがシラーの主張の根底だと私はとらえているが、確かにたいていの美はそれで説明がつくのではなかろうか。
とはいえ、より厳密に考えれば彼の美学にもいくつか論理の脆弱さを見出すことができるはずだ。
大部の著作と異なり、本書から一つの論題に関して論及し尽くしたという印象を受けることはないので、それだけ読者が異論・反論など、自らの考えをぶつけやすい本でもあると言えるかもしれない。
シラーの美学はカントの哲学を発展させたものと指摘されているが、カントの哲学や美学を知らずとも本書の理解にさほど影響はないように思うので、ぜひ気軽に読んでみていただきたい。

美術館や展覧会に赴く前に本書『美と芸術の理論―カリアス書簡』にざっと目を通しておくだけでも、絵画や彫刻をシラーの視線で鑑賞することが可能となり、自らの美術に対する造詣が深まったと実感していただけることと思う。
さらに言えば、シラーの美学を知った上で『ヴァレンシュタイン』や『ヴィルヘルム・テル』などのシラーの手になる戯曲を読めば、また新しい楽しみ方が開けてくるに違いない。
豊富な例示がなされているためにたいへん理解しやすいこの『美と芸術の理論―カリアス書簡』、芸術論や美学論は難解そうで敬遠しがちという方にもお勧めできる本だ。

『群盗』 シラー(岩波文庫)

群盗 (岩波文庫)群盗 (岩波文庫)
(1958/05/05)
シラー

商品詳細を見る

書名:群盗
著者:フリードリヒ・フォン・シラー
訳者:久保 栄
出版社:岩波書店
ページ数:221

おすすめ度:★★★★




シラーの処女作として知られる本書『群盗』は、同時にシラーの代表作であるとも言われている。
盗賊という反社会的な人々、いわゆるアウトローを主題にする作品ならではの緊迫感やスピード感に満ちていて、恋愛悲劇にはないような読者を引き込む力のある作品だ。
時代背景にも促され、若き頃のシラーが青年独特の熱意と反抗心を作品化したように思える『群盗』は、若い人々にこそ読まれるべきなのかもしれない。
もちろん、自らは血気盛んな青年期を過ぎたと感じらている読者も、若かりし日々の記憶をたどることで登場人物の心理に何らかの共感をすることだろう。

ある事件、それが読みどころの一つでもあるように思うのでその詳細は作品に譲ることにするが、その事件を受け、うら若き主人公は盗賊になる決意をする・・・。
中には極端なストーリー展開に少々納得がいかないと感じられる読者もいるかもしれないが、本で読むより鑑賞者が引き込まれやすい舞台上で演じられたなら、ほとばしるような勢いのある台詞の効果と共に、見る者を虜にするに違いない。
そのような魅力を秘めた『群盗』は、シラーの代表作としてのみならず、ドイツ文学の代表作として読まれてしかるべき作品の一つであると言えよう。
エルナニ (岩波文庫)エルナニ (岩波文庫)
(2009/07/16)
ユゴー

商品詳細を見る

表現されている精神はやや異なるが、ストーリーが『群盗』に似ているものにユーゴーの『エルナニ』がある。
こちらは山賊に身をやつした主人公のエルナニが父の復讐の機会を窺うという物語だ。
二作品の間には類似点と相違点がそれぞれ存するので、『群盗』と比較して読むと非常に興味深いのではないかと思う。

根っからの悪人ではないだけに心の揺れる主人公、彼の葛藤と逡巡は、読者にもどかしい思いをさせるより、多くの感動を与えることだろう。
新品での入手の難しい本ではあるが、ぜひ一度読んでみていただきたいと思う。

『たくみと恋』 シラー(岩波文庫)

たくみと恋 (岩波文庫 赤 410-0)たくみと恋 (岩波文庫 赤 410-0)
(1991/03)
シラア

商品詳細を見る

書名:たくみと恋
著者:フリードリヒ・フォン・シラー
訳者:実吉 捷郎
出版社:岩波書店
ページ数:180

おすすめ度:★★★☆☆




若者たちの悲恋を扱った、シラーの若い頃の戯曲作品である『たくみと恋』。
悲劇の登場人物は通常貴族等の上流社会の人間に限られていたが、主要登場人物に平民を選ぶという新しさが見られる作品だ。
シラーの作品の中では上演回数も多いほうらしく、シラーの初期の代表的な作品として、一読の価値ある本であると言えるだろう。

宰相の息子であるフェルディナントは、町に暮らす平凡な音楽家の娘ルイーゼと相思相愛の恋に落ち、将来を誓い合う。
しかし、それを知った娘の父親は娘が弄ばれることを危惧し反対を唱え、さらに悪いことには、それを知った宰相が二人を別れさせるための陰険な策略をめぐらし・・・。
身分の違いが恋を破綻させるというあらすじ自体に斬新さを見出すことはできないが、登場人物が多くないだけにそれぞれの人物の描き分けが非常に鮮明で、若きシラーのほとばしるような筆致にも助けられ、一気に読み通せてしまう作品であろう。

『たくみと恋』は、『群盗』などと同様、シラーの権力筋への反抗心を垣間見ることができる作品でもある。
自由に対するシラーの考え方や、その結実である戯曲が時の権力者に喜ばれるわけもなく、若くして亡命生活を余儀なくされたシラーは、この作品において権力者と平民階級を対比させ、当然のように後者に精神的優位を認めたかのようだ。
一見すると思想性のなさそうな市民悲劇であるが、シラーの熱情は『たくみと恋』の底流として存在しており、この作品にシラーのファンを喜ばせる色を添えていると言えようか。

高い理想を抱き続け、作品世界にもその理想が浸透しているシラー。
彼の理想は必ずしも古びて魅力が失せてしまったわけではないはずなので、この『たくみと恋』を通じて、そこに表れている高邁な精神の一端に触れていただければと思う。

『マリア・ストゥアルト』 シラー(岩波文庫)

悲劇マリア・ストゥアルト (岩波文庫 赤 410-6)悲劇マリア・ストゥアルト (岩波文庫 赤 410-6)
(1957/06/25)
シラー

商品詳細を見る

書名:マリア・ストゥアルト
著者:フリードリヒ・フォン・シラー
訳者:相良 守峯
出版社:岩波書店
ページ数:235

おすすめ度:★★★★




シラー後期の悲劇作品の一つがこの『マリア・ストゥアルト』だ。
日本ではあまりなじみのない名前である「マリア・ストゥアルト」にピンとこない方も多いだろうが、それが悲劇の女王メアリー・ステュアートのドイツ語読みであると聞けば、本書に興味の湧いてくる方も多いのではなかろうか。
ヴァレンシュタイン』と同様、史劇に分類される作品ではあるが、ヴァレンシュタインの物語よりエリザベスとメアリーの確執の方がはるかによく知られたエピソードであろうから、日本の読者にも受け入れられやすい作品ではないかと思う。

『マリア・ストゥアルト』は、虜囚の身に陥り死刑の宣告が下ったマリアの、最後の数日間に焦点を絞りこんでいる。
あとはエリーザベットが刑の執行を命じるだけという、生死の瀬戸際に立たされたマリアだったが・・・。
シラーの史劇はあくまで史実を題材とした戯曲であり、『マリア・ストゥアルト』においても劇的効果を演出するための創作部分が若干見られるようだ。
しかしそのような史実との相違こそ、戯曲家としてのシラーの意図が透けて見えるため、いっそう興味深い部分となってくるのではなかろうか。
エリザベス : ゴールデン・エイジ [DVD]エリザベス : ゴールデン・エイジ [DVD]
(2008/08/06)
ケイト・ブランシェット、ジェフリー・ラッシュ 他

商品詳細を見る

右は『マリア・ストゥアルト』においても重要な役割を果たすエリザベスを描いた映画『エリザベス:ゴールデン・エイジ』で、メアリー処刑のエピソードが比較的大きく取り上げられているため、『マリア・ストゥアルト』の関連作品として紹介したい。
近年の映画作品全般に共通して言えることだが、この『エリザベス:ゴールデン・エイジ』もエリザベスを単に剛毅で冷酷な女王としてとらえるのではなく、一個の人間としての弱みや逡巡をも含めて描き出されていて、どこかシラーと視点が近いようにも感じられる。
そういう意味では、シラーの人間観や歴史観は200年を経た現在のそれとさほど異なったものではないのかもしれない。

今日の読者が読んでも十分楽しめるはずのシラー作品の出版事情は、決して恵まれているとは言えない。
この『マリア・ストゥアルト』も中古でしか手に入らない状態が続いているが、シラーの戯曲家としての円熟した技量が存分に発揮された非常に読みごたえのある作品なので、シラーに興味のある方には強くお勧めしたい一冊だ。

『フィエスコの叛乱』 シラー(岩波文庫)

フィエスコの叛乱 (岩波文庫)フィエスコの叛乱 (岩波文庫)
(1953/06/15)
シラー

商品詳細を見る

書名:フィエスコの叛乱
著者:フリードリヒ・フォン・シラー
訳者:野島 正城
出版社:岩波書店
ページ数:227

おすすめ度:★★★☆☆




シラーの処女作であり、熱烈な歓呼によって迎えられた『群盗』に続く、シラーの二作目の戯曲作品がこの『フィエスコの叛乱』だ。
原題は"Die Verschwörung des Fiesco zu Genua"で、本作の舞台となるジェノヴァの名前が入れられており、叛乱そのものは実際にジェノヴァで起きた出来事である。
マリア・ストゥアルト』などのように、物語の大枠としては史実に基づいた戯曲であるが、シラー自身が序で述べているとおり、いくらか故意に改変されている部分もあり、その改変が時折肝心なところでドラマ性に欠けることのある現実世界に、ささやかな劇的効果を添えていると言えるのではなかろうか。

『フィエスコの叛乱』の舞台は、1547年のジェノヴァに設定されている。
ドイツと結び、国内での支配力を急激に強めていくドリア家に、共和主義者たちは反感を強めていたのだが、一味の首謀者となることさえ期待されていた人望厚きフィエスコ伯はといえば、美しき妻をよそに、ドリア家に連なる一人の蓮っ葉女に熱を上げている始末・・・。
フィエスコの性格や意図は必ずしも一枚岩ではないように感じられ、それだけ深みのある登場人物とも取れるが、それと同時に、少しふわふわとしたつかみどころがない主人公に思われることもあるかもしれない。
いずれにしても、叛乱というテーマも重なり合って、おそらく読者の脳裏にはシラー後期の傑作『ヴァレンシュタイン』が想起させられるに違いない。

『フィエスコの叛乱』のストーリーの展開にはシュトゥルム・ウント・ドラング期を象徴するかのような勢いが感じられ、細かく区切られた場面分けも読み手にスピード感を与えている。
ただ一つ難を言うとすれば、版の古い本書には旧漢字が多数用いられているので、それに慣れない方は戯曲としての勢いが自ずと削がれることが予想されるという点だろうか。
そうはいっても、シラーの初期の傾向が如実に反映された『フィエスコの叛乱』は、彼の代表作として脚光を浴びることの少ない作品であるとはいえ、政治的自由を謳歌してやまないシラーの戯曲に興味のある方は必ずや楽しめるはずの一冊であるように思う。

『オルレアンの少女』 シラー(岩波文庫)

オルレアンの少女 (1951年) (岩波文庫)オルレアンの少女 (1951年) (岩波文庫)
(1951/01/20)
シルレル

商品詳細を見る

書名:オルレアンの少女
著者:フリードリヒ・フォン・シラー
訳者:佐藤 通次
出版社:岩波書店
ページ数:287

おすすめ度:★★★★




「オルレアンの解放者」の異名を持つことで知られるジャンヌ・ダルクを主人公としたシラーの史劇が、この『オルレアンの少女』である。
ジャンヌ・ダルクの生涯が文学作品の素材として大いに魅力的なものであることは疑いを差し挟む余地がないし、同じくシラーの史劇である『ヴァレンシュタイン』や『マリア・ストゥアルト』と比べれば主人公の運命が日本でもよく知られているはずなので、多くの読者が劇の進行に興味を抱きやすいのではなかろうか。

『オルレアンの少女』がどのような戯曲であるかは、ここであえて説明するまでもないかもしれない。
イギリス軍に包囲された絶体絶命のオルレアンを救うべく、神に導かれた一人の乙女が立ち上がるという、いわば読者の期待通りの展開である。
しかしシラーは、歴史に対する無知によるのではなく、芸術的効果を高めるためにのみ、自らの戯曲において故意に史実を歪める作家だ。
そしてこの『オルレアンの少女』における改変は、シラーの他の戯曲と比べてかなり大胆なものとなっているので、その分読者はシラーがジャンヌの物語をどう料理するのかを存分に楽しむことができるのではなかろうか。
ひょっとするとジャンヌ・ダルクに強い関心のある方には不向きな作品なのかもしれないが、シラーのファンであれば、戯曲家としての彼の手腕をひしひしと感じ取ることができるに違いない。
ジャンヌ・ダルクジャンヌ・ダルク
(2000/07/28)
ミラ・ジョボビッチ、ジョン・マルコビッチ 他

商品詳細を見る

右は、少し前のことになるがミラ・ジョボビッチがジャンヌを演じた映画『ジャンヌ・ダルク』で、映像化に伴う若干の脚色が施されていることは事実であるが、こちらの方がより史実に沿った作品となっている。
公開時に話題作でもあったため、すでに見られた方も多いかもしれないが、『オルレアンの少女』を読む前に、もしくは読んだ後に鑑賞されることをお勧めしたい。

『オルレアンの少女』は、著者名が「シルレル」とされていることからもわかるように版が古く、少々読みにくいのが難点である。
しかし、内容だけに限って言うならば、近年岩波文庫から刊行された『ヴァレンシュタイン』よりはるかにとっつきやすいはずだ。
読者を引き付ける力は十二分に備えている作品なので、仮名遣いの古い本に抵抗のある方も、ぜひ一度手にしてみていただきたいと思う。

『メッシーナの花嫁』 シラー(岩波文庫)

メッシーナの花嫁 (岩波文庫 赤 410-14)メッシーナの花嫁 (岩波文庫 赤 410-14)

書名:メッシーナの花嫁
著者:フリードリヒ・フォン・シラー
訳者:相良 守峯
出版社:岩波書店
ページ数:224

おすすめ度:★★★☆☆




シラーの後期悲劇作品の一つがこの『メッシーナの花嫁』である。
歴史劇から離れ、政治思想の発露も少なく、構成がギリシア悲劇風になっているという、シラーの作品群の中できわめて特徴的な作品で、シラーがまるで純粋な劇作に立ち返ったかのような作品に仕上がっている。

シチリアのメッシーナでは、先王が亡くなってからというもの、二人の王子たちによる血みどろの争いが続いていた。
彼らの母でもある女王は当然ながら二人の和解を願ってやまず、自分のもとへと二人を呼びつけて話し合いの場を持ち、二人の兄弟の和解は成功したかに見えたのだが・・・。
個人の意志と個人では立ち向かうことのできない運命とが絶妙に絡まり合い、登場人物たちは半ば必然的に結末に向けて突き進んでいかされる。
あらすじはある程度先読みできてしまうかもしれないが、あらすじの裏に存在する運命的な力を感じ取ることができれば退屈に感じることはないように思う。

『メッシーナの花嫁』はギリシア悲劇を模して作られた作品であるため、日本人にはあまり馴染みがないかもしれないギリシア悲劇がどのようなものであるかというイメージだけでも事前に把握できていれば、それだけいっそう深く楽しめるに違いない。
特にソポクレスの『オイディプス王』には筋書きの上でも若干の類似が見られるので、『オイディプス王』を知っていれば『メッシーナの花嫁』との間の相違点を比較しながら読むことができてよいのではないかと思う。

岩波文庫から出されているシラーの作品のほとんどが持っている欠点として流通量の少なさと仮名遣いの古さが挙げられるが、この『メッシーナの花嫁』もそれらの欠点を備えた作品であり、流通量に関して言えばシラーの全作品の中でも最も少ない部類に入るのではなかろうか。
シラーの作品中でやや特殊な位置付けの作品であるため、一般向けというよりは玄人向けかと思われるが、シラーの他の作品をすでに何点か読まれた方には多少探してでも入手されることをお勧めしたい。
カテゴリ
PR
最新記事
RSSリンク