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『車輪の下』 ヘルマン・ヘッセ(新潮文庫)

車輪の下 (新潮文庫)車輪の下 (新潮文庫)
(1951/11)
ヘルマン ヘッセ

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書名:車輪の下
著者:ヘルマン・ヘッセ
訳者:高橋 健二
出版社:新潮社
ページ数:246

おすすめ度:★★★★★




数いるノーベル賞作家の中で、日本でもよく読まれている部類に入るヘッセだが、彼の作品の中で最もよく知られたものがこの『車輪の下』だろう。
しばしば難解な作風であると指摘されるヘッセだが、ヘッセの作品としては初期のものに分類されるこの『車輪の下』は、その難解さもさほど感じられないので、たいへん読みやすい作品といえる。
また、主人公が勉強に精を出す少年ということで、さほど特殊な環境に置かれた人々を描いているわけではなく、現代の日本人の多くが目指してきたもの、もしくは実際に経てきたものと似た道をたどる少年の描写は、読者の感情移入を容易にすることだろう。
読みやすく、しかも深みのある作品として、『車輪の下』は非常にお勧めだ。

内気で繊細な少年ハンスは、勉強もよくでき、周りからも「できる子」との烙印を押されている。
そんな彼が名門校に入学、エリート街道をまっしぐらに突き進んでいく。
一見順調そうに思われた彼の人生行路だったが・・・。
成績優秀な少年に向けられる周囲の一方的な期待を、「車輪」という語で表現するあたり、詩人としても知られるヘッセの詩的感覚の表れなのかもしれない。

ヘッセの代表作である『車輪の下』には、すでに数種類の翻訳がある。
しかし、高橋健二氏の名訳を上回るものはいまだ存在しないのではなかろうか。
すべての既訳に目を通したわけではないのであまり偉そうなことは言えないが、ヘッセの紹介者として有名で、ヘッセと面識もあった高橋氏の翻訳が最も優れたものの一つであることは間違いないように思う。

現に「車輪」を感じている人や、過去に「車輪」を感じたことのある人は決して少なくないことだろう。
本書はそのような人々の共感を呼ばずにはいない、はかなくも、どこか優しさの感じられる傑作である。
ヘッセが『車輪の下』で描いたテーマ、すなわち弱者を押しつぶす「車輪」が、一日も早く過去の遺物となることを願いたい。
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『デミアン』 ヘルマン・ヘッセ(新潮文庫)

デミアン (新潮文庫)デミアン (新潮文庫)
(1951/11)
ヘッセ

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書名:デミアン
著者:ヘルマン・ヘッセ
訳者:高橋 健二
出版社:新潮社
ページ数:223

おすすめ度:★★★★★




車輪の下』と並び、ヘッセの代表作として知られる小説が『デミアン』だ。
ヘッセの作風が大きく変わる転換点として注目されてもいるが、その反面、しばしば彼の作品が難解さを増していく契機とも言われているらしい。
確かに、よくわからなかったという感想も多く聞かれる作品であるが、悩める主人公が自身の精神を掘り下げ、手探りながらも己の進むべき道を見出そうとする様は、多くの読者を魅了するに違いない。
いかにもヘッセらしい傑作として強くお勧めしたい。

主人公の少年シンクレールは、ひょんなことからデミアンという少年に出会う。
他の少年たちにはない大人びた風格を備えたデミアンから影響を受けたシンクレールは、世界や自己などについての模索を始めるが・・・。
『デミアン』を読んでいるうちに、若いときにデミアンのような人間に出会えるという幸福に対して、憧れとも羨望ともつかぬ気持ちを抱いてしまうのは、おそらく私だけではないのではなかろうか。

ヘッセが創造したデミアンという人間像は、その年齢の割にあまりにも老成し、万事に達観したかのような精神態度ゆえに、ひょっとすると現実味が薄いと感じられるかもしれない。
デミアンに限らず、文学作品に登場する理想的な人物像は、確かにいくらかリアリティが損なわれていることが多いようにも思われるが、それが原因で作家の思い描いた理想まで、その価値が減ずるわけではないだろう。
外的事件の連鎖からなる物語を好まれる方には『デミアン』は退屈と感じられるかもしれないが、高邁な理想が帯びる美しさに触れたい方には自信を持ってお勧めできる本の一つだ。

青年期の主人公を描いた名作が多いからか、ヘッセには青年向けの作品を書くというイメージがある。
そして『デミアン』はそのイメージを裏切らない、まさしく青年期に読まれるべき本だろう。
すべての青年に感銘を与えるかどうかはもちろんわからないが、自らも思い悩むことの多かった作家であるヘッセが、作中の主人公に混沌たる外面世界・内面世界からどのような光明を見出させるのか、それを読み解こうと試みるだけでも十分楽しめる、また、十分読む価値のある作品ではなかろうか。

『シッダルタ』 ヘルマン・ヘッセ(岩波文庫)

シッダルタ (岩波文庫)シッダルタ (岩波文庫)
(2011/08/19)
ヘルマン・ヘッセ

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書名:シッダルタ
著者:ヘルマン・ヘッセ
訳者:手塚 富雄
出版社:岩波書店
ページ数:224

おすすめ度:★★★★




長きにわたり精神世界の彷徨を続けたヘッセによる釈迦の物語がこの『シッダルタ』である。
宗教談義にはまったく興味がないという方もおられるだろうから、一般受けはしにくいかもしれないが、平易な文章で書かれた含蓄のある作品があるとすれば、ヘッセの場合は『シッダルタ』こそがそれに該当するだろうし、さらには心や風景を巧みに描いた詩的作品として読むことも可能に思われる。
内容が内容だけにすらすら読める作品ではないかもしれないが、さほど厚い本ではないので、気軽に手に取ってみていただきたい作品だ。

世界的に高名である『シッダルタ』の主人公について、あまり多くを語る必要はないだろう。
ここでは、ヘッセのファンであれば、平和と沈思黙考を好むシッダルタの姿に、作者であるヘッセの姿を重ね合わせることもできるのではないかとだけ言い添えておきたい。

ドイツはかねてよりインド思想に関する研究が盛んで、ショーペンハウアーを筆頭に、ドイツの知識人のインド思想への接近は一つの伝統と化しているような気もしないでもないが、父が宣教師としてインドに滞在したことがあり、その地で出会ったインド生まれの女性との間に生を享けたというヘルマン・ヘッセは、人一倍東洋思想に憧れと親近感を抱きやすい環境で育ったという経緯がある。
成人してからアジアへ旅行した経験もあるヘッセであるからこそ、『シッダルタ』を物すことにもなったのだろう。

読者が仏教徒であるかどうかにかかわらず、『シッダルタ』はキリスト教的な作品よりも日本人に親しみやすいのではなかろうか。
シッダルタという実在の偉人を描いた作品なので、どこまでが真実なのか、もしくはどこまでが仏教徒の認める正統的なシッダルタの生涯と一致するのかと気になる読者も少なからずいることだろう。
何を隠そう私もその一人なのだが、『シッダルタ』が古来より日本に根付いている仏教の教えや釈迦の生涯に対して新たな関心を呼び起こす作品であることは間違いないと思う。

『郷愁 - ペーター・カーメンチント』 ヘルマン・ヘッセ(新潮文庫)

郷愁―ペーター・カーメンチント (新潮文庫)郷愁―ペーター・カーメンチント (新潮文庫)
(1956/08)
ヘッセ

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書名:郷愁 - ペーター・カーメンチント
著者:ヘルマン・ヘッセ
訳者:高橋 健二
出版社:新潮社
ページ数:200

おすすめ度:★★★★




ヘッセ最初期の作品として知られている『郷愁 - ペーター・カーメンチント』は、同時にヘッセの出世作でもある。
発表年が『車輪の下』と非常に近く、作品の帯びる雰囲気も似ているので、『車輪の下』を気に入られた読者であればおそらくこちらも気に入っていただけることだろう。
哀愁に満ちた故郷の詩的描写に優れている本作は、現在故郷を離れて暮らしている方、もしくは故郷を離れた経験のある方に特にお勧めしたい作品だ。

故郷を離れた若き主人公、ペーター・カーメンチント。
夢を抱いて出て行った都会で、甘くもあり辛くもある多くの経験を経た彼が、自らの心の奥底に見出したものとは・・・。
『郷愁』は、その邦題からも予想できるかもしれないが、寂しいながらもどこか懐かしく、そして温かく包み込んでくれるような雰囲気の作品となっている。
緩急のつけられた作品中の時間の流れも、それが緩んでいるときには、読者にゆったりとした心地よさを与えてくれることだろう。
『郷愁』を、ヘッセの作品の中で最も優しい色合いに染まっている小説作品と言っても過言ではないのではなかろうか。

作風が似通っているにもかかわらず、あれほど有名な『車輪の下』と比べると、この『郷愁 - ペーター・カーメンチント』は翻訳の種類も少なく、あまり読まれていない作品なのかもしれない。
しかし、ヘッセの最初期の作品である『郷愁』は、後年の作品に見られる難解さが少なく、それだけ詩的表現の柔らかさを存分に堪能できる小説となっているため、ヘッセを初めて読む方が手に取るにも最適の本であるように思う。
好感の持てる青年ペーターに導かれて、ぜひヘッセの創り出す叙情世界を味わってみていただきたい。

『春の嵐 - ゲルトルート』 ヘルマン・ヘッセ(新潮文庫)

春の嵐―ゲルトルート (新潮文庫)春の嵐―ゲルトルート (新潮文庫)
(1950/12)
ヘッセ

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書名:春の嵐 - ゲルトルート
著者:ヘルマン・ヘッセ
訳者:高橋 健二
出版社:新潮社
ページ数:246

おすすめ度:★★★★★




ヘッセ初期の傑作の一つに数えられる小説作品『春の嵐 - ゲルトルート』。
ヘッセの代表作である『車輪の下』とほぼ同時期に発表された『春の嵐 - ゲルトルート』だが、私にはこの二作品の優劣がつけがたく、『車輪の下』よりも『春の嵐 - ゲルトルート』のほうを好むという読者がいたとしてもまったく不思議には思わない。
ヘッセの作品を好きな方ならば必ずや楽しめるであろうし、ヘッセの作品に触れたことのない方が本書から始めてみるのも悪くないように思う。

不幸な事故により障害を抱えて生きることになった主人公クーン。
ヒロインのゲルトルートに密かな思いを寄せている彼だが、ゲルトルートはクーンの友人と結婚することになり・・・。
他の作家が同様のテーマを扱ったならば平凡な恋愛小説に止まったかもしれないが、そこは作品において人生に対する洞察まで掘り下げるのが特長のヘッセのことだけあり、この『春の嵐』も非常に深みのある作品に仕上がっている。
人間の絆〈上〉 (岩波文庫)人間の絆〈上〉 (岩波文庫)
(2001/10/16)
モーム

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それが主旋律となっているわけではないにせよ、『春の嵐』は障害を持った主人公のコンプレックスを描いた作品でもあるわけだが、類似の作品として、モームの『人間の絆』を紹介しておきたい。
『人間の絆』は自伝的要素の強いモームの代表作であるが、主人公は足に奇形を持って生まれた青年である。
作品自体の長さがまるで異なりはするものの、お世辞にも詩的な作風とは言いがたい散文的な作家であるモームの作品と比較すれば、ヘッセの作品ににじみ出る詩的天分がますます引き立って感じられるのではなかろうか。

これは多くのヘッセの作品に共通して言えることだが、この『春の嵐』もやはり若い世代に訴えかける力が強い作品であるように思われる。
すべての思い悩む若者に、悩み抜いた作家であるヘッセが、何かしらの救いの手を差し伸べてくれることだろう。

『荒野のおおかみ』 ヘルマン・ヘッセ(新潮文庫)

荒野のおおかみ (新潮文庫)荒野のおおかみ (新潮文庫)
(1971/02)
ヘッセ

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書名:荒野のおおかみ
著者:ヘルマン・ヘッセ
訳者:高橋 健二
出版社:新潮社
ページ数:349

おすすめ度:★★★☆☆




ヘッセの作家生活のちょうど半ば頃に当たる、五十歳のときに発表された作品がこの『荒野のおおかみ』である。
タイトルこそ似ているものの、ジャック・ロンドンの『荒野の呼び声』とはまるで異なり、動物を取り扱った小説というわけではなく、文明社会から距離を持って暮らすアウトサイダーを描いた作品だ。
一般受けはほぼ望めないように思うが、魂の真実を追及するヘッセらしい非常に深みのある作品としてお勧めである。

主人公のハリー・ハラーは、自らを社会になじめない存在として、社会に暮らす「荒野のおおかみ」であると感じている初老の男である。
幸福への道を断たれていると感じた彼は、真剣に自殺まで考え、すべてを終わりにするかみそりの魅力に惹かれているのだが・・・。
明るい物語ではないものの、強烈な文明批判と幻想的な場面とが交錯する独特の作風なので、とても読み応えのある作品ではある。

主人公ハリー・ハラーのイニシャルがH・Hであること、彼が反戦論者であること、また五十歳を迎えようとしていることなどから、『荒野のおおかみ』は概ね作者であるヘルマン・ヘッセの内面告白として読まれることが多いようだ。
さらに、作中に「ヘルマン」という男への言及、その女性形であるヘルミーネの登場などもあり、ヘッセの姿が見え隠れする作品であるといえよう。

テーマがテーマだけに、この『荒野のおおかみ』は万人に受ける作品であるようには思えない。
車輪の下』のような作品を期待している読者の中には、とても退屈な作品だと感じられる方もいることだろう。
しかし、自らが社会になじめないと感じている、もしくは感じたことのある方には、ヘッセの作品の中で最も興味深い小説と思われるに違いない。
そういう意味では、広く浅くではなく、狭く深く訴えかける作品であると思う。

『雲』 ヘルマン・ヘッセ(朝日出版社)

ヘルマン・ヘッセ『雲』ヘルマン・ヘッセ『雲』
(2001/04)
ヘルマン ヘッセ

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書名:
著者:ヘルマン・ヘッセ
訳者:倉田 勇治
出版社:朝日出版社
ページ数:196

おすすめ度:★★★☆☆




小説も詩も書き、多くのエッセイも残したヘッセだが、そんな彼の雲にまつわる作品をまとめ上げたのが本書『雲』である。
ヘッセは比較的多作な作家であるとはいえ、雲を主題とした作品がここまで多いものかと、読者はいまさらのように驚かされることだろう。
『雲』はヘッセの死後に第三者の編集を経た本であり、ヘッセ自身の監修による本ではないのだが、詩作品はもちろん、『郷愁 - ペーター・カーメンチント』などの小説からの抜粋や、遺稿から生前未発表の原稿をも収録するなど、「雲」というテーマの下で死後出版ならではのまとまりを見せている。
ヘッセの水彩画もいくつか掲載されているし、さらにはトーマス・シュミットというカメラマンによる美しい写真を複数織り交ぜて編まれた非常に味わいのある仕上がりなので、ヘッセに関心のある方にはぜひ読んでみていただきたい一冊だ。

ヘッセが自然の美しさに対する感受性のきわめて強い作家であることはよく知られているように思うが、雲とヘッセとの関係性は、単にその美しさを鑑賞するという傍観者的な立場には止まらないものがある。
自身の存在のはかなさや孤独、そういったものを痛切に感じていたヘッセは、しばしば雲を人間にたとえ、共感し憧れるような目線を送る。
浮雲のような自分は、どこへ向かっていくのだろうか・・・。
そんな問いかけが聞こえてくるような気がする。

あまり再版されることがなかったからか、この『雲』は現在新品があまり出回っていないが、中古品ならばアマゾンでとても安く売られている。
ヘッセのファンであれば、本書から汲み取ることのできるヘッセの自然に対する感受性の強さを楽しむことができることは請け合いだ。
ある晴れた日に空を見上げ、流れる雲を目で追い、その変幻自在に漂う様を美しいと感じたことのあるすべての人に。

『蝶』 ヘルマン・ヘッセ(同時代ライブラリー)

蝶 (同時代ライブラリー)蝶 (同時代ライブラリー)
(1992/03/16)
ヘルマン ヘッセ

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書名:
著者:ヘルマン・ヘッセ
訳者:岡田 朝雄
出版社:岩波書店
ページ数:173

おすすめ度:★★★☆☆




ヘッセの詩やエッセイなどから、蝶を主題にしたものや蝶を扱ったものを集めたのがこの『蝶』である。
』などと同様、ヘッセ研究の第一人者であるフォルカー・ミヒェルスの編集による本であり、ヘッセ自身が編んだ作品というわけではないが、幼い頃に蝶の収集に熱を上げていたことのあるヘッセが抱いていた蝶への思いがよく表されている一冊であると思う。
ヘッセという作家の中に占める蝶の位置付けの重要さはもちろんのこと、読者は蝶の美しさをも、再認識させられることだろう。

本書『蝶』は、制作年代の非常に幅広い、九つの散文と十一の詩から成っている。
インドでの体験を綴った散文、蝶のはかない命をうたった詩など、いずれもヘッセらしい哀愁に満ちたものが多く、それだけ味わい深いものばかりだ。
中でも、幼き日の思い出を語った『クジャクヤママユ』という散文が最も私の心に残っている。
ヘッセを好きな読者であれば、それぞれお気に入りの作品が見つかるに違いない。

『蝶』にはたいへん多くの蝶の挿絵や写真が入っているのもうれしい。
蝶といえばその姿形はもちろんのこと、極彩色の羽の帯びる美しさも最大の魅力の一つであるが、本書には彩色された銅版画がカラー版ならではの美しさをもって印刷されている。
蝶に詳しい方は興味を持って眺められることだろうし、私のように具体的な蝶の名称にきわめて疎い人間でも、ヘッセの散文や詩文を鑑賞する際の大きな助けとなってくれる。

ヘッセ自身の編集による本ではないから当然といえば当然かもしれないが、『』と同じく、この『蝶』も決してヘッセの代表的な作品には数えられることがない。
とはいえ、『蝶』にはテーマを絞った本特有の楽しみがあり、ヘッセのファンであれば一読の価値がある本だと思う。

『ヘッセ詩集』 ヘルマン・ヘッセ(新潮文庫)

ヘッセ詩集 (新潮文庫)ヘッセ詩集 (新潮文庫)
(1950/12)
ヘッセ

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書名:ヘッセ詩集
著者:ヘルマン・ヘッセ
訳者:高橋 健二
出版社:新潮社
ページ数:211

おすすめ度:★★★★




車輪の下』や『デミアン』といった小説作品で有名なヘッセは、同時に現代のドイツ語圏を代表する詩人でもある。
そんなヘッセの詩作品の中から有名なものを150点ほど抜粋し、ほぼ時代順に配列したものがこの『ヘッセ詩集』だ。
ヘッセ自身が選抜して刊行した詩集ではないものの、文庫本という手軽さながら、詩人ヘッセの輪郭を把握する上で最適の一冊であると思うので、ヘッセの詩作品に興味のある方にはまず本書をお勧めしたい。

『ヘッセ詩集』は、詩人としてのヘッセを、『処女詩集』、『孤独者の音楽』、『夜の慰め』、『新詩集』、これらの詩集とその発表前後という四つの時期に区分し、それぞれ代表的な作品を集めた本であり、ヘッセの五十年以上に及ぶ詩人としての生涯を通覧できるように構成されている。
ヘッセの詩の特長として感じられるのは、社会からはみ出たアウトサイダーの孤独をうたったものが多いという点ではなかろうか。
はかないものの美しさをうたった詩や、恋愛に関する抒情詩もないわけではないが、小説作品においてと同様、ヘッセは恋愛感情よりも自己の精神のあり方を徹底的に見つめた詩人ということなのだろう。
それだけに悲しく、切ない詩風ではあるが、深刻に思い悩むヘッセの思いがひしひしと伝わってくるような気がするし、世の中から孤独を感じる人々がいなくならない限り、ヘッセの詩はいつまでも新鮮味を保ち続けるに違いない。

この『ヘッセ詩集』には、ヘッセの詩や散文を集めた『』や『』に収録されている作品と重複するものも散見するが、一定のテーマで絞り込んでいないだけに広くヘッセの詩作品を鑑賞できるこの『ヘッセ詩集』のほうが、より一般の読者向けなのではないかと思う。
ヘッセの詩に興味のある方はもちろん、ドイツの詩に関心のある方にも、本書『ヘッセ詩集』は非常にお勧めできる一冊だ。

『少年の日の思い出 ヘッセ青春小説集』 ヘルマン・ヘッセ(草思社)

少年の日の思い出 ヘッセ青春小説集少年の日の思い出 ヘッセ青春小説集
(2010/12/21)
ヘルマン・ヘッセ

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書名:少年の日の思い出 ヘッセ青春小説集
著者:ヘルマン・ヘッセ
訳者:岡田朝雄
出版社:草思社
ページ数:200

おすすめ度:★★★★




車輪の下』に代表される、ヘッセの若い頃の作品4点を収録したのが本書『少年の日の思い出 ヘッセ青春小説集』だ。
表題作の他に、『ラテン語学校生』、『大旋風』、『美しきかな青春』の3編が収められており、特に『美しきかな青春』はヘッセの代表的な中編作品でもあるので、ラインナップは充実しているといえるだろう。
副題にもあるようにヘッセの青春小説を集めたということで、情感豊かな主人公は多くの読者の共感を得るに違いない。
いずれの作品からも後期のヘッセに見られるような難解な思想性は感じられず、たいへん読みやすいのが特徴でもある。

『少年の日の思い出』は、蝶の採集に夢中になっていた少年のエピソードである。
10ページそこそこの小品ながら、読む者の胸を打つ力は決して小さくはないはずだ。
ヘッセの蝶にまつわる散文・詩作品を集めた『』に収録されている『クジャクヤママユ』を改稿したものが『少年の日の思い出』らしいが、その『』のほうはずいぶん前から廃刊とのことなので、多少の異同はあるにせよ、本書によって再び日の目を見た作品といえるだろう。
青春は美わし (新潮文庫)青春は美わし (新潮文庫)
(1954/10)
ヘッセ

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併録されている作品のうち、『美しきかな青春』は新潮文庫でいうところの『青春は美わし』と訳者は違えど同じ作品であり、こちらの文庫版にはさらに『ラテン語学校生』も訳出されているため、『少年の日の思い出』とたいへん似通った一冊となっている。
肝心の『少年の日の思い出』こそ載っていないが、いっそう手頃な形でヘッセの青春小説を味わいたい方にはこちらもお勧めだ。

『少年の日の思い出』は、長きにわたって複数の中学の国語教科書に採用されていて、それが現在でも続いているらしい。
私自身は不幸にして『少年の日の思い出』を採用していない教科書で学んだらしく、『少年の日の思い出』にまつわる、それこそ少年の日の思い出は一つも持ち合わせていないのだが、読者の中には懐かしい気持ちを胸にしながら読まれる方もおられるのではなかろうか。
仮に『少年の日の思い出』を知らずとも、ヘッセの描く甘く、そしてほろ苦い青春の一ページは、読者の追憶を誘ってやまないことだろう。
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