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『トリストラム・シャンディ』 ロレンス・スターン(岩波文庫)

トリストラム・シャンディ 上 (岩波文庫 赤 212-1)トリストラム・シャンディ 上 (岩波文庫 赤 212-1)
(1969/08/16)
ロレンス・スターン

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トリストラム・シャンディ 中 (岩波文庫 赤 212-2)トリストラム・シャンディ 中 (岩波文庫 赤 212-2)
(1969/09/16)
ロレンス・スターン

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トリストラム・シャンディ 下 (岩波文庫 赤 212-3)トリストラム・シャンディ 下 (岩波文庫 赤 212-3)
(1969/10/16)
ロレンス・スターン

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書名:トリストラム・シャンディ
著者:ロレンス・スターン
訳者:朱牟田 夏雄
出版社:岩波書店
ページ数:400(上)、378(中)、319(下)

おすすめ度:★★★★★




スターンの傑作長編、『トリストラム・シャンディ』。
いかにもイギリスらしいユーモアに満ちた作風は、フィールディングやディケンズと並び、伝統的なイギリス文学の系譜の一角を成している。
イギリス文学、ひいては世界の文学の中でも、他の作家には到底真似のしようがない独特の作品で、まさに奇作と呼ぶにふさわしいのが、スターンの代表作であるこの『トリストラム・シャンディ』だ。

トリストラムの生涯を描くというのが小説の本筋なのだが、脱線に次ぐ脱線でトリストラムの生涯の方はなかなか進まない。
だがその脱線がなにしろ面白いので、バルザックのような作家のうんちく披露のための脱線とはわけが違い、早く本筋に戻ってくれないものかと期待することもなく、読者は次から次へとページを繰ることができる。
『トリストラム・シャンディ』は岩波文庫から3分冊で発行されているが、おそらくすぐに読み終わってしまうことだろう。
ただ一つ非常に残念なのは、スターンの死により作品が完結していないということだ。
しかし、途中で終わるとわかっていても独特な作風は十二分に楽しめる作品なので、欧米文学に興味のある方には強くお勧めしたい。

今日の日本ではあまり知名度も高くなく、さほど広く読まれている作品であるとも思わないが、『トリストラム・シャンディ』の登場人物に対する言及は、18、19世紀の他の作家の作品にしばしば見受けられるし、ジョイスなど20世紀の作家への影響も指摘されている。
私の読後の率直な感想は、なぜこんなに面白くもあり興味深くもある作品が日本でもっと有名にならないのだろうか、といったものだった。
「イギリス文学」のカテゴリーを追加するにあたり、一番最初に紹介する作品として『トリストラム・シャンディ』を選んだのも、その気持ちがいまだに根強く存在するからだ。

岩波文庫によくあることだが、この『トリストラム・シャンディ』も時折再版されてはいるものの、常に在庫があるわけではないので、在庫があるときにぜひ買われることをお勧めしたい。
他では味わえないオリジナリティあふれる小説に触れることができるはずだ。
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『センチメンタル・ジャーニー』 ロレンス・スターン(岩波文庫)

センチメンタル・ジャーニー (岩波文庫 赤 212-4)センチメンタル・ジャーニー (岩波文庫 赤 212-4)
(1952/10/25)
スターン

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書名:センチメンタル・ジャーニー
著者:ロレンス・スターン
訳者:松村 達雄
出版社:岩波書店
ページ数:214

おすすめ度:★★★★




ロレンス・スターン晩年の作品がこの『センチメンタル・ジャーニー』だ。
『センチメンタル・ジャーニー』だけでも十分鑑賞に値するが、『トリストラム・シャンディ』と重複する部分もあるので、どちらか一方を選ぶというのであれば、『トリストラム・シャンディ』を読むべきだろう。

『センチメンタル・ジャーニー』は、『トリストラム・シャンディ』に登場する牧師ヨリックのフランスでの体験記という形式を採っているが、スターンは牧師であったし、静養のために大陸旅行を経験してもいるので、スターンがヨリックの名を借りて自らの体験をつづっているとする見方が一般的のようだ。
トリストラム・シャンディ』と同じくゆったりとした進みぶりで、こちらもまた未完に終わってしまったが、スターンの文章が帯びるしっとりとした味わい深さは備えている。

スターンの魅力は、独特なユーモアセンスだけではなく、人情味あふれる筆致にもある。
人情味を素直に表現しすぎるあまり、牧師のくせにずいぶんとふしだらな人間だと評されることもあるようだが、同じ牧師が書いたものでも説教集なんかよりはよほど人間的で面白い作品に仕上がっているのは間違いない。
『センチメンタル・ジャーニー』には、牧師ならではの他者を慮る気持ちも表れているし、病を患う人間ならではの線の細さも感じられる。

朝日出版社からも小林亨氏の翻訳で出版されていて、実を言うと私が読んだのはそちらの方なので、岩波文庫版の『センチメンタル・ジャーニー』は確認したことがない。
版が古いので活字の古さや多少の読みにくさはあるのかもしれないが、朝日出版社の方はアマゾンに登録されていなかったので、岩波文庫版を紹介せざるをえないというのが現状だ。
そしてその岩波文庫版も長らく欠品が続いている。
漱石も高く評価していたスターンが、日本で日の目を見るときはやってこないのだろうか・・・。

職業作家ではなかったスターン、体調を崩しがちだったスターンの小説作品は、いずれも未完の『トリストラム・シャンディ』と『センチメンタル・ジャーニー』だけであるから、バルザックやディケンズなんかと比べるとはるかに簡単に読破できる。
優しさと温もりのあふれるスターンの小説を、ぜひ読破していただきたい。

『ボズのスケッチ 短編小説集』 ディケンズ(岩波文庫)

ボズのスケッチ―短篇小説篇〈上〉 (岩波文庫)ボズのスケッチ―短篇小説篇〈上〉 (岩波文庫)
(2004/01/16)
ディケンズ

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ボズのスケッチ 短編小説集(下) (岩波文庫)ボズのスケッチ 短編小説集(下) (岩波文庫)
(2004/02/17)
ディケンズ

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書名:ボズのスケッチ
著者:チャールズ・ディケンズ
訳者:藤岡 啓介
出版社:岩波書店
ページ数:281(上)、302(下)

おすすめ度:★★★☆☆




イギリスの国民的作家といえばチャールズ・ディケンズだが、新聞や雑誌に掲載された最も初期の短編を集めたのがこの『ボズのスケッチ』で、これをディケンズのデビュー作と考えてもそう大きな誤りとは言えないだろう。
ディケンズは長編のイメージの強い作家だが、短編にも味わい深い作品を残していると知ることのできる短編集だ。

ディケンズという作家は、後期の作品と比べると初期の頃の作品の方が全体的に明るく、世界を楽観視しているような印象を受けやすいが、『ボズのスケッチ』でもやはりその特徴は顕著だ。
そのような作風を作家の未熟ととらえることもできるかもしれないが、私はそれを作家デビューという輝かしい第一歩を踏み出した青年ディケンズの気分の反映なのではないかと思う。
ディケンズの十八番である優しさに満ちたユーモアは表れているし、それぞれの話が短いので、読みやすさはディケンズの全作品の中でも屈指だろう。

そうはいっても、ディケンズの醍醐味はやはり長編作品でこそ発揮されているのではなかろうか。
強引なストーリー展開や、女性の描写が画一的であるなど、欠点はいろいろと指摘されるし、確かに専門家の批評眼を持たずとも疑問点を抱かずにはいられない作品が多いのは事実だが、それでもディケンズの長編小説は一つ読み終えればその他も読みたくなるという、読者を惹きつけてやまない魅力を存分に持っている。
もし今までディケンズを読んだことのない人がディケンズの小説を何か読んでみたいと言うのであれば、私は何の迷いもなく長編作品を強くお勧めすることだろう。

『ボズのスケッチ』に関して言えば、優れた短編集だから翻訳されたというよりは、かの文豪ディケンズの短編集だからという理由で翻訳されたような感が拭いがたい。
決して出来の悪い作品集ではないのだが、『ボズのスケッチ』はディケンズを楽しむ上で補助的な役割を担う作品のように思えるので、『オリヴァー・ツウィスト』や『デイヴィッド・コパフィールド』などの代表作に触れた後で読んでみてほしい。
そうすれば『ボズのスケッチ』はディケンズという作家に味を付けるいい薬味になると思う。

『ピクウィック・クラブ』 ディケンズ(ちくま文庫)

ピクウィック・クラブ〈上〉 (ちくま文庫)ピクウィック・クラブ〈上〉 (ちくま文庫)
(1990/02)
チャールズ ディケンズ

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ピクウィック・クラブ〈中〉 (ちくま文庫)ピクウィック・クラブ〈中〉 (ちくま文庫)
(1990/03)
チャールズ ディケンズ

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ピクウィック・クラブ〈下〉 (ちくま文庫)ピクウィック・クラブ〈下〉 (ちくま文庫)
(1990/04)
チャールズ ディケンズ

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書名:ピクウィック・クラブ
著者:チャールズ・ディケンズ
訳者:北川 悌二
出版社:筑摩書房
ページ数:515(上)、493(中)、497(下)

おすすめ度:★★★★★




ボズのスケッチ』がディケンズのデビュー作だとすれば、『ピクウィック・クラブ』は彼の初の長編作品であり、イギリス中にその名を知らしめた出世作でもある。
発行当時、多くの人間が連載の次の号が出るのを首を長くして待ち焦がれていたというのだから、その人気は絶大だったに違いない。

『ピクウィック・クラブ』は、ピクウィック氏という好人物を中心とした行き当たりばったりの珍道中なので、これといったメインテーマもなければ、明確な筋書きがあるわけでもない。
このことを指摘し、『ピクウィック・クラブ』は構成に難があるという向きもいるようだが、構成が悪い、もしくは構成がなかったとしても、読者を楽しませることのできる読み物というのは存在するのではなかろうか。
『ピクウィック・クラブ』がその最たる例で、分析的な視点を捨て、ただただ蛇行するストーリー展開に身を任せてディケンズ・ワールドを楽しんで欲しいと思う。
ピクウィック氏の高尚な人格、道中を共にする愉快な仲間たち、素敵な人々との出会いに加え、不運な争いに巻き込まれたりと、ふんだんに散りばめられた読みどころを読み進めていくうちに、きっと多くの人が次号を待ち焦がれていた理由がわかるに違いない。

ただ少し退屈なのは、登場人物の口を通して語られる、本筋とは関係のない物語だろうか。
セルバンテスを愛読していたディケンズらしい手法であるともいえようが、穴を開けることのできない連載という都合上、ページ数稼ぎの意図もあって、過去に仕上げた短編を放り込んでいたらしい。

ある作家の出世作というものは広く翻訳され、代表作の一つとみなされるのが普通だが、『ピクウィック・クラブ』は入手が難しいのが現状だ。
欠点こそあるものの、それを補って余りある素晴らしい作品であるのに加え、ちくま文庫版には挿絵も豊富に挿入されているので、中古品でも構わないのでぜひ読んでみていただきたい。

『オリヴァ・ツウィスト』 チャールズ・ディケンズ(岩波文庫)

オリヴァ・ツウィスト (上) (岩波文庫)オリヴァ・ツウィスト (上) (岩波文庫)
(1956/06/05)
ディケンズ

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オリヴァ・ツウィスト (下) (岩波文庫)オリヴァ・ツウィスト (下) (岩波文庫)
(1956/06/25)
ディケンズ

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書名:オリヴァ・ツウィスト
著者:チャールズ・ディケンズ
訳者:本多 季子
出版社:岩波書店
ページ数:342(上)、350(下)

おすすめ度:★★★★★




ディケンズの代表作として名高い『オリヴァ・ツウィスト』、読書好きであればこれは必読だ。
初期に書かれた作品であるにもかかわらず、私はこの『オリヴァ・ツウィスト』を『デイヴィッド・コパフィールド』と並びディケンズの最高傑作の一つだと思っているし、読みやすいことこの上ない作品なので、自信を持ってお勧めできる小説の一つだ。

貧しいけれども正直な子供オリヴァが救貧院や貧民街で遭遇する運・不運が、ディケンズお得意の人情味豊かなユーモアを交じえて軽妙に描き出される。
さらに、ディケンズの他の作品に出てくる悪人を含めて考えてみても、最も鮮明に記憶に残る印象的な悪人たちを輩出している。
ピクウィック・クラブ』の執筆時と比べて作家としての地位が安定していたためなのだろう、『オリヴァ・ツウィスト』の筋はよくまとまっていて、『ピクウィック・クラブ』よりも一つの作品としての完成度が飛躍的に高まっている。
そんなこんなで、長所を挙げればきりがないほどだ。
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(2006/06/30)
バーニー・クラーク、ベン・キングズレー 他

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ストーリーを追っていくだけでも十分に楽しめる『オリヴァ・ツウィスト』は、映像化されることもしばしばである。
右は比較的近年になって製作されたポランスキー監督の『オリバー・ツイスト』。
概ね原作に忠実に作られてあるが、後半部分は大いに端折られている。
二時間そこそこに収めないとならないという映画ならではの事情があってのことかもしれないが、原作を知っている人間が見ると少々残念な気がしないでもない。

オリヴァは正直すぎるかもしれない、あまりにいい子供すぎるのかもしれない。
しかし彼の純粋な善意が読む人の胸を打たずにはいない、『オリヴァ・ツウィスト』はそんな素晴らしい作品だ。
『オリヴァ・ツウィスト』が気に入った読者は、ディケンズも愛読していた作家であるフィールディングの代表作『トム・ジョウンズ』もぜひ読んでみていただきたい。
きっと『オリヴァ・ツウィスト』に、ひいてはディケンズの作風に通ずるところを見出してもらえることだろう。

『ニコラス・ニクルビー』 チャールズ・ディケンズ(こびあん書房)

ニコラス・ニクルビー (上)ニコラス・ニクルビー (上)
(2001/04)
チャールズ・ディケンズ

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ニコラス・ニクルビー (下)ニコラス・ニクルビー (下)
(2001/04)
チャールズ・ディケンズ

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書名:ニコラス・ニクルビー
著者:チャールズ・ディケンズ
訳者:田辺 洋子
出版社:こびあん書房
ページ数:518(上)、510(下)

おすすめ度:★★★★




ディケンズのニコラス・ニクルビー (特別編) [DVD]ディケンズのニコラス・ニクルビー (特別編) [DVD]
(2007/12/19)
アン・ハサウェイ、チャーリー・ハナム 他

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ピクウィック・クラブ』、『オリヴァ・ツウィスト』に次ぐ、ディケンズ3作目の長編小説がこの『ニコラス・ニクルビー』である。
比較的初期の作品だけあって、裕福だったニクルビー一家に不幸が訪れるわりには、全体は明るい調子に支配されていて非常に読みやすい。
ディケンズ後期の作品を少々重苦しいと感じられる方も、『ニコラス・ニクルビー』ならすんなり読み進めていただけることと思う。
私はまだ見ていないので紹介するのもいささかおこがましい気がしないでもないが、数年前に『ディケンズのニコラス・ニックルビー』と題して映画化されてもいるらしい。
キャスト等が豪華なので期待していい作品だと予想しているが、実際のところはまだわからない。

タイトルロールであるニコラスは、一家が零落したおかげで、若くして自活を強いられた青年である。
そこで、まずはロンドンに暮らす叔父のつてで、そしてこの叔父というのがなんともいけ好かない男なのだが、それはともかく、ニコラスは田舎の寄宿学校へ教師として赴任することが決まる。
校長一家の生徒たちに対する非道な振る舞いに直面した、実直な青年であるニコラスは・・・。
オリヴァ・ツウィスト』で救貧院を叩いたディケンズが、『ニコラス・ニクルビー』では寄宿学校へ矛先を向けたとみなさずにはいられないが、イギリス社会を少しでも良くしようという社会派作家の面目躍如たる作品であるとも言えようか。

『ニコラス・ニクルビー』には、ニコラスとその妹、そして特筆に価するのはその母だが、ある意味でディケンズ作品に典型的な人物像を多数見出すことができる。
『デイヴィッド・コパフィールド』の登場人物と対照させて読んでみるだけでも、とても興味をそそる作品になるはずだ。
プロットにやや無理がないでもないが、そこは読者の反応を見ながら自作の連載を書き進めていたディケンズのこと、小説もそれなりに奇なり、ということで大目に見てやっていいだろう。

こびあん書房の『ニコラス・ニクルビー』、現在品切れのうえに中古品もあまり出回っていないらしい。
訳文はすでに出来上がっていることだし、どこかの出版社が文庫版でも出してくれることに期待したい。

『バーナビー・ラッジ』 チャールズ・ディケンズ(集英社)

世界文学全集〈15〉バーナビー・ラッジ (1975年)世界文学全集〈15〉バーナビー・ラッジ (1975年)
(1975)
不明

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書名:世界文学全集〈15〉バーナビー・ラッジ
著者:チャールズ・ディケンズ
訳者:小池滋
出版社:集英社
ページ数:638

おすすめ度:★★★☆☆




ディケンズ初のミステリー風長編作品がこの『バーナビー・ラッジ』である。
連載の始まったばかりの頃に、大西洋の向こう側でエドガー・アラン・ポーが殺人の謎を解いてしまったことでも知られる作品だ。
この『世界文学全集〈15〉バーナビー・ラッジ』には、ディケンズの全小説の中で最も読まれていると思われる『クリスマス・キャロル』も併録されている。

バーナビー・ラッジは、頭の働きの鈍い純朴な少年で、ただ周りの人間に翻弄されるばかりでとにかく歯切れの悪い主人公だ。
それが原因かどうかは知らないが、『オリヴァ・ツウィスト』のオリヴァや『ニコラス・ニクルビー』のニコラスと比べると登場頻度が格段に低い。
また、推理小説草創期の作品だけあって、『バーナビー・ラッジ』の冒頭で描かれる殺人の謎は、テレビや映画などによって無数のどんでん返しに慣れてしまっている今日の読者、当時の人々よりはるかにポーの思考に接近している今日の読者には、そう真新しいものではないだろう。
そういう意味では、ミステリーとして読むには少々物足りない作品だと思う。
イギリス〈2〉/集英社ギャラリー「世界の文学」〈3〉イギリス〈2〉/集英社ギャラリー「世界の文学」〈3〉
(1990/06/20)
川村 二郎、 他

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翻訳の少ない『バーナビー・ラッジ』だが、右の『イギリス〈2〉/集英社ギャラリー「世界の文学」〈3〉』にも同じ小池先生の翻訳が収められている。
E・ブロンテ『嵐が丘』、ハーディ『ダーバヴィル家のテス』も訳出してあるのはうれしい限りだが、それだけ本の重厚感は増してしまっている。
文字サイズや印刷の綺麗さなどは非の打ち所がないのだが、全1348ページと、何しろ重たいので扱いにくいというのが欠点だ。

同時代のミステリー風の作品を読むのなら、ウィルキー・コリンズのほうがお勧めできる。
彼はディケンズとも親しく交流しており、『エドウィン・ドルードの謎』などでディケンズの作品がミステリー色を濃くしていく一因ともなったと言われているほどで、ミステリーに関してはコリンズのほうが一枚上手だろう。
ディケンズの最大の長所である巧みな人物描写も、『オリヴァ・ツウィスト』や『デイヴィッド・コパフィールド』などを上回ってはいないのではなかろうか。
失敗作とは言わないまでも、『バーナビー・ラッジ』は新品での入手が難しく、その他の傑作が素晴らしいディケンズだけに、つい他の作品をお勧めしたくなるというのが正直な感想だ。

『クリスマス・キャロル』 チャールズ・ディケンズ(光文社古典新訳文庫)

クリスマス・キャロル (光文社古典新訳文庫)クリスマス・キャロル (光文社古典新訳文庫)
(2006/11/09)
ディケンズ

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書名:クリスマス・キャロル
著者:チャールズ・ディケンズ
訳者:池 央耿
出版社:光文社
ページ数:192

おすすめ度:★★★★★




Disney\\\'s クリスマス・キャロル 3Dセット [Blu-ray]Disney\\\'s クリスマス・キャロル 3Dセット [Blu-ray]
(2010/11/17)
ジム・キャリー、ゲイリー・オールドマン 他

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言わずと知れたディケンズの傑作の一つである『クリスマス・キャロル』。
長編作品が中心のディケンズながら、『クリスマス・キャロル』は中編作品とあって、またおそらくは季節ものということもあって、発表以来、世界中で広く受け入れられてきている。
これまでに映画化された回数も、一つの原作としては最も多い部類に入るのではなかろうか。
右は現時点で最も新しい映画化作品である、ロバート・ゼメキス監督による『Disney's クリスマス・キャロル』だ。
一人で七役を演じ分けたジム・キャリーをはじめ、ゲイリー・オールドマン、コリン・ファースなどの名優たちが声優をしており、壮大さを感じさせる映像の美しさもなかなかのもので、比較的原作に忠実な作品としてたいへんお勧めだ。

『クリスマス・キャロル』のあらすじに複雑なところはない。
クリスマスを筆頭に、祝い事を嫌う守銭奴のスクルージがクリスマス・イヴを迎えるが、そこに亡き友人の亡霊が現われて吝嗇の空しさを説き、三人の精霊がこれからスクルージを訪れるだろうと伝える。
スクルージは現われた精霊たちと共に過去・現在・未来のクリスマスを目の当たりにするのだが・・・。
幻想的でいて感動的な、老若男女を問わず楽しめるハートウォーミングストーリーであることが、本作の人気の理由なのだろう。
人物描写は優れているものの、作品の構成力に欠けるところがあると指摘されることの多いディケンズだが、『クリスマス・キャロル』は短いだけによくまとまっているような印象も受ける。

児童向けの出版の数も多いこの名作を紹介するのに、あまり多くの言葉を費やす必要はないだろう。
それほど長い作品でもないので、ぜひ気軽に手にとって読んでみていただきたい。

『デイヴィッド・コパフィールド』 チャールズ・ディケンズ(岩波文庫)

デイヴィッド・コパフィールド〈1〉 (岩波文庫)デイヴィッド・コパフィールド〈1〉 (岩波文庫)
(2002/07/16)
チャールズ ディケンズ

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デイヴィッド・コパフィールド〈2〉 (岩波文庫)デイヴィッド・コパフィールド〈2〉 (岩波文庫)
(2002/09/18)
ディケンズ

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デイヴィッド・コパフィールド〈3〉 (岩波文庫)デイヴィッド・コパフィールド〈3〉 (岩波文庫)
(2002/11/15)
ディケンズ

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デイヴィッド・コパフィールド〈4〉 (岩波文庫)デイヴィッド・コパフィールド〈4〉 (岩波文庫)
(2003/01/16)
ディケンズ

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デイヴィッド・コパフィールド〈5〉 (岩波文庫)デイヴィッド・コパフィールド〈5〉 (岩波文庫)
(2003/03/14)
ディケンズ

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書名:デイヴィッド・コパフィールド
著者:チャールズ・ディケンズ
訳者:石塚 裕子
出版社:岩波書店
ページ数:446(一)、460(二)、452(三)、430(四)、449(五)

おすすめ度:★★★★★




ディケンズの代表作にその名を連ねる『デイヴィッド・コパフィールド』は、私が読んだディケンズの作品の中で最も高く評価している長編小説だ。
ディケンズ自身も気に入っていた作品らしく、デイヴィッドの職歴がディケンズと似通っていたりと、自伝的要素が最も強く反映されているため、ディケンズを知る上でもたいへん興味深い作品となっている。
ディケンズの傑作であることはもちろん、世界文学の中でも堂々たる地位を占めるにふさわしい作品であると確信しているので、強くお勧めしたい作品である。

『デイヴィッド・コパフィールド』は、ストーリーの面白さもさることながら、個性豊かな登場人物たちの描き分けが最も優れている。
ディケンズの生き写しのようなデイヴィッドの周りには、豪胆さが気持ちいい実直な男もいれば、繊細で美しい女性もいて、さらには鷹揚な大物もいれば卑屈な小者もいるという具合で、作品自体が人格の類型を集めた博覧会かのような様相を呈するほどだ。
特に注目に値するのはミコーバー氏という借金で首の回らない憎めない男で、債務者監獄に拘留された経験のあるディケンズの父親の面影を宿しているとされている。
このミコーバー氏に限らないが、『デイヴィッド・コパフィールド』の登場人物は、一部の悪人を除き、大半が非常に好感の持てる人々で構成されているので、読んでいてとても気持ちがいい。
肝心のデイヴィッドにも、時として行動力の不足を感じるときがないでもないが、彼の言動には概ね共感できるので、ストーリーの展開を心行くまで楽しむことができる。

モームは「世界の十大小説」の一つとして『デイヴィッド・コパフィールド』を挙げているが、うなずける選択である。
全5巻で2000ページ以上と、手を出すのに逡巡する分量かもしれないが、挿絵も豊富に入っているし、読みやすさや面白さは比類がない。
モームは読者が楽しめるかどうかを基準に十大小説を選抜しているわけだし、そのふるいに残った『デイヴィッド・コパフィールド』は、ディケンズの他の作品を読んだことがない読者もぜひ読むべき傑作だろう。

『二都物語』 チャールズ・ディケンズ(新潮文庫)

二都物語 (上巻) (新潮文庫)二都物語 (上巻) (新潮文庫)
(1967/02/01)
ディケンズ

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二都物語 (下巻) (新潮文庫)二都物語 (下巻) (新潮文庫)
(1967/02/14)
ディケンズ

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書名:二都物語
著者:チャールズ・ディケンズ
訳者:中野 好夫
出版社:新潮社
ページ数:338(上)、357(下)

おすすめ度:★★★★




パリとロンドンという、ヨーロッパを代表する二大都市を舞台にした小説が、この『二都物語』である。
フランス革命期のパリも舞台になるが、フランス革命という人類史に残る一大事件に対する言及はあくまで付随的なものでしかなく、歴史小説という呼称はふさわしくないだろう。
あくまで後期ディケンズらしい人間ドラマがメインの作品で、特にそのエンディングは感動的で、一度読めば長く読者の記憶に焼き付けられるように思う。

『二都物語』には犠牲的精神に富んだ人物が多く登場し、私には彼らの見せる誠意の美しさがとても心地よく感じられたのだが、その同じ精神の表れを行き過ぎたものとみなす読者には、『二都物語』がわざとらしい筋運びの駄作ととらえられるかもしれない。
ディケンズお得意の裁判のシーンがあったり、シェイクスピアの『ハムレット』を髣髴とさせる場面があったりと、記憶に残る場面はいくつかあるが、最大の読みどころはやはりその結末部分だろう。
たいていの作品の終幕をめでたしめでたしのエピローグ的な描写に当ててきたディケンズが、『二都物語』では一風変わったかたちで作品を閉じている。
ぜひ最後まで気を抜かず、というよりむしろ終幕が近付くに従ってより力を入れて、読み通してみてほしい。

中野好夫氏の解説は、訳者の解説にしては珍しく『二都物語』の負の面に焦点を当てている。
作品のいいところを誇張気味に述べ立てるのが訳書における解説の常道であるだけに、その中立的な立場の良し悪しは別問題としても、ここまで批判的な解説は後にも先にも読んだことがないというほどだ。
『二都物語』に満足できなかった人にはなるほどと思える記述が多いだろうが、作品の余韻に浸りたい読者は水を差されたような気持ちになるかもしれない。

この『二都物語』、おそらくはディケンズの作品の中では最も毀誉褒貶の甚だしいものの一つだろう。
確かにいくらか難点はあるし、ディケンズ最高傑作との呼び声の高い『デイヴィッド・コパフィールド』と比べれば、ディケンズの長所である人物描写にもやや劣る点があるのは否めない。
しかし、それでいて全世界で読み継がれているのがこの『二都物語』なのであり、この小説には読む人の胸を打つ力がある。
少々の欠点が気にならない人、頭より心で読む人、そんな人たちにお勧めしたい作品だ。
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