『ジャン・クリストフ』 ロマン・ロラン(岩波文庫)

ジャン・クリストフ 1 改版 (岩波文庫 赤 555-1)ジャン・クリストフ 1 改版 (岩波文庫 赤 555-1)
(1986/06/16)
ロマン・ロラン

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ジャン・クリストフ 2 改版 (岩波文庫 赤 555-2)ジャン・クリストフ 2 改版 (岩波文庫 赤 555-2)
(1986/07/16)
ロマン・ロラン

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ジャン・クリストフ 3 改訂 (岩波文庫 赤 555-3)ジャン・クリストフ 3 改訂 (岩波文庫 赤 555-3)
(1986/08/18)
ロマン・ローラン

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ジャン・クリストフ 4 改版 (岩波文庫 赤 555-4)ジャン・クリストフ 4 改版 (岩波文庫 赤 555-4)
(1986/09/16)
ロマン・ロラン

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書名:ジャン・クリストフ
著者:ロマン・ロラン
訳者:豊島 与志雄
出版社:岩波書店
ページ数:540(一)、634(二)、613(三)、517(四)

おすすめ度:★★★★★




ノーベル賞作家として知られるロマン・ロランの代表作が、この『ジャン・クリストフ』である。
それどころか、ロランは『ジャン・クリストフ』によってノーベル賞を受賞したらしい。
優れた一つの作品を執筆するという功績だけで受けることのできる賞ではないにせよ、『ジャン・クリストフ』はいかにもノーベル賞に値する傑作であるように思われる。
その分量もさることながら、ロランの力強い筆致に導かれる本作は、最高の芸術家小説の一つに数えられることだろう。

幼い頃から豊かな音楽的天分を示したジャン・クリストフの生涯を綴った作品がこの『ジャン・クリストフ』である。
ロランが強い関心を抱き、その伝記を物してもいるベートーヴェンとの類縁性も指摘されるジャン・クリストフだが、私見によると、ベートーヴェンの伝記的事実と完全に切り離してこの作品に接したところで、さほど遜色のない感動を覚えることができるように思う。
偉大な精神に触れるとこちらの精神も自ずと高揚するものだが、それは主人公のモデルやインスピレーション源に関する予備知識の有無と、あまり関係がないように思うのだがいかがだろうか。
とはいえ、ロランの『ベートーヴェンの生涯』と合わせて読めばより奥行きのある楽しみ方ができることは間違いないので、ぜひそちらも読まれることをお勧めしたい。
ジャン・クリストフ 全4冊 (岩波文庫)ジャン・クリストフ 全4冊 (岩波文庫)
(2003/09/09)
ロマン・ロラン

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かつては八分冊で刊行されていた『ジャン・クリストフ』だが、それも今では四冊にまとめられるようになった。
右のように全四冊をセットにしたものも販売されているようなので、読み通すことが確実な方はそちらでまとめ買いをされるといいだろう。

ミケランジェロ、トルストイ、そしてベートーヴェン・・・偉大な芸術家の偉大な精神に強い憧れを抱き続けていたロマン・ロラン。
そんな彼も、今では偉大な人間の一人に数えられてしかるべき芸術家となったが、彼の代表作であり、そしておそらくは最高傑作でもある『ジャン・クリストフ』、読み応えのある本をお探しの方には強くお勧めしたい作品だ。
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『魅せられたる魂』 ロマン・ロラン(岩波文庫)

魅せられたる魂〈1〉 (岩波文庫)魅せられたる魂〈1〉 (岩波文庫)
(1989/11/16)
ロマン ロラン

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魅せられたる魂〈2〉 (岩波文庫)魅せられたる魂〈2〉 (岩波文庫)
(1989/11/16)
ロマン ロラン

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魅せられたる魂〈3〉 (岩波文庫)魅せられたる魂〈3〉 (岩波文庫)
(1989/11/16)
ロマン ロラン

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魅せられたる魂〈4〉 (岩波文庫)魅せられたる魂〈4〉 (岩波文庫)
(1989/11/16)
ロマン ロラン

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魅せられたる魂〈5〉 (岩波文庫)魅せられたる魂〈5〉 (岩波文庫)
(1989/11/16)
ロマン ロラン

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書名:魅せられたる魂
著者:ロマン・ロラン
訳者:宮本 正清
出版社:岩波書店
ページ数:479(一)、453(二)、484(三)、502(四)、526(五)

おすすめ度:★★★★★




ジャン・クリストフ』と並ぶロマン・ロランの大河小説が、この『魅せられたる魂』である。
天性の才能に富んだ音楽家の生涯を描いた『ジャン・クリストフ』と比べて、やや庶民的な視点から描かれた作品であるが、そこに盛り込まれた高遠な理想は人の生命に直結しており、それだけ多くの読者の心に響くに違いない。
20世紀を代表するヒューマニストであるロマン・ロランを知る上では、格好の小説作品であろう。

第一次世界大戦の前後を果敢に生きた女主人公、アンネット。
悲喜こもごも、数々の体験を経て、高貴になるべくして生まれた彼女の魂は、徐々に覚醒していく・・・。
ジャン・クリストフ』同様、作品で扱われる年月が非常に長いので、『魅せられたる魂』の読者は一つの人生を共に生きたかのような錯覚を覚えるかもしれない。
そしてそれこそが大河小説と呼ばれる長編作品の醍醐味の一つでもあるのだろうし、また、ジャン・クリストフのような偉人ではないにせよ、アンネットの生涯は共に生きるに値する輝かしいものであるようにも思うので、存分にその錯覚に陥っていただければと思う。

母国フランスから反感を受けてもなお執拗に反戦を訴え続けたロランが、第一次大戦に見舞われたフランスを描いている本作は、彼の思想を知りうる作品であるという側面から見てもとても興味深いものがある。
反戦や平和を主張するのが一般的となった社会に暮らす我々からすると、ロランの描く理想の一部はすでにやや古くなったように感じられるかもしれないが、それだけいっそう彼の思想が受け入れやすい時代になったともいえる。
日本に憎しみに彩られた狂熱の時代が再来するかどうかは知る由もないが、一人でも多くの人が『魅せられたる魂』を知っていれば、その熱狂の度合いもいくらかましになるはずだ、こう考えるのは、あまりにも楽天的にすぎるだろうか。

『魅せられたる魂』は、作家の理想の反映された作品を好まない方には不向きかもしれない。
そうはいっても、悲しみに耐え、自らの信じるところを曲げず、「魅せられたる魂」を持つ強きヒロインであるアンネットに、多くの読者が魅せられてしまうのもまた事実だろう。
読む者の魂を震わす大作を求めている方を裏切ることのない『魅せられたる魂』、時間を見つけてぜひ読んでみていただきたい作品だ。

『ベートーヴェンの生涯』 ロマン・ロラン(岩波文庫)

ベートーヴェンの生涯 (岩波文庫)ベートーヴェンの生涯 (岩波文庫)
(1965/04/16)
ロマン・ロラン

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書名:ベートーヴェンの生涯
著者:ロマン・ロラン
訳者:片山 敏彦
出版社:岩波書店
ページ数:200

おすすめ度:★★★★




偉大な芸術家の伝記を数多く残しているロランだが、その中で最も知られ、ロランの代表作の一つにも数えられているのがこの『ベートーヴェンの生涯』である。
音楽史の講師となったという経歴を持つロランだけあり、音楽家に対しては並の作家以上の知識を持っていたので、この作品にもそれが存分に生かされているといえるだろう。
音楽家の生涯を描いたロランの代表作『ジャン・クリストフ』との関連が言及されることも多く、ロランに関心のある方はぜひ読んでみていただきたい一冊だ。

『ベートーヴェンの生涯』の記述は、全体にいかにもロランらしい焦点の絞り方をしている。
苦悩し、創造し、褒められ、けなされ、そしてまた新たな創造へと赴く・・・そんな芸術家の姿が浮き彫りにされている。
世間が思い描く毅然たる芸術家像と重複するエピソードが多く、本書を読めば、誰もがその名を知るベートーヴェンに対する賞賛の念が、よりいっそう強まるはずである。

文庫本、なおかつ解説を含めて200ページと、とても手頃な文章量にまとまっているので手に取りやすい作品だが、決して短命というわけではなかったベートーヴェンの伝記として読むのであれば、少々物足りなさが感じられるかもしれない。
なにしろ対象となる人物が生前から偉大な音楽家として高い評価を得ていたベートーヴェンであるから、伝記的事実に事欠くことはないのである。
他の長編伝記作品と比べれば、ロランのそれは断片的な継ぎはぎに思われても仕方ないことだろう。
また、ベートーヴェンの偉大な面を強調しすぎたとして、公平さを欠くという批判もできるだろう。
とはいえ、偉大な芸術家の偉大な精神を現前させようというロランの目的に沿って構成されている本書を、その同じ目的を持って読むのであれば、これに勝る書き方はなかったのではなかろうかと思えるほど、本書は素晴らしい出来の作品である。
そういう意味では、ベートーヴェンに強い関心を抱いている読者向けというよりは、ベートーヴェンのことをあまり知らない方に向いているのかもしれない。

『ミケランジェロの生涯』 ロマン・ロラン(岩波文庫)

ミケランジェロの生涯 (岩波文庫 赤 556-3)ミケランジェロの生涯 (岩波文庫 赤 556-3)
(1963/02/16)
ロマン・ロラン

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書名:ミケランジェロの生涯
著者:ロマン・ロラン
訳者:高田 博厚
出版社:岩波書店
ページ数:214

おすすめ度:★★★★




ロマン・ロランによる、数ある伝記作品の一つである『ミケランジェロの生涯』。
「最後の審判」や「ダビデ」はもちろん、「ピエタ」や「モーセ」などの傑作で知られ、ルネサンス三大巨匠の一人であるとされるミケランジェロの、一般にあまり知られていない意外な側面が明らかにされる本書は、西洋美術に興味のある方であれば必ずや楽しめることだろう。
あまり厚くない文庫本という手頃さに加え、内容にも小難しいところがないので、気軽にお読みいただけるものと思う。

筋肉質でたくましい人物像を創造したことで知られるミケランジェロだけに、その神経も図太くたくましいのかと思いきや、『ミケランジェロの生涯』に描かれている芸術家の姿には、気丈さの感じられるエピソードの背後に潜む意外な繊細さ、そして言葉は悪いが意外な凡俗さをも多分に垣間見ることができるはずだ。
本書を通じて、世界最高の芸術家の一人と言われるミケランジェロにいささか失望を感じる読者がいても何ら不思議ではないが、読者はおそらく、あの高名なミケランジェロといえども、一人の芸術家である以前に一人の人間だったという素朴な事実に気付かされることだろう。
人間味あふれる彼があれらの卓越した絵画や彫刻を残したということに、むしろ心地よい驚きを覚えるべきなのかもしれない。

同じくロランの伝記作品である『ベートーヴェンの生涯』と同様、『ミケランジェロの生涯』がミケランジェロという芸術家の全貌を明らかにしているかというと、その点に関してはやはり否定的な答えをせざるをえない。
しかし、仮にいくらか一面的なとらえ方がされているとしても、それがミケランジェロという人間の性格の示す特徴的な、また大いに興味深い一面なのであれば、それはそれで見事なとらえ方と考えることができるのではなかろうか。
そういう意味では、本書は非常に成功しているように思われる。
『ミケランジェロの生涯』を楽しまれた方には、同じくロランの伝記作品である『ミレー』を読まれることをお勧めしたい。

『ミレー』 ロマン・ロラン(岩波文庫)

ミレー (岩波文庫)ミレー (岩波文庫)
(1991)
ロマン・ロラン

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書名:ミレー
著者:ロマン・ロラン
訳者:蛯原 徳夫
出版社:岩波書店
ページ数:171

おすすめ度:★★★★




芸術家の生涯を描いたロマン・ロランの自伝作品の一つである『ミレー』。
世間一般の評価からすると、ミケランジェロやベートーヴェンほどの大家とは思われていないはずのミレーだが、いざ自伝を紐解いてみれば、一人の芸術家として、苦悩と信念の間で揺れ動く様に読者は感動を覚え、ミレーに対する評価が上がることだろう。
今後ミレーの作品に触れる予定のある方は、ぜひこの『ミレー』を読んでから彼の作品を鑑賞してみてほしい。
心和ませる平和の中で制作されたかのような印象を受けるミレーの作品も、きっと見え方が大きく変わってくるに違いない。

農村風景を描いたことで有名な画家であるミレーだが、そんな彼も最初からバルビゾンで暮らしていたわけではない。
『ミレー』には、彼が送ったパリでのお金のない暮らし、都会の雑踏になじめないながらも自らの作風を模索する画家生活、そういったものが活写されている。
また、ミレーが画家として活躍していた時代が、マルクスに代表される社会主義の台頭してきた時代と重なったせいで、ミレーの作品は彼の意図しない解釈のされ方をすることもあったようだ。
文章量が少ないために、『ミレー』を通じてミレーの生涯を熟知することはかなわないが、読者が頭の中で大雑把にミレーの肖像を描くことはできるはずだ。

「晩鐘」、「落穂拾い」、「種まく人」など、日本でもよく知られた傑作を数多く残しているミレー。
バルビゾン派という一つのジャンルを代表する画家であり、ミレー自体も人気があるにもかかわらず、この岩波文庫版の『ミレー』はめったに再版されていないようだ。
ふと思い返してみれば、岩波書店のロゴにもミレーの「種まく人」が用いられていたのではなかったろうか。
それはそうと、新品での入手は難しいかもしれないが、図版も多数用いられている『ミレー』、とても読みやすいので安心してお勧めできる一冊だ。

『ピエールとリュース』 ロマン・ロラン(みすず書房)

ピエールとリュースピエールとリュース
(2006/05)
ロマン ロラン

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書名:ピエールとリュース
著者:ロマン・ロラン
訳者:宮本 正清
出版社:みすず書房
ページ数:124

おすすめ度:★★★★




ロマン・ロランの小説作品といえば『ジャン・クリストフ』と『魅せられたる魂』とに代表されるように長編作品のイメージが強いが、『ピエールとリュース』は100ページ少々の中編作品である。
平和論者として知られるロマン・ロランが戦争批判のために書いたという意図が透けて見える作品で、『ジャン・クリストフ』や『魅せられたる魂』といった長大な作品と比べれば当然ながら迫力や思想性には劣るものの、ノーベル賞作家であるロマン・ロランの手腕は十分に発揮されているように思う。

『ピエールとリュース』は、第一次世界大戦下のパリを舞台にしている。
ドイツ軍の空爆を受けている最中、ピエールとリュースという清い心を持った二人の男女が地下鉄で出会う。
その偶然の出会いをきっかけに、お互いに強く惹かれ始めるのだが、生贄を求めてやまない戦火は二人の間にも徐々に忍び寄ってきていた・・・。
個人的には結末部分が意外とあっさりとしていたような印象を受けたが、二人の交わす会話や時代背景を描き出す筆致はまさしくロマン・ロランらしいもので、戦争中という設定にも後押しされて非常に読み応えのある作品に仕上がっている。

いくらか乱暴な区分を行うとすれば、ロマン・ロランの作品は芸術家を主題にしたものと戦争を主題にしたものの二つに分類することができるように思うが、戦争ものである『ピエールとリュース』には、リュースが絵を描いて生計を立てていることから、ごくわずかながら芸術に関する部分もある。
また、主人公のピエールは『魅せられたる魂』の読者であればマルクを思い出させずにはいないのではなかろうか。
全般に『ピエールとリュース』はいかにもロマン・ロランの書いたものという作品となっているので、ロマン・ロランのファンであれば必ずや楽しめる一冊であると思われる。

細かい章立てのおかげで読みやすく、さらに作品世界を映し出す版画も各章の冒頭に掲載されているのですらすら読める。
数十年にわたり戦争のない平和な暮らしを享受している中、改めてロマン・ロランの反戦の訴えに耳を傾けてみてはいかがだろうか。

『トルストイの生涯』 ロマン・ロラン(岩波文庫)

トルストイの生涯 (岩波文庫)トルストイの生涯 (岩波文庫)
(1961/12/20)
ロマン ロラン

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書名:トルストイの生涯
著者:ロマン・ロラン
訳者:蛯原 徳夫
出版社:岩波書店
ページ数:289

おすすめ度:★★★★




真の芸術家を称えてやまなかった作家の代表格ともいえるロマン・ロランだが、そんな彼による、『ベートーヴェンの生涯』、『ミケランジェロの生涯』と並ぶ伝記作品がこの『トルストイの生涯』だ。
ロランによる注、訳者による解説を除けば、本文は220ページ程度と、決して長大な作品ではないため、トルストイの伝記的事実を網羅した作品であるとは言えないが、トルストイの作品や書簡からの豊富な引用を用いたロランならではのスタイルは本書にも顕著に表れていて、読者はまるでトルストイの肉声を聞いているかのような錯覚にすら陥りかねない。
たいていの読者は作家としてのトルストイ、作品に関係する範囲でのトルストイに関心があるように思うので、詳細な伝記的事実は他の作家による伝記に譲るとして、作家トルストイの素顔に迫るためには、彼の思想の根幹を垣間見ることのできるこの『トルストイの生涯』が最適の入門書となるのではなかろうか。

『トルストイの生涯』の章立ては、それが訳者による便宜上のものであるとはいえ、そのほとんどがトルストイの作品名となっており、文庫本にもなっているトルストイ作品の大半について言及されている。
戦争と平和』、『アンナ・カレーニナ』、『復活』といった有名長編作品はもちろん、『幼年時代』、『イワン・イリッチの死』、『クロイツェル・ソナタ』という章もあるという具合だ。
ただ、まれに作品の内容について、たとえば主要登場人物の行く末などについて明かしてしまう記述もあるので、これからトルストイの作品を読む予定で物語の筋などに触れられるのを好まれない方は、トルストイの作品を読んでから本書を手にした方がいいように思われる。

強いて『トルストイの生涯』の短所を述べるとすれば、生前手紙のやり取りをするなど、著者であるロマン・ロランとトルストイの間には個人的な交流もあったし、ロランがトルストイを師と仰いでいたという背景もあり、さほど批判精神を見出すことができないという点だろうが、一個の芸術家として自立した存在であるロランの書いたものだけに、追従たらたらといった作風では決してない。
あまり知られることのないトルストイの社会思想の概要をもつかむことができるし、作者ロランの気概もにじみ出ているので、トルストイもしくはロマン・ロランに関心のある方であれば必ずや多大な興味を持って読むことができる一冊だろう。

『愛と死との戯れ』 ロマン・ロラン(岩波文庫)

愛と死との戯れ (1960年) (岩波文庫)愛と死との戯れ (1960年) (岩波文庫)
(1960/01/05)
ロマン・ロラン

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書名:愛と死との戯れ
著者:ロマン・ロラン
訳者:片山 敏彦
出版社:岩波書店
ページ数:120

おすすめ度:★★★★




ロマン・ロランといえば、『ジャン・クリストフ』のような小説作品や、ミケランジェロやベートーヴェンなどの偉大な芸術家を扱った伝記作品を残していることで知られている作家だが、彼は同時に非常に多くの戯曲を物した作家でもあった。
『愛と死との戯れ』は、フランス革命をテーマに扱った連作劇の一つで、いかにもロランらしい、優れた人間性を称揚する作品となっている。
戯曲としての完成度に定評のある『愛と死との戯れ』を、彼の代表的な戯曲と言ってもいいのかもしれない。

『愛と死との戯れ』の舞台は、ロベスピエールが台頭し始めたころのパリ。
異を唱えた人間が次々とギロチンにかけられていく中、逮捕を免れて逃亡していたジロンド党の男の一人が、愛する女性ソフィーを一目見るために、血なまぐさい町と化したパリへと戻ってくる。
ソフィーもその逃亡者を愛しているのだが、彼女には夫がおり、その夫は革命議会に議席を持つ身である。
保身のための裏切りと密告が横行するパリで、二人の愛の行方は・・・。
第一次世界大戦が終結して間もない頃の観衆には、今日我々が紙面から汲み取るのとは一味違った切実さを帯びた感動を与えたに違いない。

『愛と死との戯れ』は、若き妻であるソフィー、彼女が敬愛する年老いた夫、彼女と相思相愛の間柄である若き男、これらの三人の主要人物から成る、俗な言葉でいうところの三角関係という構図を持っているため、物語の回転軸ともなるソフィーの心根の在り方が物語の展開を大きく左右することになる。
ソフィーが非難に値する女主人公かどうかは、各々の読者が作品を読み終えてから見極めてくれればと思う。

『愛と死との戯れ』は、現在アマゾンに新品の在庫こそないものの、中古品であればたいへん安く売られている。
全集を除けばロランの戯曲は翻訳が非常に少ないのが現状なので、ロランの戯曲に興味のある方は、値段も手頃なこの『愛と死との戯れ』から始めてみるのがいいのではなかろうか。

『獅子座の流星群』 ロマン・ロラン(岩波文庫)

獅子座の流星群 (1958年) (岩波文庫)獅子座の流星群 (1958年) (岩波文庫)
(1958)
ロマン・ロラン

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書名:獅子座の流星群
著者:ロマン・ロラン
訳者:片山 敏彦
出版社:岩波書店
ページ数:188

おすすめ度:★★★☆☆




ロマン・ロランの戯曲の中で、数少ない文庫本として翻訳されたものの一つがこの『獅子座の流星群』である。
愛と死との戯れ』と同様に、フランス革命を題材にした連作のうちの一編で、その終曲に当たる作品であるようだ。
連作中の他の作品との内容的な結びつきが強く、登場人物の重複や他作品中の出来事への言及もあるが、そこは訳注が補ってくれるので、他の作品を読まずに『獅子座の流星群』だけを手にしたところで、さほど支障はないに違いない。

スイスに亡命して肉体労働に従事しながら暮らしている老公爵とその息子である伯爵のもとに、同じくフランスを追われたジャコバン党員が、二人の子供を連れて逃れてくる。
しかし、公爵とそのジャコバン党員とは、政治上の抗争を経るのみならず、家族関係においても含むところのある、かつての仇敵同士だったのだ・・・。
おそらく年老いた二人の怨嗟に満ちたやり取りの推移が読みどころとなるであろうし、ロランが登場人物の口を通して語らせる、徐々に権力を掌握しつつあるナポレオンに対する評言も大いに興味深いものがある。

反戦と非暴力を主張してやまなかった平和論者ロランの手になる作品であることを考え合わせれば、非常にロランらしい作品である『獅子座の流星群』の展開はおろか、その終幕に至るまで、読者が意外な感に打たれることは少ないはずだ。
それにもかかわらず『獅子座の流星群』が読者を楽しませることができるのは、主題の不滅の美しさによるのではなかろうか。

出版年が古く、しばしば今日では常用とは思えない漢字に出くわすこともあるが、ロランとも交友のあった片山氏の翻訳は概ねとても読みやすいものであると言えると思う。
「ロマン・ロランと劇芸術」と題された解説も充実しているので、ロランの戯曲に関心のある方ならば、ぜひ『愛と死との戯れ』と合わせて本書を読んでみていただきたい。

『マハトマ・ガンジー』 ロマン・ロラン(みすず書房)

マハトマ・ガンジー (1970年)マハトマ・ガンジー (1970年)
(1970)
ロマン・ロラン

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書名:マハトマ・ガンジー
著者:ロマン・ロラン
訳者:宮本 正清
出版社:みすず書房
ページ数:96

おすすめ度:★★★☆☆




ロマン・ロランが物した、自身と同時代に異国の地で活躍した偉人の活動の記録が、この『マハトマ・ガンジー』である。
ガンジーといえば、世界史の教科書にその名が漏れることはありえないほどの著名人であるにもかかわらず、彼の活動の実情についてはあまり知られていないのではなかろうか。
本書を紐解けば、ガンジーは数々の偉大な魂の伝記を残しているロランが強く引き付けられるだけのことはある偉大な人間だと、改めて認識させられるに違いない。
いくらか批判的な文言が添えられてはいるものの、暴力に反対し続けた平和論者のロマン・ロランが、ガンジーの選んだ非暴力を基礎にした抵抗運動に尊崇の念を抱いたこともうなずけるはずだ。

活動家という語には到底収まりきらないスケールを持つ偉人であるガンジーは、ある意味では政治家でもあり、宗教家と呼ぶことさえできるのだろうが、その肩書きにいかなるものを選んだところで、ロランがそれまで取り扱ってきた芸術家たちの伝記作品、たとえば『ミケランジェロの生涯』、『トルストイの生涯』などのように、主要な作品に順々に焦点を当てていくことで対象となる人物の生涯と思想を描き出すことは、芸術家ではないガンジーの場合、不可能な方法となる。
そこで本書『マハトマ・ガンジー』は、ガンジーの言葉を借りながら、もっぱらガンジーの思想と実践についての記述が連なることとなるが、ガンジーに関心のある読者が知りたいと思うのもまさにその点にあるのではなかろうか。
ガンジーが生涯を閉じる前に、彼の活動が継続している最中に発表された著作であるため、ガンジーの伝記として読むには欠けている部分が多いのは否めないが、インドの問題が過去の出来事になる以前に書かれたヴィヴィッドな作品としての魅力は十二分に備えているとも言えるだろう。

『マハトマ・ガンジー』は現在とても希少な本となっていて、アマゾンで売られている中古のものも決して手頃な価格ではないものの、ロランやガンジーに強い関心を持っておられる方は大いに興味深く読めるはずだ。
トルストイからの影響の少なくなかったガンジーだけに、『マハトマ・ガンジー』の読者には同じくロランの手になる伝記作品『トルストイの生涯』をお勧めしたい。
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