『サキ傑作集』 サキ(岩波文庫)

サキ傑作集 (岩波文庫 赤 261-1)サキ傑作集 (岩波文庫 赤 261-1)
(1981/11/16)
サキ

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書名:サキ傑作集
著者:サキ
訳者:河田 智雄
出版社:岩波書店
ページ数:206

おすすめ度:★★★★★




優れた短編作家として知られるサキの有名作品を集めたのがこの『サキ傑作集』である。
読みやすい上に面白い作品を数多く残しているにもかかわらず、日本での知名度はなぜかいまひとつの作家であるが、サキはO・ヘンリーに比せられる短編の名手でもある。
ポーやモーパッサンの流れを汲む、いわゆる落ちのあるストーリーの作家としては、一つ一つの作品が短くまとまっていることもあり、自信を持ってお勧めできるのがサキだ。
サキの短編集は他の出版社からも文庫本としていくつか出されているが、収録作品の内容からいうとこの岩波文庫版が最も優れているのではなかろうか。

『サキ傑作集』には、『アン夫人の沈黙』、『狼少年』、『開いた窓』、『スレドニ・ヴァシュター』など、サキの代表作を含む全21編が収録されている。
冷笑を誘う独特なユーモアセンス、ちくりと刺さる風刺のとげの心地よさ、物語の筋を前面に押し出した簡潔きわまるサキの文体、これらの虜となる読者も少なからずいることだろう。
サキ短編集 (新潮文庫)サキ短編集 (新潮文庫)
(1958/02)
サキ

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読みやすさと面白さをその特徴としている作家だけに、私のようにサキの他の作品をもっと読みたいと思われる読者も出てくるに違いない。
右は新潮文庫の『サキ短編集』で、岩波文庫の『サキ傑作集』との重複が多いとはいえ、『平和的玩具』、『ビザンチン風オムレツ』など、こちらも大いにサキらしい作品が集められている。
岩波文庫のほうと違い、新品での入手も可能なので、こちらも合わせてお勧めしたい。

夭折というほどではないにせよ、サキは四十代の半ばに第一次世界大戦の犠牲となっており、サキの作品を楽しむ読者からすると個性の強い作家の早すぎる死が悔やまれてならないところだ。
しかし、短編作家としての巧みな手腕を感じさせるサキの作品は、O・ヘンリーのそれと共に、これからも末永く生きながらえていくことだろう。
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『レジナルド』 サキ(サキ・コレクション)

レジナルド (サキ・コレクション)レジナルド (サキ・コレクション)

書名:レジナルド
著者:サキ
訳者:井伊 順彦、渡辺 育子 他
出版社:風濤社
ページ数:187

おすすめ度:★★★★★




短編の名手として知られるサキの短編作品のうち、皮肉な厭世家であるレジナルドを主人公とするものを集めたのが本書『レジナルド』である。
明確な落ちのついたストーリーばかりというわけではないが、サキならではのブラックユーモアはサキのファンを心行くまで楽しませてくれるに違いない。

イギリス上流社会の異端児であるレジナルド。
一般的な尺度で言えば、レジナルドはたいていの物事に難癖をつけるひねくれ者であり、現実社会においては彼のような人物を友人にしたくないという人も多いかもしれないが、文学作品の主人公としての興味深さはトップクラスであるように思う。
彼の生い立ちに関する情報や彼にまつわるエピソードは断片的でしかないものの、それでも対話や独白から汲み取ることのできる彼の性格は大いに注目に値すると言えるものであろう。

『レジナルド』の収録作品には時事問題を扱った皮肉もいくつか見られるが、本書では丁寧な訳注がそれらの意味合いを補ってくれるので、100年以上の時を経た今日の読者にもそのニュアンスが把握できるようになっている。
また、本書では挿絵も豊富に用いられているが、ストーリーとの直接的な連関に乏しく、表紙を見てもわかるようにそれらの挿絵は少々グロテスクな雰囲気を帯びているために、案外好き嫌いが分かれてしまうかもしれない。

これまでレジナルドを主人公にしている作品はあまり翻訳紹介されてこなかったようだ。
それらを個別に読んでも、レジナルド像がはっきりしてこないので物足りない結果となってしまうのは事実であるし、それらを集約することで楽しみが大幅に増すことは間違いない。
そういう意味でも、本書『レジナルド』はサキのファンには待望の一冊であったと言えるのではなかろうか。

『クローヴィス物語』 サキ(白水Uブックス)

クローヴィス物語 (白水Uブックス)クローヴィス物語 (白水Uブックス)

書名:クローヴィス物語
著者:サキ
訳者:和爾 桃子
出版社:白水社
ページ数:270

おすすめ度:★★★★★




『クローヴィス物語』は、生前に出された数少ないサキの短編集の一つである。
日本で出されているサキの短編集は傑作選として編まれたものが大半である中で、『クローヴィス物語』のような一つの短編集を完訳するというのは珍しいことでもある。
そういう意味では、サキのファンに歓迎されることが必至の本であるといえるのではなかろうか。

『クローヴィス物語』には、『トバモリー』や『スレドニ・ヴァシュタール』といったサキの代表的な作品を含む28編の短編作品が収録されている。
表題になっているクローヴィスとは、本書収録作品の多くに顔を出している生意気で毒舌家の青年である。
常識的に評価すれば、クローヴィスは好感の持てない奴でしかないのだが、彼の発するとげのある発言や、退屈しのぎに行ういたずらなどが小説世界に組み込まれると、途端に読者を強く魅了することとなるのだから不思議なものだ。
言うまでもないことだが、読者の皆様は決して彼の真似をしないほうがいいだろう。
レジナルド (サキ・コレクション)レジナルド (サキ・コレクション)

『クローヴィス物語』の読者には、同じくサキの短編集『レジナルド』もお勧めしたい。
レジナルドとクローヴィスの二人は、似ているようで相違点も多く、比較して読むには互いに格好の存在となっているに違いない。
ただし、彼らが放つ皮肉は必ずしも平易なものばかりではないので、読者の側にもそれを読み解く一定の力が必要となるかもしれない。

名作揃いの『クローヴィス物語』であるだけに、岩波文庫の『サキ傑作集』などですでにサキの作品に触れたことがある方であれば、本書の中に見知った作品をいくつも見出すことだろう。
しかし、編者が取捨選択した短編集で読んでいる限りは、サキが編んだとおりに観賞することができないという物足りなさが常につきまとってしまうものだが、その点、本書には出版されたとおりのものが読めるという他にはないメリットがある。
いかに収録作品の重複があろうと、サキに関心のあるすべての方にお勧めしたい一冊だ。

『四角い卵』 サキ(サキ・コレクション)

四角い卵 (サキ・コレクション)四角い卵 (サキ・コレクション)

書名:四角い卵
著者:サキ
訳者:井伊 順彦、今村 楯夫 他
出版社:風濤社
ページ数:187

おすすめ度:★★★★




レジナルド』に引き続き、風濤社から出されたサキ・コレクションの二冊目が本書『四角い卵』である。
本書にはサキ後期作品が収録されており、大半は死後出版となった短編集である『平和の玩具』と『四角い卵』から選ばれている。
訳文のうまさが感じ取れるような仕上がりだとなおありがたいというのが正直なところではあるが、サキの作品の面白さが十分伝わってくるのは間違いないだろう。

本書には『四角い卵』を含む12の短編作品が収められていて、その中に短編小説とは言えないエッセイも含まれているのが特徴的である。
一冊の本として、『レジナルド』のような統一感はないが、『ミセス・ペンサビーは特例』や『祝典式次第』といった作品を通じて、読者はサキならではの女性観に裏打ちされたブラックユーモアに出会うのはもちろん、戦争を背景とする『四角い卵』や『西部戦線の鳥たち』では一抹の悲壮感にさえ遭遇することになる。

本書の収録作品のうち、『平和の玩具』から選ばれた作品はこれまで通りのサキといった感じがするが、『四角い卵』から選ばれた収録作品には、全体的にやや政治色が濃いという傾向が見られる。
サキの作風にも当然ながら第一次世界大戦が影を落としているということなのだろう。
一兵卒としてフランス戦線に赴き、そしてそこでサキが戦死したという事実を知ってしまうと、戦争を背景とする作品の持つ重みが読者の心にずしりと伝わる。
そんな気がするのは私だけではないはずだ。

本書『四角い卵』の特徴は、先ほども述べたように収録作品の与える印象の幅広さだと思う。
いささか玄人向けの気がしないでもないので、サキを知らない読者が『四角い卵』からサキを読み始めるよりは、『サキ傑作集』、『クローヴィス物語』などを経て最終的に『四角い卵』にたどり着くように順を追って読み進めることをお勧めしたい。

『ザ・ベスト・オブ・サキ』 サキ(ちくま文庫)

ザ・ベスト・オブ・サキ〈1〉 (ちくま文庫)ザ・ベスト・オブ・サキ〈1〉 (ちくま文庫)ザ・ベスト・オブ・サキ〈2〉 (ちくま文庫)ザ・ベスト・オブ・サキ〈2〉 (ちくま文庫)

書名:ザ・ベスト・オブ・サキ
著者:サキ
訳者:中西 秀男
出版社:筑摩書房
ページ数:384(1)、360(2)

おすすめ度:★★★★★




短編小説の名手として高い評価を受けているサキの短編作品のベスト版ともいうべき本がこの『ザ・ベスト・オブ・サキ』である。
そのいささか大胆なタイトルにも決して負けることのない内容を伴っており、サキを初めて読む人にもサキをよく知るファンの方にもどちらにもお勧めできる本になっているように思う。

本書には『アン夫人の寡黙』、『ガブリエル―アーネスト』、『トバモリー』、『スレドニ・ヴァシュター』といった初期作品の有名どころは当然ながら収録されているし、後期作品も主要なものはほとんど押さえられている。
中にはある作品を取りこぼしていると感じる向きもあろうが、2冊で計700ページを超えている本書の場合、それが非常に少ないことだけは間違いない。
サキのような軽妙な作品を書く作家の場合、訳文におけるセンスの良し悪しも大いに重要視されるだろうが、本書の訳文は読みやすいだけでなく、サキの鋭さもよく伝わってくるものとなっていて、その点も問題はないように感じられる。

サキの短編を網羅している観のある『ザ・ベスト・オブ・サキ』に取りこぼしがあるとすれば、舌鋒鋭いニヒリストであるレジナルドの登場する作品群であろうか。
サキが短編作品の中で創造した人物において、クローヴィスに次いで興味深い存在であるのはおそらくレジナルドであろうが、そんな彼の機知を楽しみたい方には、レジナルドの活躍する作品を集めた単行本である『レジナルド』を併せて読まれることをお勧めしたい。

文庫本で言うと、岩波文庫からは『サキ傑作選』が、新潮文庫からは『サキ短編集』が出されていて、それぞれ確実にサキのファンを獲得していたに違いないが、それらの本では紙幅の都合もあってさほど多くの作品が紹介されていなかった。
その点、ちくま文庫の『ザ・ベスト・オブ・サキ』となると、流通量の少なさが大の欠点ではあるものの、サキの作品、それも特に優れたものを数多く読みたいという読者を必ず満足させることができるのではなかろうか。
サキの放つ皮肉、揶揄、いたずらなどのベストな部分を思う存分楽しんでいただければと思う。

『けだものと超けだもの』 サキ(白水Uブックス)

けだものと超けだもの (白水Uブックス)けだものと超けだもの (白水Uブックス)

書名:けだものと超けだもの
著者:サキ
訳者:和爾 桃子
出版社:白水社
ページ数:296

おすすめ度:★★★★★




クローヴィス物語』に続き、サキが生前に出版した代表的な短編集である『けだものと超けだもの』の全訳が本書である。
いろいろな種類の諧謔的ジョークやブラックユーモアに満ちたいかにもサキらしい作品集で、これを読んでサキを好きになれなければサキの作風は合わないと判断してもいいほど、典型的なサキの短編集と言えるのではないかと思う。

本書の収録作品には、幽霊や魔術といった超常現象をテーマとするもの、クローヴィスを主人公に据えたもの、社交生活におけるいたずらまがいのものなど、サキらしい主題の作品が絶妙に入り混じっている。
サキならではの毒のある機知があまりに心地よくて、本書を一気に読み通してしまう読者がいても何ら驚くことではないと思う。

本書のタイトルは、言うまでもないかもしれないが、バーナード・ショーの代表作である『人と超人』のパロディとなっている。
単にそれぞれの作品を味わうだけではなく、一歩進んだ鑑賞をしたいという方は、『けだものと超けだもの』というタイトルの持つ意味のみならず、そのパロディの意味を考察してみるのも面白いのではなかろうか。

サキの代表的な短編作品を多数収録している『けだものと超けだもの』からは、サキの選集を編む際に必然的に多くの作品が選ばれることになる。
そして事実、ちくま文庫の『ザ・ベスト・オブ・サキ』の読者にとっては、本書には目新しい短編作品は2編しかないという状況になってしまっている。
しかし、そのことこそが本書の収録作品の質の良さの証拠でもあるわけなので、これからサキを読み始めようという読者には、選集を手にするよりはむしろ『クローヴィス物語』と本書『けだものと超けだもの』から始めてみることをお勧めしたい。
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