『サロメ』 オスカー・ワイルド(岩波文庫)

サロメ (岩波文庫)サロメ (岩波文庫)
(2000/05/16)
ワイルド

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書名:サロメ
著者:オスカー・ワイルド
訳者:福田 恒存
出版社:岩波文庫
ページ数:104

おすすめ度:★★★★★




小説、戯曲、童話に詩集と、幅広いジャンルに優れた作品を残したワイルドだが、そんな彼の代表的な戯曲がこの『サロメ』だ。
話の筋自体はワイルドの創作によるものではなく、カラヴァッジョやギュスターヴ・モローなど、多くの画家に題材を与えてきた、聖書に由来するあのサロメの物語を下敷きにしたものである。
一つの戯曲としては非常に短いものとなっているが、衝撃性のあるストーリーがそれを補って余りあるインパクトを読者に与えることだろう。
ビアズリー『サロメ』
サロメといえば、「舞」と「首」というイメージを抱いている人も少なくないはずだ。
本書『サロメ』においても、ワイルドがそれらをどう扱うのかが読者の関心の的となるだろうが、意外にもそれらの印象はさほど強くない。
『サロメ』は舞台での上演を念頭に置いて書かれた作品なので、それらのイメージをどのように現出させるのかは演出家の腕の見せ所となるにせよ、本で読む上ではその作業がすべて読者の想像力にかかっているといえよう。
そういう意味では、それぞれの読者が理想的なサロメを思い描くことができる読書の場合の方が、いっそう妖艶な雰囲気を味わえるのかもしれない。

ワイルドの代表作の一つにもなっている『サロメ』には他の出版社からも文庫版が出されているが、右に一例を示すように、独特の鋭さと優雅なふくらみとを巧みに用いた鬼才、オーブリー・ビアズリーの挿絵が多数挿入されているのが岩波文庫版の最大の特長だ。
ワイルド自身はビアズリーの作風が『サロメ』に合致しないと考え、あまり気に入ってはいなかったというエピソードも残っているが、緩急の激しいビアズリーの独特の線描は、一度見てしまうと読者の記憶に焼き付けられずにはいないだろう。
個人的には、岩波文庫版がビアズリーという魅惑的な華を添えることで『サロメ』の帯びる怪しげで危険な香りを最大限に引き出しているように思うので、『サロメ』は岩波文庫で読むことをお勧めしたい。

退廃的な時代を象徴するかのような作家ワイルドと、夭折した画家ビアズリーの魅力の交錯した岩波文庫版『サロメ』。
数時間で終わる薄い本なので、長編が苦手な方も、ぜひ手にしてみていただきたい一冊だ。
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『ドリアン・グレイの肖像』 オスカー・ワイルド(新潮文庫)

ドリアン・グレイの肖像 (新潮文庫)ドリアン・グレイの肖像 (新潮文庫)
(1962/04)
オスカー ワイルド

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書名:ドリアン・グレイの肖像
著者:オスカー・ワイルド
訳者:福田 恒存
出版社:新潮社
ページ数:428

おすすめ度:★★★★★




詩や童話、短編など、短い作品の執筆が多かったワイルドにとって唯一の長編小説であり、ワイルドの代表的な作品としても知られる『ドリアン・グレイの肖像』。
原題は"The Picture of Dorian Gray"で、『ドリアン・グレイの画像』という訳題もあるが、本書における"The Picture"が指し示すものはドリアンの肖像画であり、また、「画像」と聞くと写真のイメージが先行してしまいがちにも思われるので、訳語としては「肖像」の方がスマートではないかと思う。
いずれにしても、『ドリアン・グレイの肖像』が読み応えのある作品であることには変わりなく、ワイルドの作品の中では『サロメ』と並び、ぜひ読んでみていただきたい作品だ。

耽美的、享楽的な生き方を肯定し、それを実践する美貌の青年、ドリアン・グレイ。
彼の放縦な生活は彼の若さ、すなわちその美貌に支えられるところ大であるが、そんな彼の美貌もいつかは衰えるのだろう。
若く美しい頃に描かせた肖像画と比べてみれば、その差は歴然となってくるに違いない・・・。
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(2010/06/25)
ショーン・コネリー、スチュアート・タウンゼント 他

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右は、ショーン・コネリー主演の映画『リーグ・オブ・レジェンド/時空を超えた戦い』である。
ジキル博士、トム・ソーヤー、ネモ船長など、文学史における有名なキャラクターを一堂に集めた、いわゆるオールスター風の作品だが、その中にドリアン・グレイも登場している。
この映画の中におけるドリアンが、必ずしも『ドリアン・グレイの肖像』に忠実な性格付けがなされているわけではいにしろ、ワイルドが小説を発表したおよそ百年後に、一人のヒーローとして映画に登場するドリアン・グレイの立ち居振る舞いは、『ドリアン・グレイの肖像』の読者には大いに興味深いものではなかろうか。

クライマックスの盛り上がりに長けた『ドリアン・グレイの肖像』は、それ自体が何度も映画化されていることからも、今日でもなお英米圏での知名度や人気度が高い文学作品の一つなのだろう。
事実、『ドリアン・グレイの肖像』には、初めて読む方は言うまでもなく、話の筋を熟知している読者をも再度魅了するだけの不思議な力が秘められている。
ひょっとすると、ドリアンの肖像がいかに変容しようとも、『ドリアン・グレイの肖像』は古びることがないのかもしれない。

『幸福な王子―ワイルド童話全集』 オスカー・ワイルド(新潮文庫)

幸福な王子―ワイルド童話全集 (新潮文庫)幸福な王子―ワイルド童話全集 (新潮文庫)
(1968/01)
オスカー ワイルド

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書名:幸福な王子―ワイルド童話全集
著者:オスカー・ワイルド
訳者:西村 孝次
出版社:新潮社
ページ数:275

おすすめ度:★★★★




複数の文学ジャンルに手を染めていたワイルドは、童話もいくつか物しており、それらを集めた童話集がこの『幸福な王子―ワイルド童話全集』である。
ワイルドというと『サロメ』や『ドリアン・グレイの肖像』が有名で、中には彼が童話を書いていたことを知らない方もいるかもしれないが、『幸福な王子』の物語自体は日本でもよく知られたものの一つで、作者の名前や物語のタイトルをほとんど気にかけなかった子供の頃に、それと知らずに読んでいた方もおられるかもしれない。

『幸福な王子―ワイルド童話全集』は、表題作のほかに、『ナイチンゲールとばらの花』や『わがままな大男』など、全九編を収めている。
ワイルドが童話作品のみによって知られている作家でないため、彼の童話に接する読者はどうしても他の作品との関連付けや、各々の童話の秘める寓意性などを探ってしまいがちだが、いずれの収録作品も、童心に返ってストレートな読み方をしても十分楽しめることだろう。
とはいえ、裏の意味を考えあぐねるという楽しみもまた捨てがたい読み方の一つではあるのだが。

児童向けに出版されている『幸福の王子』は、ワイルドが書いたものを編集したものが多いらしい。
逐一確認したわけではないから、中にはワイルドが発表した通りを訳出したものもあるのかもしれないが、何年か前にグリム童話の真の残酷さが話題になっていたように、子供向けの本はそれが仮に短い童話であっても、何かしらの考えの下で削除や編集の施されることが多々あるのだろう。
そういう意味では、ワイルドの書いたままを訳出したこの『幸福な王子―ワイルド童話全集』は、大人向けの童話集であると言うことができるはずだ。

『幸福な王子』が物語としていかによくできているとはいっても、やはり童話であることには変わりなく、読者を強く感動させるほどの衝撃性は望めないが、読み物としての読みやすさや楽しさはいかなる読書家にも否定できないことだろう。
電車の中やちょっとした空き時間にも気軽に読める本として、老若男女を問わずお勧めしたい一冊だ。

『サロメ・ウィンダミア卿夫人の扇』 オスカー・ワイルド(新潮文庫)

サロメ・ウィンダミア卿夫人の扇 (新潮文庫)サロメ・ウィンダミア卿夫人の扇 (新潮文庫)
(1953/04/10)
オスカー ワイルド

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書名:サロメ・ウィンダミア卿夫人の扇
著者:オスカー・ワイルド
訳者:西村 孝次
出版社:新潮社
ページ数:355

おすすめ度:★★★★★




表題作である『サロメ』と『ウィンダミア卿夫人の扇』に加え、『まじめが肝心』をも収録した本書は、ワイルドの戯曲大全と言ってもいいほど内容が充実している。
決して戯曲作品の数が多いわけではないワイルドだが、彼の作品から代表的なものを三つ選ぶとしたら、おそらくこの選択になることだろう。
戯曲家としてのワイルドの魅力を堪能することのできるいわばベスト版なので、あまりワイルドに興味のない方も、ぜひ一度読んでみていただければと思う。

『ウィンダミア卿夫人の扇』と『まじめが肝心』は、ジャンルとしてはいずれも喜劇に分類されており、ちょっとした行き違いが愉快な事態へと発展していく『まじめが肝心』のほうは、特に滑稽味が強い作品だ。
「まじめであること」の義である"Being Earnest"が、登場人物のアーネストの存在と重なるという面白みのある作品なので、そこを意識して読めばいっそう滑稽に感じられることだろう。
その一方で、上流家庭の秘密を扱った『ウィンダミア卿夫人の扇』の終幕には、笑って済ますことのできない独特の味わいがある。
どちらの作品も、通俗的と言ってしまえばそれまでなのかもしれないが、構成が整っているのはもちろん、小道具を巧みに用いたり、語呂合わせで面白みを加味したりと、戯曲家としてのワイルドの手腕が存分に発揮された見事な作品に仕上がっているのは事実であり、一度原作を読めば、これらの作品が21世紀に入ってもなおしばしば映像化されたり上演されたりしていることにもうなずけるはずだ。

サロメ』に関しては、オーブリー・ビアズリーの挿絵を楽しむことができる岩波文庫版をお勧めしたい気持ちもあるのだが、同時に『ウィンダミア卿夫人の扇』と『まじめが肝心』を読むことのできる新潮文庫版も、非常に魅力的な選択肢ではあるはずだ。
ビアズリーを楽しむことこそできないが、訳文の読みやすさなどから言えば、新潮文庫版に軍配が上がるのかもしれない。
いずれにしても、傑作三編を収めたこの一冊は読み応えがあること疑いなしだ。

『理想の結婚』 オスカー・ワイルド(角川文庫)

理想の結婚 (角川文庫)理想の結婚 (角川文庫)
(2000/02)
オスカー ワイルド

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書名:理想の結婚
著者:オスカー・ワイルド
訳者:厨川 圭子
出版社:角川書店
ページ数:188

おすすめ度:★★★★




ウィンダミア卿夫人の扇』や『まじめが肝心』と並び、ワイルドの四大喜劇の一つに数えられるのがこの『理想の結婚』である。
上流社会を舞台に描かれている点は非常にワイルドらしく、簡潔でいて面白い台詞回しや筋の運びなどに、ワイルドの機知とテクニックを感じさせる作品だ。

多くの喜劇作品と同様、『理想の結婚』も夫婦問題が主軸となっている。
若くして出世し、素晴らしい妻を持つという、順風満帆そうに見える夫だったが、とある秘密が頭をもたげてきて・・・。
華やかな上流家庭の影となっている部分を叩けばスキャンダラスな埃が舞い上がるという基本的な構図、さらにはおかしみだけではなくペーソスをもたたえた作風は、どこか『ウィンダミア卿夫人の扇』に似ている。
そしてすっきりとまとまった構成やストーリー運びのテンポの良さなどは、『ウィンダミア卿夫人の扇』に匹敵するとも言えるだろう。
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(2000/09/22)
ケイト・ブランシェット、ミニー・ドライヴァー 他

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本書の原題は"An Ideal Husband"であり、『理想の夫』と訳されるのが普通であるが、『理想の結婚』という邦題となった右の映画化作品を受け、本書の表題も『理想の結婚』とされている。
映画が先に出たことで本のタイトルまで操作されたような感は否めないが、むしろ映画が先行したからこそ、本書がその原作本として出版されたという背景を喜ぶべきなのかもしれない。
ケイト・ブランシェットやジュリアン・ムーアといった実力派の俳優陣によって演じられている映画『理想の結婚』は評判もよく、ワイルドのファンであれば一見の価値ある映画であろう。

映画化されていることからもわかるように、『理想の結婚』のストーリーの面白さには読者を感心させずにはいないものがある。
比較的最近出版された文庫本であるにもかかわらず、現在アマゾンでは中古品しか出回っておらず、新品は入手しにくいのが現状であるが、ワイルドの戯曲に関心のある方はぜひ『ウィンダミア卿夫人の扇』と合わせて『理想の結婚』を読んでみていただきたいと思う。

『アーサー・サヴィル卿の犯罪』 オスカー・ワイルド(バベルの図書館 6)

アーサー・サヴィル卿の犯罪 (バベルの図書館 6)アーサー・サヴィル卿の犯罪 (バベルの図書館 6)
(1988/07)
オスカー・ワイルド

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書名:アーサー・サヴィル卿の犯罪
著者:オスカー・ワイルド
訳者:矢川 澄子、小野 協一
出版社:国書刊行会
ページ数:182

おすすめ度:★★★★




ホルヘ・ルイス・ボルヘスによって編纂されたバベルの図書館シリーズの一冊が本書『アーサー・サヴィル卿の犯罪』だ。
表題作の他に『カンタヴィルの幽霊』、『幸せの王子』、『ナイチンゲールと薔薇』、『わがままな大男』を収録しており、ラインナップとしては非常に充実しているといえるだろう。
後者三点に関しては大いに普及している新潮文庫の『幸福な王子―ワイルド童話全集』に収められているが、『アーサー・サヴィル卿の犯罪』と『カンタヴィルの幽霊』はというと、いずれもワイルドの怪奇趣味とユーモアセンスを感じ取ることのできる佳作であるにもかかわらず、あまり接する機会の多くない作品なので、本書はワイルドの作品集としては貴重な一冊であるように思う。

タイトルを一見すると推理小説かのような印象を受ける『アーサー・サヴィル卿の犯罪』だが、「義務の研究」という副題を付されている本作はそれほどストレートなものではない。
軽妙でありつつも奥行きを感じさせるという作風は、いかにもワイルドらしいと言えるのではなかろうか。
オスカーワイルドのカンタベリー城と秘密の扉 [DVD]オスカーワイルドのカンタベリー城と秘密の扉 [DVD]
(2005/12/02)
アンドレアス・シュミット、マルティン・クルツ 他

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一風変わった幽霊譚である『カンタヴィルの幽霊』も、一度読んだら忘れられない非常に印象的な作品である。
右は『カンタヴィルの幽霊』を原作とするドイツの映画作品、『オスカーワイルドのカンタベリー城と秘密の扉』だ。
タイトルのみならず、登場人物や物語展開にも大きく手が加えられていて、原作はせいぜいインスピレーション源という程度であるようにも感じられるが、その割に堂々と「オスカーワイルドの」と名乗っているのは、私のようなワイルドに興味を持つ人間を引き付けようとしてのことだろうか。
いずれにせよ、ジャケットからも予想されるとおりの少年少女向けの冒険物語に仕上がっているためにとても気楽に楽しむことができ、「オスカーワイルドの」という文句に釣られてみるのも悪くないように思う。

作品数自体がそう多くないとはいえ、ワイルドの作品からわずか数点を選び出し、紙幅の限られた一冊の本に編むにあたって、ボルヘスの選択に間違いはなかったと本書の読者なら実感できるはずだ。
新品での入手は望めない本ではあるが、ワイルドのファンはもちろん、ボルヘスの趣味も色濃く反映されているのでボルヘスのファンにもお勧めしたい一冊だ。

『W・H氏の肖像』 オスカー・ワイルド(プラネタリー・クラシクス)

W・H氏の肖像 (プラネタリー・クラシクス)W・H氏の肖像 (プラネタリー・クラシクス)
(1989/09)
オスカー ワイルド

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書名:W・H氏の肖像
著者:オスカー・ワイルド
訳者:井村 君江
出版社:工作舎
ページ数:235

おすすめ度:★★★☆☆




『W・H氏の肖像』は、小説仕立てでもあり、内容的には評論風でもあるという、いささか分類に困るワイルドの作品である。
タイトルの類似から、『ドリアン・グレイの肖像』を思い出される方も多いだろうが、『ドリアン・グレイの肖像』の原題が"The Picture of Dorian Gray"であるのに対し、本書は"The Portrait of Mr.W.H."と、日本語では同じ「肖像」でも原語には"Picture"と"Portrait"という違いがあり、『W・H氏の肖像』の方がより明確に肖像画をテーマにした作品であると言えるだろう。

本書『W・H氏の肖像』の表紙には、ワイルドの上にシェイクスピアの肖像が掲載されている。
それを見て、シェイクスピアであれば「W.S氏」のはずなのにおかしいな、という思いがよぎった方は、すでに本書を読むのに十分な資格を備えた方なのかもしれない。
W.H氏とは、シェイクスピアが『ソネット集』のテーマとした人物のことで、イニシャルだけが知られるその人物を特定しようと、以前より無数の説が存在していた。
このイギリス文学史における大問題に対して、小説という枠組みを用いて、ワイルドが自身の斬新な説を述べたのがこの『W・H氏の肖像』なのである。
興味深く、説得力のある指摘が連なってはいるが、自説の論証に割かれる紙幅が大半を占めるため、ワイルドの小説を期待して手にする読者には不向きな一冊となっている。
ソネット集 (岩波文庫 赤 205-5)ソネット集 (岩波文庫 赤 205-5)
(1986/11/17)
シェイクスピア

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シェイクスピアというと、『ハムレット』や『ロミオとジュリエット』あたりはよく読まれているだろうが、その『ソネット集』まで目を通している人はさほど多くないはずだ。
『W・H氏の肖像』を読むに当たり、事前に『ソネット集』を知っている方がベターであることは疑いないが、ワイルドの文章自体が原典からの豊富な引用を行う上に、訳者による注も充実しているので、シェイクスピアの伝記的要素や『ソネット集』に関する予備知識がなくとも、それほど困ることはないように思う。

『W・H氏の肖像』は、ワイルドに興味のある『ソネット集』の読者が最も楽しめることだろうが、本書に触れた後に『ソネット集』を読むというのも、『ソネット集』の味わいを倍加させてくれるに違いない。
歴史的、文学的な謎に関心のある方には非常にお勧めの作品だ。

『獄中記』 オスカー・ワイルド(角川文庫ソフィア)

獄中記 (角川文庫ソフィア)獄中記 (角川文庫ソフィア)
(1998/04)
オスカー・ワイルド

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書名:獄中記
著者:オスカー・ワイルド
訳者:田部 重治
出版社:角川書店
ページ数:117

おすすめ度:★★★☆☆




同性愛の罪で投獄されていたワイルドが、同性愛の関係にあったダグラスに宛てて獄中にて綴った書簡を編集したものが本書『獄中記』である。
書簡を出版するに際し、ワイルドとダグラスとの個人的な記述に関してはすべて省かれたようで、本書においては牢獄生活がワイルドの精神面に与えた影響、特に芸術に対する信念への影響が語られている。
内容が平易でもなく、少々堅苦しい文体の作品でもあるため、一般受けはしにくいように思うが、ワイルドの芸術観に関心のある方には一読の価値ある本であろう。

『獄中記』というタイトルからすると、収監から釈放までの出来事を述べた本と思われる方もいるかもしれないが、本書は徹頭徹尾ワイルドの内面の記録である。
わずかに牢獄における体験が語られることもあるが、それはあくまでワイルドの内面に影響を及ぼしたという文脈においてであり、出来事を連ねることはワイルドの眼中にはないようだ。
ワイルド自身の口から語られる芸術や享楽に対する考えは非常に興味深く、キリストへの言及にはいくらか意外な感すらするほどで、全体にワイルドのファンなら面白く読めるものとなっている。

社交界の寵児から一転、地位も財産も失い人々の軽蔑の的となるというワイルドの身の上は、どこか『ドリアン・グレイの肖像』の筋書きを想起させないでもないが、このような急転直下の没落に対して、恨み言や絶望ばかりが語られていたとすれば、この『獄中記』は読むに堪えない駄作になっていたはずだ。
しかし実際には、苦境にある自らを励まそうとしてか、事態を肯定的にとらえようという姿勢が随所に窺え、そんなワイルドを応援したい気持ちにもさせられるのだが、出獄後の彼の生涯が決して満ち足りたものでなかったことを知っている我々としては、複雑な思いでこの本を読み進めることになるだろう。

本書の原題である『De Profundis』とは、聖書に由来する語で、「深き淵より」との意味である。
同じ語を用いた表題を持つ作品には、ド・クインシ―の『深き淵よりの嘆息』があるが、そちらは阿片中毒となった著者の陥った深淵を描いたものだった。
そして本書は、ワイルドの陥った監獄という名の「深き淵」からの便りである。
芸術家としてのワイルドに少しでも迫りたいと考えている方にお勧めしたい一冊だ。

『ワイルド全詩』 オスカー・ワイルド(講談社文芸文庫)

ワイルド全詩 (講談社文芸文庫)ワイルド全詩 (講談社文芸文庫)
(1995/12)
オスカー ワイルド

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書名:ワイルド全詩
著者:オスカー・ワイルド
訳者:日夏 耿之介
出版社:講談社
ページ数:516

おすすめ度:★★☆☆☆




小説家や戯曲家としてのみならず、詩人としても優れた業績を残したオスカー・ワイルドだが、そんな彼のすべての詩を一冊にまとめたのがこの『ワイルド全詩』だ。
ワイルドの処女作とされる『ラヴェンナ』をはじめ、古代ギリシア関連のものやキーツにまつわるものなど、いかにもワイルドらしい数多くの詩を経て、男色の罪を問われて投獄されていた経験を素材にした『レディング牢獄の歌』に至るという、ワイルドの詩業を一冊の文庫本で俯瞰することができる。
ワイルドの詩の翻訳は決して多くないということもあり、ワイルドの詩の世界に興味を持っている方には本書をお勧めしたいと思う。

『ワイルド全詩』は、詩人としても活躍していた日夏耿之介を訳者に迎えており、それだけに訳文に見られる詩趣はワイルド研究に従事しているたいていの大学教授に勝る部分もあるだろうが、しかし如何せん、訳文自体が古いときている。
今日であれば通常カタカナを使うところに頻繁に漢字が使われており、「英吉利」や「仏蘭西」ぐらいはともかくとして、「希臘」や「埃及」まで漢字で書かれていたのでは、少々戸惑われる読者がいても何ら不思議ではない。
当然ながら訳文に古さを感じさせるのは漢字表記のみではなく、全体の言い回しや語彙も一昔前のものといったところだ。
日夏耿之介の書いたものを読みたいという方であれば、まったく問題がないどころかむしろその旧弊さをこそ味わいたいのだろうが、お世辞にも今日の一般読者向けの本であるとは言い難いというのが私の感想だ。

そうはいっても、まったく理解しがたいほどに難解というわけではないし、いまだに多くの読者を獲得し続けている『サロメ』や『ドリアン・グレイの肖像』の作者であるワイルドの詩に興味を持つ人は少なくないのではなかろうか。
ワイルドといえば耽美的であるとか退廃的であるとか、はたまた世紀末風であるとか、様々な魅力的な形容辞を与えられている作家であるが、そういった性格がより鮮明に打ち出されているのは、おそらくその詩行においてであろう。
ワイルドに興味のある方ならば、訳文が古いためにいくらか読みにくいというのを承知の上で、ぜひ手に取ってみていただきたい一冊だ。

『カンタヴィルの幽霊/スフィンクス』 オスカー・ワイルド(光文社古典新訳文庫)

カンタヴィルの幽霊/スフィンクス (光文社古典新訳文庫)カンタヴィルの幽霊/スフィンクス (光文社古典新訳文庫)

書名:カンタヴィルの幽霊/スフィンクス
著者:オスカー・ワイルド
訳者:南條竹則
出版社:光文社
ページ数:313

おすすめ度:★★★☆☆




ワイルドの短編作品4編と詩作品1編を収録しているのが本書『カンタヴィルの幽霊/スフィンクス』である。
スフィンクスというモチーフに重点を置いて編まれた短編集であるため、一冊の本としての統一感は備えているものの、それだけ内容の偏った本であるとも言えると思う。
そういう意味では、ワイルドの読みやすい優れた作品を収めているにもかかわらず、ワイルドの入門書としてはあまりふさわしくないかもしれない。

本書には『アーサー・サヴィル卿の犯罪』、『カンタヴィルの幽霊』、『秘密のないスフィンクス』、『模範的億万長者』、『スフィンクス』の五作品が収録されている。
内容の充実度や紙幅から判断して、ミステリー風の作品である『アーサー・サヴィル卿の犯罪』と、コミカルな幽霊譚である『カンタヴィルの幽霊』が本書の中心的な作品と言えるだろう。
また、『秘密のないスフィンクス』と『模範的億万長者』の二つは、姉妹編とも呼べるほどに類似した精神構造を扱っているように思われる。

本書には、付録としてワイルドと親しかった女流作家であるエイダ・レヴァーソンの作品も数点収められている。
とはいえ、付録としてとらえるには彼女の作品に割かれたページ数が多く、逆に言えば、ワイルドの作品に割かれているのが200ページに満たないというのを本書の欠点と感じる読者も少なくないかもしれない。
この点を考え合わせると、やはり本書はワイルドの入門書としてはふさわしくないような気がしてしまう。

『アーサー・サヴィル卿の犯罪』と『カンタヴィルの幽霊』は、過去にバベルの図書館シリーズ中の一冊として刊行された『アーサー・サヴィル卿の犯罪』にも収録されていたことからもわかるように、いわばワイルドの代表的な短編小説である。
とはいえ、『アーサー・サヴィル卿の犯罪』は現在は入手が困難なので、本書が読み物としてたいへん面白いワイルドの両作品を普及させることを期待したいと思う。
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