『フェードル アンドロマック』 ジャン・ラシーヌ(岩波文庫)

フェードル アンドロマック (岩波文庫)フェードル アンドロマック (岩波文庫)
(1993/02/25)
ジャン ラシーヌ

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書名:フェードル アンドロマック
著者:ジャン・ラシーヌ
訳者:渡辺 守章
出版社:岩波書店
ページ数:396

おすすめ度:★★★★★




フランスの古典的な戯曲家の中で、筆頭とも呼ぶべき悲劇作家であるラシーヌの代表的な二編を収めたのがこの『フェードル アンドロマック』である。
文章量からすれば別々に出版されていてもおかしくない二作品が一冊になっているということで、単にお得というだけではなく、二作品を読み比べてみるという楽しみ方も可能になっており、ラシーヌを、あるいはフランスの古典劇を読んでみたいという方に最もお勧めしたい一冊だ。

『フェードル』と『アンドロマック』は、いずれもギリシア神話に題材を得た作品である。
作中はもちろん、その表題においても登場人物の名前がフランス語読みとなっているため、日本で一般に知られている名前とは異なるかもしれないが、フェードルとはテセウスの妻のパイドラのことであり、アンドロマックとはヘクトルの妻であるアンドロマケーのことである。
どちらも報われない愛情を動力に回転していく悲劇となっており、悲劇作品としての完成度は折り紙つきと言えるだろう。

ギリシア神話に着想を得ているとは言っても、『フェードル』や『アンドロマック』を楽しむのに、必ずしもギリシア神話に対する予備知識は必要ないように思う。
愛と憎しみの狭間で、半ば必然的に登場人物たちの運命が狂い出す劇的構成はあまりにも見事で、オリジナルのストーリーがどのようなものであるかを知らずとも、十分に優れた戯曲として鑑賞することができるに違いないからだ。
古典主義に分類されるという文学史上の位置付けを度外視したとしても、これらの作品がフランス演劇最大の「古典」の一つに数えられることに、本書の読者であれば納得していただけることだろう。

『フェードル アンドロマック』は、非常に丁寧な訳注が施されているのが長所の一つでもあるが、該当箇所に行き当たる度にそれを参照していたのでは、ひょっとすると劇としてのスピード感をそぐことになるかもしれない。
後世に多大な影響を与え、今日でもしばしば上演されることがあるというラシーヌ悲劇の巧みさを存分に感じていただくためにも、まずは通読されることをお勧めしたい。
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『ブリタニキュス ベレニス』 ジャン・ラシーヌ(岩波文庫)

ブリタニキュス ベレニス (岩波文庫)ブリタニキュス ベレニス (岩波文庫)
(2008/02/15)
ラシーヌ

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書名:ブリタニキュス ベレニス
著者:ジャン・ラシーヌ
訳者:渡辺 守章
出版社:岩波文庫
ページ数:530

おすすめ度:★★★★




フランスの古典主義を代表する悲劇作家であるラシーヌによる、いわゆる「ローマもの」二編を収めたのが本書『ブリタニキュス ベレニス』である。
フェードル』や『アンドロマック』と比べると、その知名度や後世の文学作品における言及は少ない方だろうが、本書収録の二作品においても悲劇作家としてのラシーヌの手腕は十二分に発揮されていると言えるだろう。

本書のタイトルロールであるブリタニキュスとベレニスは、それぞれ日本ではブリタンニクス、ベレニケの名で知られる、ローマ時代の実在の人物である。
ベレニスはローマ皇帝ティトゥスと相思相愛の間柄であったが、出自が被征服民族であることが二人を引き裂こうとする。
そしてブリタニキュスは悪帝として名高いネロと敵対関係にあったとだけ告げれば、『ブリタニキュス』に対する興味をそそるためには十分ではなかろうか。

『ブリタニキュス』と『ベレニス』は、いずれもローマ皇帝の近辺を扱ったものであるだけに、権力というファクターが作品中に網の目のように張り巡らされている。
そんな権力にからめ取られた人々を、野心と愛憎はどこへ導いていくのか・・・。
ある意味で対照的な結末を迎える『ブリタニキュス』と『ベレニス』が一冊の本で味わえるというのはうれしいことだ。

ラシーヌの翻訳・紹介のみならず、自身フランス演劇の上演等に携わっておられる渡辺守章氏による訳注および解説は、本書においても非常に充実している。
文庫本という一般的な読者層をターゲットにした出版物であることを思えば、少々行き過ぎではないかと思うこともしばしばであるが、舞台と密接な関係を持っている渡辺氏の訳文が生き生きとしたものであることは間違いない。
フランス文学における最も優れた悲劇作家の一人であるラシーヌ像を補完するためにも、『フェードル アンドロマック』と合わせて読まれることをお勧めしたい。
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