『神統記』 ヘシオドス(岩波文庫)

神統記 (岩波文庫 赤 107-1)神統記 (岩波文庫 赤 107-1)
(1984/01/17)
ヘシオドス

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書名:神統記
著者:ヘシオドス
訳者:廣川 洋一
出版社:岩波書店
ページ数:208

おすすめ度:★★★★




ホメロスほどの知名度や影響力はないにせよ、古代ギリシア文学の草創期に位置づけられる重要な詩人として忘れてはならないのがヘシオドスだ。
ヘシオドスのものとされる作品数自体はきわめて少なく、いずれも簡単に読破することができる薄いものなので、古代ギリシア世界に興味のある方であればぜひヘシオドスの作品を手にしていただければと思う。
特にこの『神統記』は、ギリシア神話の中核をなすと言っても過言ではないオリュンポスの神々の系譜について体系的に述べられた数少ない原典の一つであるため、ギリシア神話への格好の入門書とも言えるはずだ。

『神統記』の記述は、世界の始まり、すなわち天地の創造に始まる。
そういう意味では、『神統記』は旧約聖書でいう『創世記』の冒頭部分に該当する書とも言えるのかもしれないが、一神教と多神教の違いなのか、それぞれの書に描かれる過程はあまりにも異なっている。
それだけに、人間らしい人格を備えた神々も数多く存在すれば、概念を神格化した神々もいる古代ギリシア世界の特徴が、『神統記』には非常に顕著に表れていると言えるのではなかろうか。

『神統記』で扱われている内容を把握しておけば、古代ギリシア文学への造詣が深まることはもちろん、西洋美術を楽しめる幅も大きく広がるに違いない。
右は、一度見てしまえば強烈なインパクトと共に人々の記憶に焼き付けられるゴヤの『わが子を食らうサトゥルヌス』だが、これも『神統記』中の一場面を描いたものであるし、『神統記』の読者であれば、ゴヤの手によってどのような脚色がなされているのかも容易に理解されることだろう。

『神統記』は、明確な主人公がいて山あり谷ありの物語が進行していくというスタイルの本ではないので、万人向けの作品であるとは言えないかもしれない。
そうはいっても、ギリシア神話についての知識を得るのに最適の一冊であることは疑いようがないし、『神統記』といういかめしいタイトルからは想像しにくいほどに、内容自体はとても読みやすい。
古代ギリシアの世界観に関心のある方に強くお勧めしたい一冊だ。
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『仕事と日』 ヘシオドス(岩波文庫)

ヘーシオドス 仕事と日 (岩波文庫)ヘーシオドス 仕事と日 (岩波文庫)
(1986/05/16)
ヘーシオドス

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書名:仕事と日
著者:ヘシオドス
訳者:松平 千秋
出版社:岩波書店
ページ数:200

おすすめ度:★★★☆☆




神統記』で知られるヘシオドスのもう一つの著作がこの『仕事と日』だ。
タイトルはしばしば『仕事と日々』と訳されることもあるようだが、複数の翻訳が広く流通しているわけではない本書の場合、岩波文庫版の表題である『仕事と日』が一般的に用いられているのではなかろうか。
訳注なしでは理解しにくい部分もあるかもしれないが、『神統記』と同じくとても読みやすい作品なので、古代ギリシア世界に関心のある方であればぜひ気軽に手にしていただきたい。

『仕事と日』は、神話や人類の歴史を振り返りつつ、なぜ人は働かなければならないのかを訓戒した叙事詩だ。
教訓を垂れるというスタイルにもかかわらず、説教臭さはほとんど感じられず、多くの読者は何らの抵抗なしにヘシオドスの展開する古代ギリシアの倫理観に触れることができるだろう。
また、『仕事と日』はウェルギリウスの『農耕詩』へと連なる、一連の農耕を賛美する詩の元祖とでもいうべきものであるため、文学史的な興味から読んでみるのもいいと思う。

現在、著者の名前に関しては「ヘシオドス」と「ヘーシオドス」という表記が混在しているように思うが、厳密に言うならば最初の母音が長母音なので「ヘーシオドス」が正しいということになるはずだ。
とはいえ、ギリシア語の場合はあえて長母音を短母音とみなして片仮名表記するという習慣も広く行き渡っていて、少なくとも私が目にする限りでは長母音を採用しているケースの方が少ないようにも感じられるので、必ずしも一方が正解で他方が誤りというわけではないように思う。
しかし、片仮名表記をできるだけ原語に近付けるように努めるという近年の傾向からすると、これからは「ヘーシオドス」が主流になってくるのかもしれない。

内容が落ち着いたものであるだけに、『仕事と日』の読者が『イリアス』を読む時のように胸を躍らせるというわけにはいかないだろうが、その落ち着きの中から汲み取れる古代ギリシアのエッセンスは、他の作品にはない種類のものだろう。
古代ギリシアに対する造詣を深めたい方に強くお勧めしたい一冊だ。
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