『脂肪のかたまり』 モーパッサン(岩波文庫)

脂肪のかたまり (岩波文庫)脂肪のかたまり (岩波文庫)

書名:脂肪のかたまり
著者:ギ・ド・モーパッサン
訳者:高山 鉄男
出版社:岩波書店
ページ数:111

おすすめ度:★★★★★




モーパッサンの作品の中で、最も読まれているものの一つに数えられるのがこの『脂肪のかたまり』だろう。
モーパッサンが作家としての地位を確立した出世作でもあるため、小説としての出来栄えは折り紙つきであると言えるはずだ。
タイトルのインパクトの強さは他に類を見ないものがあるし、文体も非常に読みやすい上に、文章量としても手頃な中編小説であるため、気軽に手にしていただいていい一冊だ。

戦争に敗れたフランスへと逃げ帰る一台の馬車に、偶然乗り合わせた雑多な人々の群れ。
「脂肪のかたまり」こと、ふくよかな娼婦もその客の一人だった。
その職業が職業だけに、「脂肪のかたまり」は男性客や女性客からの様々な思惑の焦点となってしまう。
馬車はぎくしゃくした空気を帯びてひた走っていたのだが・・・。

一般に『脂肪のかたまり』は普仏戦争を背景に人間の卑しさ、俗悪さを暴き立てた作品であると説明されることが多いようだが、決して戦争が前面に押し出された作品というわけではない。
『脂肪のかたまり』の軸となるのはあくまで人間性なのであって、それゆえにこそ、この作品が普遍的な文学的価値を獲得しているようにも思われる。
『脂肪のかたまり』を読めば、平和の中に暮らしている読者でもどこか身にしみて感じさせられるものがあるのではなかろうか。

岩波文庫版の『脂肪のかたまり』には挿絵が数多く入れられていることもあって、それほど長い小説ではないにもかかわらず、強く読者の記憶に残る作品となるに違いない。
好き嫌いはあるかもしれないが、モーパッサンのドライな筆致は見事なもので、そこに感嘆させられる読者も少なくないことだろう。
自然主義文学の代表作としても知られている『脂肪のかたまり』、ぜひ一読をお勧めしたい作品だ。
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『女の一生』 モーパッサン(新潮文庫)

女の一生 (新潮文庫)女の一生 (新潮文庫)

書名:女の一生
著者:ギ・ド・モーパッサン
訳者:新庄 嘉章
出版社:新潮社
ページ数:397

おすすめ度:★★★★★




一般に、モーパッサンの長編作品の中で最も高い評価を受けているのはこの『女の一生』だろう。
モーパッサンにとっては初の長編作品であるが、それだけにモーパッサンのエッセンスが詰め込まれているかのような印象を受ける作品となっている。
また、本国フランスではもちろんのこと、日本においても本書を原作とした映像化が何度もされているようで、その事実から判断するだけでも、日本人の感性に訴えかけやすい作品ということができるのかもしれない。

『女の一生』のあらすじは、まさにそのタイトルがすべてを言い尽くしている。
恋をして、結婚して、子供を産んで、年をとって・・・。
主人公ジャンヌの生涯を見渡した読者の心には、何がしかの感情が芽生えずにはいないだろう。
これは多かれ少なかれすべての文学作品に共通して言えることだが、『女の一生』は、ある程度年齢を重ねてから読むと読者にまったく異なった感慨を及ぼしかねないという性質を顕著に帯びているように思われる。
そういう意味では、若いうちに一度読んでおくほうがベターということになるだろうか。
女の一生 (光文社古典新訳文庫)女の一生 (光文社古典新訳文庫)

モーパッサンの代表的な長編作品である『女の一生』は、右に示すように光文社の古典新訳文庫からも出されている。
これらの文庫本以外にも、数々の文学全集に収録されていたりする作品なので、フランス文学に関心のある方であれば必読の一冊といえるのではなかろうか。

短編作家として優れた実績を持っているモーパッサンであるが、長編には長編でモーパッサンならではの独特の味わいがある。
『女の一生』は全体に決して明るい色調の作品というわけではないが、幅広い読者層に受け入れられうる作品であることは間違いないと思う。
静かな昼下がりにでもゆっくりと読んでいただきたい、そんな作品だ。

『ベラミ』 モーパッサン(岩波文庫)

ベラミ〈上〉 (岩波文庫)ベラミ〈上〉 (岩波文庫)ベラミ〈下〉 (岩波文庫)ベラミ〈下〉 (岩波文庫)

書名:ベラミ
著者:ギ・ド・モーパッサン
訳者:杉 捷夫
出版社:岩波書店
ページ数:295(上)、300(下)

おすすめ度:★★★★★




モーパッサンの長編作品の中で、意外な人気を誇っている作品がこの『ベラミ』だ。
モーパッサンの代表的長編作品といえば『女の一生』の名が挙げられることが多いが、『ベラミ』のほうをより好む読者がいても何ら不思議ではないと思う。
いかにもモーパッサンらしい筋書きの作品であるため、モーパッサンを初めて読む方が手にするのも決して悪くないはずだ。

『ベラミ』の主人公は、軍隊を辞めてパリに戻ってきた一青年。
取り立てて才能があるわけでもなければ、強力な縁故があるわけでもない。
しかし、彼には多くの婦人を魅了する美貌と、他人を踏み台にしてでものし上がっていってやろうという図々しい神経が備わっていた。
他人を顧みずにまい進する彼は、"成功"をつかむことができるのか・・・。
ベラミ 愛を弄ぶ男 [DVD]ベラミ 愛を弄ぶ男 [DVD]ベラミ (角川文庫)ベラミ (角川文庫)

すでに何度か映画化されてきていたらしい『ベラミ』だが、近年になってロバート・パティンソンを主演に迎えたアメリカ版映画が作成されたようで、それがベルリン映画祭で上映されたことでも話題に上っていた。
レンタルなどで容易に視聴が可能なアメリカ映画はある程度日本でも普及することだろうし、それに伴って『ベラミ』の知名度も高まってゆくことだろう。
右に挙げた角川文庫のようにこれまで各種翻訳がなされてきたにもかかわらず、現在いずれも中古でしか購入できない状態の続いている『ベラミ』だが、これを機に再版、もしくは新訳が出されることに期待したい。

『ベラミ』には、バルザックやゾラに通ずるところがあると強く感じる読者は私だけではないはずだ。
女の一生』が19世紀フランス社会の末端を描いた小説だとすれば、『ベラミ』にはその中心部の裏側部分を描いたかのような観があり、おそらくはそこにバルザックやゾラとの類縁関係を感じるのだと思う。
モーパッサンが見せるパリの裏側を堪能したい方は、ぜひ『ベラミ』を手にしていただきたい。

『モーパッサン短編集』 モーパッサン(新潮文庫)

モーパッサン短編集 (1) (新潮文庫 (モ-1-6))モーパッサン短編集 (1) (新潮文庫 (モ-1-6))モーパッサン短編集 (2) (新潮文庫)モーパッサン短編集 (2) (新潮文庫)

モーパッサン短編集 (3) (新潮文庫 (モ-1-8))モーパッサン短編集 (3) (新潮文庫 (モ-1-8))

書名:モーパッサン短編集
著者:ギ・ド・モーパッサン
訳者:青柳 瑞穂
出版社:新潮社
ページ数:429(一)、388(二)、428(三)

おすすめ度:★★★★




その名のとおり、モーパッサンの短編小説を三冊にわたって集めたものがこの『モーパッサン短編集』だ。
モーパッサンには『女の一生』や『ベラミ』といった優れた長編小説もあるが、数百の短編を残したことを思えば、また、それら短編作品の読み応えを考え合わせれば、モーパッサンは本来短編作家であると言ってしまいたい気になるほどだ。
読みやすく、なおかつ面白い作品が多いので、気軽に手にしていただければと思う。

『モーパッサン短編集』の中でも特に有名な作品には、『水の上』、『首かざり』がある。
この二つは過去に日本で出版されていた短編集の表題作にもなっていた作品で、その秀逸さには定評があるといえるだろう。
三冊を通して読めば、読者はその二作品以外にも必ずやお気に入りの短編をそれぞれ見出されるに違いない。
全三冊の中では、強いて言うならば二冊目が最もお勧めだが、一冊目から三冊目までを通して読めば、それはそれで異なったイメージをモーパッサンの作品世界に抱くことになるように思う。
モーパッサン短篇選 (岩波文庫)モーパッサン短篇選 (岩波文庫)

モーパッサンの短編集としては、右の岩波文庫版『モーパッサン短篇選』もお勧めだ。
本書には、表紙の絵画からも察せられるように『水の上』が収録されているし、『首飾り』も入れられている。
新潮文庫版の全三冊という分量を多すぎると思われる方には、有名どころを押さえたこの『モーパッサン短篇選』が最適なのかもしれない。

短編小説作家を大雑把に分類した場合、ポーやモームのように話の落ちをつけるタイプと、チェーホフやヴァージニア・ウルフのように情緒的なシーンを描き出すタイプとに分けることが可能であるように思うが、モーパッサンは明らかに前者の作家の一人だ。
話の筋がしっかりしているだけに多くの読者を引き付けることができるだろうし、事実、モーパッサンの短編に関して悪い評判というのを聞いたことがない。
一般受けも期待できる『モーパッサン短編集』、幅広い読者層にお勧めしたいと思う。

『メゾンテリエ―他三編』 モーパッサン(岩波文庫)

メゾンテリエ―他三編 (岩波文庫 赤 550-6)メゾンテリエ―他三編 (岩波文庫 赤 550-6)

書名:メゾンテリエ―他三編
著者:ギ・ド・モーパッサン
訳者:河盛 好蔵
出版社:岩波書店
ページ数:96

おすすめ度:★★★★




短編の名手、モーパッサンの短編4作品を収録した『メゾンテリエ―他三編』。
表題作の他に『聖水授与者』、『ジュール伯父』、『クロシェット』を収録しており、いずれもモーパッサンの短編作品の中では代表格のものなので、モーパッサンに関心のある方であればぜひ読んでみていただきたいと思う。

娼婦たちの溜まる場末の館、「メゾン・テリエ」。
いかにもモーパッサンらしい、人間の負の面が浮き彫りにされるような舞台を選択したものだと感じる読者は、おそらく私一人だけではないだろう。
短い中にも苦味を帯びた独特の味わいがあり、モーパッサンの手腕が存分に発揮された作品に仕上がっているといえる。
脂肪の塊・テリエ館 (新潮文庫)脂肪の塊・テリエ館 (新潮文庫)

『メゾン・テリエ』は、『テリエ館』という訳題で新潮文庫からも出されている。
こちらは『脂肪の塊』と合わせて出版されているため、『脂肪の塊』を未読の方は新潮文庫版がお得と言えるだろう。
岩波文庫版に収録されている他の3篇は、『聖水授与者』を除いては新潮文庫の『モーパッサン短編集』に収録されているので、そちらで読まれるのもいいと思う。

岩波文庫版の『メゾンテリエ―他三編』は、以前は在庫ありの期間が長かったにもかかわらず、ここしばらくは再版の機会に恵まれていないようだ。
そのために新品での入手は難しいが、その反面、中古品であればAmazonにおいても格安のものが販売されている。
岩波文庫の絶版のものにはしばしば仮名遣いの古さなどが含まれるため一般の読者を困惑させることもあるが、『メゾンテリエ―他三編』の場合、再版後のものはたいへん読みやすいし、モーパッサンの作品を読みたいという方を裏切ることはないはずだ。

『ピエールとジャン』 モーパッサン(新潮文庫)

ピエールとジャン (新潮文庫)ピエールとジャン (新潮文庫)

書名:ピエールとジャン
著者:ギ・ド・モーパッサン
訳者:杉 捷夫
出版社:新潮社
ページ数:245

おすすめ度:★★★★




モーパッサンの長編小説、全六作品のうちの一つがこの『ピエールとジャン』である。
モーパッサンの決して長くなかった作家生活においては中期から後期にかけて執筆された作品であり、それだけ作家としての技巧を感じさせる仕上がりの作品となっている。
短編作家としても活躍したモーパッサンにふさわしく、『ピエールとジャン』の読者はどこか引き締まった印象を受けるに違いない。
明確なプロットを持っているので読みやすいうえに、分量も手頃なので、幅広い読者層にお勧めできる一冊と言えるのではなかろうか。

仲良く暮らしてきた二人の兄弟、ピエールとジャン。
しかし、ある日ジャンにのみ遺産が転がり込んだのを機に、二人の関係は微妙に移り変わっていくことになり・・・。
タイトルには『ピエールとジャン』という風に兄弟の名が並列に並べられており、読者の注意はおのずと二人の兄弟に向けられるはずだが、作品内の描写は全体にややピエールの側に力点が置かれているようだ。
そして二人の間に位置する母親の描き方も、読者を強く引き付ける要因となることだろう。

モーパッサンは、過去に出版された文庫本が、現在では絶版になってしまっているという作品数の多い作家の一人である。
ひょっとすると、モーパッサンは作風に独特のくせのある作家なので、必ずしもすべての人が心の底から楽しめる作品を残したわけではないのかもしれない。
しかし、一度モーパッサンを好きになってしまえば、そのいかにもモーパッサンらしい筋書きや心理描写が、それこそくせになること疑いなしである。
短くも濃密な長編小説『ピエールとジャン』、新品の入手こそしにくいが、モーパッサンに興味のある方には非常にお勧めだ。

『死の如く強し』 モーパッサン(岩波文庫)

死の如く強し (岩波文庫)死の如く強し (岩波文庫)

書名:死の如く強し
著者:ギ・ド・モーパッサン
訳者:杉 捷夫
出版社:岩波書店
ページ数:373

おすすめ度:★★★★




女の一生』、『ベラミ』と並ぶモーパッサンの長編作品の一つがこの『死の如く強し』だ。
決して作家生活が長かったとはいえないモーパッサンだが、そんな彼にとって後期の作品に分類される長編作品で、それだけ円熟の域を感じさせる仕上がりになっているのは間違いないように思う。
現在新品は出回っていないが、いつ再版されてもおかしくない読み応えのある一冊なのでたいへんお勧めだ。

パリの流行画家の一人であるオリヴィエ・ベルタンは、裕福な伯爵夫人と長らく愛人関係にあった。
画家も夫人もすでに若くはなく、互いに自らの容姿の衰えを気にしだしているのだが、そんな中、若くて活発な伯爵夫人の娘がパリにやってくることになる。
画家は若き頃の伯爵夫人を髣髴とさせるような魅力を娘の中に見出して・・・。
『死の如く強し』の一つの特徴として、画家と夫人、それぞれの心理描写が巧みに織り交ぜられているという点が挙げられる。
『死の如く強し』の読者は、独身の画家と家庭のある伯爵夫人の双方向から見た世界を目の当たりにすることができ、それだけ味わいに富んだ奥行きを感じさせられることとなる。
また、結末まで読み進めた読者は、意味深長なタイトル「死の如く強し」についても考えさせられるのではなかろうか。

『死の如く強し』は、いかにもモーパッサンらしい皮肉の効いた作品かというと必ずしもそうではない。
むしろ、世間でモーパッサンは『脂肪のかたまり』のような作風を得意とする作家であるというイメージが先行してしまっているからこそ、『死の如く強し』はモーパッサンの代表作とみなされることもなく、いくらか埋もれた地位に甘んじているのかもしれない。
しかし、モーパッサンに興味のある読者であればあるほど、ある意味でモーパッサンらしからぬ作品に強い興味を抱くのではなかろうか。
モーパッサンに関心のある方は、喜ばしい驚きを感じさせてくれるこの『死の如く強し』をぜひ一読いただければと思う。
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