『阿片常用者の告白』 ド・クインシー(岩波文庫)

阿片常用者の告白 (岩波文庫)阿片常用者の告白 (岩波文庫)

書名:阿片常用者の告白
著者:トマス・ド・クインシー
訳者:野島 秀勝
出版社:岩波書店
ページ数:246

おすすめ度:★★★★




イギリスにおけるロマン派散文作家、ド・クインシーの代表作として知られるのが本書『阿片常用者の告白』である。
オリジナリティの強い魅力的な表題であることは誰もが認めるところだろうが、その内容や文体にも大いに興味深いものがある。
作品自体の知名度はさほど高くないかもしれないが、一読の価値ある特異な作品としてたいへんお勧めだ。

ド・クインシー自身が阿片を常用していたからこそ書けたのがこの『阿片常用者の告白』であると言える。
なぜ阿片に手を出すようになったのか、どうやって阿片を断つことができたのか、それらの詳細はド・クインシー自身の「告白」に譲ることにするが、阿片を常用した者にしかわからない独特な精神状態を主観的に述べたあたりは、自ずと読者を釘付けにすることだろう。

ド・クインシーの文章に触れる際には、単に書かれている内容を楽しむだけではなく、その研ぎ澄まされた筆致もぜひ味わっていただきたい。
阿片を使用している際にどういう症状に陥るのかという点にのみ興味のある方は、ひょっとすると『阿片常用者の告白』にやや退屈を覚えるのかもしれないが、洗練された文体の読み応えはイギリス文学史中においてもトップクラスを誇るのではないかと思う。
本書を一度読めば、『阿片常用者の告白』が単なる体験記を超えた一つの文学作品に仕上がっていることに誰もが納得いただけるはずだ。

最近になって岩波文庫で本書が出されるまで、ド・クインシーは日本ではほとんど顧みられることのない作家の一人だったのではなかろうか。
しかし、文学史の中に埋もれさせてしまうにはド・クインシーはあまりに惜しい作家である。
『阿片常用者の告白』によってド・クインシーの作品世界に魅了された方は、その続編である『深き淵よりの嘆息』へとぜひ読み進めていただければと思う。
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『深き淵よりの嘆息―『阿片常用者の告白』続篇』 ド・クインシー(岩波文庫)

深き淵よりの嘆息―『阿片常用者の告白』続篇 (岩波文庫)深き淵よりの嘆息―『阿片常用者の告白』続篇 (岩波文庫)

書名:深き淵よりの嘆息―『阿片常用者の告白』続篇
著者:トマス・ド・クインシー
訳者:野島 秀勝
出版社:岩波書店
ページ数:259

おすすめ度:★★★★




ド・クインシーによる『阿片常用者の告白』の続篇となるのがこの『深き淵よりの嘆息』である。
阿片常用者の告白』と比べた場合、『深き淵よりの嘆息』はド・クインシーの阿片吸引の経緯や背景が述べられることが少なく、それだけド・クインシーの接した心象風景に割かれる紙幅が多いのが特徴となっている。
内面世界をたどった具体的かつ個人的な記録という観さえあるほどで、読者がド・クインシーその人に最も肉薄できるのがこの『深き淵よりの嘆息』なのかもしれない。
解説でも触れられているが、19世紀前半の作品とは思えない先駆的な視点の存在も注目に値するだろう。
トマス・ド・クインシー著作集〈1〉トマス・ド・クインシー著作集〈1〉

ド・クインシーに関心を抱いておられる方には、右の『トマス・ド・クインシー著作集〈1〉』もたいへんお勧めだ。
本書は『阿片常用者の告白』、『深き淵よりの嘆息』というド・クインシーの代表作を収録し、さらに『芸術の一分野として見た殺人』という非常に興味深いタイトルの作品をも収録している。
こちらはド・クインシーの諧謔精神に富んだ一面がよく表れている、半ば知的遊戯とでもいうべき作品であり、非常に面白く読めること疑いなしだ。
また、小品ではあるが『「マクベス」劇中の門口のノックについて』も収められており、シェイクスピアの『マクベス』を知っていればこちらも大いに楽しめることだろう。

『深き淵よりの嘆息』は、続篇として位置付けられているだけあって、『阿片常用者の告白』あっての作品という性格が強いのではなかろうか。
そういう意味では、やはりまずは『阿片常用者の告白』を読んでから手にしていただくべき作品なのだろう。
これら一連の「阿片もの」に目を通された読者であれば、必ずやド・クインシー作品の普及が乏しい現在の状態に不満を覚えられるに違いない。

『スペイン武勇尼僧伝』 ド・クインシー(評論社)

スペイン武勇尼僧伝 (1965年)スペイン武勇尼僧伝 (1965年)

書名:スペイン武勇尼僧伝
著者:トマス・ド・クインシー
訳者:岩田 一男
出版社:評論社
ページ数:229

おすすめ度:★★★★




阿片常用者の告白』で知られるド・クインシーの作品で、数少ない単行本化されているものの一つがこの『スペイン武勇尼僧伝』だ。
タイトルから察して、武装して戦場に赴いた尼僧をイメージしてしまうかもしれないが、実は「武勇尼僧伝」というタイトルが意訳であり、本書の主人公は厳密に言えば尼僧ではない。
名家に生まれながらも女子だという理由で生まれてすぐに修道院に預けられていた少女が、修道院を脱走するところから彼女の武勇伝が始まるのである。

読者はみな、とても実話とは思えない彼女の波乱万丈の生涯に驚かされるに違いない。
多くの戦いを経験し、海で死にかけ、山でも命を落としかける・・・。
彼女の責任とは言い難い事情で頻繁に逃げ場のない状況に身を置かざるをえないのは、何とも不運としか言いようがないが、彼女は普通の人間であれば優に十回は死んでしまうような数々の危機を優れた決断力と行動力で次々と打開していく。
その様は、修道院から逃げ出したにもかかわらず神の特別な加護を得ているのではないかと思いたくなるほどだ。
また、個人的には本書の幕切れもたいへん気に入っており、最後の最後まで楽しませてくれる作品という印象を持っている。

比類なき視点の鋭さと機知に富んだ文体によって、読書を趣味とする人が読めば好きにならざるを得ないのがド・クインシーではなかろうか。
近年になって岩波文庫から改版された『阿片常用者の告白』の影響もあって、今日の日本にも、イギリス屈指の名文家として名高いド・クインシーに少なからざるファンがいると確信しているが、翻訳出版の状況は寂しい限りである。
出版年も古く、流通量も少ないが、ド・クインシーに興味のある方はこの『スペイン武勇尼僧伝』を手にしてみていただければと思う。
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