『現代の英雄』 レールモントフ(岩波文庫)

現代の英雄 (岩波文庫 赤 607-1)現代の英雄 (岩波文庫 赤 607-1)

書名:現代の英雄
著者:ミハイル・レールモントフ
訳者:中村 融
出版社:岩波書店
ページ数:293

おすすめ度:★★★★★




ロシア文学の草創期にその名を留める作家・詩人であるレールモントフの代表作がこの『現代の英雄』だ。
数々の文学全集に収録されていることからもわかるように、『現代の英雄』は19世紀前半のロシアを代表する文学作品の一つで、当時の社会の一端を象徴している側面もあるため、今後も『現代の英雄』に与えられている評価は揺るがないことだろう。
文学史上の位置付けを度外視しても、物語性の強い散文作品であるため非常に読みやすく、幅広い読者層に受け入れられうる作品だと思う。

『現代の英雄』の主人公ペチョーリンは、自分を取り巻く環境の中から彼を満たしてくれるものを見出すことができない。
そんな彼の選んだ生き様とは・・・。
「余計者」の系譜に連なるペチョーリンは、他の「余計者」たちとの連関の中で読むとひときわ興味深さを増してくる人物像となるに違いない。

主人公のペチョーリンには、作者レールモントフの影が色濃く映し出されている。
レールモントフが若くして決闘によりこの世を去ったという事実を念頭に置いて読むことのできる我々後世の読者は、『現代の英雄』にそれだけ深みを持たせて読むことができるというアドバンテージがあるとも言えるだろうか。

『現代の英雄』は、その成立過程から言っても内容から言っても、プーシキンの『オネーギン』と切っても切り離せない関係にある。
オネーギン』の読者がその変奏ともとらえることのできる『現代の英雄』を楽しめないはずはないし、逆に『現代の英雄』の読者は、『オネーギン』に『現代の英雄』のルーツを探ることができることだろう。
ロシアの一時代を描いた双璧である『現代の英雄』と『オネーギン』とを、ぜひ共に味わっていただければと思う。
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『ムツイリ・悪魔』 レールモントフ(岩波文庫)

ムツイリ・悪魔 (岩波文庫)ムツイリ・悪魔 (岩波文庫)

書名:ムツイリ・悪魔
著者:ミハイル・レールモントフ
訳者:一条 正美
出版社:岩波書店
ページ数:185

おすすめ度:★★★★




散文作品である『現代の英雄』の作者として有名なレールモントフであるが、詩人としての業績にもプーシキンと肩を並べるものがある。
そんなレールモントフの代表的な叙事詩を二編収録したのが本書『ムツイリ・悪魔』だ。
初版の出されたのが古いので多少訳文が古いのは事実であるが、それほど読みにくくはないし、ストーリー性のある叙事詩はやはりすんなりと読み進めることができるだろう。

『ムツイリ』は、幼くして修道院の壁の中での暮らしを強いられることになったにもかかわらず、自由を求めてやまない青年を描いた作品だ。
一方『悪魔』では、恋する悪魔と、内心の葛藤を思い悩む乙女を描いている。
両作品ともにロマン主義の色合いが強く、ひょっとするとこの『ムツイリ・悪魔』は、邦訳が出版されているロシア文学の中で最もロマン主義を感じさせる一冊になっているかもしれない。

『ムツイリ』も『悪魔』も、レールモントフを語る上で必ず取り上げられるロシア南部の辺境の地、コーカサス地方を舞台にしている。
一読しただけでは、詩の登場人物たちとレールモントフとの間に直接的な関係性はないように思われるかもしれないが、解説で述べられているレールモントフの境遇を読んでいくうちに、いずれの作品中においてもレールモントフの精神が息づいているのだと気付かされることだろう。

『ムツイリ・悪魔』の読者は、レールモントフらしい美しいイメージや高尚な観念の連なりに触れ、心の中でその余韻に浸らずにはいられないように思う。
それと同時に、レールモントフの邦訳作品の少なさを惜しむことにもなるのではなかろうか。
現代の英雄』でレールモントフに興味を持たれた方や、プーシキンの作風が気にっている方は、ぜひ本書『ムツイリ・悪魔』を手にしていただければと思う。

『マスカラード 仮面舞踏会』 レールモントフ(明窓出版)

マスカラード 仮面舞踏会マスカラード 仮面舞踏会

書名:マスカラード 仮面舞踏会
著者:ミハイル・レールモントフ
訳者:安井 祥祐
出版社:明窓出版
ページ数:169

おすすめ度:★★★☆☆




レールモントフの代表的な戯曲とされるのがこの『マスカラード 仮面舞踏会』である。
この『マスカラード』の上演のためにハチャトゥリアンの『仮面舞踏会』が作曲されたという経緯もあるので、音楽に通じている方の間では意外と知られている作品なのではなかろうか。
現代の読者にとってさほど斬新な筋書きではないかもしれないが、ロシア文化に興味のある方ならば一読の価値はあるように思う。

身分を問わず誰もが参加することができるロシアのマスカラード。
仮面で顔を隠しながら恋愛遊戯にふけろうとする貴族たちも参加しているが、顔が見えないからこそ、不幸な誤解を招くことになり・・・。
戯曲が舞台で演じられるのを見ている場合には役者の服装や年齢層といった多くの情報源があるだろうが、『マスカラード』は登場人物に関する説明的な語句が少ないため、何かと読者の想像力で補って読む必要がありそうだ。

『マスカラード』にはいかにもレールモントフらしい退廃的な雰囲気がよく表れている。
これといった生き甲斐も見出すことができず、話の種といえば賭博と決闘というロシア文学草創期の一つの典型的なスタイルの男性像が描かれているのだが、このような典型を作り上げるのに一役買ったのがレールモントフなのだから、『マスカラード』に典型的な人物が登場するのも当然と言えば当然のことなのかもしれない。

少し残念なことに、本書を読んで訳文がこなれているとは言い難いという印象を受けた。
本書がロシア文学を専門とする研究者による翻訳ではないためなのかもしれないが、そうはいっても、『現代の英雄』を通じてレールモントフに興味を持ったところで他の作品の翻訳がほとんど手に入らないという現状を思えば、『マスカラード』の出版は大いに歓迎すべきことであるように思う。
引き続きレールモントフの他の作品が出版されることに期待したい。
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