『三銃士』 デュマ(岩波文庫)

三銃士〈上〉 (岩波文庫)三銃士〈上〉 (岩波文庫)三銃士〈下〉 (岩波文庫)三銃士〈下〉 (岩波文庫)

書名:三銃士
著者:アレクサンドル・デュマ
訳者:生島 遼一
出版社:岩波書店
ページ数:624(上)、608(下)

おすすめ度:★★★★★




誰もがその名を聞いたことのある、言わずと知れたデュマの代表作がこの『三銃士』だ。
銃士たちの活躍を描いた痛快なストーリーは昔から支持されてきており、アニメやドラマ、映画などでおなじみの作品でもある。
展開の速いあらすじが読者を引き付けて離さない作品なので、『三銃士』に退屈を覚える読者はほとんどいないのではなかろうか。

ルイ13世に仕える銃士になろうと、片田舎であるガスコーニュからパリに上ってきたダルタニャン。
三人の豪胆な銃士たちと知り合い、闘いと恋と陰謀の交錯する日々が始まることになるのだが・・・。
映画だと、超人的な強さを誇る銃士たちが無敵の活躍を見せるのが常だが、デュマの描く彼らはもっと現実的な闘いをしている。
デュマの小説は単なる冒険物語ではなく歴史物語としての要素も含んでいて、それだけに現実に根を下した作品世界が描かれているということが実感できるように思う。
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映画化された『三銃士』は、多かれ少なかれストーリーに脚色がなされるのが普通となっているらしい。
映画作品の中では、少し古いが右に挙げたディズニーの『三銃士』がお勧めだ。
また、近年公開された『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』は、映像美とエンターテイメント性を推し進めた作品で、原作からは離れているものの、斬新さは感じられる仕上がりになっているので、『三銃士』の読者にはけっこう楽しめるような気がする。

『三銃士』は、3部構成の『ダルタニャン物語』の第1部に過ぎず、彼らの物語は続編である『二十年後』、『ブラジュロンヌ子爵』へとまだまだ続いている。
文章量がどれほど多くてもすらすら読み進めることのできるのがデュマの小説の魅力でもあるので、『三銃士』を楽しまれた方は第2部以降でダルタニャンたちの成り行きを読んでいただければと思う。
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『モンテ・クリスト伯』 デュマ(岩波文庫)

モンテ・クリスト伯〈1〉 (岩波文庫)モンテ・クリスト伯〈1〉 (岩波文庫)モンテ・クリスト伯〈2〉 (岩波文庫)モンテ・クリスト伯〈2〉 (岩波文庫)モンテ・クリスト伯〈3〉 (岩波文庫)モンテ・クリスト伯〈3〉 (岩波文庫)

モンテ・クリスト伯〈4〉 (岩波文庫)モンテ・クリスト伯〈4〉 (岩波文庫)モンテ・クリスト伯〈5〉 (岩波文庫)モンテ・クリスト伯〈5〉 (岩波文庫)モンテ・クリスト伯〈6〉 (岩波文庫)モンテ・クリスト伯〈6〉 (岩波文庫)

モンテ・クリスト伯〈7〉 (岩波文庫)モンテ・クリスト伯〈7〉 (岩波文庫)

書名:モンテ・クリスト伯
著者:アレクサンドル・デュマ
訳者:山内 義雄
出版社:岩波書店
ページ数:353(一)、356(二)、335(三)、333(四)、353(五)、361(六)、366(七)

おすすめ度:★★★★★




デュマの作品中において、『三銃士』と双璧を成すとも言える代表作として知られているのがこの『モンテ・クリスト伯』だ。
かつては『岩窟王』という邦題で紹介されていた作品で、子供向けのダイジェスト版も非常に普及しているので、一度は読んだことのある方も多いのではなかろうか。
原作はなかなか長大であるが、さすがデュマだけあってその読みやすさは全7冊というボリュームを感じさせないほどのものなので、臆することなく気楽に読み始めていただければと思う。

知人に陥れられ、無実の罪で生涯孤島に幽閉される身となったエドモン・ダンテス。
孤島からの決死の脱獄に成功した彼は、巨万の富を手に入れてモンテ・クリスト伯と名を替えパリの社交界に現れる。
そしてかつて彼を陥れてすべてを奪った人々に対する狡猾で壮絶な復讐劇が幕を下ろす・・・。
作品自体のボリュームによる部分も大きいかもしれないが、一度読めばそのあらすじと作品に対する印象が長く記憶に留まることは間違いないだろう。

『モンテ・クリスト伯』は平たく言ってしまえば復讐物語なのだが、そこにグロテスクさがほとんどないのが特徴で、誤解を恐れずに言えば、上品で洗練された復讐劇とさえ言えるのではなかろうか。
これはデュマの作品に共通する特徴でもあるが、ひょっとすると、この上品さこそが、モンテ・クリスト伯が多くの読者の共感を得ることができる理由なのかもしれない。
モンテ・クリスト伯 7冊美装ケースセット (岩波文庫)モンテ・クリスト伯 7冊美装ケースセット (岩波文庫)

意外と全訳の種類の少ない『モンテ・クリスト伯』だが、岩波文庫版は右に挙げたように7冊セットとして入手することも可能なようだ。
読者が途中で投げ出すような作品ではないし、特に終盤の緊張感とスピード感は類まれなものがあるので、ぜひ最後まで読み通し、人間味に富んだ登場人物たちが織り成すストーリーを存分に楽しんでいただければと思う。

『王妃マルゴ』 デュマ(河出文庫)

王妃マルゴ〈上〉 (河出文庫)王妃マルゴ〈上〉 (河出文庫)王妃マルゴ〈下〉 (河出文庫)王妃マルゴ〈下〉 (河出文庫)

書名:王妃マルゴ
著者:アレクサンドル・デュマ
訳者:榊原 晃三
出版社:河出書房新社
ページ数:395(上)、384(下)

おすすめ度:★★★★




アレクサンドル・デュマの歴史小説の中で高い評価を受けているのがこの『王妃マルゴ』である。
舞台は陰謀渦巻く宗教戦争時代のフランス宮廷、しかも聖バルテルミーの虐殺という歴史上きわめて悪名高い事件を背景としているというのもあって、読者の注意がそらされる隙はない。
緊迫感の途切れることないあらすじに引きずられていつの間にか巻末に達してしまうという、デュマならではの作品となっているので、デュマに興味のある方には必読の作品と言えるのではなかろうか。

フランス王シャルル9世の妹である「マルゴ」ことマルグリットは、プロテスタントのアンリ・ド・ナヴァールと政略結婚をさせられる。
プロテスタントへの反感や迫害が強まる中、カトリックたちはパリで血なまぐさい陰謀を巡らしており・・・。
水面下で常に何かが進行している宮廷やパリの街は、やはり読者にとって刺激的なものである。
悪女として圧倒的な存在感を放つカトリーヌ・ド・メディシスがもたらす陰影も、要所要所で作品を引き締めてくれることだろう。

本書はタイトルこそ『王妃マルゴ』であるが、必ずしもマルゴが最初から最後まで活躍し続けているわけではない。
物語の主筋はシャルル9世とアンリ・ド・ナヴァールを中心とした政治的駆け引きであるとも読めるし、マルゴを中心としたロマンスであるとも読むことができるが、その二つの絡まりあいが鮮やかな歴史絵巻を形作っているというのが最も穿った見方なのかもしれない。

上下二分冊で訳出されているこの『王妃マルゴ』は決して文章量が少ないわけではないが、解説によると縮約版を翻訳したもの、すなわち抄訳らしい。
そうと知ると全訳を手にしたくなるのが読書家の常であるが、河出文庫版に物足りなさを感じる読者は少ないのではないかと思う。
流通量は多くないが、質には太鼓判を押せるので、是非一読をお勧めしたい。

『王妃の首飾り』 デュマ(創元推理文庫)

王妃の首飾り 上 (創元推理文庫)王妃の首飾り 上 (創元推理文庫)王妃の首飾り 下 (創元推理文庫 512-3)王妃の首飾り 下 (創元推理文庫 512-3)

書名:王妃の首飾り
著者:アレクサンドル・デュマ
訳者:大久保 和郎
出版社:東京創元社
ページ数:626(上)、621(下)

おすすめ度:★★★★




アレクサンドル・デュマの長編小説の中で、『三銃士』や『モンテ・クリスト伯』に次いで人気の高いものの一つがこの『王妃の首飾り』である。
「王妃」というのが他でもないマリ=アントワネットを指しているため、デュマの歴史小説の中でも日本の読者に受け入れられやすいというのが本書の特徴ではないかと思う。

『王妃の首飾り』の舞台はヴェルサイユ宮殿から窮乏にあえぐパリの場末にまで及ぶ。
不遇の身で野心を燃やす夫人や、神出鬼没のカリオストロ伯爵といった強い個性を持った人々の暗躍も作品世界に見事な陰影をもたらしてくれている。
本書のタイトルが『王妃の首飾り』であるとはいっても、史実でもある首飾り事件にのみ焦点を当てて物語が進むわけではなく、デュマならではの右に左に転々とする書き方がなされている。
その蛇行にじれったさを覚える読者もいるかもしれないが、それぞれの話が読者を引き付ける魅力を備えていることもまた事実ではなかろうか。

贅沢三昧をして国民の反感を買い、フランス革命を誘発したと紹介されることもあるマリ=アントワネットだが、『王妃の首飾り』を読んでその言動に接すれば、デュマの創作に過ぎないとわかってはいても、彼女に対する印象が大きく様変わりすることは間違いないだろう。
誰もが知っているルイ16世とマリ=アントワネットの行く末を思い起こしながら読むと、『王妃の首飾り』はどこか悲壮な雰囲気すら帯びかねないが、それも本書に特有の味わいの一つなのかもしれない。

例によって『王妃の首飾り』も連作の一部なのだが、上巻の巻頭に前作のあらすじを載せてくれているので、『王妃の首飾り』だけを読んでも十分楽しむことができる。
全体に会話部分が多く非常に読みやすい作品なので、総ページ数に尻込みすることなく読み始めていただければと思う。

『黒いチューリップ』 デュマ(創元推理文庫)

黒いチューリップ (創元推理文庫)黒いチューリップ (創元推理文庫)

書名:黒いチューリップ
著者:アレクサンドル・デュマ
訳者:宗 左近
出版社:東京創元社
ページ数:376

おすすめ度:★★★☆☆




複数冊に及ぶのが常のデュマの長編小説にしては比較的手頃なボリュームなのがこの『黒いチューリップ』である。
政治上の動乱期をバックボーンに持つ点では本書もデュマの他の多くの作品と同様であるが、文章量が少ないというのもあってか、デュマの作品としてはややスケールの小さな作品世界を描いているように感じられる。
それだけ平易な作品であり、読者を選ばない作品であるとは言えるかもしれない。

『黒いチューリップ』の舞台は、戦争続きで政情の安定しない17世紀のオランダである。
政治のことなどお構いなしで、チューリップ栽培にしか目のない青年が、発見者には賞金まで出るという新種の黒いチューリップを作ろうと日夜努めていたのだが、彼の名付け親が政治犯として逮捕されていたものだから・・・。
暴徒と化した群集、貴族的な人々、粗野な庶民階級、心優しき乙女、といった具合に、デュマが好んで描くタイプの登場人物に読者は数多く出会うことだろう。
いくらか大袈裟な執念深さを描くあたりも、いかにもデュマの作品といったところであろうか。

王妃の首飾り』と同様、『黒いチューリップ』も創元推理文庫の一冊として刊行されてはいるが、ミステリー的な要素はほとんどない。
というより、話の展開はたいていの読者が予想できてしまうはずなので、『黒いチューリップ』はあらすじに奇抜さを求める方には不向きな作品なのかもしれない。

『黒いチューリップ』を読んで、劇作家としてスタートを切ったデュマらしい作品だと感じる読者も少なくないのではなかろうか。
事実、『黒いチューリップ』はまるで戯曲を読んでいるかのような筋立てである。
喜劇として終わるのか、悲劇として幕を閉じるのか、そして黒いチューリップは咲くのか。
万人向けとは言い難いが、デュマに興味のある方ならば楽しめる一冊になることだろう。

『ダルタニャン物語 二十年後』 デュマ(復刊ドットコム)

ダルタニャン物語〈第3巻〉我は王軍、友は叛軍 (fukkan.com)ダルタニャン物語〈第3巻〉我は王軍、友は叛軍 (fukkan.com)ダルタニャン物語〈第4巻〉謎の修道僧 (fukkan.com)ダルタニャン物語〈第4巻〉謎の修道僧 (fukkan.com)

ダルタニャン物語〈第5巻〉復讐鬼 (fukkan.com)ダルタニャン物語〈第5巻〉復讐鬼 (fukkan.com)

書名:ダルタニャン物語 二十年後
著者:アレクサンドル・デュマ
訳者:鈴木力衛
出版社:復刊ドットコム
ページ数:291(三)、302(四)、278(五)

おすすめ度:★★★★★




デュマの代表作である『三銃士』の続編がこの『二十年後』である。
『我は王軍、友は叛軍』、『謎の修道僧』、『復讐鬼』の三巻から成り、その表題のとおり『三銃士』の二十年後が描かれている。
登場人物が『三銃士』からそのまま引き継がれているうえに、エピソードにも連関がある部分が多いので、『三銃士』を先に読んでおくことを強くお勧めしたい。

『二十年後』では、幼少のルイ14世を頂きながらも宰相の地位にあるマザランへの国内での反発が強まって、フロンドの乱が起こるフランスが描かれている。
ダルタニャンとポルトスは王軍に、アトスとアラミスは叛軍に就いて戦うことになってしまい、さらには彼らの過去にまつわる因縁も発覚したものだから・・・。
デュマの小説が必ずしも歴史に忠実ではないとはいえ、内乱に荒れるフランスはもちろん、クロムウェルが台頭して王権が窮地に陥っているイギリスさえも舞台にする『二十年後』が読者を引き付ける力は並大抵のものではないと思われる。

政治的な駆け引きや裏切りといった汚さも描かれる『二十年後』ではあるが、四人の銃士の固い友情が読者の心に強い印象を残すのではなかろうか。
オデュッセウスを髣髴とさせるような機略に富んだダルタニャンの活躍も爽快であるが、貴族としての名誉を重んじるアトスの清廉さも、『二十年後』を鮮やかな光で縁取ってくれているように思う。

たいていの読者はこの『二十年後』を経て『ダルタニャン物語』の第3部である『ブラジュロンヌ子爵』を手にすることになるだろうが、あらすじに緊迫感もスピード感もあり、ドラマチックな要素にも事欠かない『二十年後』の読者は、ほぼ必然的に最終部を手にすることになるのではなかろうか。
三銃士』を楽しまれた読者は、まずは読者の期待を裏切るはずのないこの『二十年後』をぜひ読んでみていただければと思う。

『ダルタニャン物語 ブラジュロンヌ子爵』 デュマ(復刊ドットコム)

ダルタニャン物語〈第6巻〉将軍と二つの影 (fukkan.com)ダルタニャン物語〈第6巻〉将軍と二つの影 (fukkan.com)ダルタニャン物語〈第7巻〉ノートル・ダムの居酒屋 (fukkan.com)ダルタニャン物語〈第7巻〉ノートル・ダムの居酒屋 (fukkan.com)ダルタニャン物語〈第8巻〉華麗なる饗宴 (fukkan.com)ダルタニャン物語〈第8巻〉華麗なる饗宴 (fukkan.com)

ダルタニャン物語〈第9巻〉三つの恋の物語 (fukkan.com)ダルタニャン物語〈第9巻〉三つの恋の物語 (fukkan.com)ダルタニャン物語〈第10巻〉鉄仮面 (fukkan.com)ダルタニャン物語〈第10巻〉鉄仮面 (fukkan.com)ダルタニャン物語〈第11巻〉剣よ、さらば (fukkan.com)ダルタニャン物語〈第11巻〉剣よ、さらば (fukkan.com)

書名:ダルタニャン物語 ブラジュロンヌ子爵
著者:アレクサンドル・デュマ
訳者:鈴木力衛
出版社:復刊ドットコム
ページ数:385(六)、379(七)、383(八)、408(九)、371(十)、380(十一)

おすすめ度:★★★★★




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三銃士』、『二十年後』に続くダルタニャン物語の最終部がこの『ブラジュロンヌ子爵』だ。
『将軍と二つの影』、『ノートル・ダムの居酒屋』、『華麗なる饗宴』、『三つの恋の物語』、『鉄仮面』、『剣よ、さらば』の全6巻から成る大作であり、『鉄仮面』とその前後のあらすじは右の映画『仮面の男』の原作になったことでも知られているのではなかろうか。
原作とはいっても、『仮面の男』とはかなり異なった物語になっているので、映画を先に観た人は物語の展開に驚かされることになるかもしれない。

自らの境遇に不満ながらも銃士隊の副隊長を務めるダルタニャン、ブラジュロンヌという生きがいに支えられながら高貴な心情を失わないアトス、怪力に衰えを見せない豪放なポルトス、司教になりながらも何かを企んでいる狡猾なアラミス。
陰謀や駆け引きの真っただ中にありながらも時折きらめく彼らの堅い友情は、やはり読んでいて心地がよいものだ。

二十年後』ではまだ幼かったルイ14世が太陽王として君臨し始める時期を描く『ブラジュロンヌ子爵』は、歴史小説としての面白さも十分備えている。
ましてラ・フォンテーヌやモリエールといった名だたる文人まで登場するとあっては、フランス文学のファンが『ブラジュロンヌ子爵』を読まない手はないというものだ。
ダルタニャン物語 全11巻ダルタニャン物語 全11巻

ダルタニャン物語の中で格段に長い『ブラジュロンヌ子爵』であるが、タイトルロールであるブラジュロンヌ子爵が中心となって活躍し続ける物語というわけでもない。
また、『華麗なる饗宴』と『三つの恋の物語』においては、ダルタニャンたちの痛快さは影を潜め、ストーリーにさほどスピード感が見受けられず、言葉は悪いが少々中だるみしている感さえある。
とはいえ、『ブラジュロンヌ子爵』によって全11巻からなる『ダルタニャン物語』が大団円を迎えるわけであるし、デュマに興味のある方には全巻の読破を自信を持ってお勧めしたいと思う。

『メアリー・スチュアート』 デュマ(作品社)

メアリー・スチュアートメアリー・スチュアート

書名:メアリー・スチュアート
著者:アレクサンドル・デュマ
訳者:田房直子
出版社:作品社
ページ数:285

おすすめ度:★★★★




本書『メアリー・スチュアート』は、あまり知られてこなかったデュマの初期作品の一つであり、本書が本邦初訳となる。
『有名な犯罪』というシリーズ中の一作がこの『メアリー・スチュアート』なのだが、読み応え十分な文章量からして一個の独立した作品とみなして差し支えはないように思う。
小説というよりは伝記といった書き方の作品であるが、メアリーの辿った数奇な人生はたいへん興味深く、最初から最後まで読者を退屈させることはないはずだ。

フランスの王妃、さらにはスコットランドの女王という高貴この上ない身分であったにもかかわらず、彼女を敵視していたイングランドの女王エリザベス1世によって斬首されることになったメアリー・スチュアート。
個人的な憎悪と政治的な駆け引きとにその命を翻弄された観のあるメアリーの悲劇は、やはり何百年も経た異国の読者の胸を打つものを秘めているのではなかろうか。

本書の関連作品としては、シラーの『マリア・ストゥアルト』を紹介しておきたい。
史実に忠実ではない部分もあるものの、メアリーだけではなくエリザベスにも重点を置いた戯曲になっていて、メアリー・スチュアートを扱った文学作品としては代表的なものに数えられるようだ。
特に、エリザベスの不正な行いを暴き立てる意図のあるデュマの『メアリー・スチュアート』と合わせて読むと、読者に幾分か新鮮な見方を提供してくれることになるかもしれない。

デュマといえば19世紀フランスを代表する多作の小説家であるし、『三銃士』や『モンテ・クリスト伯』を通じて日本でも非常に有名な作家であるにもかかわらず、翻訳出版は『三銃士』と『モンテ・クリスト伯』ばかりに集中していて、彼の作品が幅広く紹介されているとは言い難い状況である。
そんな中でこの『メアリー・スチュアート』のような知られざる初期作品が翻訳されたことはとても喜ばしいことであるように思う。
デュマに関心のある人すべてにお勧めしたい一冊だ。

『赤い館の騎士』 デュマ(ブッキング)

赤い館の騎士赤い館の騎士

書名:赤い館の騎士
著者:アレクサンドル・デュマ
訳者:鈴木 豊
出版社:ブッキング
ページ数:686

おすすめ度:★★★★




不運にして日本ではそれほどの知名度がないものの、デュマの代表作の一つと目されている歴史小説が本書『赤い館の騎士』である。
三銃士』や『モンテ・クリスト伯』と同時期に書かれた作品であると言えば、そのクオリティには太鼓判を押したことになるだろうか。
本書の副題である「マリー・アントワネットを救え!」から予想できるかもしれないが、描かれている舞台はマリー・アントワネットが囚われの身となっている大革命後のパリであり、デュマの作品の時代順でいえば『王妃の首飾り』に続く物語ということになる。

特権階級を徹底的に排除しようとする過度の愛国の機運が高まっているパリにおいて、「メーゾン・ルージュの騎士」と称される男が、厳重に警備されているマリー・アントワネットを救出しようと決死の陰謀を企んでいた。
共和主義者の兵士であるモオリスとその親友ローランも、いつしかその陰謀の渦に巻き込まれてしまい・・・。
読者はみな、マリー・アントワネットの救出が失敗に終わり、あえなく断頭台で散るという結末を知っているが、それでもやはりデュマの筆の勢いは読者を楽しませ続け、気付けば最終章に至っていることだろう。
二都物語 (上巻) (新潮文庫)二都物語 (上巻) (新潮文庫)

同時代のパリを描いた作品としては、フランスの作家によるものではないものの、チャールズ・ディケンズの『二都物語』を紹介しておきたい。
似たような状況を扱っているからこそ、デュマとディケンズの似ているところと異なっているところとをひしひしと感じながら読むことができるように思う。

『赤い館の騎士』の中には、登場人物たちの思惑通りにうまく行き過ぎている観のある箇所がいくつかあり、そういう意味では細部の詰めが少々甘い作品と言えるかもしれない。
そうはいっても、そのことが緊張感に富んだ激動の時代を読み進める我々の楽しみをそれほど妨げるわけでもないので、デュマに興味のある方のみならず、歴史小説を好むすべての方に『赤い館の騎士』の一読をお勧めしたいと思う。

『モンソローの奥方』 デュマ(日本図書刊行会)

モンソローの奥方モンソローの奥方

書名:モンソローの奥方
著者:アレクサンドル・デュマ
訳者:小川 節子
出版社:日本図書刊行会
ページ数:662

おすすめ度:★★★★




それほど有名ではないにもかかわらず単行本化されているという、デュマのファンにとってはありがたい長編小説がこの『モンソローの奥方』である。
言うまでもないことだろうが、この『モンソローの奥方』もデュマの他の作品と同様にストーリー性がきわめて強く、堅苦しいことは一切記されておらず、会話部分が主体となっているのですらすら読み進めることができる。

『モンソローの奥方』は、聖バルテルミーの虐殺後の政治上と宗教上での覇権争い、いわゆる三アンリの戦いを軸に据えた物語となっている。
当然ながら、デュマにとって史実は物語を構成するための単なる枠に過ぎず、物語のほうは陰謀あり、恋あり、友情あり、そして決闘ありという、いかにもデュマらしい精彩に富んだ作品に仕上がっている。
タイトルロールであるモンソローの奥方は、後半になると徐々に存在感が消えていくという不思議な役どころとなっているが、勇士として名高いビュッシーや王の道化であるシコといった主要人物は最後まで力強く描かれていて、読者を飽きさせないに違いない。

『モンソローの奥方』は、『王妃マルゴ』に始まる三部作の二作目という位置付けになっていて、事実、舞台とされる時代は連続している。
そうはいっても、『王妃マルゴ』との内容的な結び付きは弱く、話の筋に関しては何度か軽く言及される程度に止まっている。
王妃マルゴ』に引き続いて『モンソローの奥方』を読むほうがベターではあろうが、それが必須であるとは言えないように思う。

原文が悪いのか、訳文が悪いのか、あるいはその両方なのか、本書の中ではたまに主語が曖昧になっている箇所があるのが難点と言えば難点かもしれない。
また、中には600ページ超えというページ数の多さに尻込みされる方もいるかもしれない。
しかし、ストーリーの面白さを考慮に入れればそれらも大したことではないので、デュマに興味のある方は気軽に手にしていただければと思う。

『くるみ割り人形』 デュマ(東京音楽社)

くるみ割り人形くるみ割り人形

書名:くるみ割り人形
著者:アレクサンドル・デュマ
訳者:小倉 重夫
出版社:東京音楽社
ページ数:197

おすすめ度:★★★★




デュマ父子の合作として出版された童話がこの『くるみ割り人形』である。
あのあまりに有名なチャイコフスキーのバレエの原作になったとされているにもかかわらず、デュマが『くるみ割り人形』を出版していたということは実はそれほど知られていないのではなかろうか。

ドイツはニュルンベルクでのクリスマスのこと、子供たちへのプレゼントの中には一風変わったくるみ割り人形が交じっていた。
家の人々が寝静まった頃、棚にしまわれたくるみ割り人形めがけてネズミの大群が押し寄せてくるのだったが、勇敢なくるみ割り人形は、仲間の人形たちと応戦態勢を整えだし・・・。
言うまでもないことだろうが、『くるみ割り人形』は童話としての出来栄えが秀逸で、メルヘンチックでありつつミステリアスでもある展開ゆえに、読者はついつい物語に釣り込まれてしまう。
また、本書に用いられた豊富な挿絵は、子供はもちろん、大人の目をも存分に楽しませてくれることだろう。

デュマ父子の書いた『くるみ割り人形』を語るとなると、『くるみ割り人形』の真の原作者であるホフマンの名を出さずに済ますわけにはいかない。
著作権という概念の弱かった時代のことなので、盗作という意識はほとんどなかったのかもしれないし、何事も強気で押し通すデュマ・ペールのことだけに、盗作だとわかっていてもそんなことはまるで気にならなかった可能性もある。
何にせよ、デュマの書いた『くるみ割り人形』が優れた作品であるということだけは確かなところだ。
英国ロイヤル・バレエ団 「くるみ割り人形」(全2幕 ライト版) [DVD]英国ロイヤル・バレエ団 「くるみ割り人形」(全2幕 ライト版) [DVD]

すでにチャイコフスキー作曲のバレエを見てから本書を手にされた方も少なくないだろう。
もしバレエを見るより先に本書を手にした方がいれば、併せてバレエを観賞されることをお勧めしたい。
世界的に有名なバレエ作品だけあって、右に挙げたようなDVDであれば容易に入手可能だ。
原作とバレエの相乗効果で、双方の面白さが何倍にも膨れ上がるであろうことは疑いなしだ。

『ボルジア家風雲録』 デュマ(イースト・プレス)

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書名:ボルジア家風雲録
著者:アレクサンドル・デュマ
訳者:吉田良子
出版社:イースト・プレス
ページ数:208(上)、192(下)

おすすめ度:★★★★




デュマ初期の小説作品の一つがこの『ボルジア家風雲録』である。
原書はもっと大部の作品集なのだが、昔からなぜかこのボルジア家のパートだけが注目を集めていて、ここだけ抜粋されて訳出されるという運命にあるらしい。
他の部分を読んだことがないのでその抜粋の妥当性については判断がつかないのだが、翻訳出版されている『ボルジア家風雲録』に限って言えば、読み応え十分の歴史小説であると断言することができる。

『ボルジア家風雲録』は、権謀術数を駆使して自らの野心を実現していくアレクサンドル六世とその息子チェーザレ・ボルジアという、ボルジア家の中でも最も悪名高い二人の人物を中心に描かれている。
日本でいうところの戦国時代のように、イタリア国内では群雄割拠、さらにフランス、ドイツ、スペイン、トルコといった大国との油断ならない接点も多く、ローマの政治は綱渡りである。
そんな中、アレクサンドル六世とチェーザレ・ボルジアは、持ちうる宗教的権力や世俗的権力から最大限の利益を引き出すべく、同盟と裏切りを繰り返していく。
本書の読者は、なぜボルジア家の面々の評判が今日に至るまでこうも悪いのか、嫌でも納得させられることだろう。

『ボルジア家風雲録』は、歴史書ではなく、あくまでデュマによる歴史小説なので、明らかに史実と異なる記述や人物設定も散見するようだ。
これはデュマの認識誤りではなく、ドラマとしての効果を狙った演出の一種とみなされるべきものであり、この紛らわしい改変に対する賛否両論はあるにせよ、デュマの歴史小説とはそもそもそういうものとして読むしかないような気がする。
そういう意味では、ボルジア家の歴史に興味のある方には不向きな作品と言えるかもしれない。

デュマの小説といえば、その読みやすさとスピード感が売りであるが、『ボルジア家風雲録』においてもそれらは健在である。
その点、文豪と称されるデュマの作品には、チェーザレの口約束なんかとは訳が違い、裏切られることが少ないので安心だ。
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