『三文オペラ』 ブレヒト(岩波文庫)

三文オペラ (岩波文庫)三文オペラ (岩波文庫)

書名:三文オペラ
著者:ベルトルト・ブレヒト
訳者:岩淵 達治
出版社:岩波書店
ページ数:285

おすすめ度:★★★★★




ブレヒトの代表作として知られているのがこの『三文オペラ』である。
200年前の戯曲を翻案したものではあるが、ブレヒトらしさが存分に発揮された秀逸な作品であると言えるだろう。
作品全体を通して下品な言い回しも多いが、それだけ強く下層民の活気に満ちた息遣いが感じられるのも『三文オペラ』の特長だと思う。

乞食を演じる人々に衣装一式を貸し出し、乞食によって儲かった分の上前をはねるという何とも不名誉な商売を営むピーチャム。
手広くやっていた商売はうまくいっていたが、彼の娘がロンドンの街で知らぬ者のない犯罪者マクヒスと勝手に結婚してしまったものだから・・・。
『三文オペラ』には、裕福な者に利するように世の中ができていて、貧富の差が倫理観の堕落を生むといった、社会主義的な思想がけっこう露骨に前面に押し出されているので、ひょっとするとそれを少々煙たく感じる読者もいるかもしれない。

『三文オペラ』は、戯曲と音楽との融合をテーマにした、ミュージカル風の作品に仕上がっている。
もちろん、過去にも音楽を用いた戯曲は数えきれないほどあるが、戯曲と音楽との融合を追求したブレヒトの変わっている点は、芝居と歌とは明確に区別されるべきであり、芝居の流れから自然と歌に入ってはいけないと考えているところだろう。
つい先ほどまで普通に台詞を述べていた役者が心情の高揚に伴って唐突に歌い出すことの多い今日のミュージカル作品と、異化作用を提唱するブレヒトの作品とでは、やはりその趣向が大きく違うようだ。

岩波文庫の『三文オペラ』の表紙には、結末部分を含むネタばれが書かれていて、あらすじを楽しみたい方はがっかりすることになるかもしれない。
そうはいっても、結末が明かされていたとしても戯曲の面白さはさほど損なわれていないので、少しでも興味を感じた方はぜひ手に取ってみていただければと思う。
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『肝っ玉おっ母とその子どもたち』 ブレヒト(岩波文庫)

肝っ玉おっ母とその子どもたち (岩波文庫)肝っ玉おっ母とその子どもたち (岩波文庫)

書名:肝っ玉おっ母とその子どもたち
著者:ベルトルト・ブレヒト
訳者:岩淵 達治
出版社:岩波書店
ページ数:253

おすすめ度:★★★★★




『肝っ玉おっ母とその子どもたち』は、『三文オペラ』と同様にブレヒトの代表的な戯曲の一つに数えられている。
タイトルからも察せられるように、従軍商人として戦地を渡り歩くアンナ一家のたくましい姿が描かれている。
第二次世界大戦やナチズムとも無関係ではないものの、作品自体に重苦しさはないので、気軽に手にしていただければと思う。

『肝っ玉おっ母とその子どもたち』の舞台は、三十年戦争の最中のスウェーデンやドイツ、ポーランドなどだ。
新教陣営から旧教陣営まで、アンナ一家は図々しいとも言えるほどの商人根性で切り抜けていこうとするが、やはり戦争中とあって様々な不幸が襲い掛かるのだけは避けられず・・・。
戯曲の全編を通じて、アンナの占めるウェイトの大きさはかなりのもので、他の人物が添え物に感じられてしまうほどである。
読者は自ずと波乱万丈な人生を送るアンナの言動に注視させられることだろう。
母アンナの子連れ従軍記 (光文社古典新訳文庫)母アンナの子連れ従軍記 (光文社古典新訳文庫)

この作品は、光文社古典新訳文庫では『母アンナの子連れ従軍記』というタイトルで出版されている。
原題は"Mutter Courage und ihre Kinder"であり、アンナの名も出ていなければ従軍記であることも示されていないため、岩波文庫のほうがより正確な訳語であるはずで、『母アンナの子連れ従軍記』はタイトルとしては完全な意訳ということになる。
しかしながら、劇中でアンナたちが商品を載せた幌車を引っ張り続けるように、アンナというたくましい登場人物の魅力だけで引っ張っていく作品であるのは事実であろうから、この意訳にもある程度は頷けるというものだ。

『肝っ玉おっ母とその子どもたち』は、軽快な言葉の掛け合いの中で、命の重みや家族の愛情、そして何より、苦境の中で生きていくということを考えさせられる、そんな作品だ。
現実的、あまりに現実的なアンナの生き方に触れてみることは、現実問題として、興味深い体験になるのではなかろうか。

『アンティゴネ』 ブレヒト(光文社古典新訳文庫)

アンティゴネ (光文社古典新訳文庫)アンティゴネ (光文社古典新訳文庫)

書名:アンティゴネ
著者:ベルトルト・ブレヒト
訳者:谷川 道子
出版社:光文社
ページ数:186

おすすめ度:★★★★




ブレヒトの『アンティゴネ』は、ソポクレスによるギリシア悲劇の改作という、ブレヒトとしては異色の作品となっている。
ブレヒトが亡命中であった第二次世界大戦後に書かれた作品で、『アンティゴネ』もまた、戦時下における市民のあり方を問うている作品として読むことも可能だろう。

テーバイの国王であり、叔父でもあるクレオンによって、血を分けた兄弟の埋葬を禁じられたアンティゴネ。
肉親の遺骸が動物に食い荒らされていくことに耐え切れず、法に背いて埋葬することを決心をするのだが・・・。
人としての倫理と国の法律との不一致という葛藤に接したアンティゴネが人道を選ぶことは、特に本書のように法が恣意的なものである場合においては、大半の読者の賛同を得られることであろう。

光文社の古典新訳文庫ではけっこうありがちなことではあるが、本書『アンティゴネ』においても、全ページにおける本文の比率が低い。
裏を返せば、訳者による解説やあとがきが非常に充実しているということではあるのだが、約200ページのうち三分の一以上が解説、年譜、あとがきで占められるというのでは、本文の少なさに少しがっかりしてしまう読者がいても仕方ないのではなかろうか。
解説なしでも自立して十分面白い作品なのだから、もっと薄く、そして安くしてくれたほうがお手頃でありがたいと考えるのは私だけだろうか。

社会派作家のブレヒトのことだから、『アンティゴネ』に込められた思想的主張はなんだろうかと、読者はつい勘ぐってしまうかもしれない。
オリジナルであるソポクレスの『アンティゴネ』との相違点も気になるところではある。
しかし、個人的には、『アンティゴネ』はあまり深いことを考えずに純粋にストーリー展開を楽しめる戯曲になっているので、研究者目線でなく、鑑賞者目線で接してみてもよいのではないかと思う。

『暦物語』 ブレヒト(光文社古典新訳文庫)

暦物語 (古典新訳文庫)暦物語 (古典新訳文庫)

書名:暦物語
著者:ベルトルト・ブレヒト
訳者: 丘沢 静也
出版社:光文社
ページ数:312

おすすめ度:★★★★




劇作家として知られるブレヒトの、短編小説と詩作品の計17編を収録しているのがこの『暦物語』である。
短編小説と詩が交互に収録されていて、簡潔で読みやすい文章を書く散文家として、また美しい詩を書く詩人としてのブレヒトを垣間見ることができる一冊だ。
子供の十字軍子供の十字軍

『暦物語』の中でよく知られている作品といえば、『アウクスブルクの白墨の輪』であろう。
この作品にストーリーの斬新さを期待することはできないかもしれないが、結構の整ったよくできた一編であるということは賛同いただけるものと思う。
詩作品の中で言えば、『子どもの十字軍 1939年』が最も有名なのではなかろうか。
右に挙げるように、かつて銅版画の挿絵入りの単行本にもなっているほどで、切なく感動的なストーリーに、誰もが胸を打たれるに違いない。

『暦物語』の収録作品の中では、個人的には『カエサルとカエサルの軍団兵』と『怪我をしたソクラテス』をお勧めしたい。
前者は、暗殺を目前に控えたカエサルをテーマとする歴史小説風の小品で、結末は誰の目にも明らかなのに、それでも面白く読めてしまうのだから不思議なものだ。
後者も歴史ものといえば歴史ものかもしれないが、話のスケールなどの面で少し毛色が異なっている。
ソクラテスが戦争で武勲を立てたと称賛される一方で、戦場での事実を知るのは本人ばかりというややコミカルなタッチの作品となっており、こちらもやはり面白い。

ブレヒトは、日本で十分に紹介されてきたとは言い難い作家の一人であるように思う。
そんな中で、『暦物語』のようなブレヒトの劇作品以外が文庫化されるというのは、うれしいサプライズであった。
本書を読めば、意外と多角的であるブレヒトを、誰もがもっと知りたいと思うのではなかろうか。
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