『イリアス』 ホメロス(岩波文庫)

イリアス〈上〉 (岩波文庫)イリアス〈上〉 (岩波文庫)
(1992/09/16)
ホメロス

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イリアス〈下〉 (岩波文庫)イリアス〈下〉 (岩波文庫)
(1992/09/16)
ホメロス

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書名:イリアス
著者:ホメロス
訳者:松平 千秋
出版社:岩波書店
ページ数:454(上)、510(下)

おすすめ度:★★★★★




ヨーロッパの文化に絶大な影響力を及ぼしていた古代ギリシア、その中でもトロイア戦争を扱った『イリアス』と『オデュッセイア』は古典中の古典として広く浸透している。
『イリアス』と『オデュッセイア』でトロイア戦争の顛末すべてが述べられているわけではないにせよ、古代ギリシアを代表する基本的作品のひとつなのでぜひ読んでみてほしい。

アキレウス、オデュッセウス、ヘクトルなどの英雄たちに加え、ゼウス、ポセイドンをはじめとするギリシア神話の神々・・・後世にその名が伝わるここまで数多くの豪華なキャストが一堂に会する文学作品は他にない。
現存するホメロスの二作品はいずれも読みどころに次ぐ読みどころで、一読すればなぜそれらがこれまで何億という人々を強く惹きつけてきたのかがわかるだろう。
『イリアス』では、特に両軍入り乱れての戦闘シーンの迫力が見事で、同時に個の名誉を尊重するギリシア精神にも触れることができる。
枕詞に該当する独特の言い回しなど、馴染みのない表現も多いが、丁寧な訳注が読者の理解を助けてくれ、3000年前の作品を読んでいるとは思えないほどすらすら読めるのもうれしいポイントだ。
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(2004/10/29)
ブラッド・ピット、エリック・バナ 他

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右はブラッド・ピットがアキレウスを演じた映画『トロイ』。
『イリアス』の前後の主要な出来事をも含めているので、トロイア戦争を俯瞰することができる秀作だ。
一部の例外を除き、もっぱら人間の世界にのみ焦点を絞って製作されていて、下手に神々を登場させてケチなB級映画に堕することを回避している。
英雄たちの繰り広げる数々の名場面は見応えがあるが、大幅な筋の改変も見られるので、原作に忠実な映画ではないことに関しては賛否両論だろう。

『イリアス』の原文は詩であるが、この岩波文庫版は詩文の韻律を生かそうとして七五調を採用することもなく、たいへん読みやすい現代文に翻訳されている。
ただ、『イリアス』には人物・神々や地名など、膨大な数の固有名詞が出てくるので、カタカナの氾濫に戸惑う読者もいるかもしれない。
しかし、主要な登場人物さえ把握してしまえば、ギリシア悲劇の面白みも格段に増す上に、後世の言及や絵画に対する造詣も深まることだろう。
欧米文学最大の古典を、『オデュッセイア』と合わせてぜひ繰り返し読んでみていただきたい。
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『オデュッセイア』 ホメロス(岩波文庫)

ホメロス オデュッセイア〈上〉 (岩波文庫)ホメロス オデュッセイア〈上〉 (岩波文庫)
(1994/09/16)
松平 千秋

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ホメロス オデュッセイア〈下〉 (岩波文庫)ホメロス オデュッセイア〈下〉 (岩波文庫)
(1994/09/16)
松平 千秋

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書名:オデュッセイア
著者:ホメロス
訳者:松平 千秋
出版社:岩波書店
ページ数:394(上)、365(下)

おすすめ度:★★★★★




トロイア戦争が終わり、オデュッセウスが故国であるイタケへと帰還するまでを描いたのがこの『オデュッセイア』だ。
内容的に見れば『イリアス』との間には数々の事件が起こっているはずなのであるが、残存するホメロスの作品が『イリアス』と『オデュッセイア』しかないため、これら二作はセットとして扱われることが多い。
趣こそ異なるが、『イリアス』の読者にはぜひお勧めしたい作品だ。

海神ポセイドンの怒りを買ったオデュッセウスは、トロイア戦争からの帰途で漂流し、行く先々で危難に遭遇することになる。
故郷のイタケに着けば着いたで、館には妻に言い寄る婚約者どもが巣食っている。
知将として名高いオデュッセウスがそれらの難関をどう切り抜けるのかが『オデュッセイア』の主な見所だ。
また、オデュッセウスの妻ペネロペや息子テレマコスは言うまでもなく、一つ目巨人のキュクロプスや、歌声で船乗りを誘惑するセイレーンなど、『イリアス』に負けず劣らずの個性的なキャラクターが揃っていて、絵画の主題とされることの多い名場面を多数提供しているのも非常に興味深い。
ユリシーズ〈1〉ユリシーズ〈1〉
(1996/06/16)
ジェイムズ ジョイス

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オデュッセウスの世界 (岩波文庫)オデュッセウスの世界 (岩波文庫)
(1994/07/18)
M.I. フィンリー

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右はジョイスの『ユリシーズ』(全三冊)で、ホメロスの『オデュッセイア』に模した構成の作品だ。
『オデュッセイア』を楽しむ上で読む必要のある本ではないが、その逆は然りで、『オデュッセイア』なしでは『ユリシーズ』の鑑賞は片手落ちとなるだろう。
とはいえ、『ユリシーズ』のほうは過度に「文学的」な作品なので、あまりお勧めはできないのだが・・・。

イリアス』と『オデュッセイア』の読者にお勧めしたいのが同じく右に挙げた『オデュッセウスの世界』だ。
フィンリーという歴史家の著書だが、決して堅苦しい論文ではなく、ホメロスの描いたギリシア世界に関する一般読者向けの解説書として読むことができる。
『オデュッセイア』と合わせて読めば、よりいっそう「オデュッセウスの世界」への理解が深まり、古代ギリシアに対する関心が強まること疑いなしだ。

『アエネーイス』 ウェルギリウス(岩波文庫)

アエネーイス (上) (岩波文庫)アエネーイス (上) (岩波文庫)
(1997/03)
ウェルギリウス

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アエネーイス (下) (岩波文庫)アエネーイス (下) (岩波文庫)
(1997/03)
ウェルギリウス

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書名:アエネーイス
著者:ウェルギリウス
訳者:泉井 久之助
出版社:岩波書店
ページ数:497(上)、453(下)

おすすめ度:★★★★




ウェルギリウスは、ダンテが『神曲』で地獄を巡る際の案内人に選んだことでも知られているラテン文学最大の詩人で、その最高傑作と言われているのがこの『アエネーイス』だ。
話の内容のみならず、作品全体にホメロスからの影響が顕著に見て取られ、『イリアス』、『オデュッセイア』に続けて読むとより興味深く感じられる作品だろう。

『アエネーイス』は、トロイア戦争の末、陥落したトロイアから逃げ出した王子アエネーアスが、遍歴の末にイタリアの地にたどり着き、そこでまた土着の民族と戦になる模様を描いた詩作品だ。
トロイアからの脱出の際に父アンキセスを背負うアエネーアスや、カルタゴの女王ディードーの悲恋などは、中でも特に有名なエピソードなので記憶に留めておく価値がある。

アエネーアスは、『イリアス』においてもギリシア名であるアイネイアスの名で活躍している。
しかしながら、『イリアス』の項でも紹介したブラッド・ピット主演の映画『トロイ』では、ささやかな演出としてほんの一瞬だけ登場の機会を与えられているに過ぎない。
アイネイアスのファンはただただがっかりするばかりだが、トロイア戦争を一本の映画にしようというのがそもそも無理な話なのであって、アイネイアスが脇役に回されるのも仕方のないことなのだろう。
アイネイアスの活躍を読まれたい方は、彼を主人公とした『アエネーイス』をぜひ読んでみてほしい。

『アエネーイス』には、時の皇帝アウグストゥスへの追従とも感じられる文言が多かったりするので、ウェルギリウスの人品に対してとは言わないまでも、少なくともウェルギリウスの生きていた時代に対してはいくらか失望を感じてしまう。
文学作品が権力者の顔色を窺いながら執筆されていたのであれば、今日の読者からすればラテン文学全般の魅力が乏しく感じられたとしてもやむをえないことだろう。
そんな時代背景もあるにせよ、ラテン文学の最高峰とも言われる『アエネーイス』は確固たる地位を占めている傑作であるので、中には訳文のスタイルに抵抗を感じる方もいるかもしれないが、ぜひ一度読んでみていただきたいと思う。

『牧歌/農耕詩』 ウェルギリウス(京都大学学術出版会)

牧歌/農耕詩 (西洋古典叢書)牧歌/農耕詩 (西洋古典叢書)
(2004/05)
ウェルギリウス

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書名:牧歌/農耕詩
著者:ウェルギリウス
訳者:小川 正広
出版社:京都大学学術出版会
ページ数:279

おすすめ度:★★☆☆☆




ウェルギリウスの『牧歌』と『農耕詩』を一冊にまとめたのがこの本である。
ラテン詩の雰囲気を感じ取ることのできる作品だが、『アエネーイス』と比べると格段にストーリー性に乏しく、退屈に思う人も少なくないだろう。
あまり一般受けする作品ではないと思うので、ラテン文学や、『アエネーイス』や『神曲』でウェルギリウスに興味を持った人向けである。

『牧歌』は、短い十の歌を集めたもの。
当時の世相を反映している詩行も多いが、脚注が充実しているので理解に苦しむ部分はまったくないと言ってもいいほどだ。
テオクリトスに始まる「牧歌」というスタイルは、ウェルギリウスを経て、後のタッソの牧歌劇『アミンタ』へと受け継がれていくだろう。

『農耕詩』は、ヘシオドスの『仕事と日』につながる作品として読むことができる。
畑作や葡萄の栽培、家畜の世話から養蜂まで、農村で必要な知識を網羅した詩作品となっている。
当時の世界観・宇宙観や自然学の未発達なさまなどを読み取ることができて興味深い反面、ほとんどの部分が実践を前提にした記述なので、後世でいうところの田園小説には程遠く、『アエネーイス』のような物語詩を期待すると大いに失望するに違いない。

作品数が少ないということもあり、たとえ翻訳であっても『アエネーイス』と『牧歌/農耕詩』を読めば、ラテン文学最高の詩人と評されるウェルギリウスの作品がどのようなものか、そのだいたいの輪郭をつかむことができる。
しかし、この『牧歌/農耕詩』に関して言えば、わかりやすい解説でウェルギリウスに対する理解を深めることができるという利点こそあるものの、必ずしもすべての人に楽しい読書時間を提供することはないだろう。
私のようにラテン語での鑑賞ができない読者には、あくまでギリシアからルネサンスをつなぐ鍵として読むことをお勧めしたい。

『変身物語』 オウィディウス(岩波文庫)

オウィディウス 変身物語〈上〉 (岩波文庫)オウィディウス 変身物語〈上〉 (岩波文庫)
(1981/09/16)
オウィディウス

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オウィディウス 変身物語〈下〉 (岩波文庫)オウィディウス 変身物語〈下〉 (岩波文庫)
(1984/02/16)
オウィディウス

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書名:変身物語
著者:オウィディウス
訳者:中村 善也
出版社:岩波書店
ページ数:366(上)、371(下)

おすすめ度:★★★★




ギリシア・ローマ神話に関する古典として有名な『変身物語』。
ギリシア神話には神の力によって様々な形に変身させられる人物が無数に登場するが、それらを一覧できるのが本書だ。
文学や絵画など、西洋文化に関心のある人は目を通しておくべき本の一つだろう。

『変身物語』には無数の話が詰まっているが、その中でもエコーやナルキッソスなど、今日に至るまで使用されている単語の語源になった物語は特に興味深く読めることだろう。
また、恋多き神であるユピテルの恋愛遍歴も読むことができる。
ユピテルはなんと好色の主神かと呆れてしまいそうになるが、何十年かで人生を閉じる人間と違い、不死の身である者ならそれくらいの数の色恋沙汰は普通なのかもしれない。

オウィディウスの代表作である『変身物語』は、しばしば同時代の詩人であるウェルギリウスの代表作『アエネーイス』と比較される。
いずれもラテン文学の傑作とされている作品だが、一方はエピソードの宝庫であり、一方はまとまりのある一つの物語であるから、単純に比較できるものでもないだろうが、私個人の意見としては、本自体としては『アエネーイス』の方が面白く、教養を得るための古典としては『変身物語』がはるかに優れているように思う。
西洋美術に関心のある方ならば同意していただけるように思うのだがいかがだろうか。

『変身物語』は、後世の芸術家に無数のモチーフを提供しているテーマを集めているだけに、たいへん興味深い本ではある。
しかし、古代ギリシアに詳しくない人が初めて手にするにしては、訳注こそあるものの、神や人物、地名などの固有名詞があまりにも多すぎて、おそらく何が何やら区別がつかなくなることだろうから、一度で全部を覚えようとはせず、最初は心の片隅にエピソードの輪郭を留めるくらいの気持ちで読むのがいいのかもしれない。
いずれにしても、辞典的な使い方もできるので、書架に並べておいて損はない本だと思う。

『神統記』 ヘシオドス(岩波文庫)

神統記 (岩波文庫 赤 107-1)神統記 (岩波文庫 赤 107-1)
(1984/01/17)
ヘシオドス

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書名:神統記
著者:ヘシオドス
訳者:廣川 洋一
出版社:岩波書店
ページ数:208

おすすめ度:★★★★




ホメロスほどの知名度や影響力はないにせよ、古代ギリシア文学の草創期に位置づけられる重要な詩人として忘れてはならないのがヘシオドスだ。
ヘシオドスのものとされる作品数自体はきわめて少なく、いずれも簡単に読破することができる薄いものなので、古代ギリシア世界に興味のある方であればぜひヘシオドスの作品を手にしていただければと思う。
特にこの『神統記』は、ギリシア神話の中核をなすと言っても過言ではないオリュンポスの神々の系譜について体系的に述べられた数少ない原典の一つであるため、ギリシア神話への格好の入門書とも言えるはずだ。

『神統記』の記述は、世界の始まり、すなわち天地の創造に始まる。
そういう意味では、『神統記』は旧約聖書でいう『創世記』の冒頭部分に該当する書とも言えるのかもしれないが、一神教と多神教の違いなのか、それぞれの書に描かれる過程はあまりにも異なっている。
それだけに、人間らしい人格を備えた神々も数多く存在すれば、概念を神格化した神々もいる古代ギリシア世界の特徴が、『神統記』には非常に顕著に表れていると言えるのではなかろうか。

『神統記』で扱われている内容を把握しておけば、古代ギリシア文学への造詣が深まることはもちろん、西洋美術を楽しめる幅も大きく広がるに違いない。
右は、一度見てしまえば強烈なインパクトと共に人々の記憶に焼き付けられるゴヤの『わが子を食らうサトゥルヌス』だが、これも『神統記』中の一場面を描いたものであるし、『神統記』の読者であれば、ゴヤの手によってどのような脚色がなされているのかも容易に理解されることだろう。

『神統記』は、明確な主人公がいて山あり谷ありの物語が進行していくというスタイルの本ではないので、万人向けの作品であるとは言えないかもしれない。
そうはいっても、ギリシア神話についての知識を得るのに最適の一冊であることは疑いようがないし、『神統記』といういかめしいタイトルからは想像しにくいほどに、内容自体はとても読みやすい。
古代ギリシアの世界観に関心のある方に強くお勧めしたい一冊だ。

『仕事と日』 ヘシオドス(岩波文庫)

ヘーシオドス 仕事と日 (岩波文庫)ヘーシオドス 仕事と日 (岩波文庫)
(1986/05/16)
ヘーシオドス

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書名:仕事と日
著者:ヘシオドス
訳者:松平 千秋
出版社:岩波書店
ページ数:200

おすすめ度:★★★☆☆




神統記』で知られるヘシオドスのもう一つの著作がこの『仕事と日』だ。
タイトルはしばしば『仕事と日々』と訳されることもあるようだが、複数の翻訳が広く流通しているわけではない本書の場合、岩波文庫版の表題である『仕事と日』が一般的に用いられているのではなかろうか。
訳注なしでは理解しにくい部分もあるかもしれないが、『神統記』と同じくとても読みやすい作品なので、古代ギリシア世界に関心のある方であればぜひ気軽に手にしていただきたい。

『仕事と日』は、神話や人類の歴史を振り返りつつ、なぜ人は働かなければならないのかを訓戒した叙事詩だ。
教訓を垂れるというスタイルにもかかわらず、説教臭さはほとんど感じられず、多くの読者は何らの抵抗なしにヘシオドスの展開する古代ギリシアの倫理観に触れることができるだろう。
また、『仕事と日』はウェルギリウスの『農耕詩』へと連なる、一連の農耕を賛美する詩の元祖とでもいうべきものであるため、文学史的な興味から読んでみるのもいいと思う。

現在、著者の名前に関しては「ヘシオドス」と「ヘーシオドス」という表記が混在しているように思うが、厳密に言うならば最初の母音が長母音なので「ヘーシオドス」が正しいということになるはずだ。
とはいえ、ギリシア語の場合はあえて長母音を短母音とみなして片仮名表記するという習慣も広く行き渡っていて、少なくとも私が目にする限りでは長母音を採用しているケースの方が少ないようにも感じられるので、必ずしも一方が正解で他方が誤りというわけではないように思う。
しかし、片仮名表記をできるだけ原語に近付けるように努めるという近年の傾向からすると、これからは「ヘーシオドス」が主流になってくるのかもしれない。

内容が落ち着いたものであるだけに、『仕事と日』の読者が『イリアス』を読む時のように胸を躍らせるというわけにはいかないだろうが、その落ち着きの中から汲み取れる古代ギリシアのエッセンスは、他の作品にはない種類のものだろう。
古代ギリシアに対する造詣を深めたい方に強くお勧めしたい一冊だ。

『恋愛指南―アルス・アマトリア』 オウィディウス(岩波文庫)

恋愛指南―アルス・アマトリア (岩波文庫)恋愛指南―アルス・アマトリア (岩波文庫)

書名:恋愛指南―アルス・アマトリア
著者:オウィディウス
訳者:沓掛 良彦
出版社:岩波書店
ページ数:214

おすすめ度:★★★☆☆




変身物語』の作者として知られるオウィディウスは恋愛に関する作品も数点物しているが、それらの中の一つがこの『恋愛指南―アルス・アマトリア』である。
後年、風紀を紊乱したかどでオウィディウスはローマを追放されることとなるが、その一因となったのがこの著作らしい。
今日的な観点からすればさほど問題視されるような内容ではないにせよ、古典文学としては珍しく卑猥な部類に入る作品だ。

『恋愛指南』は、その表題のとおり、どうすれば異性をものにできるかといった問題が中心となっている。
世の中、何事にもうまいやり方があってしかるべきなのだから、色恋の達人とも言うべき筆者が読者に恋愛の技法を伝授しようというスタンスで書かれている。
テーマから予想がつくように、全体に上品さには欠ける部分が多いが、読者は風紀の乱れてきていたローマの様子を窺わせる品のなさをこそ楽しむことができるはずだ。

あえて『恋愛指南』の難点を挙げるとすれば、それはギリシア・ローマ神話への言及がきわめて多いことだろうか。
訳注が充実しているために内容を把握できないことはないはずだが、中には数十ページに及ぶ訳注を煩わしいと思われる方もいることだろう。
しかし、ギリシア・ローマ神話に対する豊富な言及も、後に『変身物語』を書き上げることとなるオウィディウスらしい書きぶりと言えるのかもしれない。

2008年に岩波文庫入りした『恋愛指南―アルス・アマトリア』は、以前からそれぞれ異なる邦題で何度か日本語訳が出版されていたこともあり、おそらくオウィディウスの作品の中では『変身物語』に次いで多くの日本人に読まれてきている作品だろう。
そしてこの一冊を読んでいるかいないかで、オウィディウスに対するイメージは大きく変わるに違いない。
今回のこの文庫化を機に、『変身物語』とは異なるオウィディウスの一面がいっそう普及してくれればと思う。
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