『お気に召すまま』 シェイクスピア(新潮文庫)

お気に召すまま (新潮文庫)お気に召すまま (新潮文庫)
(1981/07)
ウィリアム シェイクスピア

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書名:お気に召すまま
著者:ウィリアム・シェイクスピア
訳者:福田 恒存
出版社:新潮社
ページ数:194

おすすめ度:★★★★




お気に召すまま (岩波文庫 赤 204-7)お気に召すまま (岩波文庫 赤 204-7)
(1974/05/16)
ウィリアム・シェイクスピア

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お気に召すまま−シェイクスピア全集 15  (ちくま文庫)お気に召すまま−シェイクスピア全集 15  (ちくま文庫)
(2007/06)
W. シェイクスピア

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シェイクスピアの喜劇作品の中で、特によく読まれているものの一つがこの『お気に召すまま』だろう。
読みやすさでいえば『夏の夜の夢』や『十二夜』に匹敵する作品であろうし、右に示すように文庫本だけでも数種類の翻訳があるために入手に困ることもまずないはずだ。
シェイクスピアの作品の中でも特に気軽に手にしていただける一冊としてお勧めしたい。

領地を追われた公爵とその娘ロザリンド、さらにロザリンドに一目惚れしたオーランドーは兄に迫害されて、それぞれアーデンの森に逃げ場を求めていた。
不遇な身の男女が行き交うことになったアーデンの森であるが、逆境にあっても若者の恋をする心だけはすたれることはなく・・・。
『お気に召すまま』の筋書きは、どこか『十二夜』のようでもあり、『テンペスト』を思わせる節もある。
総じてきわめてシェイクスピアらしいプロットの戯曲であると言えるのではなかろうか。
モーパン嬢〈上〉 (岩波文庫)モーパン嬢〈上〉 (岩波文庫)
(2006/10/17)
テオフィル ゴーチエ

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モーパン嬢〈下〉 (岩波文庫)モーパン嬢〈下〉 (岩波文庫)
(2006/11/16)
テオフィル ゴーチエ

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『お気に召すまま』の読者にお勧めしたいのが右に挙げるテオフィル・ゴーチエの『モーパン嬢』だ。
『お気に召すまま』を大きなインスピレーション源として書かれたことが明白な小説作品であるため、『お気に召すまま』を読んだことがあるかないかで鑑賞の幅が格段に違ってくることは間違いないように思う。
ゴーチエは日本ではあまり有名な作家ではないかもしれないが、ロマン派の旗手の一人として活躍した彼の著作には見所のあるものが豊富だし、『モーパン嬢』も巧みに構成された優れた小説なので、『お気に召すまま』の読者には一読をお勧めしたい。

シェイクスピアが代表作を量産していた、いわば脂の乗り切った時期に書かれた傑作喜劇『お気に召すまま』。
王道的なシェイクスピアの喜劇作品の一つとして、これからも世界中で長く読まれ続けていくに違いない。
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『十二夜』 シェイクスピア(岩波文庫)

十二夜 (岩波文庫)十二夜 (岩波文庫)
(1960/03/25)
シェイクスピア

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書名:十二夜
著者:ウィリアム・シェイクスピア
訳者:小津 次郎
出版社:岩波書店
ページ数:173

おすすめ度:★★★★




シェイクスピアの喜劇の中でも特に評判の高い作品の一つである『十二夜』。
原題である"Twelfth Night"は、日本語としては文字通り『十二夜』であるが、本来はクリスマス後の十二日目である顕現日の夜のことを指している。
それでいて、作中においては直接的に十二夜を指し示すような台詞はなく、明確にされていない執筆年代も含めて、研究者の間では何かと議論の対象となっているようである。
そうはいっても、一般の読者が鑑賞する分にはまったく難解さの感じられない読みやすい作品であるため、幅広い読者層に受け入れられうる作品ではないかと思う。

『十二夜』の中心人物は、ヴァイオラとセバスチャンという、容姿のそっくりな双子の兄妹。
二人の乗った船が嵐に遭い、それぞれ助かりはしたものの、嵐の最中に別れ別れになった二人はお互いが死んだものと思い込んでいたのだが・・・。
人違いから生じる滑稽味という喜劇としてはやや典型的なプロットは、それほど意外性こそないものの、安心して読み進めることのできる筋書きであるといえるのではなかろうか。
十二夜 (光文社古典新訳文庫)十二夜 (光文社古典新訳文庫)
(2007/11/08)
シェイクスピア

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シェイクスピア全集 (6) 十二夜 (ちくま文庫)シェイクスピア全集 (6) 十二夜 (ちくま文庫)
(1998/09)
W. シェイクスピア

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右に挙げるように、『十二夜』には翻訳の種類も豊富だ。
翻訳の種類が多ければすなわち名作というわけではないにせよ、複数の出版社によって、多くの読者が楽しめる作品であるととらえられていることは事実だろう。
翻訳にそれといってこだわりのない方には、新品が安価で購入可能な岩波文庫と光文社古典新訳文庫とをお勧めしたい。

テンポよく軽快にストーリーが進んでいく『十二夜』は、シェイクスピアの人物造形における偉大さを感じ取るための作品としては少々不適切かもしれない。
しかし、喜劇作品の場合は、登場人物の心理にあまり深く立ち入ってしまっては劇としての面白みが削がれることにもなるだろう。
そういう意味では、各登場人物を適度に描ききった『十二夜』の喜劇作品としての仕上がりは見事と言うべきで、『十二夜』の読者はもれなくその見事さを味わっていただけるのではないかと思う。

『風と共に去りぬ』 ミッチェル(新潮文庫)

風と共に去りぬ (1) (新潮文庫)風と共に去りぬ (1) (新潮文庫)
(1977/06)
マーガレット・ミッチェル

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風と共に去りぬ (2) (新潮文庫)風と共に去りぬ (2) (新潮文庫)
(1977/06)
マーガレット・ミッチェル

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風と共に去りぬ (3) (新潮文庫)風と共に去りぬ (3) (新潮文庫)
(1977/06)
マーガレット・ミッチェル

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風と共に去りぬ (4) (新潮文庫)風と共に去りぬ (4) (新潮文庫)
(1977/07)
マーガレット・ミッチェル

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風と共に去りぬ (5) (新潮文庫)風と共に去りぬ (5) (新潮文庫)
(1977/07)
マーガレット・ミッチェル

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書名:風と共に去りぬ
著者:マーガレット・ミッチェル
訳者:大久保康雄、竹内道之助
出版社:新潮社
ページ数:445(一)、446(二)、409(三)、445(四)、509(五)

おすすめ度:★★★★★




マーガレット・ミッチェルの大長編作品、『風と共に去りぬ』。
南北戦争前後のアトランタと近郊のプランテーションを舞台にした作品で、二千ページを超える長編作品ならではの壮大さや読み応えは、同じく戦争前後を描いたトルストイの『戦争と平和』に匹敵するものがある。
それでいて『戦争と平和』とは決定的に異なる部分も多く、『風と共に去りぬ』の魅力はやはり独特のものであるといえるはずだ。

『風と共に去りぬ』の主人公スカーレット・オハラは、美しく、気丈で、奔放で、なおかつ男性を籠絡する奸智に長けた、大農園の令嬢だった。
近所に住むこれも名家の青年アシュレとの相思相愛を確信していたスカーレットだったが、アシュレは他の女性と結婚することが決まっているらしい。
そんな中、個人の運命を引っ掻き回すことはもちろん、アトランタや綿花畑をも戦火にさらしかねない南北戦争が勃発し・・・。
善人でもなければそれほど聡明でもないスカーレットだが、苦難に立ち向かう際に見られる彼女の行動力、内に秘めた芯の強さには、読者を引きつけずにはおかないものがある。
また、社会や共同体の意見よりも個人のそれを優先させようとする彼女の個人志向の考え方は、現代人の読者の、特に女性読者からの強い共感を呼ぶのではなかろうか。

マーガレット・ミッチェルは一般的に言って決して文豪ではないし、南軍側からの視点で描かれた『風と共に去りぬ』には、有色人種に対する差別的な言辞も少なくない。
仮に『風と共に去りぬ』が作品の帯びる魅力のわりに今日脚光を浴びていないとすれば、その差別的な発言に由来するのだろうし、読者の中にはミッチェルの文章を読んでいてしばしば不快感を覚える読者もいるかもしれない。
それでもなお、一つの時代を活写した『風と共に去りぬ』は強くお勧めしたい文学作品であるといえる。
力強い作品を求めておられる方は、ぜひ『風と共に去りぬ』を手にしていただければと思う。

『ソネット集』 シェイクスピア(岩波文庫)

ソネット集 (岩波文庫 赤 205-5)ソネット集 (岩波文庫 赤 205-5)
(1986/11/17)
シェイクスピア

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書名:ソネット集
著者:ウィリアム・シェイクスピア
訳者:高松 雄一
出版社:岩波書店
ページ数:295

おすすめ度:★★★★




戯曲の作者としてのみならず、優れた詩人としての評価も高いシェイクスピア。
そんなシェイクスピアの詩作の才を垣間見てみたいという読者に最もお勧めしたい一冊がこの『ソネット集』だ。
様々な題材で書かれた詩を集めた詩集というわけではなく、概ね一定の脈絡に沿ったソネットが並んでいる本なので読みやすい上に、幾多の謎が散りばめられている作品であるため、『ソネット集』に対する読者の関心は尽きないことだろう。

『ソネット集』は、シェイクスピアが愛したとされる一人の青年に向けて書かれたソネットが大半を占めている。
諸説はあるものの、その青年が誰であるかは結局特定できていないし、通称「ダークレディ」と呼ばれる妖艶な女性の存在もまた文学史家たちの憶測に次ぐ憶測を呼んでいる状態だ。
そういう意味では、たいていの詩集を超えた面白さを秘めていると言えるのではなかろうか。
W・H氏の肖像 (プラネタリー・クラシクス)W・H氏の肖像 (プラネタリー・クラシクス)
(1989/09)
オスカー ワイルド

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ソネット自体の内容の吟味もさることながら、それがいつ誰に向けて書かれたものなのかを同定しようとする試みが長らく重ねられてきた『ソネット集』。
その読者にお勧めしたい本が、岩波文庫版『ソネット集』の解説でも触れられているオスカー・ワイルドによる右の『W・H氏の肖像』だ。
献辞で述べられているW.H氏とはいったい何者なのかについて、ワイルド独自の説を小説風に仕立てた一冊で、その学術的な価値はともかく、文学的にはきわめて興味深い著作であることは間違いない。

詩というジャンルに関心の持てない方も少なくないだろうし、詩の翻訳は不可能であると考えておられる方もおられることだろう。
しかし、単なる詩作品としての楽しみ方以外にも、読者の知的好奇心をくすぐるという面白さを備えた『ソネット集』は、詩をあまり好まれない方でも楽しめる可能性を十分に備えた作品だ。
まして著者は有名極まりないあのシェイクスピアなのだから、一読の価値はあるように思う。

『ヘンリー四世〈第1部〉〈第2部〉』 シェイクスピア(岩波文庫)

ヘンリー四世〈第1部〉 (岩波文庫)ヘンリー四世〈第1部〉 (岩波文庫)
(1969/11/17)
シェイクスピア

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ヘンリー四世〈第2部〉 (岩波文庫)ヘンリー四世〈第2部〉 (岩波文庫)
(1970/06/16)
シェイクスピア

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書名:ヘンリー四世〈第1部〉〈第2部〉
著者:ウィリアム・シェイクスピア
訳者:中野 好夫
出版社:岩波書店
ページ数:210(1)、225(2)

おすすめ度:★★★★




イギリスの歴史に題材を求めたシェイクスピアの史劇の一つとして、高い評価を得ているのがこの『ヘンリー四世』である。
ヘンリー四世に関する歴史的背景となると、日本ではよほど歴史に詳しい方でもない限り知らないことだろうが、他の多くの史劇と同様、予備知識がなくとも十分に戯曲を楽しむことができるはずだ。
第1部と第2部とから成る長めの作品であるために読み応えは十分なので、シェイクスピアに関心のある方にはたいへんお勧めできる。

ヘンリー四世を取り巻く状況は、決して安穏というわけにはいかなかった。
息子である皇太子の振る舞いですら頭痛の種であるし、不満を抱く者たちが兵を起こそうという動きもある。
ヘンリー四世は自らの陥った窮地を打開できるのか・・・。

話の筋との直接的な関係は薄いものの、『ヘンリー四世』における道化役ともいうべきフォルスタッフという人物は大いに注目に値する。
一つのキャラクターとしてあまりにも愉快に仕上がってしまったフォルスタッフは、『ヘンリー四世』で脇役を務めるだけには飽き足らず、喜劇『ウィンザーの陽気な女房たち』で主役の座にありつくことにもなるという、シェイクスピアが生み出した登場人物の中でも別格の存在だ。
権力争いや戦場の場面などから成る歴史劇はとかく重々しい雰囲気で進行しがちであるが、フォルスタッフの性格と軽妙な台詞によって作品中に見事なコントラストが持ち込まれ、『ヘンリー四世』がいっそう面白くなったとも言えるだろう。
ヘンリー四世 第一部  シェイクスピア全集 〔15〕 白水Uブックスヘンリー四世 第一部 シェイクスピア全集 〔15〕 白水Uブックス
(1983/01)
ウィリアム・シェイクスピア

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ヘンリー四世 第二部  シェイクスピア全集 〔16〕 白水Uブックスヘンリー四世 第二部 シェイクスピア全集 〔16〕 白水Uブックス
(1983/01)
ウィリアム・シェイクスピア

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これまで何種類か翻訳があったはずの『ヘンリー四世』だが、その文庫版にはほとんど新版が出ていないらしい。
中古品であればそれだけ安価に売られているようだが、新品をお探しの方には右の白水Uブックスをお勧めしたい。
シェイクスピアの歴史劇の中で『リチャード三世』に次いでお勧めの『ヘンリー四世』、途中で退屈に感じられてくる作品ではないと確信しているが、まずは第1部だけでも手にしてみていただければと思う。

『リチャード三世』 シェイクスピア(新潮文庫)

リチャード三世 (新潮文庫)リチャード三世 (新潮文庫)
(1974/01/30)
ウィリアム シェイクスピア

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書名:リチャード三世
著者:ウィリアム・シェイクスピア
訳者:福田 恒存
出版社:新潮社
ページ数:232

おすすめ度:★★★★★




リチャード三世 (岩波文庫)リチャード三世 (岩波文庫)
(2002/02/15)
シェイクスピア

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シェイクスピア全集 (7) リチャード三世 (ちくま文庫)シェイクスピア全集 (7) リチャード三世 (ちくま文庫)
(1999/04)
W. シェイクスピア

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数々の悲劇、喜劇によって知られるシェイクスピアは、同時に優れた史劇の書き手でもあった。
そんなシェイクスピアの史劇における代表作がこの『リチャード三世』だ。
劇としての質の高さは言うまでもないことながら、右に示すように文庫本として日本語に訳出されている種類も多いので、シェイクスピアの史劇を読んでみたい方が最初に手にするのに格好の作品と言えるのではなかろうか。

『リチャード三世』は、血のつながりが人間同士を結ぶ絆としての意味を持たないほどの権力抗争が行われているイングランドが舞台。
王位継承者の一人として、平静を装いながらも沸々とたぎる野心を秘めるグロスター公リチャード。
次々と政敵を排し、目指していた権力の座へと上り詰めていくのだが・・・。
主人公のインパクトがあまりに強いため、他の登場人物の影が薄く感じられてしまうほど、リチャード三世は興味深い人物像として描き出されている。
善人とは言い難い狡猾な人柄にもかかわらず、少なくとも文学の上ではとても魅力的な人物と言えるだろう。
リチャードを探して [DVD]リチャードを探して [DVD]
(2006/01/13)
アル・パチーノ、アレック・ボールドウィン 他

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右は、少し古いがハリウッドが誇る名優アル・パチーノがリチャードを演じた映画『リチャードを探して』だ。
ドキュメンタリー風の作品なので『リチャード三世』のストーリーをそのまま鑑賞したい方には不向きかもしれないが、『ヴェニスの商人』でシャイロックをも演じたアル・パチーノによる『リチャード三世』の解釈と演技は、公開から15年以上の時を経た今でもなお一見の価値があると思う。

ただ単に権力欲だけで動いている登場人物は、どうしてもその性格が平板になりがちだ。
しかし、リチャード三世には他の王位を狙う男達にはない独特の深みがあり、その深みが存在するからこそ、シェイクスピアの史劇の中で他を引き離して確固たる代表作として知られているのだろう。
当時のイングランドの歴史的背景を知らずとも十分楽しめる『リチャード三世』、シェイクスピアのファンならずとも、ぜひ読んでみていただきたい作品だ。

『ユルシュール・ミルエ』 バルザック(水声社)

ユルシュール・ミルエ (バルザック幻想・怪奇小説選集)ユルシュール・ミルエ (バルザック幻想・怪奇小説選集)
(2007/05)
オノレ・ド バルザック

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書名:ユルシュール・ミルエ
著者:オノレ・ド・バルザック
訳者:加藤 尚宏
出版社:水声社
ページ数:347

おすすめ度:★★★★




水声社のバルザック幻想・怪奇小説選集の第四巻として出版されたのがこの『ユルシュール・ミルエ』だ。
『ユルシュール・ミルエ』は、同じ選集の第一巻に相当する『百歳の人』などとは異なり、人間喜劇にその名を連ねる作品の一つで、『幻滅』や『ウジェニー・グランデ』と共に地方生活情景に分類されている作品である。
内容、書きぶり、テーマ、いずれの側面においてもきわめてバルザックらしい作品なので、バルザックの作品に関心のある方すべてにお勧めしたい。

ヌムールの町には、裕福な老医師と、その被後見人である若き乙女、ユルシュール・ミルエが仲睦まじく暮らしていた。
そしてバルザックの小説に年寄りの金持ちが登場するとなれば、ストーリーの軸はおのずと決まってくると言えるかもしれない。
財産、すなわち遺産の問題がそれだ。
医師の縁者たちは、医師が存命のうちから何とかして少しでも多くの分け前に与ろうと奔走するのだが・・・。
『ユルシュール・ミルエ』は、バルザックの小説に頻繁に取り上げられる、清純な乙女や財産に対して貪欲な人々を描くのみならず、そのあらすじには神秘的な要素も絡まっているため、バルザック自身の興味・関心をそのまま写し取ったかのような印象さえ与えることだろう。

『ユルシュール・ミルエ』には既訳があるらしいが、それは昭和初期のものらしく、現在では入手がほぼ不可能だろうし、仮に入手できても読みやすさの点で問題があるだろうから、水声社による本書が実質的には本邦初訳と言ってもいいくらいではなかろうか。
あまり脚光を浴びることのない作品ではあるが、いかにもバルザックらしいストーリー展開はバルザックのファンであれば必ずや楽しめるに違いない。
個人的にはほとんど難癖の付けどころのない作品に思えるので、自信を持ってお勧めできる一冊だ。

『仕事と日』 ヘシオドス(岩波文庫)

ヘーシオドス 仕事と日 (岩波文庫)ヘーシオドス 仕事と日 (岩波文庫)
(1986/05/16)
ヘーシオドス

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書名:仕事と日
著者:ヘシオドス
訳者:松平 千秋
出版社:岩波書店
ページ数:200

おすすめ度:★★★☆☆




神統記』で知られるヘシオドスのもう一つの著作がこの『仕事と日』だ。
タイトルはしばしば『仕事と日々』と訳されることもあるようだが、複数の翻訳が広く流通しているわけではない本書の場合、岩波文庫版の表題である『仕事と日』が一般的に用いられているのではなかろうか。
訳注なしでは理解しにくい部分もあるかもしれないが、『神統記』と同じくとても読みやすい作品なので、古代ギリシア世界に関心のある方であればぜひ気軽に手にしていただきたい。

『仕事と日』は、神話や人類の歴史を振り返りつつ、なぜ人は働かなければならないのかを訓戒した叙事詩だ。
教訓を垂れるというスタイルにもかかわらず、説教臭さはほとんど感じられず、多くの読者は何らの抵抗なしにヘシオドスの展開する古代ギリシアの倫理観に触れることができるだろう。
また、『仕事と日』はウェルギリウスの『農耕詩』へと連なる、一連の農耕を賛美する詩の元祖とでもいうべきものであるため、文学史的な興味から読んでみるのもいいと思う。

現在、著者の名前に関しては「ヘシオドス」と「ヘーシオドス」という表記が混在しているように思うが、厳密に言うならば最初の母音が長母音なので「ヘーシオドス」が正しいということになるはずだ。
とはいえ、ギリシア語の場合はあえて長母音を短母音とみなして片仮名表記するという習慣も広く行き渡っていて、少なくとも私が目にする限りでは長母音を採用しているケースの方が少ないようにも感じられるので、必ずしも一方が正解で他方が誤りというわけではないように思う。
しかし、片仮名表記をできるだけ原語に近付けるように努めるという近年の傾向からすると、これからは「ヘーシオドス」が主流になってくるのかもしれない。

内容が落ち着いたものであるだけに、『仕事と日』の読者が『イリアス』を読む時のように胸を躍らせるというわけにはいかないだろうが、その落ち着きの中から汲み取れる古代ギリシアのエッセンスは、他の作品にはない種類のものだろう。
古代ギリシアに対する造詣を深めたい方に強くお勧めしたい一冊だ。

『神統記』 ヘシオドス(岩波文庫)

神統記 (岩波文庫 赤 107-1)神統記 (岩波文庫 赤 107-1)
(1984/01/17)
ヘシオドス

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書名:神統記
著者:ヘシオドス
訳者:廣川 洋一
出版社:岩波書店
ページ数:208

おすすめ度:★★★★




ホメロスほどの知名度や影響力はないにせよ、古代ギリシア文学の草創期に位置づけられる重要な詩人として忘れてはならないのがヘシオドスだ。
ヘシオドスのものとされる作品数自体はきわめて少なく、いずれも簡単に読破することができる薄いものなので、古代ギリシア世界に興味のある方であればぜひヘシオドスの作品を手にしていただければと思う。
特にこの『神統記』は、ギリシア神話の中核をなすと言っても過言ではないオリュンポスの神々の系譜について体系的に述べられた数少ない原典の一つであるため、ギリシア神話への格好の入門書とも言えるはずだ。

『神統記』の記述は、世界の始まり、すなわち天地の創造に始まる。
そういう意味では、『神統記』は旧約聖書でいう『創世記』の冒頭部分に該当する書とも言えるのかもしれないが、一神教と多神教の違いなのか、それぞれの書に描かれる過程はあまりにも異なっている。
それだけに、人間らしい人格を備えた神々も数多く存在すれば、概念を神格化した神々もいる古代ギリシア世界の特徴が、『神統記』には非常に顕著に表れていると言えるのではなかろうか。

『神統記』で扱われている内容を把握しておけば、古代ギリシア文学への造詣が深まることはもちろん、西洋美術を楽しめる幅も大きく広がるに違いない。
右は、一度見てしまえば強烈なインパクトと共に人々の記憶に焼き付けられるゴヤの『わが子を食らうサトゥルヌス』だが、これも『神統記』中の一場面を描いたものであるし、『神統記』の読者であれば、ゴヤの手によってどのような脚色がなされているのかも容易に理解されることだろう。

『神統記』は、明確な主人公がいて山あり谷ありの物語が進行していくというスタイルの本ではないので、万人向けの作品であるとは言えないかもしれない。
そうはいっても、ギリシア神話についての知識を得るのに最適の一冊であることは疑いようがないし、『神統記』といういかめしいタイトルからは想像しにくいほどに、内容自体はとても読みやすい。
古代ギリシアの世界観に関心のある方に強くお勧めしたい一冊だ。

『夏の夜の夢・あらし』 シェイクスピア(新潮文庫)

夏の夜の夢・あらし (新潮文庫)夏の夜の夢・あらし (新潮文庫)
(1971/08/03)
シェイクスピア

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書名:夏の夜の夢・あらし
著者:ウィリアム・シェイクスピア
訳者:福田 恒存
出版社:新潮社
ページ数:291

おすすめ度:★★★★




シェイクスピアの傑作喜劇二編を一冊の文庫本に収めたのが本書『夏の夜の夢・あらし』だ。
『あらし』に関しては『テンペスト』として別の記事で紹介済みなので詳細はそちらに譲ることにするが、シェイクスピアの代表的な喜劇二作品が非常に手頃な価格で読める本書は、『ヴェニスの商人』に匹敵するほど、シェイクスピア喜劇の中でお勧めの一冊となっている。
『夏の夜の夢』と『あらし』とは、いずれも同じ喜劇に分類される作品であり、それ以外にもいくつか共通点を備えているにもかかわらず、それぞれどことなく作品の性質が異なっているというのも、読者の関心を引くのではないかと思う。

『夏の夜の夢』の舞台はアテネとその郊外。
若き二組の男女と妖精王夫妻という、三組のカップルはそれぞれ円満な結末を迎えることができるのか・・・。
ギリシア神話との連関性もあり、妖精たちも多数活躍するその物語展開は軽快そのもので、欧米文学における典型的かつ王道的な喜劇作品の一つと言えるのではなかろうか。
シェイクスピア全集 (4) 夏の夜の夢・間違いの喜劇 (ちくま文庫)シェイクスピア全集 (4) 夏の夜の夢・間違いの喜劇 (ちくま文庫)
(1997/04)
W. シェイクスピア

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出版年が新しく入手が容易な本に限って言えば、『夏の夜の夢』はちくま文庫からも出されている。
こちらは『間違いの喜劇』と合わせて一冊になっているので、お得であることには変わりがないのではなかろうか。
ただ、新潮文庫で買うべきかちくま文庫で買うべきか迷った場合には、シェイクスピアの引退前最後の作品である『あらし』を収録している新潮文庫の方をお勧めしたいと思う。

『夏の夜の夢』の中で、最も印象的な登場人物、というか登場妖精はパックだろう。
いたずら好きでおっちょこちょいという妖精像の確立にも功績があったとされるパックの活躍は、いかに注目してもし過ぎたことにはならないはずだ。
いずれにしても、世界文学の巨匠シェイクスピアの作品だからと肩肘を張る必要はまったくないので、ぜひ夏の夜にでも気軽に手にしていただきたい作品だ。
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