『タイタス・アンドロニカス』 シェイクスピア(白水Uブックス)

シェイクスピア全集 (〔6〕) (白水Uブックス (6))シェイクスピア全集 (〔6〕) (白水Uブックス (6))

書名:タイタス・アンドロニカス
著者:ウィリアム・シェイクスピア
訳者:小田島 雄志
出版社:白水社
ページ数:194

おすすめ度:★★★★




シェイクスピア最初期の悲劇作品として知られるのがこの『タイタス・アンドロニカス』である。
かつては真作かどうかの議論もなされていたほど、ある意味でシェイクスピアらしからぬ作品であるため、傑作を数多く擁しているシェイクスピア作品の中での優先順位は低いと言わざるをえないが、それだけ特徴的な作品であるということは間違いない。
ハムレット』や『リア王』、『ロミオとジュリエット』といった有名どころを読み終えてなおシェイクスピアの悲劇を読みたいという方にお勧めしたい。

ローマ帝国のためにその身を削り、多くの息子たちの命まで犠牲にして凱旋帰国した優れた将軍、タイタス・アンドロニカス。
ゴート族の女王とその息子たちまで捕虜にするという目覚ましい働きをしたタイタスを次の皇帝に推す声もある中、彼は空白となった帝位を先帝の長子に譲ることにする。
しかし、その新しき皇帝はタイタスを心底憎んでいるゴート族の女王と結婚することになり・・・。
主人公のタイタスもさることながら、悪に徹する悪役たちの性格付けもたいへん読み応えがあり、『タイタス・アンドロニカス』中で善悪のコントラストを見事に引き立たせてくれているように思う。
シェイクスピア全集 12 タイタス・アンドロニカス (ちくま文庫)シェイクスピア全集 12 タイタス・アンドロニカス (ちくま文庫)

シェイクスピアの作品の中であまり日の目を見ることのない部類に入る『タイタス・アンドロニカス』も、例によってちくま文庫版が出版されている。
小田島氏の訳文はまったく古びていないものの、新訳を好まれる方にはちくま文庫版がお勧めだ。

シェイクスピアにしては珍しく、残虐さの色濃く打ち出された作品である『タイタス・アンドロニカス』は、読者によって好みの分かれやすい作品かもしれない。
しかし、ある方面に突出した作品を読むことが、読者の中のシェイクスピア像を一回り大きなものにしてくれることは間違いないだろう。
シェイクスピアに関心のある方であれば、必然的に『タイタス・アンドロニカス』にも大いに関心が持てるのではなかろうか。
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『モーパッサン短編集』 モーパッサン(新潮文庫)

モーパッサン短編集 (1) (新潮文庫 (モ-1-6))モーパッサン短編集 (1) (新潮文庫 (モ-1-6))モーパッサン短編集 (2) (新潮文庫)モーパッサン短編集 (2) (新潮文庫)

モーパッサン短編集 (3) (新潮文庫 (モ-1-8))モーパッサン短編集 (3) (新潮文庫 (モ-1-8))

書名:モーパッサン短編集
著者:ギ・ド・モーパッサン
訳者:青柳 瑞穂
出版社:新潮社
ページ数:429(一)、388(二)、428(三)

おすすめ度:★★★★




その名のとおり、モーパッサンの短編小説を三冊にわたって集めたものがこの『モーパッサン短編集』だ。
モーパッサンには『女の一生』や『ベラミ』といった優れた長編小説もあるが、数百の短編を残したことを思えば、また、それら短編作品の読み応えを考え合わせれば、モーパッサンは本来短編作家であると言ってしまいたい気になるほどだ。
読みやすく、なおかつ面白い作品が多いので、気軽に手にしていただければと思う。

『モーパッサン短編集』の中でも特に有名な作品には、『水の上』、『首かざり』がある。
この二つは過去に日本で出版されていた短編集の表題作にもなっていた作品で、その秀逸さには定評があるといえるだろう。
三冊を通して読めば、読者はその二作品以外にも必ずやお気に入りの短編をそれぞれ見出されるに違いない。
全三冊の中では、強いて言うならば二冊目が最もお勧めだが、一冊目から三冊目までを通して読めば、それはそれで異なったイメージをモーパッサンの作品世界に抱くことになるように思う。
モーパッサン短篇選 (岩波文庫)モーパッサン短篇選 (岩波文庫)

モーパッサンの短編集としては、右の岩波文庫版『モーパッサン短篇選』もお勧めだ。
本書には、表紙の絵画からも察せられるように『水の上』が収録されているし、『首飾り』も入れられている。
新潮文庫版の全三冊という分量を多すぎると思われる方には、有名どころを押さえたこの『モーパッサン短篇選』が最適なのかもしれない。

短編小説作家を大雑把に分類した場合、ポーやモームのように話の落ちをつけるタイプと、チェーホフやヴァージニア・ウルフのように情緒的なシーンを描き出すタイプとに分けることが可能であるように思うが、モーパッサンは明らかに前者の作家の一人だ。
話の筋がしっかりしているだけに多くの読者を引き付けることができるだろうし、事実、モーパッサンの短編に関して悪い評判というのを聞いたことがない。
一般受けも期待できる『モーパッサン短編集』、幅広い読者層にお勧めしたいと思う。

『ベラミ』 モーパッサン(岩波文庫)

ベラミ〈上〉 (岩波文庫)ベラミ〈上〉 (岩波文庫)ベラミ〈下〉 (岩波文庫)ベラミ〈下〉 (岩波文庫)

書名:ベラミ
著者:ギ・ド・モーパッサン
訳者:杉 捷夫
出版社:岩波書店
ページ数:295(上)、300(下)

おすすめ度:★★★★★




モーパッサンの長編作品の中で、意外な人気を誇っている作品がこの『ベラミ』だ。
モーパッサンの代表的長編作品といえば『女の一生』の名が挙げられることが多いが、『ベラミ』のほうをより好む読者がいても何ら不思議ではないと思う。
いかにもモーパッサンらしい筋書きの作品であるため、モーパッサンを初めて読む方が手にするのも決して悪くないはずだ。

『ベラミ』の主人公は、軍隊を辞めてパリに戻ってきた一青年。
取り立てて才能があるわけでもなければ、強力な縁故があるわけでもない。
しかし、彼には多くの婦人を魅了する美貌と、他人を踏み台にしてでものし上がっていってやろうという図々しい神経が備わっていた。
他人を顧みずにまい進する彼は、"成功"をつかむことができるのか・・・。
ベラミ 愛を弄ぶ男 [DVD]ベラミ 愛を弄ぶ男 [DVD]ベラミ (角川文庫)ベラミ (角川文庫)

すでに何度か映画化されてきていたらしい『ベラミ』だが、近年になってロバート・パティンソンを主演に迎えたアメリカ版映画が作成されたようで、それがベルリン映画祭で上映されたことでも話題に上っていた。
レンタルなどで容易に視聴が可能なアメリカ映画はある程度日本でも普及することだろうし、それに伴って『ベラミ』の知名度も高まってゆくことだろう。
右に挙げた角川文庫のようにこれまで各種翻訳がなされてきたにもかかわらず、現在いずれも中古でしか購入できない状態の続いている『ベラミ』だが、これを機に再版、もしくは新訳が出されることに期待したい。

『ベラミ』には、バルザックやゾラに通ずるところがあると強く感じる読者は私だけではないはずだ。
女の一生』が19世紀フランス社会の末端を描いた小説だとすれば、『ベラミ』にはその中心部の裏側部分を描いたかのような観があり、おそらくはそこにバルザックやゾラとの類縁関係を感じるのだと思う。
モーパッサンが見せるパリの裏側を堪能したい方は、ぜひ『ベラミ』を手にしていただきたい。

『女の一生』 モーパッサン(新潮文庫)

女の一生 (新潮文庫)女の一生 (新潮文庫)

書名:女の一生
著者:ギ・ド・モーパッサン
訳者:新庄 嘉章
出版社:新潮社
ページ数:397

おすすめ度:★★★★★




一般に、モーパッサンの長編作品の中で最も高い評価を受けているのはこの『女の一生』だろう。
モーパッサンにとっては初の長編作品であるが、それだけにモーパッサンのエッセンスが詰め込まれているかのような印象を受ける作品となっている。
また、本国フランスではもちろんのこと、日本においても本書を原作とした映像化が何度もされているようで、その事実から判断するだけでも、日本人の感性に訴えかけやすい作品ということができるのかもしれない。

『女の一生』のあらすじは、まさにそのタイトルがすべてを言い尽くしている。
恋をして、結婚して、子供を産んで、年をとって・・・。
主人公ジャンヌの生涯を見渡した読者の心には、何がしかの感情が芽生えずにはいないだろう。
これは多かれ少なかれすべての文学作品に共通して言えることだが、『女の一生』は、ある程度年齢を重ねてから読むと読者にまったく異なった感慨を及ぼしかねないという性質を顕著に帯びているように思われる。
そういう意味では、若いうちに一度読んでおくほうがベターということになるだろうか。
女の一生 (光文社古典新訳文庫)女の一生 (光文社古典新訳文庫)

モーパッサンの代表的な長編作品である『女の一生』は、右に示すように光文社の古典新訳文庫からも出されている。
これらの文庫本以外にも、数々の文学全集に収録されていたりする作品なので、フランス文学に関心のある方であれば必読の一冊といえるのではなかろうか。

短編作家として優れた実績を持っているモーパッサンであるが、長編には長編でモーパッサンならではの独特の味わいがある。
『女の一生』は全体に決して明るい色調の作品というわけではないが、幅広い読者層に受け入れられうる作品であることは間違いないと思う。
静かな昼下がりにでもゆっくりと読んでいただきたい、そんな作品だ。

『脂肪のかたまり』 モーパッサン(岩波文庫)

脂肪のかたまり (岩波文庫)脂肪のかたまり (岩波文庫)

書名:脂肪のかたまり
著者:ギ・ド・モーパッサン
訳者:高山 鉄男
出版社:岩波書店
ページ数:111

おすすめ度:★★★★★




モーパッサンの作品の中で、最も読まれているものの一つに数えられるのがこの『脂肪のかたまり』だろう。
モーパッサンが作家としての地位を確立した出世作でもあるため、小説としての出来栄えは折り紙つきであると言えるはずだ。
タイトルのインパクトの強さは他に類を見ないものがあるし、文体も非常に読みやすい上に、文章量としても手頃な中編小説であるため、気軽に手にしていただいていい一冊だ。

戦争に敗れたフランスへと逃げ帰る一台の馬車に、偶然乗り合わせた雑多な人々の群れ。
「脂肪のかたまり」こと、ふくよかな娼婦もその客の一人だった。
その職業が職業だけに、「脂肪のかたまり」は男性客や女性客からの様々な思惑の焦点となってしまう。
馬車はぎくしゃくした空気を帯びてひた走っていたのだが・・・。

一般に『脂肪のかたまり』は普仏戦争を背景に人間の卑しさ、俗悪さを暴き立てた作品であると説明されることが多いようだが、決して戦争が前面に押し出された作品というわけではない。
『脂肪のかたまり』の軸となるのはあくまで人間性なのであって、それゆえにこそ、この作品が普遍的な文学的価値を獲得しているようにも思われる。
『脂肪のかたまり』を読めば、平和の中に暮らしている読者でもどこか身にしみて感じさせられるものがあるのではなかろうか。

岩波文庫版の『脂肪のかたまり』には挿絵が数多く入れられていることもあって、それほど長い小説ではないにもかかわらず、強く読者の記憶に残る作品となるに違いない。
好き嫌いはあるかもしれないが、モーパッサンのドライな筆致は見事なもので、そこに感嘆させられる読者も少なくないことだろう。
自然主義文学の代表作としても知られている『脂肪のかたまり』、ぜひ一読をお勧めしたい作品だ。

『アテネのタイモン』 シェイクスピア(白水Uブックス)

シェイクスピア全集 (〔32〕) (白水Uブックス (32))シェイクスピア全集 (〔32〕) (白水Uブックス (32))

書名:アテネのタイモン
著者:ウィリアム・シェイクスピア
訳者:小田島 雄志
出版社:白水社
ページ数:181

おすすめ度:★★☆☆☆




シェイクスピアの全戯曲の中でも特に謎が多く、なおかつかなりマイナーな部類に入る作品がこの『アテネのタイモン』である。
筋書きに脱落と思しき点や不整合な部分が残っているなど多少の混乱が見られ、未完成であるとの見方が支配的な作品であるため、一般の読者向けというよりはやや玄人向けという印象が強い作品でもある。
たいていは悲劇として紹介されているようだが、そこに異を唱えることも可能であろうし、無限の読み解き方を秘めた一冊と言っていいかもしれない。

豪勢な暮らしを続け、困っている人には相手構わず救いの手を差し伸べ、友人たちには惜しげもなく贈り物をし、多くの人々に慕われているアテネの名士、タイモン。
しかし、何事も度を過ぎて行えばすぐに限界がやってくるもの。
無尽蔵と思われていたタイモンの財産にしても、彼の浪費にいつまでも持ちこたえられるわけはなく・・・。
境遇の良し悪しに応じて、タイモンの性格は同じ人物とは思えないほどの豹変ぶりを見せる。
いくらか誇張が過ぎるような気がしないでもないが、やはり彼の言動は劇を通して読者を引きつけて離さないことだろう。

『アテネのタイモン』のストーリー展開には、どこか『リア王』を思わせるところがある。
しかし、タイモンはリア王ほどには劇の主人公としての魅力やインパクトが感じられないし、タイモンが陥った不幸を目の当たりにしても、読者はタイモンの自業自得だと感じるのが普通ではなかろうか。
知名度や入手の容易さからいっても、やはり『リア王』をお勧めしたいというのが私の本音だ。

『アテネのタイモン』は、読者の心に訴える作品というよりは、理性に働きかけるという性格が勝っているのかもしれない。
そういう意味では、シェイクスピアの異色作に関心のある方にお勧めの一冊だ。
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