『奴婢訓』 スウィフト(岩波文庫)

奴婢訓 (岩波文庫)奴婢訓 (岩波文庫)

書名:奴婢訓
著者:ジョナサン・スウィフト
訳者:深町 弘三
出版社:岩波書店
ページ数:122

おすすめ度:★★★☆☆




風刺の筆を執らせれば右に出るものなしのジョナサン・スウィフトによる、風刺と皮肉に満ちた作品がこの『奴婢訓』である。
『奴婢訓』というタイトルがかしこまった古めかしい感じを醸し出してはいるが、原題は"Directions to Servants"であり、スウィフトが使用人の心得を書いたものとでもいったところだ。
もちろん一筋縄ではいかないのがスウィフトの作品。
読者をいい意味ではぐらかしてくれるに違いない。

『奴婢訓』の読者は、おそらくその1ページ目から驚かされることになる。
何しろスウィフトが召使いたちに対して瞞着や怠慢、金銭的・物質的利益の追求を大真面目に推奨し始めるのだから。
スウィフトが例示し、その実践を要求するごまかしやまやかしの数々に、ついほくそ笑んでしまうのは私だけではないだろう。

『奴婢訓』には、『貧家の子女がその両親並びに祖国にとっての重荷となることを防止し、かつ社会に対して有用ならしめんとする方法についての私案』という、何とも長大なタイトルの小品も併録されている。
10ページ程度の非常に短い作品だが、その風刺の痛烈さには定評があるらしい。
スウィフトの提案する前代未聞の解決法は読者を驚かせることだろうが、風刺が鋭すぎて読む者が心地よささえ感じてしまう、そんな読み応えのある小品に仕上がっている。

本書『奴婢訓』の難点を挙げるとすれば、『奴婢訓』自体が未完の作品であることと、仮名遣いが古いことがある。
未完であることはやむをえないし、未完にもかかわらず十分面白いのが『奴婢訓』なのであるが、仮名遣いが古いとやはり一般受けは望めない。
知らぬ者とてない『ガリヴァー旅行記』の作者であるスウィフトの手になる作品であるだけに、いつの日か改版が出されることに期待したいと思う。
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『コサック: 1852年のコーカサス物語』 トルストイ(光文社古典新訳文庫)

コサック―1852年のコーカサス物語 (光文社古典新訳文庫)コサック―1852年のコーカサス物語 (光文社古典新訳文庫)

書名:コサック: 1852年のコーカサス物語
著者:レフ・トルストイ
訳者:乗松 亨平
出版社:光文社
ページ数:377

おすすめ度:★★★★




そのタイトルのとおり、コサックの集落を舞台に描かれた長編小説がこの『コサック』である。
同じロシアの版図内に暮らしているとはいえ、たいていのロシア人とまったく異質な存在であるコサックは、ロシア文学のテーマとして一大源泉となっているのだが、それをトルストイがどのように扱うのかは大いに注目に値するのではなかろうか。
文庫本という手頃さもあり、幅広い読者層にお勧めできる一冊だ。

『コサック』の主人公は、従軍するためにモスクワからコーカサスに赴いた良家の一青年である。
モスクワでは考えられないような生活が送られているコサックの集落で、兵士や猟師との出会いが彼の魂を揺さぶり続ける。
そして下宿の美しい娘との出会いも、彼の人生、価値観に大きな変化をもたらして・・・。
トルストイの多くの作品でそうであるように、この『コサック』にも自伝的な要素がふんだんに盛り込まれているようなので、トルストイに詳しい人であれば、主人公とトルストイとを重ね合わせたり切り離したりしながら読むのも面白いかもしれない。

戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』といった世界文学における屈指の名作を残しているトルストイだけに、本書『コサック』はどうしてもその影が薄くなってしまっている。
しかし、プーシキンの『大尉の娘』、ゴーゴリの『隊長ブーリバ』、ショーロホフの『静かなドン』など、一連のコサックを取り扱った作品を知っている読者にとっては、トルストイのコサックものはやはり強く興味をそそられるだろうし、それらの作品を読む前にコサックとは何かを教えてくれるトルストイの『コサック』を読んでおくのもいいかもしれない。
一つの作品として楽しむだけでなく、ロシア文学の中での時間的・空間的なつながりをも楽しんでいただきたい、そんな作品だ。

『ジョン王』 シェイクスピア(白水Uブックス)

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書名:ジョン王
著者:ウィリアム・シェイクスピア
訳者:小田島 雄志
出版社:白水社
ページ数:199

おすすめ度:★★★☆☆




シェイクスピアの歴史劇の一つがこの『ジョン王』である。
ヘンリー六世』や『リチャード三世』などと違い、他の作品との時間的・内容的な連関がなく、独立した一作品となっているのが特徴だ。
強烈なインパクトを残す登場人物に出会うことはないかもしれないが、歴史劇にふさわしく戦争や政治的な駆け引きがプロットの中心に据えられており、その勝敗の行方は読者を作品世界に引き込むに違いない。

ジョン王には気苦労が絶えない。
先王の息子であり、自らの甥でもあるアーサーが、フランスを後ろ盾に王位の返還を主張しているのだ。
自信の王位を確固たるものにすべく、ジョン王はフランスに向けて出陣するのだが・・・。
ジョン王のフランスとの戦争について詳しく知っている方は少ないだろうが、読者はそれだけいっそう政治に宗教もからんだ争いがどう決着するのかを楽しむことができるはずだ。
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ジョン王といえば、「失地王」とも呼ばれていることからもわかるように、イングランドの歴史の中でも最も人気のない国王の一人だ。
その治世に対する後世の評価の低さは二世が現れなかったことからも察せられる。
右の映画『ロビン・フッド』でも決して名君として描かれてはいないが、評判の悪い王だからこそ、それぞれの作者がどのように取り扱うかに大きく差が出るのは事実だろう。
タイトルロールであるジョン王をシェイクスピアがどのような人物として描くのかに注目して読めば、『ジョン王』の面白さは倍増するのではなかろうか。

『ジョン王』は文学作品として高い評価を受けてこなかった作品である。
確かに、読者の期待値の非常に高いシェイクスピアの作と考えて手にしてしまうと、いくらか物足りなさを感じる読者もいることだろう。
そうはいっても、後の傑作悲劇の萌芽とも言うべき場面を複数備えた『ジョン王』は、シェイクスピアに興味のある方であれば面白く読める作品ではないかと思う。

『ヘンリー六世 第一部 第二部 第三部』 シェイクスピア(白水Uブックス)

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書名:ヘンリー六世 第一部 第二部 第三部
著者:ウィリアム・シェイクスピア
訳者:小田島 雄志
出版社:白水社
ページ数:201(1)、214(2)、209(3)

おすすめ度:★★★★★




シェイクスピア最初期の頃の歴史劇、『ヘンリー六世 第一部 第二部 第三部』。
例によって成立過程や執筆時期などについては不確定な要素が多いようだが、薔薇戦争という激動の時代を描いた『ヘンリー六世』の波乱に富んだあらすじは、そのような文学史上の研究事項を忘れさせ、読者を強く作品世界に引き付けるに違いない。
作品の内容的に先王を描いた『ヘンリー五世』に連なるだけでなく、後のリチャード三世であるグロスター公も主要登場人物の一人として登場しており、傑作と名高い『リチャード三世』とも直接的につながる作品であるため、シェイクスピアの歴史劇の中でも重要度が高い一冊と言えるのではなかろうか。

『ヘンリー六世』はイングランドとフランスを舞台としている。
第一部では、ヘンリー五世が獲得したフランス内の領土においてフランス軍の反撃を受ける。
作中にジャンヌ・ダルクも登場するが、シェイクスピアの描くジャンヌ・ダルクは、イギリス視点によるとでもいうのか、たいへん特徴的で興味深い。
第二部、第三部ではイギリス国内におけるランカスター家とヨーク家との血で血を洗う争いが主なテーマとなる。
『ヘンリー六世』を読むにあたり、歴史の知識は必須ではないだろうが、やはりある程度は把握しているほうがいっそう楽しめることだろう。
ヘンリー六世 シェイクスピア全集 19 (ちくま文庫 し 10-19)ヘンリー六世 シェイクスピア全集 19 (ちくま文庫 し 10-19)

『ヘンリー六世』はちくま文庫のシェイクスピア全集からも既刊である。
こちらは第一部から第三部までを一冊にまとめており、三作が切り離して考えることのできないものであることを改めて認識させられる一冊となっている。

中には『ヘンリー六世』が全三冊であることによって手を出しにくいと感じられる読者もいるかもしれないが、全三冊であるからこそ感じられる奥行きが『ヘンリー六世』にはある。
まして傑作として名高い『リチャード三世』と合わせて四部作であるということを思えば、個人的には『ヘンリー六世』を高く評価せざるをえない。
実際、『ヘンリー六世』を読んでいるかどうかで『リチャード三世』の印象も大きく変わってくるはずだ。
シェイクスピアの歴史劇に興味のある方は、ぜひこの『ヘンリー六世』を手にしてみていただければと思う。

『サラジーヌ 他3篇』 バルザック(岩波文庫)

サラジーヌ 他3篇 (岩波文庫)サラジーヌ 他3篇 (岩波文庫)

書名:サラジーヌ 他3篇
著者:オノレ・ド・バルザック
訳者:芳川 泰久
出版社:岩波書店
ページ数:272

おすすめ度:★★★★




表題作『サラジーヌ』をはじめ、『ファチーノ・カーネ』、『ピエール・グラスー』、『ボエームの王』という、バルザックの「人間喜劇」中の短篇四作品を集めたのが本書『サラジーヌ 他3篇』だ。
情熱を描かせれば右に出るもののないバルザックらしい作品が集められており、文庫本という手頃さもあって、バルザックを知る人にもあまり知らない人にも安心してお勧めできる一冊だ。

彫刻家サラジーヌと、その愛情を受けたオペラ歌手の行く末を描いた『サラジーヌ』は、ロラン・バルトの精緻な分析なしでも十分楽しめる秀作だ。
それほど長い作品ではない『ファチーノ・カーネ』、『ピエール・グラスー』の二篇も、一方は神秘的、他方は俗物的で、いずれも印象的な短篇作品となっている。
ボヘミアンのプリンスと、彼に夢中になる一女性を描いた『ボエームの王』は、きわめてバルザックらしいその筋書きだけではなく、作品の備えた特殊な構造にも注目に値するものがある。

本書の収録作品には、水声社から近年既訳が出されたものが多い。
『サラジーヌ』は『呪われた子 他』に、『ファチーノ・カーネ』は『ガンバラ』に、『ピエール・グラスー』は『知られざる傑作』に、それぞれ訳出されている。
「人間喜劇」という膨大な作品群の中から、各出版社が日本語訳を出す作品は、読者にとって幸か不幸か、ある程度重複してしまっているのだが、裏を返せば訳者もしくは出版社の太鼓判の押されたものだけが出版されているわけで、そういう意味では訳出された作品にあまり外れはないということなのかもしれない。

『サラジーヌ 他3篇』の紹介文によると、いずれも芸術家にまつわる物語を収録しているとのことだが、『ピエール・グラスー』を除けば、必ずしも芸術そのものがテーマになっているというわけではないように思う。
芸術を扱った作品に関心のある方には、バルザックの芸術家小説の代表作である『知られざる傑作』をお勧めしたいが、かといって『サラジーヌ 他3篇』の魅力がそれに劣るというわけではない。
読めば読むほどに楽しめるのが「人間喜劇」であろうし、文庫版で出された『サラジーヌ 他3篇』は、バルザックファンであれば必読の一冊と言えるのではなかろうか。

『オシァン――ケルト民族の古歌』 (岩波文庫)

オシァン――ケルト民族の古歌 (岩波文庫)オシァン――ケルト民族の古歌 (岩波文庫)

書名:オシァン――ケルト民族の古歌
著者:作者不詳
訳者:中村 徳三郎
出版社:岩波書店
ページ数:473

おすすめ度:★★★★★




スコットランドの『イリアス』とでも言うべき、ケルトの英雄たちの勇姿を描いた長編叙事詩がこの『オシァン―ケルト民族の古歌』である。
敏感に自然美を感じ取る心によって、数々の王や勇者たちが見事に歌い上げられているため、『オシァン』がホメロスと比べられることに納得できる読者が大半なのではなかろうか。
多くの戦い、そして死を扱った『オシァン』には、どこか甘く優しい哀愁さえ漂っていて、ホメロスにはない独特の味わいも秘めているのが特徴だ。

18世紀に西欧各国に紹介されてからというもの、『オシァン』が文化人へ及ぼした影響力は非常に大きいものがあった。
多くの作家はもちろん、音楽家や画家も『オシァン』を汲めども尽きぬインスピレーションの源として用いている。
そんな中、『オシァン』を題材にした絵画として最も知られているのは、おそらく右に挙げたアングルの『オシァンの夢』ではなかろうか。
さすがはアングルだけあって、『オシァン』の世界を端的に描いたものとしてたいへん出来がいいのは言うまでもない。
この絵に興味を持たれた方は、ぜひ『オシァン』を手にしていただければと思う。

とりあえず「作者不詳」に分類しておいたが、『オシァン』にはその成立過程に関して長い長い論争の歴史がある。
確かに『オシァン』のルーツをたどるのも大いに興味深いことではあろうが、あまり詮索しすぎてはかえって作品自体の面白さを損なうことにもなりかねない。
まずは作品世界を楽しむことだけを念頭に置いて、素直な気持ちで一読されることをお勧めしたい作品だ。

『ベーオウルフ―中世イギリス英雄叙事詩』 (岩波文庫)

ベーオウルフ―中世イギリス英雄叙事詩 (岩波文庫)ベーオウルフ―中世イギリス英雄叙事詩 (岩波文庫)

書名:ベーオウルフ―中世イギリス英雄叙事詩
著者:作者不詳
訳者:忍足 欣四郎
出版社:岩波書店
ページ数:343

おすすめ度:★★★★




イギリス文学の原点ともいうべき作品の一つがこの『ベーオウルフ』である。
「中世イギリス英雄叙事詩」という副題が示すとおり、ベーオウルフという英雄をテーマにした叙事詩という形式を取っており、その点ではヨーロッパの他の国々における文学の黎明期の作品と同系列のものと言えるかもしれない。

勇士として名高いベーオウルフが、怪物の出現に悩まされていたデンマーク王の元へとやってくる。
そこへ予期していたとおりに怪物が現れ、ベーオウルフは勇猛果敢にも怪物に立ち向かっていくのだったが・・・。
『ベーオウルフ』のあらすじ自体はさほど複雑ではないのだが、古めかしい原文に沿わせた結果、訳文が少々凝ったものとなっているため、中には難しい文章だと感じられる読者もいるかもしれない。
しかし、この岩波文庫版にはしっかりとあらすじが載せられているから内容が把握できないということはないだろうし、むしろその訳文のおかげで中世文学の雰囲気を感じ取ることが可能となっていると言えるのではなかろうか。
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『ベーオウルフ』は、数年前に右に示した『ベオウルフ/呪われし勇者』というハリウッド映画が公開されたことでも注目を浴びていた。
配役もなかなか豪華なものであったし、CGを多用したその視覚効果にもだいぶこだわりを感じさせる作品なので、『ベーオウルフ』の読者であればこちらもぜひ一度ご覧いただければと思う。
原作との相違が少なくないというのもあり、映画と原作の両方を知っていたほうがいっそう深く楽しめるに違いない。

力強く、なおかつ華麗な文学作品である『ベーオウルフ』。
騎士道物語のルーツに興味のある方にはたいへんお勧めの作品だ。

『パンセ』 パスカル(中公文庫)

パンセ (中公文庫)パンセ (中公文庫)

書名:パンセ
著者:ブレーズ・パスカル
訳者:前田 陽一、由木 康
出版社:中央公論新社
ページ数:644

おすすめ度:★★★★




哲学や神学、物理学や数学など、多方面において顕著な才能を発揮したパスカルの手になる哲学的断章を編集し、一冊にまとめたものがこの『パンセ』である。
パスカルと言えば「人間は考える葦である」が最も有名だが、この名言も本書『パンセ』に由来するものである。
断章を集めたものであるだけに、一冊の本としてのまとまりには欠けるかもしれないが、断片をつなぎ合わせるジグソーパズルのような楽しみ方も可能となるように思う。

『パンセ』には、一行で終わるものから十ページに及ぶものまで、千近くの断章が収められている。
「考える葦」をはじめ、「幾何学の精神と繊細の精神」や「賭け」など、パスカル独自の思想がふんだんに盛り込まれた一冊となっているため、読者の興味は尽きないに違いない。
早熟の天才と呼ばれるだけあり、随所でパスカルの鋭敏な精神に触れることができるはずだ。

しかしながら、『パンセ』の難点というか、一般読者を遠ざけてしまう点は、宗教談義の多さにあるように思う。
中公文庫版においても、本文全600ページ程度のうち、その400ページ以上は神や信仰をテーマとした断章となっているため、キリスト教の話にそれほど興味のない読者であれば、必ずや途中で投げ出してしまうことだろう。

そうはいっても、「人間は考える葦である」という思想の根本にもパスカルの宗教観が横たわっているわけで、パスカルを知りたければ彼の魂の根幹を占めていたキリスト教思想を避けて通ることはできないはずだ。
むしろ、断章形式である『パンセ』は、読破せずともある程度ならパスカル思想のエッセンスを汲み取ることが可能であるし、飛ばし読みでも十分楽しめるものなのかもしれない。
敷居の低い作品であるとは言い難いが、思想書に挑戦してみようと考えている読者が手にするなら、『パンセ』が手頃なのではなかろうか。

『深き淵よりの嘆息―『阿片常用者の告白』続篇』 ド・クインシー(岩波文庫)

深き淵よりの嘆息―『阿片常用者の告白』続篇 (岩波文庫)深き淵よりの嘆息―『阿片常用者の告白』続篇 (岩波文庫)

書名:深き淵よりの嘆息―『阿片常用者の告白』続篇
著者:トマス・ド・クインシー
訳者:野島 秀勝
出版社:岩波書店
ページ数:259

おすすめ度:★★★★




ド・クインシーによる『阿片常用者の告白』の続篇となるのがこの『深き淵よりの嘆息』である。
阿片常用者の告白』と比べた場合、『深き淵よりの嘆息』はド・クインシーの阿片吸引の経緯や背景が述べられることが少なく、それだけド・クインシーの接した心象風景に割かれる紙幅が多いのが特徴となっている。
内面世界をたどった具体的かつ個人的な記録という観さえあるほどで、読者がド・クインシーその人に最も肉薄できるのがこの『深き淵よりの嘆息』なのかもしれない。
解説でも触れられているが、19世紀前半の作品とは思えない先駆的な視点の存在も注目に値するだろう。
トマス・ド・クインシー著作集〈1〉トマス・ド・クインシー著作集〈1〉

ド・クインシーに関心を抱いておられる方には、右の『トマス・ド・クインシー著作集〈1〉』もたいへんお勧めだ。
本書は『阿片常用者の告白』、『深き淵よりの嘆息』というド・クインシーの代表作を収録し、さらに『芸術の一分野として見た殺人』という非常に興味深いタイトルの作品をも収録している。
こちらはド・クインシーの諧謔精神に富んだ一面がよく表れている、半ば知的遊戯とでもいうべき作品であり、非常に面白く読めること疑いなしだ。
また、小品ではあるが『「マクベス」劇中の門口のノックについて』も収められており、シェイクスピアの『マクベス』を知っていればこちらも大いに楽しめることだろう。

『深き淵よりの嘆息』は、続篇として位置付けられているだけあって、『阿片常用者の告白』あっての作品という性格が強いのではなかろうか。
そういう意味では、やはりまずは『阿片常用者の告白』を読んでから手にしていただくべき作品なのだろう。
これら一連の「阿片もの」に目を通された読者であれば、必ずやド・クインシー作品の普及が乏しい現在の状態に不満を覚えられるに違いない。
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