『ジャック・ロンドン多人種もの傑作短篇選』 ジャック・ロンドン(明文書房)

ジャック・ロンドン多人種もの傑作短篇選ジャック・ロンドン多人種もの傑作短篇選

書名:ジャック・ロンドン多人種もの傑作短篇選
著者:ジャック・ロンドン
訳者:辻井 栄滋、芳川 敏博
出版社:明文書房
ページ数:193

おすすめ度:★★★★




アメリカ人、白人から見たその他の人種を主題とした短篇作品を集めたのが本書『ジャック・ロンドン多人種もの傑作短篇選』である。
「多人種もの」とは言っても、主に本書で扱われているのは日本人、中国人、そしてハワイの先住民であり、扱われている人種はある程度限定的となっている。
どちらかといえば日本人が中心となる作品が少なめではあるが、船員として、また記者として訪日経験のあるロンドンが受けた日本の印象を窺える短篇作品は、やはり我々日本人にはたいへん面白く読めるのではなかろうか。

本書の収録作品は『小笠原諸島にて』、『人力車夫堺長と妻君と、二人の息子の話』、『さよなら、ジャック』、『支那人』、『ハンセン病患者クーラウ』、『椿阿春』、『比類なき侵略』、『阿金の涙のわけ』の8篇である。
タイトルからも察せられるように最初の2篇が日本を舞台とするもので、その他の作品は舞台がハワイだったり、母国を離れた中国人やハンセン病といった共通のモチーフが現れるなど、一冊の短篇集として見ると非常に統一感のある編成となっているように感じられる。

本書の中で少々特異な位置付けにある作品が『比類なき侵略』であろう。
これはニ十世紀初頭においてすでに膨大な人口を抱えていた中国が近代化し、さらに人口が増え続けたらどうなるかという想定の下で書かれた政治的フィクションとでも呼べるような作品だ。
ロンドンの予言者的な側面が垣間見える一方で、この作品に対しては読者の好き嫌いが両極化しそうな気がしないでもない。

うれしいことに、近年になってジャック・ロンドンの邦訳が数多く出版されている。
本書もそれらの中の一冊で、すでに品薄なのが玉にきずではあるが、ロンドンに興味のある方には『ジャック・ロンドン奇想天外傑作選』と共にお勧めの一冊だ。
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『ジャック・ロンドン奇想天外傑作選』 ジャック・ロンドン(明文書房)

ジャック・ロンドン奇想天外傑作選ジャック・ロンドン奇想天外傑作選

書名:ジャック・ロンドン奇想天外傑作選
著者:ジャック・ロンドン
訳者: 辻井 栄滋、芳川 敏博
出版社:明文書房
ページ数:221

おすすめ度:★★★★




ロンドンの短編作品のうち、奇想天外なあらすじを持つものを8編集めたのが本書『ジャック・ロンドン奇想天外傑作選』である。
それぞれの収録作品が物語としての面白さを備えていることは言うまでもなく、本邦初訳となる作品も少なくないので、ロンドンに興味のある方には強くお勧めできる一冊だ。

本書の収録作品は、『お春』、『オーロラの娘』、『王様献上の鼻』、『思いもかけぬこと』、『原始時代に返る男』、『戦争』、『アリスの懺悔』、『プリンセス』の8編であるが、ロンドンの短編作品世界を一通り網羅しているかのような印象を受けるチョイスとなっている。
日本の芸者を描いた『お春』、韓国の高官を主人公とした『王様献上の鼻』は極東を舞台としている。
『オーロラの娘』、『思いもかけぬこと』の2編は『荒野の呼び声』のような極北もの、また『アリスの懺悔』と『プリンセス』の2編は南洋ものと言えるだろう。
他方で、SF的な世界観で描かれる『原始時代に返る男』と、徹頭徹尾現実的な見地から描かれている『戦争』のコントラストも、ロンドンの作品群の性格をよく反映しているように思われる。

収録作品のうち、『原始時代に返る男』の原題が"When the World Was Young"、『アリスの懺悔』の原題が"When Alice Told Her Soul"と、作品内容を汲んで邦題は少々意訳されているようだ。
とはいえ、各短編の1ページ目に邦題と原題とが併記されているので、ロンドンの付けたオリジナルのタイトルに即して作品を読みたい読者が不満に思うこともないだろう。

そもそもジャック・ロンドンの作品は読み物としての面白さを備えたものが多いので、その中でも特に奇想天外なあらすじを持つ作品を厳選したという本書『ジャック・ロンドン奇想天外傑作選』が面白くないわけがない。
ロンドンに興味のある人もない人も楽しむことができる一冊なので、ぜひ気軽に手にしていただければと思う。

『翼ある蛇』 D.H.ロレンス(角川文庫)

翼ある蛇 (上巻) (角川文庫)翼ある蛇 (上巻) (角川文庫)翼ある蛇 (下巻) (角川文庫)翼ある蛇 (下巻) (角川文庫)

書名:翼ある蛇
著者:D.H.ロレンス
訳者:宮西 豊逸
出版社:角川書店
ページ数:409(上)、351(下)

おすすめ度:★★★★




ロレンスがメキシコを舞台に書き上げた長編小説がこの『翼ある蛇』である。
いわゆる「リーダーシップ」小説の一つで、全般に思想色が濃く、宗教的・神秘的な考えまで盛り込まれているのでロレンスの言わんとするところをすべて読み解くのは容易ではないかもしれない。
しかし、それだけ読み応えがある小説であることは間違いないし、ロレンスに興味のある方はぜひ読んでみていただければと思う。

メキシコを訪れたアイルランド人女性、ケイト。
闘牛の血なまぐささや、強盗の横行など、メキシコにあまり魅力を感じられないでいたケイトだったが、政情の安定しないメキシコ国内ではケツァルコアトルやウィチロポチトリといった古い神々を復活させようという動きがあることを知って興味をそそられる。
その運動の指導者と知り合いになったケイトは・・・。
『翼ある蛇』におけるメキシコは、ロレンス自身のメキシコ滞在経験を生かした周到さで描かれていて、メキシコを正面から取り扱った作品として読むだけでも十分楽しめるはずだ。

『翼ある蛇』は随所でメキシコ人が論じられているのだが、その書きぶりは批評精神に富んだロレンスらしいたいへん手厳しいもので、メキシコ人がそれを読んだ場合、あまり喜ばないのではないかと思われるほどだ。
とはいえ、今日のメキシコにまで通ずるような鋭い指摘も数多くあり、メキシコを旅したことのある人であればロレンスの言及している人間性を随所に見出すことができたのではなかろうか。

研究者の中には『翼ある蛇』をロレンスの最高傑作と推す声もあるようで、角川文庫版の『翼ある蛇』の表紙裏には、本作品がロレンスの最高傑作であると断言されている。
それはそれで少々強引な言明だと言わざるをえないが、ロレンスにとって一大テーマである男と女の関係、それを神秘的な側面から取り扱った作品という意味では、『翼ある蛇』の右に出る作品はないように思う。

『ボストンの人々』 ヘンリー・ジェイムズ(世界の文学)

世界の文学〈第26〉ヘンリー・ジェイムズ ボストンの人々(1966年)世界の文学〈第26〉ヘンリー・ジェイムズ ボストンの人々(1966年)

書名:ボストンの人々
著者:ヘンリー・ジェイムズ
訳者:谷口陸男
出版社:中央公論社
ページ数:533

おすすめ度:★★★★




ヘンリー・ジェイムズ中期の長編作品の一つがこの『ボストンの人々』である。
それといって大きな事件は起きないにもかかわらず、ついつい読者がストーリーに引き込まれてしまうあたり、さすがは精密な心理描写で知られるジェイムズだけのことはあると痛感させられる作品となっている。
後期作品に見られるような難解さはそれほど感じられず、比較的読みやすいというのも本書のお勧めポイントだ。

南北戦争によって荒廃した南部に見切りをつけ、北部で成功を勝ち取ろうとしている南部の紳士が、ボストンで男女平等の実現のために闘っている従姉を訪れる。
そして二人が訪れた会合で、霊感を受けたかのように流麗な演説をする若い乙女を見出し、従姉の婦人は彼女の才能に惚れ込んでしまい、彼女と一緒に男女平等のための運動をしていくことに取り決めるのだったが・・・。
情景の描写こそ少なめだが、演説の巧みな乙女を巡ってそれぞれの登場人物がそれぞれの思惑で動いていく人間模様がくっきりと描き出されているので、『ボストンの人々』はジェイムズの長編小説に期待される楽しみを完璧に備えていると言えるだろう。

ジェイムズといえばヨーロッパとアメリカとにおける文化や人間性の差異をテーマにした、いわゆる「国際状況もの」と呼ばれる作品が多いが、『ボストンの人々』はもっぱらアメリカ国内のみを舞台として進行する。
そんな中でも、男性と女性、南北戦争後の南部人と北部人といった差異を明確に打ち出し、際立ったコントラストの中で登場人物が活躍する『ボストンの人々』は、いかにもジェイムズらしいメリハリのある作品だと言えるのではなかろうか。

文学全集の一冊として刊行されている『ボストンの人々』は、残念なことに『アメリカ人』などと同様、現時点での流通量が極端に少ない。
Amazonでもいつ品切れになるかわからないので、気になる方には早めに購入されることをお勧めしたいと思う。

『死の同心円』 ジャック・ロンドン(バベルの図書館)

死の同心円 (バベルの図書館)死の同心円 (バベルの図書館)

書名:死の同心円
著者:ジャック・ロンドン
訳者:井上 謙治
出版社:国書刊行会
ページ数:158

おすすめ度:★★★★




ホルヘ・ルイス・ボルヘスの編纂した「バベルの図書館」シリーズの一冊で、ジャック・ロンドンの短編を5編収録しているのが本書『死の同心円』である。
ロンドンの短編は、舞台とされる地域や現実味の有無に基づいて大雑把に分類することが可能であるが、5編しか収録されていないにも関わらず、本書ではそれらの各ジャンルが一通り網羅されているので、短編作家としてのロンドンの業績が一冊に要約されている観がある。
そういう意味では、ロンドンの短編作品への最適な入門書と言えるかもしれない。

本書の収録作品は、太平洋を舞台とした海洋ものである『マプヒの家』、いろいろな意味でアラスカでの生活の厳しさが窺える『生命の掟』と『恥っかき』、ミステリー風の作品である『死の同心円』、そして透明人間という代表的なSF要素を扱った『影と光』の5編である。
いずれも確固たるストーリー性を軸にした作品なのでたいへん読みやすく、誰もが容易に楽しめるものとなっている。

ちなみに、『死の同心円』の原題は"The Minions of Midas"であり、『ミダスの手先』という名で邦訳がなされている作品と同じものとなっている。
基本的には私は作者の名付けた本来のタイトルを尊重したいとは考えているが、本作品の読者であれば、『死の同心円』というタイトルが『ミダスの手先』に劣らず優れているものだと感じさせられるのではないかと思う。

本書『死の同心円』に限ったことではないが、限られた紙幅にその作家のエッセンスを存分に盛り込んだ短編集を編むボルヘスの慧眼にやはり狂いはない。
それほど豊富に世に出回っている本ではないようだが、ジャック・ロンドンをとりあえず広く浅く読んでみたいという読者に強くお勧めしたい一冊だ。
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