『貴族の巣』 ツルゲーネフ(角川文庫)

貴族の巣 (1951年) (角川文庫〈第106〉)貴族の巣 (1951年) (角川文庫〈第106〉)

書名:貴族の巣
著者:イワン・ツルゲーネフ
訳者:米川 正夫
出版社:角川書店
ページ数:306

おすすめ度:★★★★




ツルゲーネフが代表的な作品の多くを物していた頃に発表された、いわば脂ののりきった時期に書かれた長編作品の一つがこの『貴族の巣』である。
何らかの社会問題を鋭く突くというツルゲーネフらしさはあまり感じられないが、「余計者」の系譜に連なる主人公が登場する『貴族の巣』は、やはりツルゲーネフやロシア文学に関心のある読者を存分に楽しませてくれるに違いない。

妻の不貞に打ちひしがれ、諦念を帯びたラヴレーツキイが郷里の町へと帰ってくる。
久々に顔を出した親戚の家では、かつてはまだ幼かった少女のリーザが、今では一人前の娘になっていて、将来有望な官吏から求婚されるまでになっており・・・。
「余計者」としてのラヴレーツキイは言うまでもないが、『貴族の巣』の読みどころとして、ヒロインであるリーザの人物造形も挙げることができる。
敬虔で、無私の心を持つリーザの美しさは、時代を超えて人々を魅了し続けることだろう。
貴族の巣 (岩波文庫)貴族の巣 (岩波文庫)貴族の巣 [DVD]貴族の巣 [DVD]

信頼できる米川正夫氏が訳者であるということで、私は角川文庫を選んだが、『貴族の巣』は右に示すように岩波文庫からも出されていて、数はそう多くないがいまだに入手可能ではあるようだ。
また、製作年代自体はそう新しくないが、近年DVDが発売された映像化作品もあるので、『貴族の巣』の読者にはこちらもお勧めしたい。

主要登場人物の生い立ちから、脇役の境遇に至るまで、しっかりと描かれているのが『貴族の巣』の特徴で、それだけ印象深い作品世界が形作られているように感じられる。
作品に力強さこそ感じられないものの、全体の調和が取れていて心地よい柔らかさが漂う『貴族の巣』をツルゲーネフの最高傑作だと考える読者がいてもまったく不思議はない。
ツルゲーネフに興味のある方であれば手にしてみる価値のある一冊だと思う。
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『死の床に横たわりて』 フォークナー(講談社文芸文庫)

死の床に横たわりて (講談社文芸文庫)死の床に横たわりて (講談社文芸文庫)

書名:死の床に横たわりて
著者:ウィリアム・フォークナー
訳者:佐伯 彰一
出版社:講談社
ページ数:304

おすすめ度:★★★★★




『響きと怒り』と同時期に書かれたフォークナーの長編作品の一つがこの『死の床に横たわりて』である。
他の長編作品と比べるとやや短めであるが、小説としての完成度は他に劣るどころかむしろ上回ってさえいるかもしれない。
作品を通じて「意識の流れ」を徹底的に駆使しており、フォークナーの手法を知る上で貴重な作品となっているし、それでいてさほど難解さの感じられない読みやすい作品でもあるので、フォークナーに興味のある読者には一読をお勧めしたい。

田舎の農家バンドレン家に嫁ぎ、今や死の床で瀕死の状態にあるアディの望みはといえば、出身の町であるジェファソンに葬ってもらうことだった。
間もなくアディが亡くなり、夫や子供たちによって埋葬のための長い旅が始まったのだが・・・。
『死の床に横たわりて』は、各登場人物の独白の連続というスタイルで物語が進められていくのだが、バンドレン一家が揃いも揃って変人ばかりなので、個性的な独白ばかりが続くことになる。
作品内には説明的な文章が少なめなので人物構成が判別しにくいかもしれないが、講談社文芸文庫版の場合は巻頭に主な登場人物が記載されているので、それさえ頭に入れておけばすんなりと作品世界に入っていけることだろう。

他にも優れた作品を多く残しているフォークナーの場合、代表作として『死の床に横たわりて』が真っ先に紹介されることは少ないが、作品の出来栄えから言えば、フォークナーのみならず、「意識の流れ」を採用した作品の中でも代表的なものとみなすことができるはずだ。
各々の登場人物の意識の断片が見事につなぎ合わされている『死の床に横たわりて』は、最初から最後までリズミカルに進行していき、結末もまた秀逸ときている。
新品での入手が困難な作品ではあるが、なかなか読みごたえのある一冊なので、フォークナーに関心のある読者はぜひ本書を手にしていただければと思う。
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