『アブサロム、アブサロム!』 フォークナー(岩波文庫)

アブサロム、アブサロム!(上) (岩波文庫)アブサロム、アブサロム!(上) (岩波文庫)アブサロム、アブサロム!(下) (岩波文庫)アブサロム、アブサロム!(下) (岩波文庫)

書名:アブサロム、アブサロム!
著者:ウィリアム・フォークナー
訳者:藤平 育子
出版社:岩波書店
ページ数:384(上)、416(下)

おすすめ度:★★★★★




アブサロム、アブサロム!(上) (講談社文芸文庫)アブサロム、アブサロム!(上) (講談社文芸文庫)アブサロム、アブサロム!(下) (講談社文芸文庫)アブサロム、アブサロム!(下) (講談社文芸文庫)
小説家としてのフォークナーに脂が乗り切っていた時期に書かれたのがこの『アブサロム、アブサロム!』である。
以前は右の講談社文芸文庫版で読むのが一般的だったように思うが、数年前に岩波文庫からも出版され、より多くの読者に読まれる機会を得たのではなかろうか。
斬新かつ難解な作品であるために少々取っ付きづらいかもしれないが、フォークナーに興味のある方には強くお勧めしたい作品だ。

アメリカ南部の小さな町ジェファソンに忽然と姿を現したトマス・サトペン。
彼の真の意図も、彼が持つ莫大な資金の出所もあやふやながら、彼はいつの間にか広大な地所を備えた豪華な屋敷を築き上げてしまう。
そんな彼が次に始めたのは嫁探しだった・・・。
数十年にも及ぶ時間軸の上を行き来しながら、『八月の光』のクリスマスに匹敵するような強烈な個性を備えたトマス・サトペンとその一家を描き上げた『アブサロム、アブサロム!』は、あたかも一大歴史絵巻を紐解いているかのような大作と言えると思う。

『アブサロム、アブサロム!』の読者には、彼の短編作品『ウオッシュ』の一読をお勧めしたい。
ウオッシュ』のあらすじは『アブサロム、アブサロム!』によってすべて述べられているので新たな発見はないだろうが、『アブサロム、アブサロム!』の読者ならではの感銘が期待できる。
同じ作品が新潮文庫の『フォークナー短編集』ではタイトルが『孫むすめ』というふうに意訳されているのは、一つの短編小説として独立して読んだ場合、「ウオッシュ」という語のニュアンスが伝わらないからなのだろう。

段落も文も一つ一つが長く、時系列も主語も転々とし、事実と推測とが入り混じる文章が連綿と続く『アブサロム、アブサロム!』。
その内容を正確に把握していくためだけでもけっこうな努力を読者に強いるのではないかと思うが、この文体に一度はまるとやみつきになってしまうような奇妙な魅力があるのもまた事実である。
苦労してでも読み通す価値のある傑作であることは間違いないので、ぜひ挑戦してみていただきたいと思う。
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『ポイントン邸の蒐集品』 ヘンリー・ジェイムズ(山口書店)

ポイントン邸の蒐集品ポイントン邸の蒐集品

書名:ポイントン邸の蒐集品
著者:ヘンリー・ジェイムズ
訳者:有馬 輝臣
出版社:山口書店
ページ数:277

おすすめ度:★★★★




ヘンリー・ジェイムズ中期の長編小説の一つがこの『ポイントン邸の蒐集品』である。
鳩の翼』や『金色の盃』といったジェイムズ後期の傑作が持つ特徴を数多く備えているが、それらの作品と比べるとさほど難解ではないため、ジェイムズらしい作品を読みたいという人にお勧めの一冊となっている。

数々の芸術品によって類まれな美的空間が形作られているポイントン邸。
跡取りである一人息子が婚約をしたのだが、芸術品に執念と言っても過言ではないほどの強い愛着を持つ母は、芸術を解するようには思えない婚約者の娘のことを到底受け入れることができず・・・。
ジェイムズの小説にはありがちなことだが、『ポイントン邸の蒐集品』においても、それほど大それた事件が起こるわけではない。
それでも、推理小説でも読んでいるかのように少しずつ明かされていく真実は読者の関心を引き付けてやまないことだろう。

『ポイントン邸の蒐集品』は、ジェイムズが得意とする「国際状況もの」とは異なり、舞台も登場人物もイギリス人という、徹頭徹尾イギリスの物語である。
そうはいっても、上流社会を描いている点や、実質的な登場人物が非常に限定的である点、そして何より視点人物の設定という手法によって、『ポイントン邸の蒐集品』はきわめて強くジェイムズを感じさせる作品となっている。

ジェイムズのファンなら必ずや楽しめる作品であるにもかかわらず、困ったことに『ポイントン邸の蒐集品』の流通量は何しろ少ないときている。
国書刊行会から出されているヘンリー・ジェイムズ作品集にも収録されているが、そちらも安価ではないため敷居は高いと言えるだろう。
ここ何年かの動向を見てもジェイムズの作品は着実に出版されていっているようなので、『ポイントン邸の蒐集品』の文庫化される日を待ちたいと思う。

『ウージェーヌ・ルーゴン閣下』 ゾラ(論創社)

ウージェーヌ・ルーゴン閣下―「ルーゴン=マッカール叢書」〈第6巻〉 (ルーゴン・マッカール叢書 第 6巻)ウージェーヌ・ルーゴン閣下―「ルーゴン=マッカール叢書」〈第6巻〉 (ルーゴン・マッカール叢書 第 6巻)

書名:ウージェーヌ・ルーゴン閣下
著者:エミール・ゾラ
訳者:小田 光雄
出版社:論創社
ページ数:480

おすすめ度:★★★★




ルーゴン・マッカール叢書第六巻に位置するのが本書『ウージェーヌ・ルーゴン閣下』である。
タイトルからも容易に想像がつくように、本書はフランス政界の上層部を舞台にして繰り広げられる政治小説になっている。
ナポレオン3世を頂点とする第二帝政の政府が描かれてはいるものの、歴史的な予備知識は特に必要としないので気軽に読み始めてもらっていいと思う。

『ウージェーヌ・ルーゴン閣下』の主人公は、言うまでもなくウージェーヌ・ルーゴンだ。
物語は成り上がり者として参事院の長官にまで上り詰めたルーゴンが失脚するところに始まる。
ルーゴンの失脚によって彼を頼みの綱とする取り巻き達に動揺が走り、権力を奪い返すために奔走を開始するが、果たしてルーゴンは「閣下」として返り咲くことができるのか・・・。
ルーゴンの立場の浮き沈みの背景で描かれる取り巻き達の利己的な振る舞いには時として苛立たしささえ覚えてしまうが、そういうものを描き出すことこそが、いかにもゾラらしいと言うべきなのかもしれない。

後のドレフュス事件との関わりを考えてみても、ゾラの政治に対する関心は強かったように思われる。
ゾラが自らの小説を政治思想を述べる場として用いていないとはいえ、ゾラが政界に真っ向から取り組んだ『ウージェーヌ・ルーゴン閣下』には興味をそそられる箇所が少なくないのではなかろうか。

鈍重な感じもしなくはないが、したたかで、それでも義理堅く、人間的な脆さを露呈することもあるウージェーヌ・ルーゴンを、個人的にはなかなか面白い人物であるように感じている。
そしてこの好印象に支えられて、巻頭から巻末にいたるまで『ウージェーヌ・ルーゴン閣下』を楽しむことができた。
ゾラのファンの方々は、ぜひこのルーゴン家の出世頭であるウージェーヌという人物像を各々評価していただければと思う。
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