『予言者マホメット』 アーヴィング (新樹社)

予言者マホメット予言者マホメット

書名:予言者マホメット
著者:ワシントン・アーヴィング
訳者:小柴一
出版社:新樹社
ページ数:332

おすすめ度:★★★★




アーヴィングがマホメットの生涯をわかりやすく描いたのが本書『予言者マホメット』である。
話を進める上でイスラム教の教義に触れずにいられない場面もあるが、大袈裟な伝承を誇張と断定していたり、マホメットが起こしたとされる奇跡を否定的にとらえていたりと、宗教臭さが少ない伝記として読むことのできる作品だ。

『予言者マホメット』は、マホメットが生まれ、啓示を得てイスラム教を説き始め、武力を用いつつそれを広め、死去するまでの出来事を時代を追って綴っている。
マホメットの業績を平明な物語のうちに集約しようという意図で書かれた作品だけあって、多くの読者にすんなりと受け入れられるアーヴィングならではの文体となっている。

アーヴィング自身がスペインで長く暮らしたという事情もあり、また、そのスペインでの日々が『アルハンブラ物語』という傑作に結実していることからもわかるように、アーヴィングがイスラム文化に強い関心を抱いていたことは明白である。
そうはいっても、彼は根っからのキリスト教徒であり、マホメットの偉大さを随所で認めながらも、『予言者マホメット』はあくまでキリスト教徒による批判的な視点で語られている作品となっている。
私個人としては、記述は概ね中立的で公平であり、読者が著者の偏った宗教的意見に不愉快な思いをすることは少ないのではないかと考えているが、イスラム教徒の視点からすればやはり不愉快に感じられる内容なのかもしれない。

『予言者マホメット』は、アメリカ文学の草創期を代表する作家であるアーヴィングによって19世紀半ばに書かれたものであるから、マホメットについて学ぶための作品として最適であるとは言い難い部分もある。
しかし、アーヴィングのような文豪が巧みな筆運びで読者をイスラム世界へ誘ってくれるという入門書は、他に見つからないというのも事実だろう。
流通量が非常に少ないというのが難点ではあるが、アーヴィングに、マホメットに興味のある方にはお勧めの一冊だ。
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