『冬物語』 シェイクスピア(白水Uブックス)

冬物語 (白水Uブックス (35))冬物語 (白水Uブックス (35))

書名:冬物語
著者:ウィリアム・シェイクスピア
訳者:小田島 雄志
出版社:白水社
ページ数:226

おすすめ度:★★★★




シェイクスピア後期の戯曲である『冬物語』は、同時期に書かれたとされる諸作品と共にロマンス劇に分類される作品である。
シェイクスピアが常にやるように、この『冬物語』も原案を彼なりに自由にアレンジしたものとなっており、その巧みなアレンジからは劇作家としてのシェイクスピアの手腕はもちろん、後期シェイクスピアの傾向性も顕著に感じ取ることができるに違いない。

シチリアの王リオンティーズとボヘミアの王ポリクシニーズとは、共に少年時代を過ごした無二の親友だった。
しかし、シチリア王は、妃と馴れ馴れしいボヘミア王の姿を見て、二人が浮気をしていると確信してしまい、ボヘミア王の殺害を家臣に命じるのだった・・・。
唐突に過ぎる嫉妬の炎に取り付かれてしまうリオンティーズには好感を持てないが、それ以外の主要登場人物たちはほとんどみな廉直な人々ばかりで、一様に読者に好印象を与えるのではないかと思う。

嫉妬が織り成す劇ということで、『冬物語』の読者にはシェイクスピアの代表作の一つである『オセロ』を想起してしまう方も少なくないのではなかろうか。
オセロ』が念頭に置かれることで、『冬物語』への興味が自ずと高まり、より批評的な視点で『冬物語』に接することができるというメリットがあるように思うので、あえて『オセロ』を意識しながら読んでみるのもいいかもしれない。
シェイクスピアの作風は時を経て変遷しているが、『冬物語』と『オセロ』の差異などは、それを端的に示す好例となることだろう。

"The Winter's Tale"という原題の『冬物語』であるが、「冬物語」といえば日本でも歌のタイトルになっていたりビールの銘柄になっていたりするため、随分と耳に馴染みやすい表題なのではなかろうか。
そしてこのシェイクスピアの作品にしても、「冬物語」という語のイメージを裏切ることなく一般読者でも馴染みやすいものなので、気軽に手にしていただければと思う。
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『ペルシーレス』 セルバンテス(ちくま文庫)

ペルシーレス(上) (ちくま文庫)ペルシーレス(上) (ちくま文庫)ペルシーレス(下) (ちくま文庫)ペルシーレス(下) (ちくま文庫)

書名:ペルシーレス
著者:ミゲル・デ・セルバンテス
訳者:荻内勝之
出版社:筑摩書房
ページ数:341(上)、340(下)

おすすめ度:★★★☆☆




ドン・キホーテ』で知られるセルバンテスによる、最後の長編作品がこの『ペルシーレス』である。
「ペルシーレスとシヒスムンダの苦難」というのが原題であるが、かなり読み進めてもペルシーレスとシヒスムンダとは何者なのかはっきりしないという、一風変わった作品になっている。
全般にストーリー性は強く、すらすら読める小説であるあたりにセルバンテスらしさを感じることができるはずだ。

孤島に閉じ込められたり、野蛮人に殺されそうになったり、船が転覆したり、塔から転落したりと、『ペルシーレス』の登場人物たちには驚くほど多くの災難が続けざまに降りかかってくる。
ドン・キホーテ』がきわめて現実的な物語であったのに対し、『ペルシーレス』には非現実的、時には幻想的な部分さえ散見するという特徴がある。
そういう意味では、非現実的な騎士道物語を真っ向から否定したのがセルバンテスであるという紋切り型の解釈を覆しうる作品と言えるかもしれない。

『ペルシーレス』の筋の運びは行き当たりばったりの感が強く、それだけに登場人物も多く、新たに登場した人物の語るエピソードによる本筋からの脱線もきわめて多い。
美男美女ばかりが登場するという不自然さなども含め、いかにもルネサンス的というか、古風な雰囲気を帯びており、初めて読んだのにどこか懐かしさを覚えかねない小説でになっている。

セルバンテスに興味のある方は少なくないはずだが、『ペルシーレス』にセルバンテスの手腕が発揮されていることを期待すると、読者の側の期待値が高過ぎるからか、期待が裏切られる可能性が高いような気がする。
スペインが誇る文豪セルバンテスの最後の作品であるにもかかわらず、『ペルシーレス』の注目度が低いという事実に納得できてしまう読者が大半なのではなかろうか。
そうはいっても、セルバンテス像を補完するための作品としては十分に読む価値があるのではないかと思う。
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