『百歳の人―魔術師』 バルザック(水声社)

百歳の人―魔術師 (バルザック幻想・怪奇小説選集)百歳の人―魔術師 (バルザック幻想・怪奇小説選集)
(2007/04)
オノレ・ド バルザック

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書名:百歳の人―魔術師(バルザック幻想・怪奇小説選集)
著者:オノレ・ド・バルザック
訳者:私市 保彦
出版社:水声社
ページ数:393

おすすめ度:★★★★




バルザック青年期の作品である『百歳の人』。
当時流行していたゴシック風怪奇小説で、ストーリー性がきわめて強いのが特徴だ。
本邦初訳なので、当然ながらあまり知られていない作品ではあるが、「人間喜劇」の作者であるバルザックと同一人物の筆になるとは思えないほど、余計なうんちくが排されている。
多少荒削りな印象を受けなくもないが、幻想文学の中ではだいぶ読みやすい作品だと思う。

ナポレオン軍の将軍であるべランゲルトは、事あるごとに出くわす不可思議な人物である「百歳の人」を探し求めている。
そんなある日のこと、将軍は自らにそっくりな顔の老人に会いに行くという女に出会うのだが、実は将軍と老人の二人は顔がそっくりだという・・・。
読み進めていくうちに「百歳の人」の秘密と、将軍との因縁が少しずつ明かされていく。
話の続きが気になる作品なので、退屈になって放り投げてしまう心配はないだろう。

あら皮』や『セラフィタ』など、人間喜劇の中で哲学的研究に分類されている作品をいくつも読んでいると、読者はバルザックがいかに神秘的なものに惹かれていたかを察することができる。
それらの作品と『百歳の人』との比較は、興味深い論点を提供してくれることだろう。
幻想・怪奇小説というのは、不思議な現象だけを描写し、読者を宙ぶらりんのままにすることもできるのだが、『百歳の人』に関して言えば、ナポレオン軍の史実とからめて話が展開されていたり、「百歳の人」の秘密を当時の科学的見解に基づいてほのめかしてみたりと、自らの作品にリアリティを与える工夫が周到に施されている。
そういう意味では、地に足のついた幻想・怪奇小説と呼んでも間違いではないかもしれない。

この『百歳の人』は、彼が人間喜劇の中に組み入れなかった初期の作品ではあるが、私には人間喜劇の作品群と比べて必ずしも出来が悪いようには思えない。
かといってバルザックを初めて読む人にまで勧めたいとは思わないのだが、少なくとも読み物としての楽しみは味わうことができるので、バルザックファンには一読をお勧めしたい。
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