『アトラス―迷宮のボルヘス』 ボルヘス(現代思潮新社)

アトラス―迷宮のボルヘス (^Etre・エートル叢書)アトラス―迷宮のボルヘス (^Etre・エートル叢書)
(2000/10)
ホルヘ・ルイス ボルヘス

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書名:アトラス―迷宮のボルヘス
著者:ホルヘ・ルイス・ボルヘス
訳者:鼓 宗
出版社:現代思潮新社
ページ数:108

おすすめ度:★★★☆☆




ボルヘス最晩年の旅行記が本書『アトラス―迷宮のボルヘス』である。
ボルヘス独特の世界観を伝える文章の美しさの光る作品だ。
また、表紙にもボルヘスと並んで写っているが、日系人の助手であるマリア・コダマが撮影した写真が多数用いられていて非常に読みやすい。
全般にテーマの選び方がいかにもボルヘスらしさに満ちていて、ボルヘスに興味のある人ならば必ずや楽しめることだろう。

高齢に達したボルヘスは、ほぼ盲目の状態でマリア・コダマと世界各地を回っている。
旅行記とはいっても、旅先の魅力を紹介する普通の意味での旅行記とは異なり、ボルヘスの内面世界を象徴するような写真を手がかりに、ページを繰るのに合わせて彼の心のひだが一枚一枚めくられていくかのような印象を受ける作品である。
七つの夜』などの講演集にも言えることだが、執筆時点で八十歳を過ぎているにもかかわらず、ボルヘスの記憶力や感受性の衰えを感じさせない仕上がりには驚かされる。

ボルヘス最晩年の作品であるこの『アトラス』は、1983年と比較的近年に出版された本だが、ボルヘスの没年が1986年であることを考え合わせると、読者にまた違った味わい深さを与えてくれるだろう。
加えて、助手として同行していたマリア・コダマと、ボルヘスが死の数ヶ月前に結婚しているという伝記的事実もある。
ボルヘスに関心を抱く読者からすれば、興味の尽きない本といえるだろう。

さほど難解な印象を受けることもないし、文章量自体も決して多くないので、『アトラス』はボルヘス初心者が読むのにも悪くない一冊かもしれない。
最晩年の作品から出発するのではなく、できれば出版年代順に読みたいと感じられる読者もいるだろうが、そのような時間の流れに対する考え方こそ、おそらくはボルヘスの流儀に最も反するものなのだから、なおさらのことだ。
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