『ブロディーの報告書』 ボルヘス(岩波文庫)

ブロディーの報告書 (岩波文庫)ブロディーの報告書 (岩波文庫)
(2012/05/17)
J.L.ボルヘス

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書名:ブロディーの報告書
著者:ホルヘ・ルイス・ボルヘス
訳者:鼓 直
出版社:岩波書店
ページ数:208

おすすめ度:★★★★




奇想天外なストーリーの創作家たることをやめ、直截的でリアリスティックな作風で書かれた短編集がこの『ブロディーの報告書』だ。
たいていの短編がボルヘス自らの体験談、もしくは第三者から伝え聞いたエピソードという形式を採っていて、その内容がいかにも現実に起こりそうなことであるため、もしくは現実に起こったことなのかもしれないが、いずれにせよ、『伝奇集』や『エル・アレフ』に親しんだ読者からすると、ボルヘスの短編集に期待するところのものが見出されないかもしれない。
とはいえ、いかに現実的なストーリー展開ばかりであろうと、収録作品はどれもこれまでボルヘスが築き上げてきた迷宮世界に匹敵する面白さを備えているように私は思う。

『ブロディーの報告書』に収められている作品は、たいていが19世紀から20世紀初頭にかけての南米を舞台にしたものである。
ボルヘスにとってはお手の物であるガウチョや無法者を主人公にしたものが多く、彼らを描くボルヘスの筆のさえに、つい読者は引き込まれてしまう。
『ブロディーの報告書』以前にもそういった類の短編や詩を多数発表してきているボルヘスだけに、時代性や地域性にかなりの偏りこそあるものの、『ブロディーの報告書』はきわめてボルヘスらしい短編集であると言っていいだろう。

ボルヘスは、いわゆる良家のお坊っちゃんとして育ったにもかかわらず、血や闘いへの、そして特にナイフへの志向はたいていの作家より格段に強い。
多用するテーマやモチーフが明確であるボルヘスという作家に迫るのに、精神分析的なアプローチも興味深いことだろう。
いずれにしても、平穏ならぬ死の迫った瞬間こそが、ある人間を描く際のベストの瞬間の一つであることは間違いないはずだ。

ボルヘスといえば難解な作家であるというイメージが強く、一部の読者からは敬遠されてもいることだろう。
しかしこの『ブロディーの報告書』に限って言えば、読みやすさはボルヘスの短編集の中で随一である。
それを物足りなく感じられるボルヘスファンもいるはずだが、その反面、ボルヘスを初めて読む人にも非常に取っ付きやすい作品であるように思う。
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