『クロイツェル・ソナタ/悪魔』 トルストイ(新潮文庫)

クロイツェル・ソナタ/悪魔 (新潮文庫)クロイツェル・ソナタ/悪魔 (新潮文庫)
(1974/06)
トルストイ

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書名:クロイツェル・ソナタ/悪魔
著者:トルストイ
訳者:原 卓也
出版社:新潮社
ページ数:270

おすすめ度:★★★★




トルストイ後期の中編作品である二編を一冊にしたものがこの『クロイツェル・ソナタ/悪魔』である。
取り扱っているテーマに重複している部分が大きいので、一冊の本に収録する二編としては最善の選択であったと言っていいだろう。
戦争と平和』のような作品を期待する読者は少々拍子抜けしてしまうのかもしれないが、『復活』などの後期作品に親しんでいる読者には、いかにもトルストイの筆であると感じらる作風だ。

『クロイツェル・ソナタ』と『悪魔』は、いずれも性と道徳についてのトルストイの思想、平たく言えば「禁欲」を推奨する思想を下敷きにしている。
根本的な面において彼の思想に共感できる人は多いように思うが、性的な満足は人間に必須な欲望であるとみなされ、また性生活の不一致が離婚の理由として法的に認められている社会に暮らす今日の読者からすれば、トルストイの目指すストイックな理想はあまりに厳格にすぎると感じられることだろう。

数々の文学作品をざっと思い返してみても、不貞を働く女性がハッピーエンドを迎えることは非常にまれであるように思うのだがいかがだろうか。
『クロイツェル・ソナタ/悪魔』を読んでいるうちに、『アンナ・カレーニナ』の悲劇を思い起こす方も少なくないはずだ。
トルストイは不貞が原因で人々が不幸に陥る作品ばかりを描くような印象を受けるが、不貞な女性をヒロインにしていない作品、たとえばバルザックの『谷間のゆり』やフローベールの『感情教育』などが、トルストイの理想にいくらか近い文学作品なのかもしれない。

『クロイツェル・ソナタ』と『悪魔』の二編は、全体に暗澹たる雰囲気の中で物語られている作品であるため、終幕まで読まずとも、読者は幸福な結末に至るとは到底予想できないはずだ。
決して爽快な気分になれる小説ではないものの、ストーリー性よりは思想性に重きを置いた味読に値する作品なので、お勧めではある。
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