『バートルビー/ベニト・セレノ』 メルヴィル(圭書房)

バートルビー/ベニト・セレノバートルビー/ベニト・セレノ
(2011/01/10)
ハーマン・メルヴィル

商品詳細を見る

書名:バートルビー/ベニト・セレノ
著者:ハーマン・メルヴィル
訳者:留守晴夫
出版社:圭書房
ページ数:287

おすすめ度:★★★☆☆




本書は『白鯨』とほぼ同時期に発表された『バートルビー』と『ベニト・セレノ』という中編作品二編を収録している。
どちらもタイトルロールであるバートルビーとベニト・セレノという、言動の奇妙な男を軸にした謎めいた物語なので、読者を惹き付ける力はきわめて強いように思う。
特に『ベニト・セレノ』は、舞台が船上、主な登場人物が船長ということで、メルヴィルのファンであれば必ずや面白く読めることだろう。

バートルビーは、ウォール街の法律事務所に勤める、不気味な落ち着きをたたえた代書人である。
雇い主が、新しく雇ったバートルビーのことを無口ながらも勤勉な働き者かと思っていた矢先、ある仕事を頼まれたバートルビーは・・・。
ディケンズを思わせるようなユーモア交じりの文体、戯画化された登場人物で縁取られた作品世界は、生死を懸けた男たちを描く海洋小説とはまったく異なった趣きで、『白鯨』や『ビリー・バッド』に親しんだ読者には少々新鮮な印象を与えるかもしれない。
とはいえ、作品に窺える問題意識からひしひしと感じ取られるメルヴィルらしさが、『バートルビー』の魅力であることに変わりはないのだが。
幽霊船 他1篇 (岩波文庫 赤 308-5)幽霊船 他1篇 (岩波文庫 赤 308-5)
(1979/12/17)
ハーマン・メルヴィル

商品詳細を見る

『ベニト・セレノ』は、かつて岩波文庫から『幽霊船』というタイトルで、こちらも『バートルビー』を併録して出されていたものだ。
私見によると、そのようなタイトルの改変は不必要だったろう。
『幽霊船』というタイトルの本を手にした読者は、これから読む作品に対してメルヴィルが意図していなかった余計な先入観を植え付けられてしまうはずだ。
最近この手のタイトルの「意訳」が減りつつあるのはうれしい傾向であるように思う。

あまり脚光を浴びることのないメルヴィルの中編を非常に美しい形で出版してくれた圭書房には感謝するばかりだが、『ビリー・バッド』同様、本書『バートルビー/ベニト・セレノ』も旧い漢字や仮名遣いを用いている。
私自身はほとんど苦労することもなく読める訳文であったが、お世辞にも読みやすい文章とは言いがたく、一般的な表記の方がより多くの人が楽しめるのではなかろうかと思うと、少々残念な気もする。
関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

カテゴリ
PR
最新記事
RSSリンク