『アドルフ』 コンスタン(岩波文庫)

アドルフ (岩波文庫)アドルフ (岩波文庫)
(1965/01)
コンスタン

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書名:アドルフ
著者:バンジャマン・コンスタン
訳者:大塚 幸男
出版社:岩波書店
ページ数:147

おすすめ度:★★★★




コンスタンは作家としてあまり知られていないかもしれないが、この『アドルフ』はフランス文学史において一つの傑作として太鼓判を押されている作品だ。
ストーリー自体に驚きや胸躍る展開はないものの、心理描写の緻密さはあたかも細密画のような仕上がりである。
その気になれば一日で十分読み終わることのできる薄い本でもあるので、フランス文学に興味のある方ならばぜひお読みいただきたい作品だ。

『アドルフ』は、こう言ってよければ一種の恋物語であるが、話の焦点は恋焦がれる思いにではなく、もっぱらカップルの誕生後にすえられている。
恋の術策を楽しんだ後にやってくる倦怠と惰性、退屈と破壊衝動、これらをここまで徹底的に描いた文学作品もそう多くはないはずだ。
他人事であると願いたいところではあるが、ひょっとすると、アドルフの心情に共感できる部分の多い読者もいるかもしれない。
フランス〈1〉/集英社ギャラリー「世界の文学」〈6〉フランス〈1〉/集英社ギャラリー「世界の文学」〈6〉
(1990/09/20)
原 卓也、 他

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以前は新潮文庫からも出されていたらしい『アドルフ』だが、その再版はなされていないようだ。
『アドルフ』は右の集英社ギャラリー「フランス〈1〉」に収録されていて、スタンダール『赤と黒』やバルザック『谷間のゆり』と肩を並べていることからも、作品に対する高い評価を窺い知ることができるというものだ。
後世の作家がコンスタンとその作品に言及することは少ないかもしれないが、フランス文学の一大潮流とも言うべき心理小説、その初期の名作として日本でも『アドルフ』が認められていると考えてよいのではなかろうか。

私はコンスタンの他の作品が翻訳されているのを知らないが、『アドルフ』のみによって知られる作家と考えてもそう大きな誤りを犯したことにはならないのかもしれない。
「アドルフ」という名前自体が、人類にとって忌まわしい記憶と結び付けられがちかもしれないが、『アドルフ』という名の優れた文学作品が存在するということが今後より周知されることを期待したいし、このブログがその一助となれば幸いである。
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