『詐欺師』 メルヴィル(八潮版・アメリカの文学)

詐欺師 (八潮版・アメリカの文学)詐欺師 (八潮版・アメリカの文学)
(1997/07)
ハーマン メルヴィル

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書名:詐欺師
著者:ハーマン・メルヴィル
訳者:原 光
出版社:八潮出版社
ページ数:366

おすすめ度:★★★☆☆




難解であると言われることの多いメルヴィルだが、この『詐欺師』の存在もその一因かもしれない。
長編作品にもかかわらず、『詐欺師』には明確なプロットが与えられているわけではなく、次から次へと詐欺を働く情景が数珠つなぎに描かれていて、それらがすべて「詐欺師」という紐でくくられているかのような、そんな印象を受ける作品だ。
詐欺を働き警察に追いかけられる、といったスリリングな展開を期待すれば裏切られることは確実であるが、メルヴィルの独創性は強く表れている作品であると言っていいだろう。

時はエイプリルフール、舞台はミシシッピを航行するの船の上である。
とはいっても、単に舞台が船の上というだけのことで、『白鯨』や『ビリー・バッド』とはまるで異なった雰囲気の中で話が、というより数々の詐欺が進められていく。
詐欺行為が失速し、様々な議論が中心となる後半部分はやや退屈な感を受けないでもないが、そのような議論こそ、メルヴィルが最も書きたかったことなのかもしれない。

『詐欺師』の原題は『The Confidence-Man』で、"confidence"といえば第一義的には「信頼・信用」を意味する語である。
それが"Confidence-Man"という熟語となると「詐欺師」を意味するというのだから、英語では詐欺に対して「信頼を悪用する行い」という意味合いが日本語よりもかなり強烈に打ち出されているようだ。
メルヴィル全集に収められている坂下氏の訳では、本書のタイトルは『信用詐欺師』となっていたように記憶しているが、これも本書をただの詐欺行為の集まりとしてではなく、人間間における「信頼・信用」そのもののあり方を意識した作品であると考えてのことと思われる。
事実、『詐欺師』の中で頻出する単語があるとすれば、それは皮肉にも「信頼」なのだ。

仮名遣い、ルビの振り方や語順などの面で、訳文が少々読みにくいかもしれない。
いくらか実験的な要素すら感じられる作品である『詐欺師』、一般受けは望むべくもないが、一風変わった作風に飢えている方なら必ずや満足いただけることと思う。
とはいえ、私がここで嘘を言っていないとすればの話であるが・・・。
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