『アスパンの恋文』 ヘンリー・ジェイムズ(岩波文庫)

アスパンの恋文 (岩波文庫)アスパンの恋文 (岩波文庫)
(1998/05/18)
ヘンリー・ジェイムズ

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書名:アスパンの恋文
著者:ヘンリー・ジェイムズ
訳者:行方 昭夫
出版社:岩波書店
ページ数:214

おすすめ度:★★★★




ヘンリー・ジェイムズ中期の中編作品が本書『アスパンの恋文』である。
作家としてのジェイムズをとらえる際に、初期、中期、後期の三つに区分するのが一般的のようだが、中期の作品はあまり翻訳紹介されていないのが実情なので、そういう意味では珍しい部類の作品と言ってもいいだろう。
本書がジェイムズの代表作として数えられることはほぼないとはいえ、ジェイムズの特長のよく表されている、とても読みやすい作品なので、一般受けも十分望めるように思う。

『アスパンの恋文』の主人公は、アスパンというアメリカの詩人の研究家である「わたし」だ。
そんな「わたし」がアスパンが残した恋文を手に入れようとヴェニスを訪れ、その手紙の持ち主と思しきとある夫人と知り合いになり・・・。
アメリカ人がヨーロッパ色の非常に強い町の一つであるヴェニスを訪れるという設定自体が、いかにもジェイムズらしいもので、そんな作者の十八番にほくそ笑む読者もいるかもしれない。
また、登場人物の心理の流れが克明に描かれていることは、改めて言うまでもない本書の長所だ。

ジェイムズの作品というと「視点」に関して云々されることが多いが、一人称で書かれた作品はそう多くはないのではなかろうか。
当然ながら、「わたし」がアスパンを研究しているのと同程度に私がジェイムズの作品を熟知しているわけではないのだが、いくつかの短編を別とすれば、彼の長編・中編小説はたいていが三人称で書かれているという印象を持っている。
もしその印象が誤っていないとすれば、『アスパンの恋文』はジェイムズの「視点」について関心のある読者には一読の価値があるものと言えるだろう。

それほど有名な作品ではない『アスパンの恋文』だが、ヘンリー・ジェイムズの作風がお好きな方には期待通りの作品と言えるのではなかろうか。
近年、『大使たち』や『ワシントン・スクエア』などの新刊によって岩波文庫におけるジェイムズの作品が充実しつつあり、今後さらなる新訳の出版、または既訳の文庫化が待たれるところだ。
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