『鳩の翼』 ヘンリー・ジェイムズ(講談社文芸文庫)

鳩の翼(上) (講談社文芸文庫)鳩の翼(上) (講談社文芸文庫)
(1997/09/10)
ヘンリー・ジェイムズ

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鳩の翼(下) (講談社文芸文庫)鳩の翼(下) (講談社文芸文庫)
(1997/10/09)
ヘンリー・ジェイムズ

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書名:鳩の翼
著者:ヘンリー・ジェイムズ
訳者:青木 次生
出版社:講談社
ページ数:502(上)、442(下)

おすすめ度:★★★★




ヘンリー・ジェイムズ後期の傑作である『鳩の翼』。
ジェイムズの代名詞とも言うべき精緻な心理描写は本書においても遺憾なく発揮されており、また、読者の関心事をオブラートに包むかのような適度な曖昧さには、読者の関心を必然的に高める効果が感じられる。
ストーリーこそまったく違えど、発表年の近い『大使たち』と作風は似通っており、『大使たち』を気に入られた方が次に読むべきはこの『鳩の翼』であろう。

『鳩の翼』の序盤のあらすじを大雑把に述べると、いずれも金銭的にさほど恵まれていない恋し合う男女の間に、病弱で富裕な娘が現れ、その男に恋することで二人の間に波紋を広げる、といったものである。
『鳩の翼』は、しばしば指摘されるように幾分メロドラマ的な筋書きであり、私もそのことを否定しようとは思わないのだが、それでも読者は安っぽい本を読んだという感想を抱くことは絶対にできないように思われる。
書き方によっては文学史に名を残さない平凡な作品にもなっただろうが、ジェイムズの後期作品の最大の魅力とも言うべきうねるような独特の文体がそれを許さなかったのであろう。
また、物語は後半にはヴェニスへと舞台を移すが、『アスパンの恋文』同様、古色蒼然たる運河の町が作品に程よい哀愁を添えてくれるに違いない。

デイジー・ミラー』や『ある婦人の肖像』などの代表作で優れた女性像を描き上げたジェイムズだが、『鳩の翼』においてもヒロインの性格描写の素晴らしさは読者をうならせることだろう。
中にはろくな女性を一度も創造できなかった作家もいるが、ヘンリー・ジェイムズはフローベールなどと並び、心に奥行きのある女性像を数多く提供してくれる作家の一人だ。
ジェイムズの作品には、結婚するかしないかで揺れ動く女性の心理が頻繁に描かれてもいる。
生涯独身だったジェイムズだが、彼も自らの結婚についていろいろと思い悩むことがあったのかもしれない。

愛と嫉妬と、天上的な優しさと俗世的な金銭欲と・・・。
ありがちなテーマを扱うストーリーを味わい深く描かせたら、円熟期のジェイムズの右に出る作家はそう多くはないはずだ。
そのあまりの巧みさゆえに晦渋とも評されるのだろうが、精巧な作品を仕上げる巨匠の技は、やはり読者を感動させずにはいないことだろう。
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