『獣人』 エミール・ゾラ(藤原書店)

獣人 ゾラセレクション(6)獣人 ゾラセレクション(6)
(2004/11)
エミール ゾラ

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書名:獣人
著者:エミール・ゾラ
訳者:寺田 光徳
出版社:藤原書店
ページ数:526

おすすめ度:★★★★★




ルーゴン・マッカール叢書第十七巻の『獣人』。
ミステリー的な要素の強い作品で、クライマックスの盛り上がり方、スピード感は、ゾラの全作品の中でも屈指だろう。
ゾラのことをあまり知らない人にも安心してお勧めできるし、ゾラが好きな読者なら絶対に楽しめるはずだ。

『獣人』は、文明化の象徴でもある鉄道を舞台にしている。
ゾラの作品は、他殺、自殺、病死など、登場人物が最低でも一人は死ぬものが圧倒的に多いが、「愛と殺人の鉄道物語」との副題が示すとおり、本作においてもやはり人が死ぬ。
そしてこの場合の「愛」が清純なものでないことも、副題から予想されるとおりだ。
あまり内容については触れたくないので深入りはしないでおくが、愛と殺人の絡まり合いと、それに拍車をかけるかのような機関車の疾駆が、作家として円熟したゾラによって巧みに描かれている。

そういえば、官能の瞬間と死の瞬間の類似は、ゾラがこの小説を書く前の世紀にサドが指摘していたように思う。
そして同様の事実を基に、二十世紀になってバタイユが自説を展開するのではなかったか。
このような思想的側面に焦点を当てて読んでみるのも面白いかもしれない。

『獣人』はルーゴン・マッカール叢書の第十七巻だが、他の作品とのつながりはきわめて弱い。
とはいえ、ルーゴン家、マッカール家の始祖とも言えるアデライードからの遺伝性は、主人公であるジャックにおいて一つの頂点を迎えている。
ジャックの母は『居酒屋』のジェルヴェーズであり、彼もマッカール家の一員だ。
ところで、マッカール家の面々を主人公にした作品に傑作が多いように思うのは気のせいだろうか。

『獣人』といういかにも魅力的なタイトル。
以前から読みたいとは思っていたのだが、文学全集などに収録されているものを除けば、かつては岩波文庫しか翻訳がなかった。
しかし、その訳文は古かったし、そもそも入手が難しかったりした。
挿絵入りの読みやすい『獣人』を出版してくれた藤原書店に感謝である。
これを機に、これまで埋もれがちだったゾラの傑作『獣人』がより多くの人に読まれ、人々にただならぬ感動を与えることを期待したい。
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