『幻滅』 バルザック(藤原書店)
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書名:幻滅(上・下巻)
著者:オノレ・ド・バルザック
訳者:野崎歓、青木真紀子
出版社:藤原書店
ページ数:480(上)、472(下)
著者:オノレ・ド・バルザック
訳者:野崎歓、青木真紀子
出版社:藤原書店
ページ数:480(上)、472(下)
おすすめ度:★★★★★
『ペール・ゴリオ』に続き、ヴォートラン3部作の第二作目がこの『幻滅』。
3部作とはいっても、本作におけるヴォートランの暗躍は最小限に抑えられているから、3部作という観点からすると『娼婦の栄光と悲惨』へのつなぎ、もしくは導入としてとらえたほうがいいだろう。
しかしこの『幻滅』、ヴォートランの登場は少なくても読者を魅了する力は十分に持っている。
人間喜劇中で地方生活情景に分類されているように、アングレームという田舎町で物語りは始まる。
主人公は詩人を夢見る若き田舎の青年リュシアン、幸か不幸か彼は容姿端麗なのだが、そんな彼がパリに上京、いつしかジャーナリストとしての成功を目指し始め・・・。
結果的にはジャーナリズムの腐敗を痛烈に風刺した作品にもなっているのだが、「メディア戦記」と副題が付けられているのはそういうわけだろう。
とはいえ、あまりこの副題自体が必要なものであるとは思えないけれども。
ところでこのリュシアン、時として腹立ちを覚えてしまうほどに情けない男で、決して魅力的な人格を備えた主人公とは言い難い。
しかし、けっこうなページ数を誇る『幻滅』を読み通せば、おのずとリュシアンの先行きに興味も湧いてくるはずだ。
続編である『娼婦の栄光と悲惨』においてリュシアンがどのような運命をたどることになるのか、ぜひ読み進めてみていただきたい。
バルザックといえば借金大王としても有名だが、個人的な経験のおかげでその事情に通じているからか、作品中でも借金や手形、破産や高利貸しへの言及はきわめて多い。
『セザール・ビロトー』は破産物語だし、『ゴプセック』は高利貸しの話、『骨董室』は借金のやり繰り算段が主筋であるし、バルザックの小説から金の話を抜き取ったら、多くの小説がそれはそれは味気ないものとなってしまうに違いない。
そして本作『幻滅』でも、やはり金が大きく物を言う。
バルザックを好きになれるかどうかの一つの分かれ道は、ひょっとするとこれら延々と続く金の話を面白いと思えるかどうか、この点にあるのだろうか。
田舎から若い青年が上京し成功をつかもうとする。
あらすじだけをざっと見るならば、ゴンチャロフが『平凡物語』で描いたような、いかにも「平凡」な話なのかもしれない。
しかし、そこはバルザックの腕の見せ所、欲望と愛情が織り成した、浮き沈みのあるストーリーに読者は強く惹きつけられることだろう。
そしてそこに輝きを添えるのは、そう、金だ。
『幻滅』は、とてもバルザックらしい傑作長編の一つとして非常にお勧めである。
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