『トルストイの生涯』 ロマン・ロラン(岩波文庫)

トルストイの生涯 (岩波文庫)トルストイの生涯 (岩波文庫)
(1961/12/20)
ロマン ロラン

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書名:トルストイの生涯
著者:ロマン・ロラン
訳者:蛯原 徳夫
出版社:岩波書店
ページ数:289

おすすめ度:★★★★




真の芸術家を称えてやまなかった作家の代表格ともいえるロマン・ロランだが、そんな彼による、『ベートーヴェンの生涯』、『ミケランジェロの生涯』と並ぶ伝記作品がこの『トルストイの生涯』だ。
ロランによる注、訳者による解説を除けば、本文は220ページ程度と、決して長大な作品ではないため、トルストイの伝記的事実を網羅した作品であるとは言えないが、トルストイの作品や書簡からの豊富な引用を用いたロランならではのスタイルは本書にも顕著に表れていて、読者はまるでトルストイの肉声を聞いているかのような錯覚にすら陥りかねない。
たいていの読者は作家としてのトルストイ、作品に関係する範囲でのトルストイに関心があるように思うので、詳細な伝記的事実は他の作家による伝記に譲るとして、作家トルストイの素顔に迫るためには、彼の思想の根幹を垣間見ることのできるこの『トルストイの生涯』が最適の入門書となるのではなかろうか。

『トルストイの生涯』の章立ては、それが訳者による便宜上のものであるとはいえ、そのほとんどがトルストイの作品名となっており、文庫本にもなっているトルストイ作品の大半について言及されている。
戦争と平和』、『アンナ・カレーニナ』、『復活』といった有名長編作品はもちろん、『幼年時代』、『イワン・イリッチの死』、『クロイツェル・ソナタ』という章もあるという具合だ。
ただ、まれに作品の内容について、たとえば主要登場人物の行く末などについて明かしてしまう記述もあるので、これからトルストイの作品を読む予定で物語の筋などに触れられるのを好まれない方は、トルストイの作品を読んでから本書を手にした方がいいように思われる。

強いて『トルストイの生涯』の短所を述べるとすれば、生前手紙のやり取りをするなど、著者であるロマン・ロランとトルストイの間には個人的な交流もあったし、ロランがトルストイを師と仰いでいたという背景もあり、さほど批判精神を見出すことができないという点だろうが、一個の芸術家として自立した存在であるロランの書いたものだけに、追従たらたらといった作風では決してない。
あまり知られることのないトルストイの社会思想の概要をもつかむことができるし、作者ロランの気概もにじみ出ているので、トルストイもしくはロマン・ロランに関心のある方であれば必ずや多大な興味を持って読むことができる一冊だろう。
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