『移動祝祭日』 ヘミングウェイ(新潮文庫)

移動祝祭日 (新潮文庫)移動祝祭日 (新潮文庫)
(2009/01/28)
アーネスト ヘミングウェイ

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書名:移動祝祭日
著者:アーネスト・ヘミングウェイ
訳者:高見 浩
出版社:新潮社
ページ数:330

おすすめ度:★★★★




ヘミングウェイの出世作といえば『日はまた昇る』であるが、その執筆前後のパリ時代を回想して綴った作品がこの『移動祝祭日』である。
海流のなかの島々』や『エデンの園』と同様、ヘミングウェイの死後に発表された作品であり、残された妻の編集も若干施されているらしいが、未完であるという印象はまったく感じられず、未発表原稿としての完成度は高い作品だ。

若きヘミングウェイが最初の妻を伴って文学修業に赴いた1920年代のパリは、作家、詩人、画家などの芸術家の集まる都だった。
『移動祝祭日』に名前の挙がる、ヘミングウェイが知り合った著名人たちの中には、日本でよく知られた人物も多く、ジョイス、ピカソ、フィッツジェラルドなどが特に有名だろう。
中でも、同時代のアメリカ文学を代表する作家の一人であるフィッツジェラルドとの交遊には多くの紙幅が割かれており、ヘミングウェイの目に映った、もしくは記憶に残っていたいくらか滑稽なフィッツジェラルド像は、たいへん興味深いものがある。
あまり好意的には描かれていないものの、本書は波乱に富んだ人生を送ったフィッツジェラルドに関心のある読者も面白く読めるに違いない。

解説によると、自伝的作品である『移動祝祭日』に描かれている事柄には、事実に反する部分もいくらか存在しているらしい。
それらがヘミングウェイ自身による意図的な歪曲なのか、30年の月日がなせる忘却の仕業なのか、それとも第三者の編集による改ざんなのかは特定しがたいにせよ、いずれにしても、死を間近に控えたヘミングウェイが自らの青年時代を思い起こして綴った回想記としての『移動祝祭日』の価値は、事実との相違の存在によってもほとんど目減りしていないのではなかろうか。

『移動祝祭日』は、2009年になって新潮文庫入りした、いわば「新作」である。
ヘミングウェイが完成の烙印を押して公表した作品でないとはいえ、若きヘミングウェイと心身ともに老いてきていたヘミングウェイの交錯する『移動祝祭日』は非常に読み応えがある。
誰がために鐘は鳴る』のようなダイナミックさはないが、ヘミングウェイのファンならずとも一読の価値ある本であるように思う。
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