『従兄ポンス』 バルザック(藤原書店)

従兄ポンス―収集家の悲劇 (バルザック「人間喜劇」セレクション)従兄ポンス―収集家の悲劇 (バルザック「人間喜劇」セレクション)
(1999/09/30)
オノレ・ド・バルザック、Honor´e De Balzac 他

商品詳細を見る

書名:従兄ポンス
著者:オノレ・ド・バルザック
訳者:柏木 隆雄
出版社:藤原書店
ページ数:496

おすすめ度:★★★★




パリ生活情景の中で、『従妹ベット』と共に「貧しき縁者」としてくくられている『従兄ポンス』。
貧しく役に立たない親戚と思われ、疎んじられていたポンスのコレクションに意外な価値があるとわかり・・・。
親族としての絆と金銭上の利益というテーマの選び方が、いかにもバルザックらしい。
やや厚めの一冊だが、さくさく読み進めることのできる作品だ。

『従兄ポンス』は、善人と悪人の区別がはっきりしているわかりやすい構図で、筋にもそう複雑なところはない。
バルザックの悪い癖である、知識のひけらかしのような部分もないわけではないが、物語自体はとても面白い。
ただ気になるのは、誤植の多いところだろうか。
人間の仕事だけに、ごくまれに誤植が存在するのは仕方のないことだろうが、藤原書店のバルザック「人間喜劇」コレクションではそれがとても目立つ。
句読点の脱落・重複、固有名詞の間違い、漢字の変換ミスなど、その出現頻度には驚かされる。
後のゾラ・セレクションにおいてだいぶ改善されているようなので、他であまり出版されない名作を出版してくれているだけに、今後の出版物や再版に期待したいと思う。

そうはいっても、バルザックの小説の面白さは出版上の不手際を補って余りあるだろう。
登場人物に欲望を持たせることで血を通わせ、具体的な金銭をやり取りさせることで話にリアリティを付与するその手腕は『従兄ポンス』においても健在だ。
バルザックはある特定の物事に偏執する人間をよく描くが、ポンスにとっては自身のコレクションがその対象である。
命の次に、いや、ひょっとすると命よりも大事にしているコレクションに危機が迫っていることを知ったときのポンスの描写は忘れがたい。
自らの財産を奪われるという権利の侵害に対する憤りだけではなく、愛情を注ぎ込んできた対象を奪われることに傷つく哀れな老人には、読者はいかに同情してもしすぎたことにはならないのではなかろうか。

『従兄ポンス』はバルザック最晩年の作品で、ストーリーの展開に無駄がなく、全体にとても引き締まった印象を受ける。
読み終えて本を閉じてみれば、よくたった一冊の本にこれほどまで紆余曲折を組み込めたものだと思えるほどで、フランス文学を代表する巨匠の巧みを感じることのできる作品の一つだといえるだろう。
同じく「貧しき縁者」に区分されている『従妹ベット』はもちろん、『絶対の探求』や『知られざる傑作』と読み比べてみるのも非常に面白いと思う。
関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

カテゴリ
PR
最新記事
RSSリンク