『知と愛』 ヘルマン・ヘッセ(新潮文庫)

知と愛 (新潮文庫)知と愛 (新潮文庫)
(1959/06)
ヘッセ

商品詳細を見る

書名:知と愛
著者:ヘルマン・ヘッセ
訳者:高橋 健二
出版社:新潮社
ページ数:495

おすすめ度:★★★★




ヘッセ円熟期の長編小説である『ナルチスとゴルトムント』は、日本では『知と愛』というタイトルで知られている。
ヘッセの芸術論、人生論が盛り込まれた作品で、思弁的な色合いも濃いめとなっており、いくらか難解に思われる読者もいるかもしれないが、思想性の深みのゆえに読み応えは十分だ。
ヘッセにしては長めの長編作品となるが、全体の構成も非常に整っていて、読者にその完成度の高さを感じさせることだろう。

『知と愛』は、若くして教師の役を務め、修道院で人生を送ることを予感している学者肌の優等生ナルチスの元へ、活気に満ちた人好きのする少年ゴルトムントが、一人の生徒としてやってくるところから始まる。
自らも修道院に身をうずめようと考えていたゴルトムントだったが、ナルチスとの出会いが彼に影響を及ぼしだして・・・。

それにしても、ヘッセほど原題とは異なったタイトルが普及している作品の多い作家も珍しいのではなかろうか。
『ペーター・カーメンチント』が『郷愁』と、『ゲルトルート』が『春の嵐』と、そしてこの『ナルチスとゴルトムント』が『知と愛』という邦訳題名をそれぞれ付されている。
訳者がその作品のテーマを汲んで新たに命名することで、「郷愁」であったり「知」と「愛」という観念に対して、作家が意図していない比重がかかるように思うので、私は個人的にオリジナルのタイトルからかけ離れた訳題があまり好きにはなれないのだが、どちらかといえば時流は原題を尊重する方に傾いているようなので、ヘッセのこれらの作品もいずれは片仮名表記のタイトルが浸透してくるのかもしれない。
決して一読者としてさんざん恩恵を被っている高橋健二氏の功労を軽視しているわけではないのだが、特に『ナルチスとゴルトムント』の場合のように、原題からも何らかのイメージをつかみうる場合においては、なおのこと惜しい気持ちがしてしまう。

どこかでヘッセ自身が『知と愛』は不道徳な作品だとの非難を受けたというようなことを記していたように記憶しているが、確かに主人公の純情さが胸を打つことの多いヘッセの若い頃の作品とは、少々毛色が異なっている。
しかし、それは裏を返せば、若かりし頃には書きえなかった作品ということなのだろう。
人生の酸いも甘いも経験し、人一倍悩める魂を持っていたヘッセの一つの到達点を窺い知ることのできる作品として、ヘッセに興味のある方すべてにお勧めしたいと思う。
関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

カテゴリ
PR
最新記事
RSSリンク