『獄中記』 オスカー・ワイルド(角川文庫ソフィア)

獄中記 (角川文庫ソフィア)獄中記 (角川文庫ソフィア)
(1998/04)
オスカー・ワイルド

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書名:獄中記
著者:オスカー・ワイルド
訳者:田部 重治
出版社:角川書店
ページ数:117

おすすめ度:★★★☆☆




同性愛の罪で投獄されていたワイルドが、同性愛の関係にあったダグラスに宛てて獄中にて綴った書簡を編集したものが本書『獄中記』である。
書簡を出版するに際し、ワイルドとダグラスとの個人的な記述に関してはすべて省かれたようで、本書においては牢獄生活がワイルドの精神面に与えた影響、特に芸術に対する信念への影響が語られている。
内容が平易でもなく、少々堅苦しい文体の作品でもあるため、一般受けはしにくいように思うが、ワイルドの芸術観に関心のある方には一読の価値ある本であろう。

『獄中記』というタイトルからすると、収監から釈放までの出来事を述べた本と思われる方もいるかもしれないが、本書は徹頭徹尾ワイルドの内面の記録である。
わずかに牢獄における体験が語られることもあるが、それはあくまでワイルドの内面に影響を及ぼしたという文脈においてであり、出来事を連ねることはワイルドの眼中にはないようだ。
ワイルド自身の口から語られる芸術や享楽に対する考えは非常に興味深く、キリストへの言及にはいくらか意外な感すらするほどで、全体にワイルドのファンなら面白く読めるものとなっている。

社交界の寵児から一転、地位も財産も失い人々の軽蔑の的となるというワイルドの身の上は、どこか『ドリアン・グレイの肖像』の筋書きを想起させないでもないが、このような急転直下の没落に対して、恨み言や絶望ばかりが語られていたとすれば、この『獄中記』は読むに堪えない駄作になっていたはずだ。
しかし実際には、苦境にある自らを励まそうとしてか、事態を肯定的にとらえようという姿勢が随所に窺え、そんなワイルドを応援したい気持ちにもさせられるのだが、出獄後の彼の生涯が決して満ち足りたものでなかったことを知っている我々としては、複雑な思いでこの本を読み進めることになるだろう。

本書の原題である『De Profundis』とは、聖書に由来する語で、「深き淵より」との意味である。
同じ語を用いた表題を持つ作品には、ド・クインシ―の『深き淵よりの嘆息』があるが、そちらは阿片中毒となった著者の陥った深淵を描いたものだった。
そして本書は、ワイルドの陥った監獄という名の「深き淵」からの便りである。
芸術家としてのワイルドに少しでも迫りたいと考えている方にお勧めしたい一冊だ。
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