『鰐 ドストエフスキー ユーモア小説集』 ドストエフスキー(講談社文芸文庫)

鰐 ドストエフスキー ユーモア小説集 (講談社文芸文庫)鰐 ドストエフスキー ユーモア小説集 (講談社文芸文庫)

書名:鰐 ドストエフスキー ユーモア小説集
著者:フョードル・ドストエフスキー
訳者:工藤 精一郎、原 卓也
出版社:講談社
ページ数:352

おすすめ度:★★★★




表題作をはじめ、ドストエフスキーの初期から中期にかけての短篇作品四篇を集めたのが本書『鰐』である。
副題に「ドストエフスキー ユーモア小説集」とあることからもわかるように、いずれも軽いタッチの小説を集めている。
ドストエフスキーの小説の魅力の一つが作品世界の奥深さであることを思えば本書の収録作品はいずれも異色と言わざるをえないが、ゴーゴリからの影響の指摘されることの多いドストエフスキーであってみれば、初期の作品にユーモアのセンスが垣間見られるのも当然ということなのだろうか。

『九通の手紙からなる小説』は、シンプルな構成の中にも独特のおかしみを感じさせる書簡体小説だ。
『他人の妻とベッドの下の夫』は、そのタイトルが暗示しているとおりの愉快さをはらんでいる作品になっている。
夫に見つかりそうになった情夫がベッドの下に隠れるというだけでも十分滑稽な話だが、ドストエフスキーはさらに滑稽味を増すべく、いくつかの事情や設定を追加している。
『いまわしい話』は、友愛や平等といった理想を語る高官が部下の結婚式に飛び入り参加するというもの。
徹底した官僚社会のロシア帝国でそのような試みがうまくいくのかどうか・・・。
表題作である『鰐』は未完の作品となっていて、確かに読者は小説があまりにも突然終わってしまった印象を受けるだろうが、結末まで描ききられていなかったにしても、十分面白い作品になっている。
何しろ、鰐を見物に行った官吏が鰐に飲み込まれるという物語なのだから。

ドストエフスキーの長編作品には、しばしばしゃちほこばった滑稽な言動をする人物が登場する。
それらの人物は作品の中でつい主題の重みに押しつぶされてしまいがちだったが、ドストエフスキーは間違いなくユーモアのセンスに富んだ作家であると言っても誤りではないだろう。
そして世間一般のドストエフスキーのイメージを覆すような小説集がこの『鰐』である。
ドストエフスキーに関心のあるすべての方にお勧めしたい一冊だ。
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