『ハード・タイムズ』 ディケンズ(英宝社)

ハード・タイムズハード・タイムズ

書名:ハード・タイムズ
著者:チャールズ・ディケンズ
訳者:山村元彦、田中孝信、竹村義和
出版社:英宝社
ページ数:557

おすすめ度:★★★★




ディケンズの長編小説の中で最も短い作品がこの『ハード・タイムズ』である。
ディケンズ中期以降の作品の特徴でもあるが、『ハード・タイムズ』においても教育哲学や労使関係といった社会問題がいくつか取り上げられていて、風刺的な表現や直接的な批判が散見するディケンズらしい書きぶりの作品だ。
ディケンズの小説を華やかに彩るユーモアの発揮はかなり控えめなようだが、全般に会話部分の占める割合が高いことからも、すらすらと読みやすい作品となっているので、とっつきやすい作品であることは間違いないだろう。

『ハード・タイムズ』は、事実に即した思考のできる理性的人間を育成する学校に始まる。
自ら最善と信じる教育システムに固執している校長は、自身の子供たちをも「模範生」に育て上げるために厳しい目を光らせていたのだが・・・。
叩き上げの工場主、没落した名家の夫人、誠実な工場労働者、謎の老婆などが、緊密な構成を保って配列されている『ハード・タイムズ』は、ディケンズの長編小説の中でとてもまとまった作品の一つであるだろう。

これまで『困難な時世』などとも訳されてきた『ハード・タイムズ』は、その表題からして社会問題に焦点を当てた作品であるような印象を受ける方も多いことだろうが、実際には社会問題はさほど前面に打ち出されていないように感じられた。
社会批判を狙った作品と期待して読むと失望を誘うかもしれないが、その反面、社会問題を背景にして登場人物たちの織り成すストーリーは、読者を引き付ける力を十分に備えている。
そして私はそのようなストーリーテラーとしての手腕こそがディケンズの真骨頂であると考えているのだがいかがだろうか。

ロンドンを離れ、工業で栄える町を舞台にした『ハード・タイムズ』は、その舞台選びから文体的特徴に至るまで、どこか異色の作品に仕上がっているため、ディケンズの作品を幅広く鑑賞したい読者には強くお勧めしたい一冊であるといえる。
ただし、悲しいことに今やこの『ハード・タイムズ』の入手が「困難な時世」になっているのであるが・・・。
関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

カテゴリ
PR
最新記事
RSSリンク