『炉辺のこほろぎ』 ディケンズ(岩波文庫)

炉辺のこほろぎ (岩波文庫)炉辺のこほろぎ (岩波文庫)

書名:炉辺のこほろぎ
著者:チャールズ・ディケンズ
訳者:本多 顕彰
出版社:岩波書店
ページ数:148

おすすめ度:★★★☆☆




ディケンズの中編作品としては、文庫本化されている数少ない作品の一つがこの『炉辺のこほろぎ』である。
デイヴィッド・コパフィールド』や『大いなる遺産』などの代表作で知られるように、長編作品においてその持てる才能を遺憾なく発揮するディケンズではあるが、『炉辺のこほろぎ』にもディケンズらしいユーモアやペーソスはもちろん健在で、まして戯曲を思わせる緊密な構成で仕上がっている点は長編作品をしのぐほどですらある。
ディケンズのメジャーどころ以外の作品も読んでみたいという方にはたいへんお勧めの一冊だ。

『炉辺のこほろぎ』に登場する主なキャラクターは、廉直な運送屋とその若く美しい妻、陋屋にて苦しい生活を送っている玩具屋と視力を奪われたその娘、嫌味で陰気な金持ちの男、そしてタイトルロールである「炉辺のこほろぎ」である。
ある日のこと、愛に満ちた運送屋の家に、見ず知らずの謎の老人が転がり込んできて・・・。
それぞれのキャラクターの性格付けがいくらか紋切型に過ぎるような気がしないでもないが、貧しい身の上の人々に対するディケンズの優しい思いやりが伝わってくるのは彼の他の作品と同様で、読者もまたその思いやりの念に包み込まれてしまいさえすれば、登場人物が少々ワンパターンであることは気にもならないかもしれない。

岩波文庫の『炉辺のこほろぎ』には、「こほろぎ」というタイトルからも察せられるように訳文も旧仮名遣いなので、本来であれば気楽に読み進めることのできる心温まるストーリーであるにもかかわらず、読者は随分とかしこまった文体を通じてこの作品に接しなくてはならないという短所がある。
これは古い岩波文庫に共通して言えることだが、『炉辺のこほろぎ』もその原作は多くの読者が敬遠しがちな翻訳しかない状態にしておくにはもったいない出来栄えのものなので、読みやすい新訳による改版に期待したいところだ。
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