『カンガルー』 D.H.ロレンス(彩流社)
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書名:カンガルー
著者:D.H.ロレンス
訳者:丹羽 良治
出版社:彩流社
ページ数:518
おすすめ度:★★★★☆
著者:D.H.ロレンス
訳者:丹羽 良治
出版社:彩流社
ページ数:518
おすすめ度:★★★★☆
ロレンスが世界旅行の途中、オーストラリアで執筆した長編小説がこの『カンガルー』だ。
一般的には「リーダーシップ」小説の一つに数えられており、そして事実、その分類を裏付けるだけの内容になっている。
全編を通じてロレンス自身のオーストラリアでの滞在経験がベースになっており、主人公のサマーズは境遇も考え方も、そのすべてがロレンスの生き写しではないかというほど作家と主人公が肉薄しているため、ロレンスに関心のある読者は必然的に『カンガルー』に対する関心も高まるに違いない。
シドニーでの仮住まいを見つけ、引越しを済ませたサマーズ夫妻は、本人たちは望んでいなかったにもかかわらず、隣の家の夫妻と近所付き合いを始めるようになる。
隣人のジャックには政治的な強い信念があり、仲間たちととある計画を練り上げていて、彼はそれにサマーズを抱き込もうとするのだが・・・。
思想色が強い『カンガルー』には少々難解と思われる部分もあるため、読者の好き嫌いは両極端に分かれてしまうかもしれない。
彩流社の出版物には、しばしば誤字脱字だらけのものがあり、読者が作品から受ける印象を大きく損なってしまっているのだが、『カンガルー』においてはそれらのミスが許容範囲内に止められている。
とはいえ、1923年に発表された『カンガルー』に、「第二次大戦」で負傷した男が登場するのにはさすがに驚かされてしまったが。
『カンガルー』において、ロレンスがオーストラリア人の政治的な特徴を考察しているくだりは、執筆からおよそ百年を経た今日にも少なからず通ずる部分があるように思われる。
オーストラリアを深く知っている読者がより深く味わいうる、それが『カンガルー』だろう。
オーストラリアに長期滞在をしたことのある方や、今後それを予定されている方に強くお勧めしたい作品だ。
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