『赤死病』 ジャック・ロンドン(新樹社)

赤死病赤死病

書名:赤死病
著者:ジャック・ロンドン
訳者:辻井 栄滋
出版社:新樹社
ページ数:138

おすすめ度:★★★★




荒野の呼び声』などのアラスカを舞台とする作品のイメージが強いジャック・ロンドンは、SF作品も数多く残している。
その一つがこの『赤死病』で、赤死病という感染力がきわめて強く、致死率が100%の伝染病が蔓延した未来の世界を描き出している。
SFならではの物語の展開の早さもあって、非常に読みやすい作品となっている。

発症すると全身に赤い発疹が現れ、必ずやその人を死に至らしめるという赤死病が、2013年に全世界で大流行し、何十億という人々がそのために命を落とした。
その60年後の世界で、赤死病の蔓延を生き延びた老人が、孫たちに当時の状況を物語って聞かせる・・・。
感染が拡大していた当時の暴徒と化した人々の野蛮な振る舞いにも恐ろしいものがあるが、獣性を露わにする無教養な生存者の子孫たちも、近い将来の闘争や流血を予感させずにはいない。
『赤死病』はロンドンらしい文明批判の書の一つに数えられるだろう。

「赤死病」と聞けば、ポーの『赤死病の仮面』を思い浮かべる人も少なくないはずだが、厳密に言えば、ポーは"Red Death"、ロンドンは"Scarlet Plague"という言葉をそれぞれ表題に選んでいるという違いがある。
赤死病の仮面』を知っていたところで、ロンドンの『赤死病』を読む上で特にメリットもデメリットもないように思われるが、二人の作家が同様のテーマを扱ってそれぞれ作品を物したことで、幻想的なポーと現実的なロンドンの作風の差が浮き彫りになっているとは言えるのではなかろうか。

正直なところ、今日の読者はもう『赤死病』のあらすじの大胆さに驚くことはできないだろう。
というのも、ウイルス感染による人類滅亡の危機という物語は、すでに映画などでおなじみとなってしまっていて、我々を刺激する力を備えていないからだ。
しかし、それを百年前に書いていたロンドンの先見の明はやはり評価に値するし、ひょっとするとこの『赤死病』こそが現在巷にあふれる「病原菌もの」の始祖に当たる作品なのかもしれない。
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