『その前夜』 ツルゲーネフ(岩波文庫)

その前夜 (1951年) (岩波文庫)その前夜 (1951年) (岩波文庫)

書名:その前夜
著者:イワン・ツルゲーネフ
訳者:湯浅 芳子
出版社:岩波書店
ページ数:280

おすすめ度:★★★★




『その前夜』は、ツルゲーネフ初期の長編作品の一つだ。
ツルゲーネフが創造し続けたタイプである「余計者」の系列に属さない積極的に行動する人物を描いたことで、『ルーヂン』や『貴族の巣』などとは異なる雰囲気を帯びた作品に仕上がっている。
ツルゲーネフの他の作品と比べると思想性は弱めかもしれないが、その分ドラマ性に富んでいるのが特徴だ。

二人の青年が、慈しみに富んだ乙女エレーナに恋している。
そのうちの一人が彼女の心をとらえたかのように思えたのだったが、故国の解放を生き甲斐とするブルガリア人を彼女に紹介してからというもの、形勢が変わっていき・・・。
女性を描くのが巧みなツルゲーネフだけあり、ヒロインであるエレーナもまた見事に造型され、描写されている。
『その前夜』の読者の記憶に最も強い印象を残すのは、優しくとも確固たる芯の通った女性であるエレーナになるのではなかろうか。

『その前夜』もまた、ツルゲーネフが得意とする恋愛小説の一つであると言っていいだろう。
そうはいっても、単に恋愛の枠に収まりきらず、人生そのもの、ひいては社会のあり方についてまで考えさせる力を持っているのは彼の他の作品同様である。
そしてツルゲーネフの取り上げるテーマは普遍的な要素を多く備えているから、一世紀半前のロシアの作品とは思えないほど、現代性がまったくしなびていないことに読者は驚かされるに違いない。

『その前夜』は、読後に半ば悲しいような、半ば空しいような、独特の憂愁を与えながら幕を閉じる。
そしてこれこそがツルゲーネフの作品ならではの味わい深さなのだろうが、『その前夜』においてその味わい深さに不足を感じる読者はまずいないのではないかと思われる。
翻訳紹介されることが少ない作品ではあるものの、ツルゲーネフの作品を好む方にはお勧めの一冊と言えるだろう。
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